世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
90話「俺はいつも通りに制裁を下す」
何だか久々にきたな、こういう絡み。久しぶりとはいえやっぱり不快だ。アレンも不快そうにこのクソどもに敵意を孕んだ視線を向けている。
「騙るも何も、正真正銘俺がそのオウガで、彼女が赤鬼なんだけど?」
「“僕がオウガで彼女が赤鬼なんです”だと?まだ惚ける気かこの嘘つきどもが!!あの二人に顔写真が世に出回ってないからってお前らがあの二人だっていう根拠があんのか?そこの小娘はかなり出来るとはいえモヤシ、お前に至っては何も感じないってのはどうなんだ!?冒険者ですら怪しいじゃねーか!!」
モヤシ呼びしてくるクソ野郎の言い分に他の奴らもそうだそうだと囃し立てる。次第に遠巻きに見ている冒険者どもも俺たちに疑いの目を向けてくる。ギルド職員どももこちらを注目している。
「何も感じない」ということが異常だってことがこの愚物どもにとっては常識じゃねーのかよ。
「おい、今回は見逃してやる。名を騙った罰としてその報酬金を受付に返してこい。そしてお前が連れている女全員俺たちのところへよこせ。よく見ると全員かなり良いじゃねーか。鬼の亜人ばかりだが男以外全員良さげだ!」
そして意味不明で不快な要求をしてくる。藤原もこの発言にはカチンときたらしい、見るからに不快げだ。
「全身の骨を砕いてやろうかしら」
後ろからガーデルがそんなことを言い出す。そうしてもらうとスカッと出来そうだが後々面倒事になりそうだから、ここは俺が出ることに。
袋から金貨を数枚取り出して、それらを思い切り握ってみせる。
何回か金属がぐしゃりと潰れる音がする。数秒後手を開く。そこには、砂金と化した金貨の残骸があった。
「「「「「――え………??」」」」」
絡んできた冒険者どもと遠巻きに見ていた奴らとギルド職員どもは全員、嘘だろと言いたげな間抜け面でその様を凝視した。
どうやらこの世界における金貨の硬質は、攻撃力4桁の力で叩きつけたり握り潰そうとしてもビクともしないくらいの硬度をもっているらしい。それが素手で砂粒になるまで粉々にされたのだから、こいつらにとっては驚天動地な現象だったろう。
「で?誰が嘘つきだって?俺の仲間たちを何口説こうとしてんだ?」
感情が無い目と平坦な声のまま冒険者どもに威圧する。ギルスも前に出て殺気を飛ばす。ギルスの実力ならこいつら全員一人で潰せるくらい余裕だろう。
さらにアレンも体に雷の魔力を纏わせて威嚇をする。それらに当てられた冒険者どもは真っ青に震え上がるも、引けなくなった様子で虚勢を張る。
「はっ、少しは出来る奴ららしいじゃねーか!?そこのモヤシも素手で金貨を握り潰すとは大した力じゃねーか!?だが、どうせそれだけだろ!?なぁ―――」
耳障りな強がりを遮り、俺をモヤシ呼びしやがるクソ冒険者の頭を掴む。
「もぅが!?(み、見えなかった…!)」
そして掴んだ手から炎と風を発生させて、そのキモい顔面を燃やして刻んでやった。
「ぎゃああああああああああああああ!?!?」
モヤシ呼びしてきたクソ冒険者は悲鳴の絶叫を上げて藻掻いていた。汚いので扉を開けて、外へ投げ捨てた。ドォンと音を立ててそいつは倒れ伏した。
まだ腹の虫が治まらない俺は、残りの冒険者に感情の無い目を向けて制裁をくわえるべく近づく。全員顔を真っ青にさせて俺から逃げようとする。が、奴らの後ろにアレンとギルスが立ち塞いで退路を断った。
絶望する残りの冒険者どもに魔力を纏った拳を向けようとしたところに、藤原が俺の前に立って止めに入った。
「甲斐田君、やり過ぎよ。力を見せる為とはいえ、戦意の無い人たちにそこまでする必要はないでしょ?」
生徒を叱る先生のように(実際そうだが)俺を諫めてくる。その姿がクィンと被って見えてしまい、俺は萎えた。
「私たちの為に怒ってくれたのは嬉しいけど、過剰な暴力はダメよ。オウガ君は物凄く強いんだから、力をむやみに使うのは感心しないわ」
先生らしく注意する彼女に、俺はすっかり毒気を抜かされ、冷めた。アレンとギルスも俺の様子を見て気配を元に戻した。アレンは俺が藤原に注意されている様を驚いた顔で見つめていた。
「あの、そういうわけでして。彼はオウガ君で彼女は赤鬼さんです!彼らもついカッとなったところがあったので、ここは穏便に済ませましょう?
