世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
137話「獣人族の正体その2」
250cm近くの巨躯をした金色の鬣を生やしたライオンの相貌で、異様なオーラを放っている獣人。そいつは自身が国王だと名乗った。
間違いないだろう。奴こそが獣人族の頂点に立つ国王、ガンツだ。
「お前が、国王。この国でいちばんの奴…」
アレンが前に出てガンツを睨みつける。
「ほォう、これは驚いた。侵入者は半数以上が鬼族だとは聞いていたが、まさかあの金角鬼が混じっているとはなァ。ムカつく面してやがる……!」
ガンツもアレンに敵意に満ちた目を向ける。
「他に……鬼人に堕鬼、吸血鬼と……神鬼までいやがるのか。しかも全員ガキ……。
こんな奴らにここまで侵略されてたのかよ。だらしない同胞どもだ。力を与えてやったのによォ」
鬼族の種を全て言い当てたガンツは不機嫌そうに愚痴りだす。
「力ってのは、モンストールの力のことを言ってるんだよな?テメーもそれを取り込んでいる。その瘴気と眼と体の色が証拠だ」
ガンツの瞳は黄色く黒い眼球だ。肌の色はやや灰色で体のいたるところに細い線が走っている。
まるっきり俺と似た体の特徴だ。
「あァ?テメーは、人族のガキ……?いや、まて。テメーのその見た目。瘴気が出ていないとはいえ、俺や同胞たちとよく似てやがる?
だが戦気が全く感じられない…?この姿、まるで“あの男”と同じ……っ」
「………その、“あの男”って奴が、さっきから感じている《《邪悪の何か》》の正体か。テメーら獣人族の中に、まだいるんだろ?」
「何だと?テメーどうやって感知した?」
「気配を感知したわけじゃねー。けど俺には分かるんだよ。気配とか臭いとか存在感とか隠せても、この俺の本能的な何かだけは察している。《《俺とよく似た存在》》を…」
アレンたちは俺とガンツが何の話をしているのか分からない様子だ。彼女たちに取り合う余裕は、今の俺にはない。何故なら……
(この国に来てからけっこう経ったというのに、今さら気付いたぜ。同じだ、あの時と……。この不吉な感じというか、邪悪なものを何となく予感するこの感覚……っ)
俺は辺りを見回すが、仲間たちと獣人ども以外の姿は当然ない。
「テメーとよく似た存在だと?テメーが、あの男と同じ存在だというのか…!?戦気も何も感じないガキが?」
ガンツが俺に近づいて訝しげな視線をとばす。
「コウガ、いるの?他に、何かが…」
「ああ。その正体もたぶん分かってる。こういうパターンだとやっぱり…」
俺が「邪悪な何か」の正体について推測したその時、アレンたち鬼族と、目の前にいるガンツと周囲の獣人どもが血相を変えた。
「うそ……この戦気、この気配って…っ」
「オイオイ、もう出てくる気か…!?」
アレンたちは顔を強張らせ、ガンツは顔をしかめる。
「甲斐田君、あなたとアレンちゃんたちはいったい―――っ!?」
「ただの人間のあんたらでもようやく気付けたか…。どうやら、ヤベー奴が出てくるようだぜ…」
生前だったら俺の首筋には今、冷や汗が流れていたと思う。やがて、「邪悪な何か」の正体が………
「凄いね。“気配遮断”を発動していた僕を感じるなんて」
「―――っ!!」
《《俺の真後ろ》》に突然現れた!
