世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

97話「王毒と限定強化」



 俺が見上げた先には、蛇の化け物がいる。メデューサやゴルゴーンを思い出させるような形《なり》をしている。頭部が大きく発達していてそこに蛇がうじゃうじゃいる。首から下は人間の形をした身体をしていて胸に目が一つ、腹に口が付いている。まさに化け物と呼ぶべきもの。
 奴の口からは先程赤コートおっさんを殺した時に使ったと思われる紫色の液体が垂れている。あれも毒と考えていいだろう。

 「カミラ、あの毒はどんなのか分かるか?」
 「………フール氏が溶かされたことから予測できるのは溶解毒。それも酸性の毒ですね。あのモンストールはあの毒を主な武器として戦うと見て良いでしょう」
 「そうか……」

 カミラの解説を聞きながら蛇の化け物を「鑑定」してみる。能力値はどれも30000を超えていて魔力は50000もある。Sランクの中でも上級クラスに位置する化け物だろうな。
 中でも気になったのは、奴の固有技能だ。

 「カミラ……“王毒”って何か分かるか?」
 「王毒……!?あの個体はそんな毒を……!“王毒”は、溶解系、気化系、汚染系、薬系、即死系 全性質をそなえた毒で、発動直前に希望する毒を思い浮かべるとその性質の毒が出るそうです。世界で最強の毒だと言われています…!そして不死の体を持つあなたでもただでは済まないと思います」

 カミラの震える声を聞くからに相当ヤバい毒らしいな。毒で体を溶かされると隙が生じるな。舐めてかからない方が良い。

 「カイダさん、ミワさん。モグラ型のモンストールが地上から姿を消しています。恐らく地面に潜ってあなたたちの様子を伺っていると思えます。油断していると下から襲われる可能性があります」
 「そういえば。サンキュー。何だよ、やっぱ有能じゃねーかテメーは。役に立つ忠告だ。そうだ、そろそろアレンたちのサポートに回ってくれ。あいつらにこそテメーの軍略と固有技能が必要だ」
 「………!!わ、分かりました。健闘を祈ります」
 
 カミラにそう返事して再度蛇の化け物と対峙する。いざ、勝負!
  蛇が炎熱の光線を撃ってくる。「魔力防障壁」で防ぎ、展開したまま走る。その間いくつもの魔力光線が浴びせられ、10発目くらの光線で割れた。そこからさらに撃ってくるのでこちらも魔力光線を撃って応戦する。蛇の光線が切れるまでこちらも放ち続ける。
 十秒程でやっと光線攻めが止んだ。その隙に武装化した左手を構えて、手刀で蛇どもの首を刎ねようとすると、腹の口から毒霧が広範囲に撒かれた。
 毒霧の中に突っ込みそのまま手刀を放とうとしたのだが……

 「――っ!?体が動かない…?」

 空中で突然体の自由が利かなくなり、その場から落下する。全身が思うように動かせない状態…痺れ毒だ。完全に動かなくなる前に一度距離を取って退避する。

 「不死の体でも、こういうのは効くんだな……知らなかった」

 毒耐性がついていない俺の体は、いとも簡単に毒に冒されてしまったようだ。この症状からして、筋肉や神経の機能を奪う毒か?
 身動きできなくなった俺を好機と見た蛇どもが再度魔力光線を大量に撃とうとしてくる。ちょっとマズいか…?

 “回復”

 そう思っていたが、体が動くようになった。見ると近くに藤原がこちらに手を向けて何かを放つ素振りをしていた。

 「そうか、“回復の付与”か。その距離から対象を回復させられるんだな」
 「ええ。ちょうどギリギリ10mってところね。さあ、来るよ甲斐田君!」
 「ああ!あんたは防御してな!」

 藤原のお陰で体の自由を取り戻した俺は立ち上がり、向かいくる光線に対して魔法攻撃を放つ。

 “溶岩炎嵐《マグマストーム》”
 “天雷氾濫《アマツマガツチ》”

 炎、氷、雷、光、闇など多属性の光線がいくつもくるのに対し、こっちは複合魔法を二つ放つ。マグマを纏った嵐と雷を纏った螺旋状の渦潮が光線の全てを飲みこみかき消した。藤原は「魔力障壁」で攻撃の余波を防いでいた。余波とはいえSランクの攻撃を防げるとは大した魔防だ。

 「その固有技能、良いなぁ、絶対喰らって奪ってやるからな!」

 脳のリミッター1500%解除。そしてオリジナル技「連繋稼働《リレーアクセル》」を展開。
 右脚前・左脚後ろにした三点スタートの体勢を取り力を秒で溜める。
 溜まったと同時にスタートする。蛇の位置から数十mあった距離を1秒未満で0にしてそのまま思い切り突進する。そこから「リレー技」に繋げようとしたその時、奴の腹にある口から大量の液状の何かが放出される。「魔力防障壁」を展開したので効くまいと思っていたのだが……障壁が、溶けていってる!?