皆さんも、お騒がせしてしまいごめんなさい!」
藤原は絡んできた冒険者どものフォローをして、他の奴らに騒がせたことの謝罪をして回った。大人ってたいへんだなーと思いながら俺は彼女の姿を見ていた。
「っていうかあの女性って、フジワラミワじゃね?」
「あ!あの異世界召喚された…!」
「先日モンストールを大量討伐してくれた最強のヒーラーじゃねーか」
しかし今度は藤原を認識したことでギルド内はまた騒がしくなった。モブどもが藤原に駆け寄り話しかけてくる。
藤原が困ってしまったところで、扉を勢いよく開ける音がした。
「夜だというのに随分騒がしいな今日は。何事だ?」
そう言って入ってきたそいつは、煌びやかな装備をした大男だ。顔年齢は20代といったところ。さっき絡んでいた連中よりはステータスが高いな。
「ん……?おお、そこにいるのはミワではないか!?」
大男は藤原の姿を見るやいなやのしのし歩み寄って彼女に接近する。
「あの大男、知ってるぞ。王族でありながら冒険者稼業もやっている戦士、ダグドだ」
「冒険者ランクはB。国内では指折りの実力者だ…女癖が悪いのも指折りクラスだってな」
「こないだもここにいた冒険者の女を寝取ったらしいじゃねーか…」
周りの冒険者がダグドとかいう大男についてのクソな情報をヒソヒソと話すのを聞き取る。そうか、コイツもロクな男じゃねーみたいだな。もしこのままさっきの奴らみたいな絡みをしてくるようなら、潰すか。
「あ………ダグドさん。しばらくぶりです」
「ははは!我のことは呼び捨てで良いと前にも申したではないか……ん?」
大男は藤原からアレンに視線を向ける。するとまたもうるさい声を上げる。
「ほう、これはまた我の好みな女がいるな!?そこの、名は何と言う!?」
「………名前、赤鬼」
「赤鬼?それはコードネームか?我が聞いてるのは本当の名前だ!申してくれよ!我はダグド、コードネームは“牛鬼”!冒険者ランクBでもうじきAに昇格する予定だ。ネームに同じ“鬼”入ってる者同士、相性良いのではないか?なに、我は女の扱いには慣れてる。まずは一緒に飲もうではないか!ミワよ、君も今から付き合え!せっかく戻ってきたんだ、今日は我の屋敷へ泊っていけばいい!」
このクソ大男、俺らを無視してアレンと藤原を飲みどころか泊まりまで誘ってやがる。随分ふざけたクソ野郎だ。
なので二人の前に割って入って野郎を睨む。
「ああ?何だ貴様は?今は二人に話しかけているんだ、どけ」
「テメーこそいきなり現れて何ふざけたことほざいてんだ?この二人は俺の旅の仲間だ。俺の断り無しに誘ってんじゃねーぞ?まあ断りしに来ても拒否してたけどな」
俺の発言にギルド内は騒然とする。俺のこのクソ大男に対する言葉遣いがマズいって感じの空気だ。どうでもいいが。
「貴様……!我を高位な貴族だと知っての無礼か!?そんな貧相な形をした分際で、我の邪魔をするなァ!!」
短気を起こしたのはクソ大男が先だった。野郎は俺の顔に鉄鋼の装飾が施された拳を入れてきた。ゴスッと鈍い音がギルド内に響き渡り、緊張した空気となる。
(―――ブチッ!)
