世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

104話「鬼族と亜人族との対話」



 やっとその話にきたかとアレンたちは苛立っていた感情を収めて冷静に対話する姿勢に入る。

 「赤鬼という冒険者……お前は金角鬼の鬼族の少女ではないか?」
 「うん、そう」

 ディウルはまずアレンを見て彼女が金角鬼であることをすぐに見抜いた。金角鬼と何か因縁があったかのような何かを感じられる。
 
 「……お前たちの仲間、鬼族の生き残りがここにいるかどうか、ということだったな」
 「うん、そう。私の家族と里が滅ぼされた後、生き残った仲間たちが他の魔族……お前たち亜人族たちにも攻撃されたことはここに来るまでに聞いている。知らないとは言わせない。あれはお前の命令でそうさせたの?そして、私たちの仲間たちはこの国に、いるの?」

 アレンは敵意を孕んだ声でそう問いかける。答えようによってはアレンたちにとって亜人族は敵となる。敵意を察した亜人たちは再び目を細めてアレンたちを警戒する。ピリつく空気に藤原とカミラは冷や汗を流している。
 アレンに尋ねられているディウルはさっきから難しい顔をして黙っている。話すとまずいことがあるのだろうか。

 「どうなの!?」

 焦れたアレンが再び問いかける。するディウルは重く閉ざした口を開いて、アレンの問に答える。

 「鬼族はこの国にいる。鬼族が滅んだあの日から少し経った後、とある集団によって数名ここに連れられてきた」
 「っ!やっぱり、いるんだ!この王国に、仲間たちが!!」

 ディウルの返事にアレンが感情を昂らせる。センたちもつられていきり立つ。そんな彼らに亜人たち全員が戦闘態勢に入る。中にはその戦気に当てられて後ずさる奴もいた。
 一触即発の空気を感じ取った藤原がアレンたちをどうにか宥めて殺気を無くさせる。
 アレンたち今の鬼族は武力においてならこの世界ではかなりに上のレベルに位置していると言って良い。上位レベル程度の戦力が相手ならこの段階で力の差が分かる。
 それにしてもディウル国王の難し気な様子が気になる。困っていて言い辛そうな感じだ。

 「何か訳ありか?あんたの意思で鬼族を害していたりするのか?それとも別の理由があるのか」

 俺が割って入るように質問する。アレンたちはどうなんだテメー?って言いたそうな視線で問いかける。

 「………。私……いやこの場合、“国王派”といった方が良いか。少なくともここにいる全員の亜人は鬼族に理不尽を強いたりはしなかった」
 「国王派?」

 俺たもアレンたち全員も疑問の声を上げる。カミラでさえ知らないことらしい。
 
 「少し亜人族と鬼族との間に起こったことについて話させてくれ。
 モンストールが発生する前、私たちと鬼族たちとは激しい領地争いをしてきた。あの頃の鬼族はかなりの戦闘狂だった故、他の魔族にも恨みを買っていた。無論亜人族にも、だ。鬼族を恨み憎んでいる亜人族はたくさんいた」

 そのへんのところはエルザレスの話に少し出てきたな。亜人族と……獣人族だったか、そいつらが鬼族の戦士を恨んでいる、と。
 
 「そんな風潮が続いていたある時、鬼族がモンストールによって滅ぼされたと知った亜人族の大半は、生き残りを根絶やしにする好機だといってこの大陸に逃げのびた鬼族たちを捕えてきた。捕えてきたものたちは鬼族を酷く恨んでいてな。即刻殺そうという話になった。
 だが私はそれを良しとしなかった」
 「!?」
 
 あまりにも意外だったからか、アレンたちは驚きに目を見開く。俺も同じ気持ちだ。領地を奪われ仲間を殺されてきたのだ。そんな奴らが弱った状態で発見すれば殺そうと思うのは普通だと思ったが。
 そこのところどうなのかと、また訊いてみたところ、ディウルはアレンにも目を向けながら答える。

 「確かに、鬼族に恨みや憎しみを抱いていないのかと言われれば否と、私は答える。今も変わらない。なぜなら、この王国の王妃……我が妻は奴らとの争いの中で命を奪われたのだからな」
 「!!……お前も」
 「………っ」
 「………!」
 「……」

 今の話を聞いたアレンたちは、さっきまで放っていた威圧や荒ぶらせていたらしい戦気を萎ませた。身内が殺されたというところに反応したのだろう。アンスリールも悲しみや憎しみが混ざった顔して歯噛みしている。奴にとっては母にあたる存在だったってことになるからな。
 しかしだからこそ、疑問が浮かぶ。身内を殺した敵に対して今も負の感情を抱いている。なのに奴は鬼たちを害してはいないと言った。

 「お前は、復讐しようとは思わないの?私の仲間がお前の妻を殺した。そのことを今も憎いと思っているんでしょ?なのに仲間を捕えてきた時点で、即殺さなかった。なんで?」

 アレンがディウルに疑問をなげる。他の亜人たちがディウルをお前呼びするアレンに無礼だぞと言った視線を向けるがスルーしている。アレンは自分の気持ちに従い、自分を害し、家族や仲間を殺した魔人族と他の魔族に復讐しようとしている。目の前には自分と少し似た境遇の男たちがいる。ただ彼らと違う点は、こいつらは復讐しようとはしていないことに限る。

 「お前が言いたいことは分かる。ああ、恨んでいたさ、憎んでいたさ。だがこちら側もお前たちをたくさん殺してきた。戦争だった。人が死ぬ殺されるのは当たり前だ。
 それに……妻を殺したその鬼は…もういない。死んだって分かったからな。殺した張本人がいない以上その恨み憎しみを誰かにぶつけることは、私にはできない。そういう性分でな」
 「「「「「……………」」」」」

 アレンたちはディウルの言葉に考えさせられている。元凶がいないならば復讐のしようがない。それがディウルが鬼族を殺さなかった理由になるのだろう。
 奴の性分上、元凶の身内を殺すという発想も無かったのだろう。そういう復讐も存在するのだが、奴は本人のみを殺すことが全てだと思っているクチ。復讐対象者の関係者には見向きもしないタイプの人間、か。

 「ここまでは私の心情だ。私の意思を理解して共感してくれたアンスリールも、ここにいる上層の者たちも皆同じ気持ちだ。
 だが、そうは思わない奴らも当然いる。奴らは“排斥派”と呼ばれていて現在“国王派”の私たちと対立している関係にあたっている」


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