世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

108話「新たなる3人」



 「アレ、ン…!?」
 「あ……!あなたは、スーロン!?」

 生き残りの鬼たちに会うべくダンクの案内のもと、里の奥地へ移動していた俺たち。
 その道中で向こうから3人の鬼たちが俺たちのところにやってきた。

 「そっちの方向から昂った戦気がいくつも感知したから何事かって行ってみたら、まさか………そんな!こんなところでまた会えるなんて……!」
 「スーロン!良かった、また会えて……本当に良かった!!」

 灰色の髪の女鬼……スーロンは、涙混じりの笑顔でアレン・センとともに再会を喜んだ。

 「ギルス……お前も来てくれたのか…!」
 「ああ、久しぶりだな、キシリト!ソーン!」
 「ううっ!ギルス!もう会えないかと思ってた!」

 一方残りの二人の鬼はギルスの友人らしく、3人で喜び合っていた。二人の鬼の髪は同じ薄めのピンク色だということから兄妹かと思われる。
 盛り上がった筋肉を持つ典型的な鬼の体躯の青年がキシリト、小柄体型の少女がソーンだ。


スーロン 20才 鬼族(鬼人種) レベル66
職業 戦士
体力 3000
攻撃 3900
防御 3900
魔力 2500
魔防 2900
速さ 2900
固有技能 剛力 堅牢 鬼族拳闘術皆伝 咆哮 大地魔法レベル6 限定進化


キシリト 21才 鬼族(吸血鬼種) レベル72
職業 戦士
体力 5000
攻撃 3500
防御 3500
魔力 5000
魔防 3500
速さ 3900
固有技能 吸血 炎熱魔法レベル7 雷電魔法レベル6 嵐魔法レベル6 暗黒魔法レベル7 魔力光線(炎熱 雷電 暗黒) 魔力障壁 神速 咆哮 自動回復 限定進化


ソーン 13才 鬼族(吸血鬼種) レベル50
職業 戦士
体力 3000
攻撃 5100
防御 5000
魔力 1000
魔防 2500
速さ 5000
固有技能 吸血 金剛力 絶牢 水魔法レベル5 火魔法レベル5 神速 
咆哮 見切り 鬼族拳闘術(皆伝) 自動回復 限定進化


3人とも初めて会った時のセンやルマンドらと比べて強いステータスだ。こんな危険地帯で暮らしているからだろうか。

 「……あいつは優しい男だった。俺たちを奴隷扱いしているこいつら亜人なんかの窮地を救うくらいにな」

 キシリトはダンクを睨みながらそんな話をしている。少し前に死んでしまった3人の鬼たちのことを話しているらしい。

 「今でも亜人どもを俺は…俺たちは憎いと思っている。あの時…命からがら逃げて追い込まれていた俺たちを捕えて無慈悲に殺そうとまでしたこともあった。だけどあいつはそんな亜人たちを命がけで助けて逝ってしまった...。正直あいつの意図は分からないままだ。俺たちをこんな目に遭わせている亜人たちに助ける価値なんてないはずなのに…!」

 キシリトの話にソーンは悔しそうに涙を溜めている。スーロンの顔も険しげだ。

 「今ばかりは以前みたいなクソな扱いを受けていないとはいえ、まともな生活環境を用意してくれているとはいえ、亜人たちを赦す気にはならない、絶対に…!
こいつらのせいで仲間たちが死んだのだから!」

 3人ともダンクに憎しみを込めた目を向ける。3人に共感したアレンたちもダンク
に怨嗟の目を向ける。全員の鬼たちに睨まれているダンクは何も言うことなく瞑目している。

 「待って下さい!ダンクさんが何故あなたたちに理不尽な仕打ちを強いていたのかについての理由があったんです!」

 険悪な空気を察知した藤原が割って入ってダンクを庇う姿勢をとる。そしてダンクの姉が過去にアレンの母に殺されたことを話した。

 「なんだって…!?」
 「あの人がそんなことを…」

 キシリトとスーロンは驚きの声を出す。3人ともこの話は初耳だ。そのせいあってか先程までの怒りや憎しみの感情が薄まった気配がした。

 「………わざわざ話すことではないというのに」
 「そうやって何でも隠していると、ずっと険悪なままになってしまいますよ」
 「かといって彼らの憎しみは無くなるわけではあるまい。俺たちはそれだけの仕打ちをしてしまったのだから。それに俺たちのやっていることは八つ当たりの他でもない。さらにはモンストールとの戦いにも巻き込ませてもいる。理不尽を強い続けてしまった俺に…俺たち亜人は、彼らに赦される資格はないだろう…」

 ダンクの言葉を聞いた藤原は悲しげな眼差しで彼の顔を見つめる。アレンたちもそんな二人の様子を見て険悪さが削がれているように見える。

 「………家族を殺されたのは気の毒だとは思う。けれどお前たちだってかつては戦いの中で俺の仲間たちを殺してきたはずよ。仕方なかったっていうのは違うけれど…それが戦いってものよ。やっぱりお前のしてきたことは赦されないわ」
 「…………そうかも、しれないな」

