世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

132話「躊躇うな」



 災害レベルの敵と何度も戦い、勝利してきたアレンたちにとって、目の前にいる獣人どもなど何の脅威にもならない。瞬く間に敵を倒していく。俺は観客として彼女たちの奮闘を見ることにする。俺の出番など完全に無いだろうし。
 騒ぎを聞きつけた獣人どもがアレンたちに牙を向ける。大混戦になりかける。
 アレンたちと藤原はまあ良いとして、あとの二人の戦いぶりはどうだろうか。

 まずはクィン。彼女もかつては俺たちと旅をした経験がある。俺たちを旅するということは災害レベルの敵と戦うことと同義。それを乗り越えたクィンならこの程度の敵も何ともない。向かいくる獣人を剣で返り討ちにしていく。
 
 「ふ――っ」

 剣速が上がっている。魔力のコントロールもうまい。剣に薄く纏わせて省エネで敵を斬り倒している。力も技術もドラグニアで別れてから格段に上がっている。


クィン・ローガン 23才 人族 レベル73
職業 戦士
体力 3000
攻撃 3500
防御 1750
魔力 2500
魔防 1750
速さ 2900
固有技能 神速(+縮地) 剣聖 炎熱魔法レベル7 水魔法レベル7 
嵐魔法レベル7 魔力防障壁 見切り 


 あれからレベルが10以上も上がってるのも中々だが、能力値の伸びが凄いな。何があった?よくそこまで伸ばしたものだ。サント王国に帰ってからよほどの鍛錬を積んだのだろうな。
 で、もう一人。元クラスメイトの…

 「――!――――っ!」

 ドス!「ぐお!?」
 ビス!「ぐっ!」
 ザクッ「ぎゃあ!?」

 高園縁佳。弓矢を武器として獣人どもを次々に射抜いている。まあ死なないよう肩や背、目玉とかを射ているだけだけど。
 それにしても、狙撃手にとってあの間合いだと戦いづらいだろうに。ましてや半分混戦の状況。動き回る敵を射抜くのは至難の業だ。
 なのにあいつは当たり前のように敵を正確に狙撃している。
 あれが「千発千中」の力か。凄いな。しかし至近距離から射抜いているせいで矢の威力が落ちている。高園が本領を発揮できるのは、敵から遠く離れたところからだろう。今は彼女の本気はまだ見れそうにないな。
 今はせいぜいみんなのサポート役として立ち回ってるところか。彼女が狙撃して隙をつくって、そこをアレンたちが容赦無く突いて討っていく。混戦の中でも連携がしっかり取れていて良い感じだ。

 しかし、「それ」は次の集団が迎撃に出た時に起きた。

 アレンが熊の獣人に鋭い蹴りを急所に入れる。戦力差が歴然であるから普通に倒れると思っていたのだが……

 「ガァオ!!」
 「っ!?」

 その熊獣人は倒れるどころか爪を立てて反撃に出たのだ。

 (完全に腹の急所に入ってた。これまで倒した獣人と同じく倒れるはずなんだが……)

 アレンは熊獣人の猛攻を躱して、今度は首に肘撃ちを入れる。あれは頸椎を破壊した。運が悪ければ死ぬ。良くても起き上がることはないはずだ。
 がしかし……

 「まだ、倒れない!?」

 首が歪にひねっていて、誰もが「これ死んでね?」って思う状態のはずが、それでも襲い掛かってくる熊獣人。そいつの体からは例の黒い瘴気が漏れ出ている。

 「なっ……!?」
 「こいつ……!?」

 周囲を見るとセンとスーロンも同じような獣人に苦戦している。今までの獣人なら絶命あるいは昏倒する程の攻撃をくらっても、戦意むき出しに襲い掛かってくる獣人どもがちらほら現れ始めた。そいつらも全て黒い瘴気を纏っている。

