世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
91話「犯罪者になったらしい」
ギルドを出る前にアレンたちには宿の場所を伝えておいたから、しばらくしてから彼女たちも俺が今いる部屋にやってきた。
「甲斐田君っ……!!」
藤原は部屋に入るなりいかにも怒ってますよ的な視線をとばしてきた。
「随分穏やかじゃない様子だな?まあ言いたいことは大体察してるんだけど。
始めに言っておくけど、アレに関して俺は後悔もしてないし反省する気もないからな」
「………私やアレンちゃんの為にやったことだってのは分かってる。けど、あれはやり過ぎ!私がいなかったらダグドさんの両手がどうなっていたか。二度と冒険者として活動出来なくなるところだったわ!いくらアレンちゃんが絡まれてて君が殴られたからといって、あれは過剰な仕返しだったわ!」
「………………」
やっぱり彼女もクィンと同じように俺の行動を咎めてくるんだよなぁ。ただクィンと違うのは、藤原は10割叱るってわけじゃないところだ。頭ごなしから咎めるのではなくて、今みたいに俺がどうしてあんなことをしたのかを分かってるかのように言ってくるのだ。しかもその理由・動機を否定することもしない。
こういうタイプの説教は意外と効いて、苦手なんだよな……。
「甲斐田君、ドラグニア王国で君はクィンさんと約束したよね?“暴力だけで物事を解決しないこと”って。彼女は君に粗暴な人になって欲しくないって言っていたはずだよ」
「……あれも聞いてたのかよ…」
はぁと溜息をついてしまう。
「じゃああれに対する俺の返事を知ってるんじゃねーか?“善処はする”って。約束しますとは言ってなかっただろ俺は」
「もう、そういう問題じゃないでしょ!?もしかして君はクィンさんがいる前でも何度もああいったことをしてきたの?」
「まあ何度かは。咎められはしたが止めはしなかったがな」
「はぁ……彼女の苦労が想像できるかも」
今度は藤原が溜息をつく。
「甲斐田君……学校にいた頃の君はあんなことを平気でする子じゃなかったはず。一体何が君をそんなことを平気でさせるようにしたの?」
さらに咎めるようなことはせず、どうしてそうしたのかと理由を訊いてくる。さすがは先生と言うべきか。いや今日日の日本の教師どもは誰彼もクィンみたいにただ怒って咎めるばかりの説教がほとんどだろうから、やっぱり彼女は珍しいタイプといったところか。
「………むしろ、コレが俺の本性だったんだよ。ムカつくクソどもはああやって痛めつけて締めてやる。俺は元の世界で生きていた頃はずっとそうしたいって考えていた。今ここにいる世界は、冒険者同士の私闘は自己責任だと聞いている。殺しさえしなきゃああいうことをやっても一応セーフってことだ。
ああいうことを平気でする子じゃなかった?いやいや、本当はムカついた奴らにはああいうことをしたいってずっと考えていたような奴だったんだよ俺は」
「……今の君が、本当の甲斐田皇雅君ってこと?」
「まあそういうことになる」
藤原はしばらく黙る。部屋にはアレンしか残っていない。センたちは既に別にとっていた部屋へ移動している。アレンはさっきから俺たちのやりとりを珍しそうに見つめていた。
「………やっぱりダメだよ甲斐田。今日の君は私たちをダグドさんの絡みから守る為にあんなことをしたんだと、私はそう解釈してるわ。でも、それでも甲斐田にはあんな過剰な仕返しをするようなことはしてほしくないと私は言うわ。クィンさんと同じ、君が粗暴で残酷なことを平気でする人にはなってほしくないわ」
藤原は静かにそう言ってくる。その目は真摯さを感じられる。本気の言葉なのだろう。なら、いい加減な返事をするわけにはいくまい。
「あんたの言いたいことは分かった。アレンや仲間たちに悪意ある絡みをされたり俺が侮辱されて暴力振るわれたからといって、手足を斬り飛ばしたりぶっ飛ばしたりしたらダメだと。じゃあ何か?今日の俺はあのクソ大男に対して何もしないでアレンたちをさっさとここへ連れて行くのが良かったと?侮辱されてぶん殴られようとも?」
「平穏に終わらせるなら、そうかもしれないわね」
「悪いな、生憎俺は我慢はしたくないタイプでね。殺すまではしないけどあれくらいの制裁はさせてもらうぜ」
「………君を説得して矯正するのは、かなり骨が折れそうね」
「あ、俺に止めさせることはまだ諦めてはねーんだ?」
困ったように溜息をつく藤原に俺もうんざりげに言う。
「当たり前よ!私は甲斐田君の先生なんだから。私にとって君は生徒だってことは変わらないんだから」
………やっぱり藤原にも苦手意識が少しあるかも。
「…それはそうと、ダグドさんはこの国では一応ヒーローのような存在なの。階位が高い貴族でもあるから、彼をあんな目に遭わせてしまった以上、明日は少し身を隠した方が良いかも」
これ以上の説得は諦めたのか、話を変えてくる。
「それなら問題無い。俺の固有技能でどうとでも出来るからな」
それから俺たちはアレンとセンたちも呼んで会話に加えて明日の行程を決めていった。
そして就寝時間になったのだが…
「えーとアレン?俺は一応人数分の部屋をとってあるから、この部屋で寝なくてもいいんだぞ?」
アレンが俺のベッドから出て行こうとしないから訝し気に問いかける。部屋から出ようとした藤原もこちらをジッと見ている。
「ん?私はコウガと一緒が良い。ここで一緒に寝よ?」
「おお……なんて大胆に」
サラッと同衾《どうきん》宣言するアレンにさすがの俺も動揺してしまう。藤原は顔を赤くさせて口をわぐわぐさせている。
「だ、ダメよアレンちゃん!?二人はまだ……未成年なんだから、その…そういうことはまだ早くて……」
「?私たちの里だとこの歳になれば子作りだって普通にしてるよ。一緒に寝るくら別に良いと思うんだけど」
「子……!?!?」
藤原はさらに赤くなって体を震わせる。そして何故か俺を睨みつける。何でだよ、ったく…。
アレンは出て行く気は全く無さそうだ。それに見た感じ一緒に寝たいって気しか感じ取れない……気がする。そうだよね?
