世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
87話「今もこれからも私は……」
俺の問いかけに対し藤原はしばらく沈黙を続けた。視線を床に落として何かを考えている素振りをしている。アレンはそんな彼女を油断なく警戒している。
一分程経ってもまだ黙っていたので俺はどうなんだといった視線を向ける。そこでようやく藤原は顔を上げて俺の目をしっかり見据えてくる。
「………今の甲斐田君が、学校では見せてなかった本当の君なのね、それが……今の君の本音」
「本当?本音?別に俺はこの世界に来る前は本性を隠してなかったつもりだけど?昔も今も、俺は自分を偽ってなんかねーよ。まあでも、死んだことで変わったところは多少あるのかもな。
例えば、俺が認めた以外の他人にはよりいっそう冷たくなり、信じなくなったりとかな」
「……っ!」
「俺はこの世界の人間ほぼ全てがどうでもいい他人だし勝手に死んでもらっても構わないと思っている。嫌いとか憎いとかじゃなくて、“無関心”だ。拒絶ともいう。
俺はこれ以上無理に他人と関わって交友関係を広げる気は無い。旅のパーティもアレンと他の鬼族くらいで良いと考えている。
で?そんな思考を持つ俺のパーティに、あんたは入りたいって思ってるわけ?」
「―――うん。私は甲斐田君の旅に同行したいわ」
「………(随分悩んでたみたいだったが、即答しやがった)」
藤原の即答に今度は俺が黙ってしまう。元クラスメイトどもの死を嘲笑い、他人に無関心で拒絶の意を示した俺の考えと言葉を聞いてなお彼女は、俺たちの旅についてくると答えたのだ。俺についてくるってことはどういうことが待っているのか、その意味ももう分かっているのだろうなきっと。
「甲斐田君、今度は私が質問するね?君が今言ったことでどうしても気になったことがあったから。すごく、大事なこと…」
「…何だ?」
「甲斐田君は、私に対しては無関心?拒絶感は、ある…?」
すぐには答えられなかった。
「もし、君が私に無関心で拒絶したいって言うなら……私は旅に同行するのは止めるわ」
「―――――」
「今の君はとても放っておけなくて心配だと思ってるの。でも、君が本気で私のことを拒絶しているなら、私はここで君たちとお別れします。甲斐田君が嫌だと思うことはしたくないから…」
「………」
「甲斐田君。私も旅についてきて良いかな……?」
「俺は……」
俺は、考える。俺は、思い出す。
藤原美羽とのこれまでの関わりを。彼女は俺にとってどういう人間であったのかを。
三年生の春、クラスで孤立していた俺に話しかけてきた。俺の趣味を話しても引くどころか乗ってきて雑談仲間となった。
まるで同級生のような関係で、悪くはなかったな…。
この世界に来てからも、ドラグニアで訓練していた時は俺の訓練相手になってくれた。傷を治してもくれた。
俺が地底へ落ちていった時は、助けてはくれなかったけど……今にして思えば、あれは仕方がなかったのかもしれない。あの時の彼女の力ではどうすることもできなかっただろうし。
何よりも確かなのが、彼女の言葉は全て“真実”だ。嘘は一つもついていない。真偽を判定するアイテム「真実の口」がそう実証してくれている。俺を助けたかったと思い、死んだと知ると深く悲しんだ。
全部が真実だった。元クラスメイトどもやドラグニアの王族、モブ冒険者どもと違って、彼女だけは俺を……………
「拒絶は してない。あんたは俺の敵じゃない」
「……!」
俺の答えを聞いた藤原の顔色が明るくなった気がした。
「だから、俺たちの旅に加わりたいって言うなら、止めはしない。拒絶もしない。あとはあんたの意思に任せる。好きにすればいい」
「………なんだか歓迎はあまりされてない感じだね。せっかく仲間になるっていうのに…。まあ、甲斐田君らしいといえばらしいんだけど」
藤原はクスリと微笑みながら俺にそう返した。そしてその顔には満面の笑みがあった。
「………というわけだアレン。旅のメンバーが一人増えることになった。俺の元先生だ」
「今も私は甲斐田君の先生よ!これからもね」
藤原が人差し指を自身の顔元に近づけながらそう反論する。そんな彼女に俺は思わずフッと笑ってしまった。
「あんたこれまでの人生でお人好しだって絶対言われてきてるだろ。こんな俺に対してもまだ生徒として見てるくらいだからな」
「そうかな?甲斐田君も私にとっては大事な生徒だと思ってるから」
「そういうところがお人好しだっての。死んだクラスメイトどものことを悪く言ったのにな」
「もう!そのことに対しても後でまだ話があるからね!