 「何なの、この獣人たち……っ」
 「美羽先生、いったいどうしたら…っ」

 藤原と高園はその異様な獣人たちに気圧されている。ギルスが炎熱魔法で獣人の全身を燃やすが、そいつは怯むことなくギルスに迫ろうとする。

 「……もう手加減はしない。
 殺すっ」

 異様な獣人たちを目の当たりにしたアレンはそう決心して、熊獣人に殺意がこもった拳と蹴りを全身に叩き込みまくる。血だるまと化した熊獣人の脳天に踵落としが炸裂する。頭から血をドロッと出して、熊獣人はようやく倒れて死んだ。

 「………っ!」

 血みどろで死体となった熊獣人をみた高園は小さく息を呑む。あの様子……もしかして魔物やモンストール以外での死体を初めて目にしたのか?

 「はぁ!!」
 「ふっ!!」

 アレンに続いてセンもスーロンも異様な狐・豚といった獣人どもに殺人の拳闘術を使用して殺していく。その凄惨さを目の当たりにした高園は顔をやや青ざめさせている。
 その高園に黒い瘴気を纏った狐獣人が襲い掛かる。高園は気を持ち直して即座に獣人の肩・脚・腹に矢を命中させる。一瞬で三か所を射る早業にはやるじゃんと評価するが、それじゃあその異様な獣人を無力化するのは不可能だ。
 案の定、狐獣人は怯むことなく高園に火の弾を飛ばしてくる。慌てて「魔力障壁」で防いで再び弓矢を構える。しかしその狙いは急所に向けられていない。

 (馬鹿が……ためらっていられる状況か)

 矢を射るも命中した箇所は左目。相手が普通の状態なら戦意を挫き倒れるところなのだろうが、今の相手はそうじゃない。目玉潰されようが意にも介さない狂った奴らだ。
 全身に火を纏った狐獣人が全身を使った突進を仕掛けてくる。高園は迎え撃つべく弓矢を構える。その近くに降り立った俺は高園に聞こえるように言葉を投げかける。

 「頭を射ろ」
 「………!?」

 高園は俺に少し目を移して驚愕する。

 「アレンも言ってたろ。あいつらを無力化するのはテメーじゃ不可能だ。殺すしかねー。腹決めて殺せ」
 「かい、だ君……」

 高園の目は迷いに揺れている。そうこうしているうちに火を纏った狐獣人が間近に迫ってきている。

 「させない!」

 そこに藤原が放った光の弾が炸裂して動きを止める。

 「さあ」
 「う………」

 高園は一向に頭に狙いを定めようとしない。狐獣人が再び火を纏って今度は切り裂き攻撃をしに飛び出してくる。高園に爪が振り下ろされる寸前―――

 ズバン!

 クィンが水を纏った「魔法剣」で狐獣人の首を刎ねた。

 「っ!!」

 高園はそれを呆然とした様子で見ていた。


 しばらくしてようやく迎撃集団を全滅させた。アレンたち。死んだ獣人の数は全体の半分以上。そのどれもが例の黒い瘴気を纏っていたものだった。あとは普通の獣人で、倒れているの少しで残りの奴らは逃走した。

 「今襲ってきた連中は下位から中堅クラスの戦士ってところか。けど、中には異常な生命力を持った奴がいた」
 「頸椎を破壊しても、内臓を破壊しても倒れなかった獣が何人かいた。心臓か脳を完全に壊す以外しか倒す方法が無かった」
 「私もそうだったわ。何だか今まで戦ってきた魔族とは異質過ぎる」
 「というより、正直人と戦った気がしなかったぜ…」
 「いったい何だってんだ、この獣ども…」

 アレンたちの会話を聞いて俺は少し思案する。黒い瘴気を纏った獣人どもの生命力が桁外れだった。傷を負っても怯まない。というかあいつらに恐怖心というものがまるで感じられなかった。首を折っても死なないなんておかしい。心臓か脳を潰してようやく死ぬって奴らしかいなかった。
 戦闘力は大したことなかった奴らだったが、あの生命力の強さはみんなにとって厄介だろうな。ここからさらに強い獣人どもも今みたいな生命力を宿しているなら、苦戦は免れないだろうな。
 で、それはそうと……

