世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

94話「醜い光景」



 「あれだけたくさんの兵士がいたのに、全員倒されてるわね。何だか凄い光景」
 「やっぱりコウガは強い。大国を相手にしてもコウガは無敵」
 
 アレンたちも王宮から出てきて俺を称えてくる。後から藤原も複雑そうな顔で俺を見てくる。そしてさらにその後ろから国王とその他国の要人どもが顔を真っ青にさせながら出てくる。国王どもは全員この光景を「嘘だろ…」と言いたげな様子で見ている。

 「これが、冒険者オウガの実力………。こんな人族がこの世界に存在していたとは」
 「カミラ・グレッドの軍略ですら全く歯が立たないというのかあの男には…!」
 「おのれ、ぇ……!誰か、あの国賊を捕らえて殺してくれる者はいないのか!?」

 すると赤コートおっさん貴族が藤原に顔を向けてこんな指示を出す。

 「フジワラミワ!あなたにこの国を想う気持ちがおありなら、あの男を捕らえてはくれまいか!?あなたの実力なら可能であろう!」

 なんと藤原に俺の捕縛を命じてきた。対する藤原は首を横に小さく振る。

 「私の実力では甲斐田君を捕らえることは出来ません。私と彼とでは差がありすぎます…。それに、私は甲斐田君を捕らえる気も全くありません」

 そう冷静に答える。それを聞いた赤コートおっさんはまた顔を赤くさせて憤る。

 「さて、俺としてはあんたらの縄につく気はない。兵士団を全部動かしてもご覧の有様。まだやるってんなら、今度は血を見ることになるけど?」
 「ぐ、ぐ……!なら冒険者たちを動かせ!この男の討伐クエストを発注するのだ!あるいは同盟国のパルケ王国からも戦力を割いてもらおう!あの国の戦力は我が国の倍以上もある!今度こそ貴様は終わりだぁ!!」

 赤コートおっさんは一人でギャーギャーと色々喚いている。そんな奴の言葉に賛同する奴は国王も他の王族や貴族も誰もいなかった。皆俺を捕らえることが不可能ではと悟り、俺がやったことを殺人未遂罪として扱わなくて良いのではとという空気になっている。
 そういう空気になった理由は、どうやら藤原が国王たちに俺のことについて弁明してくれたからだとセンから聞いた。

 「くそ……おのれ!!カミラ・グレッド!貴様が確実にカイダコウガを捕縛出来る軍略を提供すると言ったから信用したというのに、なんだこの様は!?国中の兵を集めさせておいてなんだこの結果は!?」

 すると今度はカミラに怒りをぶつけにきた。それを聞いたカミラは眉をわずかに吊り上げて反論する。

 「私は!王国を脅かすものが現れたと聞いたから排除する為に、知恵を振り絞って軍略を練って!私はただ軍略家としての責務を全うしただけです!あとは戦場に出る者たちの問題!私の軍略に欠陥は無かった。落ち度があったとするなら…武力が足りなかった兵士団にあるのではないですか!?」

 ここでカミラは戦いの責任は力が足りなかった兵士たちにあると主張する。だがそれをここで、奴らの前で言うのはミスだ。それが分からない彼女ではないはずだが、冷静さを欠いてるせいで口を滑らせてしまっている。
 案の定、今の発言を聞いた兵士たちが彼女を糾弾し始める。

 「何を言うか!軍略を我々に提供した後は空で高みの見物を決めていただけの身分のくせに!武力が皆無のお前が言うことか!!」
 「軍略に欠陥が無かっただと!?俺たちはお前が提供した軍略通りに動いただけだ。その結果がこれだ!武力の問題では無い、不完全な軍略を練ったお前こそに問題があるはずだ!!」
 
 などと兵士どもがカミラを責め立てる。多勢に無勢。どれだけ正論をかざそうと大多数の意見には為す術なく踏み潰される。

 「貴様が今まで我が国の為に働いたこと、ずば抜けた軍略でこの王国の衰退を遅らせてきた功績、モンストールに対して優れた謀略を展開して侵攻を防いできたこと。どれも貴様無しには成し得なかったこと。貴様がいたからこの王国は今まで存続できていた。
 だが、どれだけ成果を上げていようとも、一度たりとて失敗は許されない!貴様の策で死ぬ兵だっているのだぞ!?今回はあの男の手心があったお陰で死者は出ていないものの、こちらに殺す気があったら我々は皆殺しにされていた!貴様の采配のせいで!!」
 「だから、私の軍略は完璧でした!あなた方の力が不足していたから……!」

 途端カミラは兵士どもと貴族どもから非難され始める。彼女の言い方にも問題があったからまあこうなるわな。

 「優れていても柔軟でもずば抜けていてもそれでも勝てなかったではないか!!今回の件で痛感した、どんなに凄い優れたを以てしても圧倒的過ぎる理不尽には敵わないと!この先の戦いもそうだ。理不尽の前には軍略などあって無いようなもの。それならば軍略家など、ここで切って捨てても構わないのでは?」

 だが……

 「私、は……この王国の為に…ずっと尽くしてきて、戦闘スキルが皆無で非力だったから、必死に勉強して…軍略家の地位を得て、王国に貢献してきたのに…」
 「この先ロクに戦闘できない者は不要だ。剣も魔法も武闘術も使えない………
  ハズレ者に、生きる価値など無い――」

 なんだか、気に入らねぇ………。

 「う………く……」

 カミラのあんな顔を見るのは、なんか面白くない……。

 「そこまでにして下さい!!何ですかさっきから!カミラさんにも言い過ぎたところはあったかもしれませんが、彼女は彼女なりに全力を尽くしていたはず!あなた方を勝利に導く為の最善の軍略を練ったはず!なのに、一度だけの失敗でこんなに大勢で非難して、しかも切り捨てようとするなんて!」
 
 堪忍袋の緒が切れた様子の藤原が、カミラの傍にきて彼女を庇うように皆に反論する。藤原にはこの国ではいつの間にかそれなりの発言力があるらしく、貴族どもも彼女に言い返すのを躊躇っている。しかしカミラへ向ける目は冷たいままだ。

 「人族って醜いねー。数十年前に何回か人族と戦ったことがあったらしいんだけど、人族の心は魔族と比べて汚れているって、おじいさんやお父さんの世代の戦士はそう言っていたけど、今なら分かる気がする…」

 センはあいつらの今の光景を蔑んだ目で見ている。他の鬼たちも同じような目をして見ている。アレンだけは特に何も思うところがないって様子でいる。

 するとアレンは突如、何かを察知した素振りを見せた。同時に俺も何かを感知した。


 「コウガ、来るよ……ここに!」
 「ああ。この地鳴りは……」

 五感が人並以上に優れている俺の耳は聞き取った、だんだんこちらに近づいてくる地鳴りを。
 数秒後さらにその地鳴りは大きくなり、藤原たちも気が付くようになる。やがて地震が発生して国王たちは不安そうに辺りを見回す。
  そして地面が爆発して、そこから巨大な影がいくつも見える。それらを見た国王たちがひどく狼狽える。

 「あ、あれは……!?」

 ハーベスタン王国に、人族を脅かす災害《モンストール》がやってきた。


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