世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
125話「そう上手くはいかない」
「本当に何なのあいつ!意味分からない!よくわかんないキレ方して、意味分からないこと叫んで出て行って……!」
中断となってしまったガビル国王と皇雅との会談。皆それぞれ部屋に戻り、次の会談を待つこととなった。
場所は変わって、ここは縁佳たちが使わせてもらっている部屋。間取りは広く、3人が泊まってもまだスペースがあるくらいだ。この部屋には縁佳のほかに、米田と曽根も住人となっている。
そして現在は、彼女たちの部屋に縁佳たちクラス全員(皇雅を除く)と美羽が集まっている。美羽が堂丸の傷を完全に治している最中、中西が皇雅への不満を爆発させている。しかしその顔にはまだ恐怖が見える。それ程までに皇雅の変わりようとその力に怯えているのだ。
「私も……さっきの甲斐田のアレはどうかと思う。結局みんなを見殺しにしたことに変わりないんだから。助けられるだけの力は……あるんだよねやっぱり。それも信じられないんだけどさ」
心地良い感触を味わえるソファに座っている曽根も皇雅を少し非難する言葉を吐く。
「怖かったな…。私、もう会いたくないな」
曽根と同じソファに米田も座っていて、甲斐田のことを思い出すだけで怯えている。
「……あの、野郎っ」
用意された簡易ベッドで横たわっている堂丸は皇雅に一方的に打ちのめされた屈辱に憤る一方で彼の力を恐れてもいる。
「………………」
曽根たちとは別のソファに座っている縁佳は憂いを湛えた目をして俯いている。
彼女は先程から謁見部屋での出来事を思い返している。
(当然そんな奴らを助けようなんて思わない俺は嫌だねって断った)
(テメーらも俺のことを見殺しにしてたくせに――テメーらが俺にしたことをそのまま返してやっただけだってのに)
彼の一言一言には縁佳たちに対する怒りが込められているようにも思えた。
(クラスの連中が全員死んだのは、全部あいつらの責任だ)
(異世界召喚の恩恵に浮かれて、それに縋ってばかりで――努力することを怠った結果が、惨たらしい死という最悪の結末にさせた―――あいつら自身がそうさせた)
(―――全てはあいつらの自己責任だ!)
皇雅の言ったことは、正しいとも言える。縁佳だけはそう思っている。
そして皇雅が出て行った後のことも思い返す。
(コウガさんは相変わらずでしたね……。フジワラさん、アルマー大陸を出てからのコウガさんはどうでしたか?あれからまた……誰かを過剰に傷つけたりはしてませんでしたか?)
(えーと………私がついていながら、少々………いえ、かなりやり過ぎたと言いますか………。あ、でも!甲斐田君が手を出したのはアレンちゃんや私を守る為であって、不当な暴力を自分から振るうことは一度もしませんでしたよ!)
(それは……まあ彼ならそうでしょうね。とはいえ、血が出る程の報復はいけないことだとは思いますが!先ほどのドウマルさんのようなことも許されません!)
(ですよね!先生としてちゃんと止める役割を果たさないとは思っているんですが……)
あの後意識を失ってしまった堂丸を背負いながら、美羽はクィンとそんな話をしていた。皇雅のことで二人は意気投合して仲良くなっていた。そこにミーシャも加わってくる。
(あの……後で私にもコウガさんの旅のこと聞かせて下さい。あれからのことを)
ミーシャの皇雅に対する態度に縁佳はずっと気になっていた。ミーシャの顔を見るからして、彼女が皇雅のことを悪く思っていないことは明白。しかし、ただ悪く思っていないだけに終わらず、どこか親しげに想っているところもあると縁佳は気付いたのだった。
(美羽先生。甲斐田君はあれから……)
(うん……。甲斐田君にも色々あったの。だから縁佳ちゃん、彼のことをあまり悪く思わないで欲しいの)
(いえ!私はそんな……。大丈夫です。甲斐田君が根からの悪人じゃないことは分かってますから)
それを聞いた美羽は優しい笑みを浮かべる。
(美羽先生……甲斐田君のあの力。最初の実戦訓練で甲斐田君が落ちてしまった後、いったい何が起こればあんな力を…)
(本人から教えてはもらったんだけど、私にもまだよく分からないの。だから、この後の謁見の後で、甲斐田君に聞いてみると良いわ!)
(え……?)
(お願い。一度、甲斐田君と話をして欲しいの。きっと必要なことだと思うから。特に縁佳ちゃんとの会話が)
(………私なんかと、お話ししてくれるでしょうか)
(今の甲斐田君は厳しいと思うけど、しばらく経ったらきっと応じてくれるわ。大丈夫!だからお願いね!)
