世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

85話「パーティの加入と別離」



 「あんたも俺の旅メンバーに加わる、だと…?」

 聞き違いかどうか確認するべく聞き返してみたが、藤原はその通りだと首肯する。アイテム「真実の口」を起動……反応無し。冗談で言ってるわけではないようだ。

 「フジワラ、さん……」

 ミーシャが藤原を見て、何かを察した反応を見せる。彼女はこの女が何故ああいうことを言ったのか分かるのか。

 「何でそうしなきゃならねーんだ。俺たちは明確な目的があるからアレンたちと組んで旅をしてるんだ。あんたには何の目的があるんだ?鬼族の再興の加担でもしてくれるのか?それこそ意味が分からないけどな」

 警戒心むき出しにして詰問する。

 「甲斐田君が心配だから」
 
 何を言うのかと思ったら、また意味不明な言葉だった。

 「は?心配だと?今の俺を?さっき俺のステータスを見ただろ?魔人族を除けばどんな敵が来ようが全く問題ねぇレベルの強さを手にしてるんだぞ、今の俺は。そりゃ生前の俺はあんたよりもはるかに弱い雑魚だったがな。今の俺の実力を全く知らない、あのころの俺しか知らないあんただろうけど、余計なお世話だ」
 「ううん、戦いのことを心配してるんじゃないの。《《それ以外のこと全て》》が心配だってことなの」
 「………?」

 言ってる意味が分からない。藤原は続けて話す。

 「甲斐田君に仲間ができていたことはとても嬉しく思ってる。けど……今の君はまだ放っておけない」
 「放っておけないって……まだ先生と生徒の関係のつもりか?こんな世界に来て化け物どもと戦うようになって、俺や他の生徒どもが死んだ以上、もうそんな関係じゃ………」
 「どこまで行っても、私は君や高園さんたちの先生です!まあ私は副担任なんだけどね…」

 俺の言葉を遮って強くそう言ってくる。その言葉に強い意思が込められている気がして、言い返せなかった。アレンやクィンも藤原の強い意思に驚き、圧倒されていた。ただミーシャだけは優しげな笑みを浮かべて藤原を見ていた。また何かを察しているらしい。

 「えーと、クィンさん、でしたよね?甲斐田君は戦い以外の時は、普段どうでしたか?」

 突然話を振られたクィンは少し慌てるがすぐに落ち着き、少し考えてから気まずそうに答える。

 「その……私たちには何も問題なく、良くしてくれましたが………コウガさんに敵対しようとした人たちには過激な反撃を…」

 そしてそのままイードのギルドのこと、元クラスメイトどものこと、ドラグニアのクズ国王どもの謁見のことも全て話しやがった。

 「……………やっぱり私も甲斐田君と一緒に行くわ!今の君を放っておけない!」
 「何でだよ…」
 「その……当たり前じゃないかと。コウガさんを想ってくれる先生ならなおさら…」
 
 俺の旅に加わることをさっきよりも強い意思を持って宣言する藤原に俺が辟易しているとクィンが何故か嬉しそうな顔でそんなことを言い出す。

 「フジワラさんは、コウガさんを捜して助けたいとずっと思ってました。地底へ行くことを諦めさせられた時も、彼女は自分を責めてました。自分の力が足りなかったと。フジワラさんはコウガさんのことをそれだけ大切に想っていたんです。旅に加わりたいと言うのも、そういった気持ちから生じてるのだと思います」

 すっかり俺を名前呼びにすることを定着させたミーシャもそう言ってくる。藤原は照れたのか、顔をそらす。

 「大体、あんたはいちおうモンストールを討伐する為に呼び出されたんだぞ。鬼族の再興の為に旅する俺たちのところへ来る場合かよ」
 「それは………って君も私たちと同じはずだよ?」
 「ふざけんな。俺はもう進んでモンストールどもを討伐しに行ったりはしねぇ。何もかも自由にさせてもらう。その代わりに俺たちの前に出てくるモンストールくらいは殺してやるから」
 「う……」

 説得のしようがないと感じた藤原はそれ以上言わなくなり、どうしようかと悩んでいると、ミーシャが話に入ってくる。

 「フジワラさん、行って大丈夫です。今はあなたがしたいことを優先して下さい」
 「ミーシャ様……」
 「サント王国にはクィンさんも含めて優秀な兵士や戦士、冒険者さんたちがいっぱいいます。そして、タカゾノさんたちもいます」
 「ありがとうございます…!
 あ、ヨリカちゃんたちに……このことを話さ、なきゃ…………」

