世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
119話「チートゾンビたちは呼び出される」
王宮の部屋で一晩過ごしたその翌日。しばらく休養しようとのことで、全員自由に過ごそうと決めた俺は、以前から約束していた通りカミラのところを訪ねてそこでゆっくり過ごした。
「美味しい紅茶を用意してますよ。あ、このお菓子はこの紅茶によく合うの。ふふ、もっと近くに座って良いのですよ?私たちは姉弟と言って良い仲なのですから」
「いつからそんな仲になったっけ?」
相変わらず俺を弟に見立ててそれを溺愛する姉……みたいなプレイ(?)をしてくるカミラにテキトーに合わせて雑談する。しばらくしてから真剣な話をする。
「昨日話しそびれていたことの続きをしましょうか……魔人族の今後の動きについてです」
「ああ……奴らのリーダーであるザイートは、約半年後にはこの世界を完全に滅ぼすべく、この表舞台に上がって、この国はもちろん、人族・魔族の何もかも滅ぼすって言ってたな。奴本人は今はその準備に取り掛かっているとか。だから奴が今すぐ地上に現れることは無いと言っていい」
「しかし、他の魔人は今の時期からでも地上で活動していることがあります。ちょうど先日の件のように」
「ああ。でもそいつらの強さはあまり大したことないものだった。と言ってもアレンたちでは全然敵わないレベルではあったけど」
「現在地上で活動していると思われる魔人たちはコウガ基準で見ればまだ低位級のものだと考えて良いのかもしれませんね。それでも……彼ら一人でも国を滅ぼすだけの力を有している。この国も恐らく終わらせられるくらいの…」
「竜人族や亜人族の国なら一人くらいならまだ大丈夫だとは思うけど。少なくとも人族の国はヤバいかもな」
しばらく沈黙。
「これから半年間で一度も魔人族がまた侵攻しない…という保障は、断言出来ませんね。コウガから聞いた内容からしては」
「だな。まあ特に強い“序列”持ちの奴らは今は来ないかもしれないな。勘だけど」
「コウガは、その“序列”持ちの魔人には、今からでも勝てそうですか?」
カミラは不安そうに尋ねる。
「ステータスだけで見れば、多分だけど俺は奴らには敵わないレベルだと思う。分裂体だったザイートとも互角レベルだった。本気のあいつやそれに次ぐ連中は当然あの時の倍以上強いと思って良い。はっきり言うと、正面からぶつかれば俺は消される」
嘘はつけない。軍略家であるカミラは思ったこと全てを打ち明けるべきだと思うから。カミラは……狼狽えてはいなかったが、その目は不安げだった。
「下位の奴でも正面からじゃ無理かもな。俺の特殊技能を駆使して搦め手を存分に使用して、意表を突きまくって、卑劣な手段を用いれば、ステータスの差を埋めて何とか勝てるかもしれない。醜い勝ち方になるけど」
「醜くてもそれで勝てるというのであれば迷わずそうするべきです。戦いに勝つ為ならどれだけ汚れても構わないものなのですよ。生死をかけたものならなおさらです」
カミラは少し背伸びして俺の額に指を押し付けながらそう言ってくる。
「結局のところ、魔人族の動向を予測するのはほぼ不可能ということになりますね。ですが、“序列”持ちの魔人が今すぐ現れることは無い……と判断して良いみたいですね」
「勘だけどな。遭遇してちょっとの時間だったけど、ザイートの性格だとそういうことはしない…そんな気がしたんだ。それだと……“つまらない” から」
これは……あくまで予測だ。魔人族というよりも、ザイート本人はただ世界を滅ぼすつもりはないと思う。
闘争……それを愉しみながら世界を滅ぼしたいのだと思う。まるでゲームを楽しみたいかのように。
さっさと滅ぼすつもりなら、ドラグニアが滅んだその次の日からでもザイート本人の次に強い魔人が現れて俺たちを惨殺させにくるはずだ。あれから数日経ってもそんな化け物どもが現れないってことは、この推測は間違ってないのだと思う。
「だったら、半年後にその舐めプをしたことを、死ぬ程後悔させてやるよ」
不敵な笑みを浮かべてそう宣言してみる。
「ふぅ、せっかくの休養日だというのに暗い話をし過ぎてしまいましたね。では!今日は姉弟らしいことをして過ごしましょうか!」
「はあ……もう好きにすればいい」
*
次の日は、俺とアレンと藤原といったメンバーで、亜人族が暮らしている屋敷にお邪魔した。藤原は彼らの専属医師として昨日もここに通って「回復」を施していたそうだ。危険地帯にいた頃と比べて清潔になり良好状態にはなったものの、病の方は変わらずだった。
「お前たちは、旅をしていたのだったな?それも目的が鬼族の生き残りを捜して彼らを救うことだったな」
「ん。今回のスーロンたちのような仲間たちが世界のどこかにまだいるかもしれないから、みんなの調子が戻ったら捜しに行くつもり」
「あんたは何か心当たりとかないか?鬼族がいそうなところとか」
