世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

86話「俺は真実を包み隠さず話す」



 『………今の話、全部本当なんですか…………?』

 美羽は通信端末越しから、縁佳の信じられないといった声を聞く。彼女の声からは理解が追い付かず戸惑っている気持ちもうかがえる。

 「………全部本当、だよ」

 縁佳の気持ちを理解しているからこそ、美羽ははっきりと事実であることを断言した。
 美羽は今、こちらへ向かっている最中の縁佳たち五名のクラス生徒たちに、皇雅から聞いたことを全てそのまま伝えた。自分たちは遅すぎたということを、ドラグニア王国が襲撃を受けたという報告を聞いてから急いで戻ったが、何もかも手遅れであったことを伝えた。端末越しから縁佳以外の生徒たちの悲痛な声が聞こえてくる。それを聞く度に美羽も悲しさに打ちのめされそうになる。しかしどうにか堪えてもう一つ重大なことも話した。無論皇雅のことである。彼の事情はあまりにも複雑で奇天烈過ぎてるから、縁佳たちが理解するのにまた時間をかけた。

 『甲斐田君は………この世界にいるんですね?死んでいるけど、生きているんですね…?』
 「ええ。私も信じられないって思ってるけど、甲斐田君は確かに存在しているわ。彼の活躍でミーシャ様とシャルネ様は無事でいるわ。
 それでね、縁佳ちゃんたちにはこれから行って欲しいところがあるの………サント王国へ」

 縁佳たちにはこれからのことを簡潔に話した。もちろん美羽が皇雅の旅に同行することも伝える。縁佳たちはたいそう驚いた。それも当然のことである。
 通信を終えた美羽は小さく嘆息する。縁佳たちの心情を思うと今すぐ彼女たちのところへ行って心のケアをしてあげたい気持ちに駆られる。

 「………ごめんなさい。しばらくはみんなのところへは行けない。どうにか、乗り越えてちょうだい…!」

 美羽は海がある方へ顔を向けて祈るように目を閉じて念じた。そしてミーシャたちに別れの挨拶を済ませにいく。

 「ミーシャ様、シャルネ様。こんな不甲斐ない私を責めるないくらでもお受けします。みんなをまとめるべき先生であった私が、今回の襲撃に対応出来なかったこと、悔やんでも悔やみきれません……っ」

 そう謝罪する美羽をミーシャたちは責めるはずもなく、美羽の気持ちを汲んであげた。

 「フジワラさん……いいえ、ミワさん。コウガさんのことよろしくお願いします。彼の良心になってあげられるのは、今はあなたしかいませんから」
 「もちろんそのつもりです!甲斐田君とまたちゃんと向き合って話したいと思ってます」

 ミーシャにそう強く誓う美羽のところに、クィンも話に加わる。
 
 「フジワラミワさん。まだ時間が大丈夫であるならば、コウガさんが元の世界にいた頃のことを、知っている範囲で良いですから教えていただけませんか?」

 クィンの頼みを美羽は快諾して、自分が知る学校にいた皇雅のことを話した。クィンとミーシャ、シャルネも美羽の話を静聴していた。
 話を聞き終えたクィンは、僅かな同情と憐憫の情を抱いた。同時に皇雅が何故あんな性格をしているのかも少し分かった気もした。だからといって過激な報復行為が許されるものではないと、思うのだった。
 一方のミーシャは前にも美羽から皇雅のことを聞いていたから新鮮さはなかったものの、改めて彼の心境を考えさせられた。
 
 「クィンさん。監視任務だったとはいえ、甲斐田君と一緒に旅をしてくれてありがとうございます。今の彼には、形はどうあれ色んな人と関わることが必要なんだと思ってるんです。彼にとってクィンさんとの出会いと共に旅をしたことはとても良いことだったはずです!」
 「……!そ、そうでしょうか…?私はコウガさんとは衝突したことが何回かあったので、彼からはあまり良く思われてないのでは、と……」
 「親しくなるにはそういったいがみ合いも必要になるんですよ。大丈夫です、甲斐田君の中にはクィンさんもちゃんといますよ!」
 「そう言ってくれて、ありがたく思います…」

 美羽は真剣にクィンとそう話し合った。クィンは照れくさそうに礼を言った。
 
 「次会った時は…もう少しコウガさんと距離を縮められるかもしれません。先生であるミワさんから良い話しを聞いた今の私なら…!」
 「コウガさん、私もっと強くなりますから、その時は私のことをちゃんと見て下さいね…!」

 やや浮かれた面持ちでそれぞれ独り言を呟くクィンとミーシャを見た美羽は、

 「………甲斐田君ってけっこうモテるタイプだったりするんだ…。縁佳ちゃんのこともあるし…。ふふ、面白くなりそうね!」

 ラブコメな想像をして微笑むのだった…。



                   *

 ゾルバ村の出入り口付近にて、俺は藤原と向き合う。ここに来たってことは用事も全部済ませて…決意もしたってことなんだろうな。

 「ここに来たってことは、やっぱり本気でついてくる気なんだな?」
 「そうよ。気持ちは変わらない。甲斐田君のことを知る為にも、これは必要だから」
 「気持ちは変わらない、俺を知る、ねぇ…」