咄嗟に「瞬神速」で1km近くまで移動してしまった。気を落ち着かせてからさっきいた場所へすぐ戻る。状況を確認すると…アレンたちも突如現れた存在……青紫色の長髪のやや痩躯体型のなりをした青年から十分な距離をとっている。
「あい、つは……っ」
服越しからでも分かる。俺とほぼ同じの肌の色、所々に走っている赤い線。そして、黒い瘴気。「人型のモンストール」こと、
「魔人族……!!」
世界を滅ぼそうと企んでいるロクでもない魔族こと、魔人族がやっぱり現れた。
「初めまして、カイドウ王国の侵入者の皆さん。
僕は魔人族のウィンダム。よろしくね」
ウィンダムと名乗った見た目青年の魔人は、気やすい調子で話しかけてくる。ザイートやランダ、ミノウとかいった今までの魔人とはまた違ったタイプの奴だ。
「お前さんはしばらく表舞台に出てこないんじゃなかったのかァ、ウィンダム《《さん》》」
「いやぁ~~。僕に気付いた人が出てきたからさー。僕興味が湧いて湧いて!だから……来ちゃった☆」
「ハッ、そうかい。まァお前さんのお好きなようにすりゃアいいや」
魔人族のイメージとはかけ離れた感じのウィンダムに「さん」を付けて話すガンツ。その態度に俺たちは大きな疑問を持つ。
「何で……獣人族のあいつが、魔人族と普通に会話してるの?」
「あいつ、魔人のことさん付けしてやがったぞ?どういうことだ」
「おい、お前たちは……どういう関係なの!?」
隣り合うように並び立つガンツとウィンダムに、アレンたちはごく当然の疑問をぶつける。
「どういう関係かって?ガンツくん答えてあげたら?」
「チッ、まあいい。簡単な答えだァ。俺たち獣人族は―――
魔人族に従属してるンだよォ」
*
魔人族拠点地――――
「そういえば、ウィンダムといったか?奴には獣人族の殲滅を命じておいたはずだが、その成功報告が一向にこないようだが?」
テーブル席に着いて用意されたティーカップを手にしながら、「序列2位」の(見た目は)少年……ヴェルドは、向かいにいる女性、ベロニカ(“序列3位”)に話しかける。彼はベロニカに誘われてここにいる。
「お忘れですかヴェルド様。彼……ウィンダムは5年前に獣人族の里へ襲撃しましたが、あの魔族を彼の私兵として隷属させたのですよ」
「隷属?父上がよく許したな、そんなこと。全ての人族と魔族を根絶やしにする方針だったはずだ」
「ザイート様は“面白そうだ、好きにやらせておけ”と、あの時そう仰ってました」
「あの人らしいな。いや、昔はそんなことを言うような性格ではなかったはずだが……」
ヴェルドは渋い表情をしながらベロニカが淹れた紅茶を一口飲む。
「お味の方は?」
「ああ、悪くない。それで……獣人族はそのまま我ら魔人族の駒として生かしておくつもりなのか?」
「ウィンダムが考えていることは正直私にも推し難いものでして。ただ、彼にはある野望の為に獣人族を利用しているそうです」
「野望?なんだそれは」
「………私には分かりかねます。ただ彼のザイート様への忠誠心は私の次に絶対的なものであることは確かです。我々魔人族の為に動いていることは確実でしょう」
「……まあいい。獣人族の里がウィンダムのものだというのなら、いずれはそこを魔人族の地上での拠点地にするのも悪くないな」
「そういえば、獣人族は最近里から王国へと発展したそうです。彼が自分好みに改造したとか」
「……確かに、面白そうな奴だ」
*
獣人族が魔人族に服従していた。
世界を滅ぼす災厄そのものの集団が、魔族一つを殺さずに部下として使っているというのか。
「魔人族に従っている、だと…!?」
アレンたちはその真実に衝撃を受けている。驚愕と怒りがない交ぜになっている。
「そんなことが……!?魔人族に下る魔族が存在していたなんて!それも、サント王国と同じ大陸に位置するこのカイドウ王国が……っ」
クィンもショックを受けて動揺している。
「あ……あれ、が……魔人族……!こ、こんなの、が……っ」
魔人族を初めてしかも間近で目にした高園は奴を目にしてただただ怯えてしまっている。
「お前……こんな最悪な奴らに服従して、生きてて恥ずかしくないの!?獣人族としての誇りとかプライドとかは無いの!?」
「ハハッ!何を言うかと思えば!誇り?プライドォ?そんなものを守る為に死ぬなんざ、馬鹿げてるぜ!そんなものを命よりも大事にして何になる?無惨に殺されない為に、生き残る為に強い奴に下る。それの何が悪い?誇りやプライドなんかに拘るから、テメーら鬼族は滅んだんだろーが!」
アレンの糾弾をガンツは鼻で笑い、魔人族に従属したことの正しさを主張する。
「それに、これは悪い話じゃねェ。ウィンダムさんの提案で俺たちは素晴らしい力を手にして、とても強くなれた。今ならあのクソ忌まわしかった鬼族のトップにも、竜人族の連中にも負ける気がしねェくらいだ!」
そう偉そうに語って邪悪なオーラを出すガンツを見て、ようやくつながった。
「そういうことか。魔人族のテメーが、獣人族にモンストールの力を取り込ませたんだな」
ウィンダムに視線を向けて問いただすと奴は何がおかしいのかニヤニヤした面で肯定する。
「その通り!魔人族の駒として使うには彼らはまだ力が足りなかった。そこで!戦力の増強策として、僕はガンツ君をはじめとする主力級の戦士たちに、モンストールの肉を喰わせてみたんだ!」
それを聞いたみんなは怖気立つ。
「だけどそのまま喰うだけじゃ当然ダメだった。拒絶反応を起こして死んでしまうからね。だから僕の力でアシストをしてあげたんだ!まあそれでも副作用で死んでしまった獣人たちはいっぱいいたけど。
でも結果としては大成功!さらなる強化を遂げた獣人戦士たちが出来上がってくれた!」
もろ手を挙げて嬉しそうに紹介するウィンダムに、誰もが生理的嫌悪、恐怖を覚えていた。
俺も、奴の狂気にふれてしまい、気持ち悪くなった。
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