 スーロンの辛辣な言葉にダンクは肯定の意を表す。その態度に3人は少し戸惑う。ダンクは……鬼族に対する憎悪が以前よりも薄まっているように思える。自分がしていることはお門違いだと本当は分かっていたのだろう。しかし姉を殺されたという事実がある以上その元凶となった鬼族を憎まずにはいられなかった。仕方ない死だったと思いたくなかったから、誰かを憎みたかったのだろうか。
 
 「甲斐田君。大丈夫だと、思うかな?」 
 「さあ。彼女たちの気持ち次第だろ。事情を知った今、それでもやるってんなら止めたりはしない。もう好きにやらせるさ。まあ、見た感じそうはならない雰囲気だけど」

 俺は感情の無い目でアレンたちを見つめる。同時にパルケ王国での話し合いのことを思い出す。

 戦いの中で我が妻を殺した鬼…アレンの母が死んだ今、鬼族に憎悪・恨みを抱かなくなって鬼たちへの復讐を否定したディウル。彼と違って鬼族そのものを恨み憎んで鬼全てに復讐しようとした排斥派の筆頭ダンク。
 アレンたちもダンクも復讐心を抱いている。動機内容もよく似ている。互いに家族や仲間を失ったから。
 俺は身内が殺された経験が無いから二人の復讐心があまり分かってやれないが、殺意の気持ちはよく理解している。復讐の殺意はどこまでもどす黒くて昏く燃えているものだ。俺もかつては抱いていたものだったから。
 二人ともお互いの復讐心が理解できているのだろう。お互いの過去を見せ合いそして今、深く悩んでいる。ここからどうするべきか?殺し合うか、何もしないで去るか。
 俺はただ黙って見守るだけだ。この成り行きを。どう始末をつけるのかを。


                *

 あの後、ダンクは黙ったまま俺たちのもとから去った。自分の集落へ帰っていった。何も言わなかったから里にまだいる許しはもらったようだ。
 再会の喜び・旧交を改めて分かち合うべくアレンたちはスーロンたちが使っている家屋へお邪魔した。俺もすることがないのでお邪魔した。藤原はどういうつもりか、ダンクの後を追って行った。

 「その人族の少年が、アレンのパートナーなんだ……ん?人族、なの?」
 「俺は一度死んでいて、そのせいでゾンビっていう存在に……」

 スーロンたちに自分のことを話し、アレンたちと会ったことも話してあげる。この里の外の世界が今どうなっているのかも話してあげた。

 「…………要するに、あなたは鬼族の再興の要となる、アレンの未来の伴侶ってことなのね!」
 「え、まあ…………うん?」
 「うん、そうなる、かな…」
 「「その通りよ!」」

 楽しい話題をチョイスいたお陰でみんなからさっきまでの険悪さはすっかりとれて、笑顔を見せるようになった。キシリトはまたこうして仲間たちと笑い合うことが出来たーって感極まっている。そんな彼をギルスとソーンがからかってまた笑う。
 センとルマンドがスーロンに何やら色々吹き込んでいる。俺とアレンの仲を深めるどうとか…。
 少ししてからアレンたちはこれからのことで話し合い始める。

 「私たちはまだ生き残りの仲間たちを捜している。スーロンたちみたいにどこかで奴隷扱いされてる仲間を助けたりさまよっている仲間を確保したりしてるの」
 「集めた仲間たちで里を復興させようって考えてるの」
 「そして……私たちの里を滅ぼした魔人族への復讐も旅の目的としてる。力もつけないといけない」

 アレンたちの目的を全て聞いた3人は目を輝かせる。

 「その野望、私たちも乗るわ!」
 「ありがとう。一緒に叶えよう…!」

 スーロン・キシリト・ソーンの仲間入りが確定した。これで鬼族の戦闘パーティは8人となった。

 「そうとなればこんなところから早く出て行ってやるわ」
 「もし亜人たちが止めに来たら、力づくで出て行ってやるさ」

 これからの話を聞いて活力を得たスーロンたちは早速旅に出ることを望む。3人の決意を無駄にするまいとアレンたちもここをすぐ出ることを決めた。

 「なら、藤原を回収してついでにダンクの奴にもこのことを伝えるか」

 鬼族8人を率いて里から出るべく家を出る。
 しかしその道中で、

 「―――!?モンストールの咆哮!?」

 常人なら恐怖で震え上がるであろう獣の咆哮が向こうから鳴り響く。それを聞いたスーロンたちはモンストールのものだとすぐに察した。

 「あの時みたいに、また想定外の襲撃か…!」
 「やっぱりこんな地帯に安全なところなんてなかったんだよ」

 キシリトとソーンは忌々し気に愚痴を吐く。今頃亜人たちが慌てて対処しているのだろう。そこに藤原もいるはずだ。
 彼女に合流することを優先するべく奴らの集落に移動する。だがその途中で、

 「「「「「っ……!!」」」」」

 アレンたちが全員戦慄した反応を見せた。冷や汗を流して微かに震えてもいた。

 「アレン?」

 アレンはどうにか震えを抑えて、俺の腕をキュッと掴んでくる。そしてどうにか俺に教えてくれた。

 「ヤバい奴が、来てる…。私たちじゃ勝てない奴が………っ」

 

 

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