そして甲斐田君、お願い」
藤原は声のトーンを少し落として続きを話す。
「7組の生徒たちのことや国王様たちのこともそうだけど、死んだ人たちのことを悪く言うのはダメ。彼らのことを悪く言うのは今日で最後にしてちょうだい。甲斐田君にはそんな酷い人間になってほしくないから」
「………ならせめてあんたがいないところであいつらの悪口を言うとしよう」
「もう!私は真剣にお願いしてるんだからね!?」
俺と藤原はそんなやりとりを交わす。交わしながら俺は思った。
(クィン以上、お姫さんと同列ってところかな、今のところは。
―――話しやすい)
心を許せる人間リストに新たに藤原の名前を脳内で記していると、アレンが俺たちのやりとりを興味深そうに見ていることに気付く。
「アレン?珍しそうにしてるな?」
「ん……コウガの同郷の人たちってみんなコウガに嫌で酷いことをした最低な連中だってコウガ本人が言ってたから、その人と気安そうに話してるのが意外に思って」
「………甲斐田君、その子にそんなことを話してたの?」
「その子じゃない。私はアレン・リース。鬼族の生き残りでコウガの仲間」
「へー、あなたって鬼なんだ?あ、本当だ!角が生えてる。
私は藤原美羽。職業は回復術師です。よろしくね、アレン…ちゃん!」
「ん……よろしく、ミワ」
そうやってアレンと藤原はあっさり打ち解け合った。
(アレンがああやってすぐに人間と打ち解けられるとはな。クィンの時もそうだったが、アレンは直感でソイツと関わって大丈夫かどうかが分かるのだろうか)
「コウガは強い、もの凄く。それに私のことを大切に想ってくれてもいる。何度も助けられた。初めて会ったときだって、私の目的の為に一緒に旅しようって誘ってくれて、すごく嬉しかった」
「へぇ~~そうなんだぁ。ねぇアレンちゃんって、甲斐田君のこと……好きだったりする?」
小声でそんなことを聞き出す藤原。何言ってんだか。
「………うん、好きだよ。伴侶にしたいってくらいに……(赤面)」
「そ、そうなんだ……!(やっぱり甲斐田君ってモテるタイプだった…!?)」
そんなやりとりをしている二人に俺はわざと咳払いして話かける。
「今日はもう遅い。明日の朝に村を出る。俺たち以外にも旅のメンバーはいる。4人だ。全員アレンと同じ鬼族でもある。7人とやや大所帯になると思うが明日からはそのメンバーで旅するからな。とりあえず4人がいるところへ行こうか。今日のうちに紹介を済ませるぞ」
そうして藤原を宴会があった家へ連れて行き、そこにまだいたセンたちに彼女を紹介した。
全員ほどなくして打ち解け合い、雑談するようになった。
その日の夜は全員しっかりぐっすり眠り体力を全快させた。さらには藤原の“回復”で全員傷も疲れもすっかり消え去った。今の藤原の回復術の腕は世界一と言っても良いレベルだ。これならアレンたちが窮地に陥っても藤原さえ無事なら心配は無用になるだろうな。
翌朝。
「じゃあロン。いつになるかはまだ分からないけど、鬼族の里を再興するまではここで待っててね」
「ああ。頼む、俺たちの里を………あの頃の日々を取り戻そう!」
アレンたちは一緒には来られない鬼族のロンとしばしの別れを交わす。
「ところで甲斐田君、これからどこへ行くつもりなの?」
「それなんだけど、まだ決めてねー有様だ。別の大陸へ行くところまでは決まってるんだけどな。鬼族の生き残りの手がかりが掴めるところさえ分かれば良いんだけど」
俺と藤原はこれからどこへ目指すのかについて今更話し合っている。
「………そのことなら、私心当たりがあるかも」
「え、マジで?」
「私が少し前まで滞在していた大国“ハーベスタン王国”。その国は亜人族と同盟関係なの。そういえば亜人族は鬼族と良からぬ因縁があったって昨日センちゃんたちから聞いたけど、もしかして……」
「もしかしても何も、きっとそこだ。よし今決めた。これから俺たちはハーベスタン王国へ出発する」
「ふふっ、了解」
「何だ?」
「何か、嬉しくてね…」
「…?まあいいや。よし、じゃあ旅を再開しようか」
こうして藤原美羽を新たに加えた俺たちは、次の目的地…ハーベスタン王国があるオリバー大陸を目指して出発した。
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