世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
121話「大部屋での色々な再会」
そんなこんなで、サント王国へ行くことに同意した俺は、船の行先をサントに決定して海を渡らせていく。
水魔法と嵐魔法を応用して船の速度を飛行機並みに改造したことで、ベーサ大陸に着いたのは出航してから約半日後のことだった。
夜時間になっていたから港で船を預けた後、近くの宿で一泊した。その翌朝から南部へ進むこと数時間、数週間ぶりに訪れることになるサント王国へたどり着いた。
衛兵に通行許可証を見せてスムーズに入国し、この国には初めて来たから色んなことに興味津々な様子の藤原やセンたちを引き連れて目的地へと向かう。
その道中で、
「あ……ああ…!!」
隅から俺を指差してあからさまにブルブル震えだす男二人を発見する。なんか、見覚えがある顔だな。
「な、何であんたらがまたここに!?」
「………ああ。テメーらは、初めて冒険者ギルドに来た時に俺とアレンに絡んで侮辱しやがった…」
思い出した。〈エーレ討伐〉を受注しようとした時に絡んできたCランクだかDランクだかの冒険者どもだ(*20話参照)。
それに気づいた俺は、酷薄な笑みを浮かべて二人に近づいてやる。すると二人は顔を青ざめさせて俺から距離をとろうとする。
「おいおい何だよその反応は。テメーらから何もしない限りは俺から何かしねーって。それより一人足りねーな?俺があの時ぶった斬ってやったおっさんはいねーのか?」
「だ、ダダダ…ダイは、あんたが両脚を切断したせいで、冒険者は廃業になったんだ…!」
若干非難めいた視線を向けながらそう返す冒険者に俺はため息をつく。
「はあ?俺のせい?違うだろ?テメーらが喧嘩を売る相手を間違えたからそうなったんだろーが。俺を侮辱なんかしなければああはならなかったのに……なあ?」
少しいじめてやろうと思った俺は、殺意が乗った魔力をほんの少し出してやる。
「「ひぃえあああああああああ!?」」
二人は泡を吹いて逃げていった。ざまあ。
「甲斐田君?今の話、どういうことなのかな?」
しかし後ろから怒気が孕んだ声が響いてきて少し焦る。
「やっぱり聞かれてた?」
「当たり前だよ!それより甲斐田君、以前この国に来た時そんな酷いことをしてたの!?どうしてそんなことをしたの!?」
頭ごなしに非難するのではなくまず「どうしてそうしたのか」と理由を聞くところから始める。彼女のそういうところを俺は高く買っている。
「以前ハーベスタンの冒険者ギルドで絡まれたクソ冒険者とかイキりクズ貴族の時と同じだ。アレンにちょっかいかけたのと俺を公衆の面前で侮辱しやがったから、“ちょっと”お仕置きをしてやったんだ。そしたら脚をついうっかりスパッって」
「何がついうっかりですか!もう、君のそういうところはきちんと直さないといけないわね。それよりも、その冒険者さんの脚を治してあげなきゃ!両脚が無いなんて酷過ぎるもの。
すみません、そこのお二人さーん!!」
なんかめんどくさい提案をした藤原は、さっきの冒険者二人を呼び止めるべく追いかけ出した。
「「ぎゃああああああああ!?来ないでくれええええええ!!」」
しかし二人は悲鳴を上げて藤原から必死に逃げるのだった。センたちが腹を抱えて笑う中、俺はめんどくさそにため息をつくのだった。
――
―――
――――
あの後藤原は本当に脚を失った冒険者のところへ行って、両脚を元に戻してあげたのだった。あのおっさん冒険者は藤原に下卑た視線を向けながら礼を言ったが、遅れてやって来た俺とアレンを目にした瞬間、恐怖で顔を引きつらせて家を飛び出して逃げて行ったのだった。
「甲斐田君…。本当にやり過ぎよ」
「仕方ねーだろ。あいつらが悪かったし。ていうかもういいだろ。道草くうのはその辺にして、さっさと王宮へ行くぞ」
説教モードに入ろうとしていた藤原をテキトーに丸め込んでからみんなを連れて王宮へ移動する。
「認識阻害」をアレンたちにかけていなかった為、周りの奴らは鬼族であるアレンたちを珍しそうにあるいは不気味そうに目を向けてくる。隠そうかとアレンに言ったが彼女たちは大丈夫と返した。今までの旅を通して、アレンのメンタルはこの程度では揺らがないくらいには強くなったみたいだ。
王宮に近づくにつれて人が少なくなり、静かになる。そして前回訪れた時には一度も来なかった王宮に着いた。門には衛兵が数人と、
「皆さん、お待ちしてました!!」
兵士の服をしっかり着こなしているクィンが、俺たちを出迎えてきた。
「あれからまだ一週間程度しか経っていませんが、何だか久しぶりのように思えますね。アレンさんたちは以前と比べてさらにオーラが増してますね!コウガさんは……お変わりないですね」
「まあゾンビだからな。あ、この3人が以前話したオリバー大陸の」
スーロンたちの紹介を手短に済ませる。クィンは3人に丁寧な挨拶を済ませると俺に向き合って嬉しそうに握手をしにくる。
