世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

138話「俺は目をつけられる」



 ガビル国王が抱いていた獣人族に対する懸念は正しかった。
 黒い瘴気を纏う獣人族の正体はもう分かってる。そしてそいつらをつくりあげた諸悪の根源も明らかになった。
 魔人族一人による獣人族の支配。そして獣人戦士どもに外道な戦力増強を施した。鎖国体制をとっていたのも納得できる。こんなものを世界に知られれば真っ先に他の国が潰しにかかるだろうから。気取られない為の情報封鎖政策だったんだ。
 これが、獣人族の国の真実…!この魔族はもう既に真っ黒に染まっていた。引き返すことなど絶対に不可能なレベルにまで堕ちてしまっていた。
 悪魔の沼にどっぷりと浸かった、堕ちた獣どもだ。

 「つまり、獣人族は実質的に魔人族と組んでること、というわけですか?あんな……おぞましく、史上最悪の魔族と……っ」

 クィンは剣を構えて険しい顔でそう尋ねる。剣を持つ手は微かに震えていた。 

 「いやいや、組んでるとかじゃなくて駒にしてるんだって。まあ僕の野望の為に協力してもらっていることもあるにはあるけど」

 ウィンダムは相変わらず何がおかしいのか分からないニヤニヤした面で返答する。その態度はクィンたちにとってはムカつくよりもおぞましいという感情が勝っていた。

 「………それよりも、お前に聞きたいことが、はっきりさせておきたいことがある」

 ウィンダムを警戒しながらアレンは再びガンツと向き合い、彼女……ここにいる鬼全員の本来の目的にふれる。

 「私たちと同じ鬼族の生き残り……仲間たちはどこにいる?お前のところにいるの?」
 「あア?テメーらがここまで来た目的はまさか、この国にいるあの《《カスども》》に会う為―――」
 
 ガンツが喋り終わる前に、奴の頬を何かが掠めた。直後に奴の左頬に鋭利な傷が走る。
 
 「誰が……カスどもだって?」
 「………ほう?」

 アレンが電光石火の如く飛び出してガンツの顔面に足刀蹴りを放ったのだ。

 (モロに当てるつもりの一発だったな。けどギリギリで躱された)

 ガンツは血を流しながらも余裕の笑みを浮かべてアレンを見返すだけで、中々答えようとしない。その態度にアレンだけでなく鬼のみんなもブチ切れそうになっている。
 よし、ここは―――

 「質問に答えろよクソライオン」

 バキッ 「ぐォウ!?」

 俺がど突いてやることに。今度は不意を完全に突かれた様子のガンツの首筋に蹴りが決まり、少し遠くへ吹っ飛んだ。

 「コウガ……?」
 「乗せられちゃダメ。憎い気持ちは察するけど、頭の中は冷たくな?」
 「………うん」

 失いかけた理性を取り戻したアレンたちはその場で踏みとどまる。ウィンダムは興味深そうに俺を見てきている。

 「ま、ライオン野郎のあの態度には俺もちょ~~っとイラっときたからついど突いちゃったけど」

 俺の軽いジョークにアレンたちのギスギスさが少しとれる。それから数秒経ったところでガンツが俺の眼前に着地する。

 「この……クソガキ!真っ先に死にてーようだなァ?」
 「いや俺もう死んでるけどな」
 「わけの分からんことをォ!」

 ガンツから腕が振るわれるその太さはプロのラグビー選手の脚と同じくらいだ。魔力も少し纏っている。お試しの一撃って感じだな。短気に見えて頭は冷静のようだ。
 俺は迫りくる豪腕を小さな動作でひらりと躱して、すれ違いざまに胴体三か所に拳や蹴りを叩き込んだ。
 だがしかし…

 「きィか、ねェな~~~!」

 俺のパンチや蹴りを受けたはずのガンツはこっちに振り返り、平然と笑ってみせる。

 (痕は確かに残っている。ということは、こいつがもの凄く頑丈ということなのか)

 「打たれる覚悟さえしていりゃア、こんなヘボい打撃何ともねェんだよクソガキ」

 (リミッターを全く解除してなかったとはいえ、そこそこの力で打ったんだけどな。こいつ、かなり強いな)


ガンツ 80才 獣人族 猫種(獅子) レベル130 
職業 戦士
体力 15700
攻撃 8300
防御 9990
魔力 1000
魔防 5000
速さ 5500
固有技能 獣人格闘術皆伝 大咆哮 怪力 絶牢 神速 気配感知 
炎熱魔法レベルⅩ 暗黒魔法レベル9 魔力光線(炎 闇) 
超生命体力 限定進化 瘴気耐性 不死レベル1


 一魔族のトップなだけあって、能力値が高い。Sランクの……中の上といったところか。こいつは……アレンたちにとってかなりの強敵になりそうだ。さっきの攻撃を余裕で耐えられるだけの物理防御力もあるし。

 「どうしたよォ?ビビッて何も言えねーか」
 「国の王にしてはただのチンピラみてーな言動しか使えねーんだな。今まで会ってきた王の中でいちばん幼稚に見えるぞ?」

 鼻で笑って言い返してやるとガンツの額に血管が浮き上がる。

 「ああ、獣人族が最近捕らえてきた鬼族のことなら、君たちが通ってきた非戦士の彼らの家に数人いたと思うよ。奴隷としてね。まあ大半はあの城の中にいるんじゃないかな?鬼族のことは獣人たちに全部任せてるからどうなってるのかは知らないけど」

 ウィンダムがペラペラと喋ってくれた。ガンツが面白くなさげにチッと舌打ちをし、アレンたちは要塞の城に目を向ける。

 「まずは……あそこへ行くべき。こいつは後回しで……」

 アレンたちは相談して方針をすぐに決める。

 「ハッ!俺を無視してまずは大事な仲間か。上等じゃねーか。だったらなおさら、先に俺のところに来るのが最善だろーぜ?」
 「どういうこと…?」
 「俺は一旦城へ戻る。最上階でテメーらを待ってやる。俺のところまで来られたら、捕らえた鬼族のところへ案内してやろう」

 それだけ言い残すとアレンたちからまた俺へ目を向ける。

 「その前に、このクソガキを殺すとしようかァ。戦気も皆無なテメーにあんな力があったことには驚かされたが、所詮は弱い人族。すぐに殺してやろう。この俺をコケにしやがったしなァ」

 そう言って俺に歩を進めようとしたその時、ウィンダムから待ったがかかる。

 「君じゃあ彼には勝てない。止めておきなよ」
 「はァ?さっきも見ただろ、あんな程度の火力でしか攻撃できねェ雑魚だろーがよ。何故止めやがる?」
 「それが分からない時点で君に彼と戦う資格は無いよ。それにね」

 ウィンダムはまたも一瞬で俺の真横に移動して肩に手を置いてくる。

 「この少年は僕の好奇心を大いに刺激してくれる!さっきから気になってうずうずしてたんだ!この少年の相手は、僕が相応しい!!」

 爛々《らんらん》とした目を向けて笑う。
 この魔人……強い云々の以前に、気色が悪い……。


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