世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

124話「高園縁佳は過去を思い返し、今を憂う」


*回想


 (あ……あの人、どこかで……)

 小学生から通い続けていた私立校の進学を止めて、今年から公立校である桜津《さくらづ》高等学校に進学することにした私……高園縁佳。
 その入学式の時のことでした。
 「彼」を見たのは、初めてではないと、その日は何となくそう思っただけで終わりました。



 (あー、あの人って確か、甲斐田皇雅だよ。私知ってる!)

 中学からずっと同じクラスで親友といっても良い少女……曽根美紀(美紀ちゃんと呼んでいる)に、甲斐田君のことを教えてもらいました。

 (………あ!もしかして!?)
 (?)

 しばらくしてから私は思い出したのでした。妹の小学校の運動会で「彼」を見たことがあったのを。
 「彼」が甲斐田君だということにようやく気付いた瞬間でした。




  (甲斐田ってなんか……イイなぁって思ってるんだよね~)
 (えっ?甲斐田君を?美紀ちゃんもしかして……つ、付き合いたいって考えてるの!?)
 (うーんそれはまだ早いかなー?でもアリかもしれないっていうね?)

 高校1年生の春。私は美紀ちゃんと、彼女が気になっているという甲斐田君と同じクラスでした。
 彼は中学では陸上競技で全国大会で入賞した実績があるらしく、格闘技にも精通しているそうです。美紀ちゃんが彼に積極的に話すものだったから、私も自然と甲斐田君と話す機会が度々ありました。

 (高園縁佳です。美紀ちゃんとは中学から同じクラスで――)
 (ああ。甲斐田です。って、同じクラスじゃん)
 (う、うん。話すのは初めてだよね)

 最初はぎこちなかったけれど、徐々に日常的に会話するようになりました。

 だけど甲斐田君は、協調性があまり……というか全然無い性格の男の子でした。


 (甲斐田君!球技大会の練習そろそろ出て来てくれないかな?甲斐田君だけ一度も来ていないよね。こういう時くらいはみんなと親交深めた方が良いよ!)
 (あー?いいって俺は。なんか俺が来たら気まずい雰囲気になるじゃん?俺、わりとボッチ野郎だから馴染めないんだよね。当日は隅っこでディフェンスでもやっとくから、今日も欠席でよろしく)
 (ダメだよ!甲斐田君そういう態度でい続けていると本当に孤立しちゃうよ?美紀ちゃんとだって、以前はけっこう会話していたのに、最近は美紀とも疎遠になって...)
 (……あいつのことはもうどうでもいいだろ?それに、たかがクラスで孤立するくらいどうってことないって。俺には部活があるし。そこで仲良くできてるから問題無いって)
 (だ、だから!球技大会の練習全部サボるのは良くないよぉ――)


 2学期が始まった頃には、甲斐田君は少々正確に難があるせいで、教室ではやや孤立していました。仲が良かったはずの美紀ちゃんともいつの間にか話さなくなっていて、誰とも親しくする気が無い状態でした。私はそんな彼のことを放っておけないと思い、一人でいるタイミングを狙って会話することに挑んでいたことがありました。
 クラスの誰とも仲良くする気がない甲斐田君だったが、こちらから話せば一応会話に乗ってくれる人だったから、それなりに色々話すことが出来ました。勉強のこと、部活のこと、休日のこと、そして……どんな異性がタイプかってことも…。
 ちなみに美紀ちゃんが甲斐田君に告白していて、それが原因で話さなくなったという事実を知ったのはこのタイミングでした。何があったのかは、教えてくれませんでした。

 ある時、私が弓道において体の筋肉をどう使えば良いのかと何気なく聞いてみると、そのトレーニング法について詳しく教えてもらったり、期末テストの分からないところも教えてくれるなど、甲斐田君は意外にも親切に色々話してくれました。