 「これは……溶解液か!」
 液体が地面にふれた瞬間、ジュウウゥと音と煙を立ててるのを見て戦慄する。障壁が溶かされてしまいそのまま体も溶かされていく。あっという間に骨がむき出しになりその骨も溶ける。もの凄い溶解力の毒だ!
 すぐに後退する…が、途中でまた倒れる。痺れたからではない。足が溶けていたからだ。液体踏んでたからな…。
 こちらの身体機能を次々奪ってくる戦い方……今まで戦ったこと無いタイプだ。不死ゾンビでもこれだけ手間取らせる敵だ。しかも即死性の毒も持ってる。俺は死なないから無効だが、アレンたちだったら終わってた。毒に耐性がある藤原でもどうなるか分かったもんじゃない。厄介な奴だホント。
 足が無い俺に蛇どもはまたも……いや、今度は全ての首を束ねて一斉に「魔力光線」を撃ってきた。超極太の、カオスな色をした光線がこちらに真っすぐ向かってくる。

 「甲斐田君!“回復”!」

 藤原が俺の近くに来てまた「回復」をとばしてくる。足は元に戻ったが、藤原もこのままだと光線をくらってしまう…!

 「おい、早く回避するか魔法を撃つか……いや、俺の後ろに!」
 「大丈夫よ甲斐田君。私は守られるばかりじゃないから……!」

 そう強く宣言した藤原の体が、光りだしていく。何か、強い力が湧いて出ているように感じられるあの光は……?

 「異世界召喚され、数々の経験と修羅場を経ることで発現される特殊技能…見せてあげるね――」

 “限定強化”

 カッとひと際強く光が生じた瞬間、藤原の存在が大きくなった気がした。
 いや、というより能力値が…!

フジワラミワ 23才 人族 レベル55
職業 回復術師
体力 30000
攻撃 5000
防御 10000
魔力 45000
魔防 45000
速さ 6000
固有技能 全言語翻訳可能 回復(回帰 状態異常完治 回復付帯付与) 自動回復 薬物耐性 全属性耐性 全状態異常耐性 炎熱魔法レベル9 嵐魔法レベル9水魔法レベルⅩ 光魔法レベルⅩ 大地魔法レベル9 魔力防障壁 限定強化(発動中)

 すげぇ、能力値が5~10倍上昇している。固有技能も、魔法のレベルが上がっていたりもしている。
 魔族の「限定進化」のように姿は変わったりはしないが、ステータスが大幅に伸びている。
 これが「限定強化…。数々の修羅場を経験して超えてきた異世界召喚の人族のみに発現される特殊技能、か。
 あれ?俺は発現してねーんだけど……ああ、今の俺は屍族だからか。

 で、「限定強化」した藤原は、「魔力防障壁」を展開してみせる。あの魔防なら大丈夫そうだな。じゃあ俺は俺で動くとするか!
 右手を前に突き出して蛇どものよりもさらに一回り大きい「魔力光線」…「極大魔力光線」を撃つ。属性は炎熱。
 そしてさらに、左手からは嵐魔法を放つ。狙いは蛇ではなく右の炎の極大魔力光線。かき消すのではなく炎の勢いを助長させる。
 さらに勢いが増した炎熱の魔力光線は、蛇どもの魔力光線を容易く焼き尽くして、そのまま蛇の首をも焼き消した…!

 「私も!“水魔法 聖水付与”」

 藤原が追撃にと、通常時よりも威力が数倍増した水魔法を放つ。その魔法攻撃には「聖水」が付与されていてモンストールには特効である。胴体に撃ち込まれ、その体がジュウウウと音を立てて溶けていく。モンストールは激痛を感じてるのかジタバタ藻掻いていた。
 しかしまだ反撃の意思があるようで、まだ消滅していない腹の口が胎動するのを確認する。また毒を吐くようだ。

 「させるかよ」

 「瞬神速」で接近して、超音速のつま先蹴りを下から叩き込む。それにより強引に口が閉じられてうめき声を上げる…ていうかこの腹の口って声出るんだ。まあいいや。
 その隙に、再度「連繋稼働」を展開。今度は決める!
 右足に体重を乗せて軸を通す。右腕→腰→体幹→左腕へと繋げていき力を増加・加速させていく。最後に左手を貫手にして、相手の胴体に力いっぱい突き刺す!
 「絶拳」の貫き手版。名付けて、

 「絶槍《ぜつそう》」

 腹の口にぶっ刺して背面にも大きな穴を空けてやる。蛇の化け物は今度こそ動きを止める。完全に絶命する前にこいつの肉を喰い千切り、「過剰略奪《オーバードーズ》」する。ある程度喰らってから炎熱魔法で焼却して…決着がついた。俺が肉を喰らっている様を見た藤原は引いていた。

 「それが君が言っていたレベルを凄く上げる方法…。肉を食べることで経験値と固有技能を奪う能力なんだね…」
 「ああ。ともあれこの蛇化け物は終わった。んー経験値が以前よりもの凄く入ってくるとはいえ10しか上がらないか」

 厄介な相手だった。毒をもつ敵がここまで面倒で手強いとは。ま、これでその厄介だった固有技能は俺のものになったが。手に入れた技能は、
 「王毒」に「毒耐性」 これで俺に毒攻撃が効かなくなった!

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