「………頼む藤原。見なかったことにして大人しく自分の部屋に行ってくれ」
「甲斐田君……………………出すなら絶対外だからね!!」
「何言ってんだあんたは………」
こうして俺とアレンは同じベッドで夜を過ごすのだった。
何かあったかだって?ご想像にお任せするよ。
*
翌朝、何故か顔の艶が増している気がするアレンとともに部屋を出て(アレンを見た藤原はわなわなと震え、センとルマンドは色めき立っていた)、予定通り藤原の伝手で王宮へ行くことに。
国王の親兵たちに藤原の顔を見せて、国王に謁見したいと伝える。その際俺やアレンたちも正体を見せて事情を話すと、兵士たちは俺たち…特に俺に深刻な視線を向けてきた。
そうして王宮内へ入る許可を得て、待機部屋で国王との話を待つ。
十分程経ったところで国王が準備出来たと知らせがきて、俺たちは謁見部屋へ案内される。その際後ろから兵士が何人も同行していることが気になった。
謁見部屋はドラグニアのそれよりはやや狭く質素めだった。だがその部屋には兵士どもがびっしりと待機していた。何だ、これからモンストールとかを迎撃するのか?
「フジワラ殿、よくまたここへ戻ってきてくれた!そして……その人族の男があのSランク冒険者オウガで、他の5名はあの鬼族の者たちか。お主たちは初めましてだな、我がハーベスタン王国の国王、ニッズ・ハーベスタンだ!」
煌びやかな衣装を纏った老人(もうすぐ60半ばってところか)……ニッズ国王は、藤原には感じの良い笑顔を向け、俺たちには少々強張った笑顔を向けた。人見知りするタイプか?
しかし彼よりも気になる人物が一人いる。国王の後方で控えている女の子……いや女性だ。白いローブ服を纏っていて、緑色のセミロングヘアーを二つ括りでまとめた髪型で、小さめの丸レンズ眼鏡をかけているやや小柄な女性。彼女は王女か?いや王女は国王の右隣にいるのがそうだろう。なら兵士団団長か?それも違う。明らかに戦闘慣れしていないタイプだ。何者だ彼女は。
そう考えて見ていると彼女と目が合った。彼女は次いで藤原に視線を移して何か考える仕草をする。そして何か得心したって顔をする。何だいったい?
「それでフジワラ殿、今日は何故に我を訪ねた……ああいや、まずは大変であったな。ドラグニア王国が滅亡したと聞いている。お主の生徒となる者たちも犠牲となってしまったとも……誠に残念でならない」
「お気遣いいただきありがとうございます。今は心の整理がついていますので。こうして冒険者オウガ君及び同じく赤鬼さんとともにここに来たのは、国王様に頼みたいことがありまして」
「ほう、頼みたいことか。フジワラ殿の頼みであれば勿論聞き入れるとも。
……ただしその前に少し我らの用件を済ませてからで良いかな?」
「用件ですか?構いませんが…」
国王は俺に視線を向ける。その目は友好的ではないものだった。
「冒険者オウガよ、お主にはダグド・フールに対する殺人未遂の罪が課せられている!今のお主はこの国では犯罪者となっている!」
「ほう、そうか」
どうやら俺は殺人未遂の容疑をかけられた犯罪者となっているらしい。隣にいる藤原はやっぱり…と苦い顔で呟いた。
「そうであるな?カミラ」
「はいその通りです国王様」
ここでカミラと呼ばれた女性……白ローブの丸眼鏡緑髪の女が数歩前に出てくる。そして俺に視線を向けて挨拶してくる。
「初めまして、犯罪者さんとなった冒険者オウガさん……いえ、異世界人のカイダコウガさん。私はハーベスタン王国直属の軍略家を務めている、カミラ・グレッドと申します。唐突ですが、あなたの身柄を拘束させていただきます」
カミラという軍略家は、俺に対してそう告げた。
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