 途端に、さっき告げた(藤原にとって)残酷な事実のことでまた暗くなった藤原は、通信端末を取り出して連絡しようとする。

 「私も……この地に残っている民たちに、ドラグニアが滅んでしまったことを話さないと……」
 
 ミーシャも暗い気持ちになりながらシャルネ王妃と話し始める。

 「……やっと、めんどくさい絡みから解放されそうだな」

 そうぼやいてアレンたちに今度こそ出発するぞと合図する。彼女たちの用件を待つ義理はない。もうここを発つとしよう。

 「そういうわけでクィン、お別れだ。短い間だったがお前と一緒に旅したこと、楽しかったぞ」
 「私も。クィンはもっと強くなれる。次会った時は模擬戦もしようね」

 俺とアレンはクィンに別れの挨拶をする。自分勝手な俺にクィンは諦めたように苦笑して、寂しそうに応える。

 「はい…。私も楽しかったです!監視役とか関係無しに、あなたたちとの旅は私の大切な思い出になるでしょう。
 コウガさんのお陰で救われたことも何度あったか。あなたには感謝しきれない程の恩が出来ました!本当に、ありがとうございました…!」

 そう言って俺とアレンの手を交互に握る。特に俺の方にだけ手をギュッと優しく包むように触り、顔も上気してるように見えた。

 クィンとの挨拶を済ませると、通信端末を起動させている藤原のところへ行き、小声で話しかける。

 「ゾルバ村っていうここから一番近い村に俺たちはいる。一緒に旅をしたいって気持ちが嘘じゃねーんなら後でそこに来い」
 「…!甲斐田君……!」
 
 藤原が目を見開いて、しかし嬉しそうに反応する。構うことなく彼女から離れて、最後にミーシャのところへ行く。

 「責任持って俺を元の世界へ帰せよ。その代わりに露払いくらいはしてやるからよ」
 「はい…!コウガさんもお気を付けて!本当に、ありがとうございました!!」

 ミーシャは俺の手を取って別れを惜しむように言う。頬も赤らめていた。
 
 「コウガさん、私…強くなります!コウガさんたちみたいに武力はダメかもしれませんが、この頭脳を…軍略家としての頭脳を多くの人々を救う為に使いたいのです。魔力も、今よりも高めて何かに役立てたいと思ってます。私もコウガさんのように強く、なりたいです…!」
 「………そうか。まあ良いんじゃねーの?お姫さんの場合、魔力を高める鍛錬が適してるかもな。体力も……走り込みを中心に行えば良いかもな。あとは……どんな新しい力を得たいのかイメージして、実現させろ。それだけで今よりはマシになれるはずだ。もちろん元の世界のことを優先してもらうけどな」

 ミーシャはしばし驚いた表情を浮かべていたが、すぐに嬉しそうな顔をして何度も頷く。

 「必ず、毎日言われた通りにします!変わってみせます、必ず!
 それでその……次お会いした時は、私のことを“お姫さん”ではなく、名前で……」
 「…?」
 「い、いえ!何でも…!では、またお会いしましょう!!」

 最後は何故か照れながら改めて別れの挨拶を言った。シャルネ王妃はそんなミーシャを温かな笑みを浮かべて見守っていた。





こうして俺はアレンとセンとルマンドを連れてドラグニア王国跡地から立ち去り、クィンとミーシャとはしばらくのお別れをした。二人とも俺との再会を強く望んでいた。俺は別にそれほどでもないんだけどな。
 調子が戻った俺は魔法を使って三人を飛ばしながらゾルバ村へと即帰還する。ギルスとガーデルに迎えられて、二人に魔人族のことを話した。特にネルギガルドという鬼族の里を滅ぼした真犯人のことを話すと二人とも憎悪の感情を漏らした。
 アレン以外の鬼族四人とももあの魔人に対する復讐を誓った。全員これからも俺の旅についてくるつもりらしい。その方がたくさん経験値を稼げてレベルアップ出来るということ、何よりアレンとともにこれからの鬼族の復興への道を歩みたいとのこと。
 夜は俺が無事に帰ってきたことと今回の大災害から生き残れたことの祝賀会をうっての宴会を開いた。みんな仲間たちがまた揃ったことを喜びながら酒を飲んで料理を食らっていた。年齢的には彼らは未成年だがこの世界では幼年じゃなければ飲酒は許されるらしい。俺も未成年だが人間を止めてる身だし遠慮なく飲みまくった。
 そして、宴会がお開きムードになったところで、彼女が村に訪れて来た。

 「来たか」
 「甲斐田君…」

 気配を感知した俺は一人宴会から出て、藤原美羽を出迎えた。


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