(………はい)
縁佳は自信なさげに承諾したが美羽はそれでも満足げに頷いた。
(それでは、今から堂丸君の治療をしないといけないので。縁佳ちゃん一緒に運んでくれる。ミーシャ様、甲斐田君のことはまた後に話しますね)
(是非…!)
ミーシャの目は少しキラキラしていた。
回想を終えた縁佳は小さくため息をつく。
(私も、甲斐田君とちゃんと話がしたい。あれから一度も、さっきですらまだ話せていなかった。それどころか険悪なムードのまま終わってしまった。このままで良いわけがない!)
美羽に言われたことを思い返して、自分にそう言い聞かせる。
(でも…どう話したら良いんだろう)
しかし不安は拭えずにいた。
*
一時間後、俺はアレンだけを連れて再び謁見の大部屋へ入った。センたちはさっきみたいな空気にあてられるのが嫌だという理由で同行を断り、用意された部屋で過ごしている。確かに鬼たちと国の要人どもとは気が合わないだろうからな。あと好奇な物を見る視線が鬱陶しいというのもあったのだろう。
部屋には既にほとんどの役所が出揃っている。いない奴は……堂丸くらいか。今も部屋のベッドでのびてるんだろうな、ざまぁねーぜ。
「では!気を取り直して、話を始めようか。カイダコウガ、まずは謝らせてほしい。以前クィンに渡させた君の各国の入国許可証には、君の行動を監視するための“遠見”の水晶玉が仕込まれている。それで今まで君の行動を監視させてもらっていた。君が後にこの国を脅かす危険人物になり得るかどうか判断する為に」
(やっぱりそうだったか。この許可証には細工が施されたんだな)
忌々しげにため息をついて許可証を取り出す。
「後でこの細工解除してもらうことはできない?俺はあんたらから仕掛けてこない限りはこちらから手を出すことは一切しないって決めてるんで」
「了承しよう。後で監視を解く。すまなかったな」
「こっちこそ。あの時は暴言吐いてしまって悪かった。
で、話なんだけど。これも以前俺がクィンとお姫さんを通して頼んだことなんだけど」
「聞いているとも。ミーシャ殿にこの国の知っていること全てを…機密を開示せよ…とのことだったな。
ミーシャ殿、カイダコウガの隣まで来ていただきたい」
ざわ…と国の要人たちや階級が高い兵士たちが反応し、ミーシャに目をやる。国王に呼ばれた彼女は視線に恐縮しながら俺の隣に移る。
「……お元気そうで何よりです。またお会い出来て嬉しいです」
小声でそう挨拶してくる。そうかとテキトーに返すと和やかな笑顔を向けてきた。なんか浮かれてない?
「王妃さんは?最初に来た時もいなかったけど」
「お母さまはお体が優れていないのでお休みになられています」
少し憂いを見せて答える。病弱なのは相変わらずか。
それはさておき、話を進めさせるか。
「では……まずはカイダコウガの目的をここで改めて表明してほしい。事情を知らぬ者も何人かいることだからな」
「俺のこの世界での目的は、元の世界……日本という国がある現代の世界へ帰ることだ」
また少しざわめく。中には元クラスメイトどもの声も聞こえる。本当なんだ…とかそんなこと本気でするつもり…とか。
「その実現を、このお姫さん…ミーシャ・ドラグニアに協力させている。俺たちを元いた世界からこの世界へ召喚させたんだ。ならば、その逆を実現することも可能だろうと推測した俺は、彼女に対し、“この世界から元いた世界へ送る”という魔術の完成を求めている」
「うむ。そして君はミーシャ殿が魔術を完成させる為に、我が国が全面的に支援させるということも求めているのだったな?」
「話が早くて助かる。異世界召喚を実現させた元凶のドラグニア王国なら元へ帰る手がかりがあったと思ってたけど、魔人族のクズどもに滅ぼされてもうないからな。そこで、お姫さんが移り住んでいるこの国を頼らせてもらおうって話。異世界へ転移させる空間系の特殊魔術を完成させる為に、この国が知っている全てを、彼女に開示して欲しい。
……と、ここまでのことはもうお姫さんから聞いてたんだっけ?」
「うむ。救世団の5人にも既に聞かせてある。だがここにいる者のほとんどは初耳となるだろうな」
国王が周りを見回しながら答える。主に国の要人や兵士たちが驚いた様子でいる。
「な、なんだそれは!?」
「あの少年一人の要求一つの為に国の機密をミーシャ元王女に開示しろというのか!?」
「身勝手が過ぎる!」
「非常識な要求にも程がある!」
「そんなものが通ってたまるか!」
そして、主に国の要人どもが口々にそんな野次を飛ばしてくる。
「すまぬが、これが我が国の答えとなる」
「はぁ、そう上手くはいかねーか」
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