「今回は話に応じて下さりありがとうございます!また、会えましたね…!」
「ん?まあ、な…」
返事に困りテキトーに応答するが、クィンはそれでも嬉しそうだった。アレンとも再会の挨拶が済んだところで、クィンに王宮を案内してもらう。
「既に全員待機されています。すぐにでも話し合いを始められますので」
「………“全員” か」
クィンの言う「全員」とは。まあここで深く考える必要は無い。すぐに現地へ着くのだから。
ハーベスタンのところとよく似た造りの大きな扉の前に立つと、クィンが引き締まった顔・ビシッとしたたたずまいをして、扉の向こう側にいる誰かにハキハキとした声を上げる。
「兵士団副団長クィン・ローガン!たった今カイダコウガ、アレン・リース、フジワラミワ、そして他鬼族7名をこの場にお連れいたしました!お目通りをしたく申します!!」
普段は聞けないクィンの厳然とした物言いに感心する中、固く閉ざされていそうな扉がゆっくりと開いていく。クィンに促されるまま俺たちは、大部屋の中へ入る。
謁見部屋のようだがかなり広い。そして中の様相はドラグニアやハーベスタンと違って質素感がある。煌びやかな飾りはほぼ無いと言って良い。言い換えるなら無駄を省いたって感じがするな。俺としてはこういう感じの方が好みだ。
そして大部屋の中には当然人が、それも大勢いるわけで。まず扉の近くには兵士が数十人控えている。
その中に見覚えのある兵士がいる。確か名前は………デモクラシーだっけ?
「デロイだ!」という突っ込みがとんできた気がしたが幻聴のようだ。無視して奥を見やる。この国の要人たちが何人かいる中、俺が知っている顔の人物を何人か目にした。
まずは、故ドラグニア王国の元王女で、この国に亡命して新たな暮らしをしている、さらには俺の目的の為にも動いてくれている青髪のやや小柄な少女…ミーシャ・ドラグニア。
彼女は俺を見るなり頬を赤らめて笑顔を向けてくる。
で、次は………随分久しぶりな気がするなぁ。
俺や藤原と同じくこの世界に召喚された奴ら………3年7組の元クラスメイトどもだ。
いちばん背が低い少女、米田小夜《よねださや》。
鎧を着ていてがっちりめの体をしている、曽根美紀《そねみき》。
特徴が無い見た目、中西晴美《なかにしはるみ》。
唯一の男、デカい銃みたいな武器を背負っている、堂丸勇也《どうまるゆうや》。
そして………
「甲斐田君……!!」
黒髪の狙撃手…高園縁佳《たかぞのよりか》。
故ドラグニア王国の時には遠征任務やらでいなかった元クラスメイト5名と、再会した――――
*
名も無き大陸のはるか下………地底。魔人族本拠地。
魔人族の長・ザイートが療養している部屋。
「あん?ミノウが討たれただと?やったのは………ああいい、分かった。どうせ奴だろ?カイダコウガというガキ」
『はい。オリバー大陸にいた彼の戦気が完全に消失されたので恐らく死んだかと』
療養槽に入って治療と「準備」を進めているザイートの正面にはモニターがあり、そこには紫色のセミショートヘアの褐色肌の女性が映っている。
「はぁ……俺がこうしている間で随分調子に乗ってるようだなあのガキ」
『“序列”持ちの同胞たちを地上へ行かせましょうか?早めに芽を消し去っておいた方が』
「いや、いい。カイダコウガは俺が消すと決めている。それと他の魔族や人族大国への侵攻もまだでいい。俺の準備が終わるまで放っておけ」
『承知しました。それと、 “ウィンダム” からの報告によりますと、計画は順調に進んでいるとのことです』
「計画?何のことかは知らないが、順調ならけっこう。くれぐれも大きな行動は起こすなと、俺の命令だっつって言い聞かせておけ」
『お任せ下さい』
モニター越しで女性が恭しくお辞儀をする。
「話は終わりでいいな?俺はこれから眠る。何かあったらまた呼び出せ……ベロニカ」
『はい。お話に応じて下さりありがとうございます。ゆっくりお休みください、ザイート様…』
ベロニカという名の女性魔人は、ザイートに恍惚とした笑みを見せたままモニター通話を切った。
「ウィンダム………ああ思い出した。随分前にここから出て、戦力を増強させていたんだっけ。ミノウのように粋がって進出するような性格ではないだろうから、このまま任せておいて良さそうだな。準備が終わったら、地上の最初の拠点地は奴がいるところからにしようか」
ザイートはそう独り言を呟いて、眠りについたのだった。
(せいぜい悦に浸っているがいいさ。だが半年後には、お前は俺の下で這い蹲《つくば》る運命にあるんだ!最後に笑うのは俺たち魔人族だ…!)
続鬼捜し編 完
*この章で20話分も書くことになるとは思いませんでした…。サント王国一回目の話が今から100話も前だったとは…。
次回は各キャラのステータス一覧です。
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