 「…………………」

 高園は消沈した様子で立ち尽くしている。彼女を藤原とクィンが心配そうに構っている。

 「クィンさん。さっきは助けていただきありがとうございます」
 「いえ…。その、大丈夫ですか?」
 「は、い……」

 そんな高園に俺は少しイラっときて、彼女に言葉をぶつける。

 「人を殺すのを見たのは初めてか?」
 
 高園は小さく頷く。手がまだ震えている。

 「テメーのことだ。この世界にきてからはモンストールか魔物しか戦ったことねーんだろ。そしてあいつらしか殺してこなかった。
 だからこうして知性を持った人と初めて戦うことになり、初めてそいつらの死を目にした。獣の形をしてはいるが奴らも俺たちと同じ人間だ」
 「……………」
 「ここには人間しかいない。だからあの時、テメーは殺すことを躊躇したんだろ?そのせいで自身も危険に晒しもした」

 一つ言っておくと続きを述べる。

 「この先で待ち構えている獣人どもはもう人間じゃない。奴らはもはやただの獣と化している。だから………殺すことを躊躇うな。それができねーなら、すぐにサントへ帰れ。ここから先は躊躇いはすなわち死だ」
 
 高園はしばらく俺を見つめる。アレンたちも俺たちの様子を黙って見ている。

 「………甲斐田君の言う通り、今日初めて人が死ぬところを目にした。初めて人を殺す場面に遭遇した。私は……躊躇ってしまった」

 高園はどこか悔しそうにしている。藤原とクィンに目を向けて聞いてみる。

 「あんたも初めてなのか?人を殺すところは」
 「うん……。今までモンストールや魔物とした戦ったことなかったから。正直私も堪えてたんだ…」

 藤原は自嘲気味にそう答える。

 「私も……本当はさっきのあれが、初めての殺人だったんです」

 クィンは厳しい顔でそう答える。高園と藤原は少し驚く。

 「こうなることは……予想してました。獣人族と争うことになることを。そしてこの剣で彼らを斬ることを。
 ですから、覚悟を決めてここへ来ました」

 クインの言葉に二人とも胸を打たれたような反応をする。

 「私も出来れば人を殺したくはなかった。しかしこればかりは、アレンさんたちの判断が正しいと思ってます。こちらが躊躇えば殺される。もうその領域に踏み込んでいるのだと。先ほどの獣人たちには得体の知れない脅威を感じました。ですから、私は戦います。この先の獣人族も斬る決心はついています」

 クィンはきりっとした顔でそう言った。彼女は覚悟を決めている。ここに来る前からこうなることを予感していた。だからアレンたちと同じように迷いなく殺すことができた。

 「要は覚悟ってやつだ。というか、獣人族はもう人を辞めている。人じゃない。だから遠慮はするな。できるか?テメーに」
 
 高園に問いかける。この先へ進む覚悟があるかどうか。
 彼女はしばらく黙るが、自身の頬を叩き、俺に顔をしっかり向ける。その目には迷いはもうなかった。

 「ごめんなさい。もう大丈夫です。あなたたちについていきます!」

 虚勢ではないことが分かり、そうかと言ってアレンたちと共に先へ進み始める。




 美羽に肩を優しく叩かれた縁佳は意を決して、皇雅たちの後を追った。

 (決めたんだから。あなたのこと見てるって、離れないって……)






 カイドウ王国の城の一室。


 「侵入者ぁ?この国にそんなのが入ってきたってのか」

 獣人族の国王は不機嫌そうに通話の相手に話しかける。

 「まあ、お前さんがそう言うのならそうなんだろうなァ。まさかここに入ってくる馬鹿が現れるとはなァ。サント王国の連中か?まあいい」

 国王は大きな椅子から立ち上がり、部屋を出る。

 「湧いて出たゴミムシどもの駆除といこうか。どんな奴らが来たのかを確認してから殺してやる。
 オイ!“幹部”どもを先に動かせ!俺は後で向かう!」

 大きな声で部下に指示を出して、獣人の国王は侵入者たちのもとへ向かって行った。

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