俺はついに切れた。
拳が顔にめり込むも俺に痛みが無ければ顔に傷もついていない。俺の物理防御力ならこんな雑魚の拳などダメージにもならない。
俺がよろめきもしないことにクソ大男は不審がる。藤原が焦った様子でいる。言いたいことは察するがダメだね。もうコイツを潰すって決めたから。
さっきもそうだが、俺の仲間…特にアレンに対して下卑た絡みをしたことに俺はさっきからかなり頭にきている。
「先に手を出したのは、テメーだからな?」
「はぁ?それが何だ!まだ退かないならここで斬り伏せ――」
クソ野郎が何か言い終える前に、野郎の右拳を武装化した刀できれいにスパッと切断した。
しばらく沈黙が訪れる。皆誰もが…斬られた本人ですらも何が起こったのか理解が追い付いていないせいだ。
「あ……ぎゃああああああああああああああああああああああ!!?」
沈黙を破ったのはこのクソ大男の悲鳴じみた絶叫だ。次いで女性らしき冒険者どもが悲鳴を上げる。やがてギルド内がさっき以上に騒がしくなってしまう。
藤原がやや青い顔をして俺に何か言いにこようとした時、ギルド内に入ってくる兵士が二人現れる。
「ダグド様!?何てことだ!!」
「貴様がやったのか!?この方を知っての狼藉か!?」
ハーベスタン王国の兵士か。それもこのクソ大男のお付きの兵らしい。二人を無視して、右手首を押さえて荒ぶっている野郎のところへ立ち見下す。
「はぁーはぁー!?貴様ぁ!わ、我をぉ!誰だと思ってるのだぁ!?この国の、王族でぇ時期冒険者Aランクの有力者だぞぉ!!我に、こんなことして、た、ただで済むと思って――」
「うるさいクズが」
スパン!今度は左手を斬り落とした。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?!?」
両手が無くなった両腕を絶叫して涙を流しながら凝視するクソ大男。
「い”、痛い!痛いい”ぃ!!我の手が、あぁあ”!!」
「ホントうるさいなテメーの声は。そんなに痛いか?なら楽にしてやるよ」
そう言ってクソ大男の頭に手を置いて、重力魔法「斥力」をとばして、野郎をいきおいよく床に叩きつける。衝撃のあまりにクソ大男は意識を失って倒れ伏した。
「殺さなかっただけでなく激痛地獄からも解放してやっただけ優しいと思えよ?テメーみたいなクズ野郎なんか死んで良いところ」だったんだぞオイ」
気を失ったクソ大男を見下しながらあえてそう吐き捨てる。それにしても国が衰退してるとこういうクズが横行するようになるのか、元々権力ある奴はこういうクズしかいなくなるのか、どちらもか。
「よ、よくもダグド様を!?」
「大至急王宮に報告を!そしてこの大罪人を捕らえろぉ!!」
動揺しつつも命令を出して俺を捕らえようとする兵士ども。それは悪手だろうが、蟻ンコども。
「何をそんなに怒ることがあるんだ?このクズは、武力と権力があるのを良いことに散々威張り散らして、剰え他人をたくさん害してきたんだろーが?己の下らない欲求を満たす為に平気で他人のものを奪い汚してきたゴミカス野郎だ。こうなって文句あるまい?」
「ぐ……ダグド様は性格に難あるお方ではあったが、彼無くしてはこの王国をモンストールの脅威から少しでも守ることはできなかった!この国が生きながらえていられるのも彼のような実力者がいてこそ!そんなお方に貴様はなんてことを――」
「あー分かったもういい。言いたいことは分かったから。それを踏まえて俺は言うぞ?
知るかボケ!何よりこいつは、俺を不快にさせて害し、さらには俺の仲間にちょっかいまでかけやがった!殺してやりたいところだがこの程度で許してもらえるだけありがたいと思えばぁか!!」
俺の言い分に兵士二人も他の冒険者どもも呆気に取られてしまう。ガーデルやギルスは小さく笑い、センとルマンドも苦笑いしている。さっき絡んできた冒険者どもは慌ててギルドから出て行って逃げていた。
「甲斐田君!!」
するとここで藤原が怒った様子で俺にそう詰め寄ってくる。
「だから実名で呼ぶのは――」
「そんなことは今はどうでもいいでしょ!さっき言ったばかりなのに、君は何てことを!!」
俺にそう怒声を浴びせてからクソ大男のところへ駆け寄り、切断された両手首の断面に手を当てる。
“回復”
淡い光とともに野郎の手首から手が生え……いや、手が再生されていく。俺がこれまで見て来た藤原の「回復」は傷を治すくらいしかなかったが、ああやって欠損した部位を再生して治すところは初めてみた。
「これで良し。あの、仲間が大変な無礼をしてしまい本当に申し訳ございませんでした。ダグドさんの両手はもう完治してますので」
「あなたはフジワラミワ殿…!治していただいたことには礼を言うが…」
「そこの少年をこのまま帰すわけには………なっ!?奴はどこへ!?」
「え……あれ、甲斐田君!?」
ギルド内から聞こえる藤原や兵士たちの焦った声を背に受けながら俺は一足先に宿へ向かっていた。
(悪いな藤原、説教なら宿部屋で聞いてやるよ)
そう心の中で詫びるのだった。
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