ダンクは少し沈黙を貫くと、そういえばと話をする。
「噂で耳にした程度だが、獣人族が彼らを捕らえているのではないか?最近は鬼族を憎んでいる魔族で有名だ。その憎悪は恐らく……かつての俺たちよりも強いものだとも聞いたことがある」
「獣人、族……」
アレンがその名を小さく呟く。竜人族の長エルザレスもそんなことを言っていた気がする。領地争いで散々敗れまくり戦士らも多く失ったということで鬼族をひどく恨み憎んでいたと。ディウルと違って奴らはそれが戦いだったから仕方ないと割り切れない魔族らしい。種族ぐるみでそういう思考だそうだ。
「数の多さは魔族一だ。そして仲間想いも恐らくだがどの魔族よりも強い。その反面、他の魔族・人族に対してはひどく排他的であることでも有名だ。何度も争いで敗けてしまった鬼族への敵対心と憎悪は、俺たちや竜人族など比べ物にならないだろう」
獣人族について詳しく教えてもらった。そしてその内容を聞いた俺は危機感を抱く。
「だとするなら、もし獣人族が鬼族を捕らえていたとしたら、急いでその国に行くべきかもな。彼らを虐げている可能性がある――」
そう言った瞬間、アレンががたんと音を鳴らして椅子から立ち上がる。その顔には焦りと怒りが出ていた。
「悪いアレン。不安を煽ることを言っちまったな。そうとは決まったわけじゃねーけど、可能性があるってことだけだ。今すぐ行こうとはしないでくれな」
「ん………分かってる。冷静にならなきゃ、だよね?」
アレンは小さな声で言って椅子に座り直す。藤原がアレンの首筋にこっそり「回復」をかける。精神を落ち着かせる効果の「回復」みたいだ。
それにしても失言だったな。アレンの前ではああいったセリフを吐くのは禁止だ。
「コウガ、次は獣人族のところに行こう?」
「まあそうなるな。可能性があるなら行くべきだ」
アレンの言う通り、次の目的地は獣人族が良いだろう。
「獣人族か。俺が知っている獣人族は国ではなく里だったな。かつての鬼族と同じだ。ただ、里へ入るには苦労すると思うぞ。さっきも言ったが奴らは排他的な魔族だ。他の魔族はもちろん、人族も容易には入ることは出来ない」
「そうなると“擬態”するか、強行突破かになるな」
現代世界でいう鎖国体制を取り入れているところらしいな、獣人族ってのは。
*
「ん?」
話が終わり雑談に入ろうとしたところで、通信端末から着信音が鳴り響く。それに出て誰だと問いかける。
『コウガさん!私です、クィンです!お元気でしょうか!』
「ああ、なんかちょい久しぶりだな」
相手はサント王国にいるクィン・ローガン、旅パーティのメンバーだった兵士だ。今は母国にて彼女の本来の仕事をこなしている最中なんだろう。
「そういえばさ、俺が頼んだ件ってどうなってる?」
『それが……全てあなたが望んでる通りには進んではいません。おじ……国王様が了承されていないことがいくつかありまして』
まあそうだろうな。さすがに全部は無理だと分かってた。
「ところで、今日はいったい何の用でかけてきたんだ?」
『え、っと……。故ドラグニア王国でお別れして以来、ずっとそのままでしたから。その……コウガさんたちは今何をされてるのか知りたいのと、久々に声が聴きたくなった、とか……』
「へー?兵士団の副団長さんが、女の子らしいことを言うじゃんか」
『う、うるさいですよ!?わ、私は兵士ですし、年齢的にも女の子と呼べるようなものでは……』
日本では23歳でもまだ女の子って呼ばれると思うけどなぁ……とは口に出さないでおいた。
「年齢的に女の子ではない……うぅ、やっぱりそうだよね。高校の先生だしね…」
横で何かダメージをくらっている藤原を無視して質問に答えてやる。
「まず……俺たちは今ハーベスタン王国にいる。昨日というか数日前は亜人族の国に行って――危険地帯で排斥派っていう団体と会って―――鬼族の生き残りが3人いてアレンたちと再会して―――魔人族が現れた、ああ心配すんな、俺がきっちり殺しておいたから――――まあこんなものかな。以上が俺たちの近況をまとめたやつだ」
『それは……とても凄い出来事ばかりでしたね……。鬼族の生き残りがオリバー大陸にいたことにも驚きましたが、まさか魔人族がまた地上に現れていたなんて…』
クィンは俺たちの近況報告に一つ一つリアクションをしてくれた。
『それで、コウガさんは次はどちらへ行くつもりですか?』
「ついさっき鬼族の生き残りがいるかもしれないところが分かった。獣人族のところだ。そこへ行くつもりだ」
そう答えるとクィンが小さく息を呑んだような気がした。
『あの……“国”へ行くつもりなんですね、コウガさんたちは』
え?あそこって国なの?ダンクを見ると彼も初耳だった反応を示していた。
『コウガさん。今回あなたに連絡を入れた理由はもう一つありまして……
皆さん今からサント王国へお越しいただけませんか?』
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