 (高園には悪意が無いから。だからこうして話に付き合ってやってるだけだ。お前みたいな奴ばかりの世の中だったらどれだけ良かったか……)

 などとよく分からないことを言っていたけれど、私にとってはこれで彼を孤立させないでいることに成功しているという達成感に喜んでいました。
 今になって思えば、私たちの関係はどこかおかしかったんだと、気付かされます。


 私は……甲斐田君のことを理解しきれていなかったのです。
 だから――2年生になって少しした頃に《《あの事件》》が起きて、彼は完全に孤立してしまいました。あの時私がもっと上手くやれていたら、あんなに拗れることにならないで済んだかもしれない。甲斐田君を傷つけないで済ませられたかもしれない。
 彼との溝を深めずに済んだのかもしれない…。

 あの事件以降の甲斐田君は、クラスとの誰とも関わることを拒み、文化祭も修学旅行も全て欠席して、教室にいる時間は授業時間のみになっていました。


 (私が甲斐田君を責めるようなことを言ってしまったから。大西君たちを庇う形をとってしまったから。私が、彼をフォローしてあげれば...)

 独りでいる甲斐田君を見る度に、私はあの時の後悔に苛まれました。周りに誰もいないタイミングで、彼に話しかけようとした時のあの敵意に満ちた眼を見ると軽くトラウマを抱える程怖かったです。
 でも、退いてはいけないとどうにか自身を叱咤しました。私たちが今の甲斐田君にしてしまったのだから、せめて一声でもかけようと、勇気出して話しかけました。


 (甲斐田君。部活頑張って!来年は、体育祭にも出て来てね!)
 (………)

 冷たい眼で私を一瞥して返事しないで行っちゃったけど、私は嬉しかった。こっちを見すらせず無視されなかったただけでもまだ彼と和解できる可能性があると確信しました。


 3年の夏前、甲斐田君の3年連続全国大会出場がかかった試合に、私は1人お忍びで観に行っていた。美紀ちゃんと一昨年に一緒に一度見に行った以降、彼のレースはほとんど見たことがありませんでした。だからその走りを見た時、私は感動しました。

 (す、凄い……!一昨年見た時よりすごく速い!!まるで別人……)

 成長期なので当たり前なのですが、走るのがそんなに得意じゃない私にとっては度肝を抜かれる程でした。そしてその後で見た彼の笑顔にも衝撃を受けたのです。

 (教室では一度も見せなかった笑顔が…しかも部員たちの前では……!あんな顔も、するんだ……)

 初めて笑顔を見れたと嬉しい気持ちと、クラスでは見せてくれなかったのに部の前ではあっさり見せるんだという何とも言えない悔しさが同時にこみあげてきました。
 そして私はここでも勇気を出して、1人になった甲斐田君に声をかけました。


 (!……来てたのか。テメーも試合か?)
 
 総合体育館が敷地内にあるから私も部活で来たのだと思ったようです。

 (ううん、今日は甲斐田君のレースを観に来たんだよ)
 (俺の…?何で?友達の付き添いか?どうでもいいけど)
 (う、ううん。1人で来たよ。甲斐田君のレース、感動したよ。全国大会出場おめでとう。それだけ言いに来たから...じゃあ、ね)
 (あっそ…)

 甲斐田君は終始冷たい反応だったけど、無視されないだけましでした。だけどこのまま終われない。振り返ってあの!と呼びかけます。


 (私!今度の夏休み…7月の初めに地区予選大会に出るから、よかったら甲斐田君...見に来てくれない、かな…?ひ、暇だったらで良いから!)
 途中恥ずかしくなって、言い終えると同時に私が去って行ってしまいました。返事は聞けませんでしたが、走りだす直前に――


 (...ふん)

 甲斐田君の、そんな声が聞こえた、気がしました。
 そしてその声音は、突き放すような冷たいものではなかったと、思いました。



 そして――――

 私は……

 「また、こうなっちゃった…」

 今を憂いています―――


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品