 俺は少し思案をしてから、俺が使っている部屋のところへ移動する。藤原も俺のあとに続く。
 
 「コウガ、その人ってセンセイって人の……」
 「ああ。言った通り来たようだ」
 
 俺がいなくなったことに気付いたアレンが部屋に入ってくる。この部屋は五人は寝泊りできる広さなので三人が入ってもまだ広く感じられる。酔い覚ましの水をアレンに用意して藤原には温かい茶を出す。ベッドに座って二人にも適当なところへ座るよう促す。アレンは俺の隣に座り、藤原はテーブル椅子に座った。

 「少し話をしようか。今回の襲撃についてあんたにまだ話していないことを」
 「まだ、話していないこと?」
 「ああ。そして確かめさせてくれ。これを聞いてもまだ、気持ちが変わらないのかどうかを」
 
 釘を刺すようにそう言うと藤原は緊張した面持ちになる。しかしすぐに落ち着いた顔で話を促した。

 「どんな話でも、聞く覚悟はあるわ。話してちょうだい」
 「………分かった。アレンも聞いててくれ」
 「ん……」

 そして俺は話す。藤原にとってもう一つの残酷な事実を。

 「元クラスメイト29名が殺されたあの時、俺はその現場に、目の前にいた」
 「…!?」
 「俺は、あいつらがモンストールどもに殺されていくのを黙って見届けていた。いや違うな、俺はあいつらを見殺しにしたんだ」
 
 沈黙が訪れる。アレンは黙って俺と藤原をジッと見ている。
 そして藤原は、瞠目して信じられないといった感じでこっちを凝視する。

 「………みんなを、見殺しに?甲斐田君が…?
 そんな…どうして、見殺しなんて…?」
 
 俯きながらやっとのことで絞り出した言葉に、俺は淡々と返事する。

 「何でってそれは………同じだよ藤原」
 「え……!?」
 
 藤原はガバッと顔を上げてまた俺を凝視する。
 
 「テメーらと同じだよ。あの日、まだ助けられたはずの俺を無慈悲に切り捨てて見捨てた。それと同じだよ」

 感情の無い目を藤原に向けて平坦な声のまま続ける。

 「俺も、あの時と同じように、俺の力で助けられただろうあいつらをあえて何もしなかったことで見捨てたんだ。モンストールどもに殺されることを是とした。
 俺はただ、テメーらにやられたことをやり返しただけだ…!」
 「う、あ、あああ………っ」

 藤原は喉を震わせて椅子から降りて手を床につける。感情が乱れているな。

 「ガキじみた考えだと思うか?短絡的過ぎるって罵倒したいか?
 だけどな、俺にはそうするだけの権利があったはずだ。実際俺は見捨てられたことで死んだんだから。意思があって生きているように見えるが、中身は死んでいるんだ」
 「………」
 「俺にはやりたいこと、やり残していたことが元の世界にたくさんあった。だけど死んだことでそれが叶わなくなった。まあこうして活動可能状態になれてるから可能性はまだあるけどな。だが俺はあの時一時期、全てを失ったんだ。あの悲しみと怒りと憎しみは今だって思い出せる。忘れられるかよ。
 だから俺はあいつらにも俺と同じ目に遭ってもらった。それだけだ」

 言いたいことは全て言った。知らずのうちに立ち上がっていたことに気付きベッドに座り直す。アレンは何を思ってるのか、布団に目を落として考え事をしている。

 「………甲斐田君、聞かせてくれるかしら…。
 君は、クラスのみんなが死んで、どう思ったの?殺されていくのを見て少しは心は痛まなかったの?後悔はしなかったの…?」

 藤原は静かにそう問いかけてくる。様子を見ると俺に対して怒りを抱いているようには見えない。そう見えるだけだろうか。まあいいや。
 どう思った?そんなの決まってるじゃねーか。

 「“ざまぁ”って思ったよ。悲しいなんて思ったことないし後悔もしなかった。あいつらに抱いていた怒りはもう無くなった、それくらいかな」
 「―――――」
 
 刹那、藤原は衝動的に手をこちらに向けた。手からは魔力が込められていた。それを見たアレンが藤原を睨みながら彼女のところに回り込んで押さえにかかった。
 アレンに組み伏せられたことで頭が冷えたのか、藤原の手から魔力が引っ込んだ。

 「………ごめんなさい。こんなつもりじゃ……。気づけば体が勝手に…」
 「ふん、まあ気持ちは分からんでもない。あんな奴らでもあんたにとっては大切で大事な生徒たちだったんだもんな。それらの命を軽んじたのは失言だったな。悪い」
 「………っ」

 藤原は気まずそうに目を逸らす。そんな彼女に溜息をついて俺は問いかける。

 「改めて確認するぞ?あんたはこんな俺とまだ一緒に旅をしたいって、言えるのか?そう思えるのか?」

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