世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

83話「再会と残酷な事実」



 「あんたは……」
 
 藤原美羽。元いた世界では、俺が通っていた高校、三年七組の副担を務めていた。故ドラグニア王国に着いて元クラスメイトどもと再会した時に彼女はいなかったのは、他の大国へ滞在していたからだろう。ミーシャから聞いた話だと、滞在任務だったとか。その任務を昨日くらいで切り上げて、たった今ここへ戻ってきたところなんだろうな。
 だけどまあ、この再会には驚かされた。このタイミングで戻って来たのだから。俺の後をついてきたアレンとクィンはやや戸惑いの表情を浮かべている。
 だが俺以上に、目の前にいる彼女……藤原美羽はもっと驚いている。ビックリした表情で俺を凝視している。やがてその目に涙を溜めて、表情も歓喜へ変えていく。

 「甲斐田君…!生きていた。生きてくれていた!ちょっと見た目が変わっているけど、間違いなく君は甲斐田君よね!!」

 某名RPGゲームに出てくる女僧侶みたいな衣装を着て少し短くなっている茶色が混じったセミロングの髪を綺麗に整えた長身の女性は、俺の生存(だと思っている)確認ができて歓喜に震えているらしい。
 その様子を冷めた目で見つめながら、俺は彼女のステータスを「鑑定」する。

フジワラミワ 23才 人族 レベル55
職業 回復術師
体力 3000
攻撃 1500
防御 2000
魔力 4500
魔防 4500
速さ 1500
固有技能 全言語翻訳可能 回復(回帰 状態異常完治 回復付帯付与) 自動回復 薬物耐性 全属性耐性 全状態異常耐性 炎熱魔法レベル6 嵐魔法レベル6 水魔法レベル6 光魔法レベル6 大地魔法レベル6 魔力障壁 限定強化

 普通の、常識的なレベルから見るとこのステータスは凄まじいものだ。

 「この人、人族にしては凄く強い…」
 「そうですね……私よりも、強いかもしれません」

 後ろでアレンとクィンが小声でそう言い合っている。アレンは戦気を察知して藤原の戦力を測る。クィンも戦士としての勘か、対峙しただけで彼女の戦力を予測した。
 この世界において藤原は間違いなく人族最強クラスの戦力だ。俺が消えてからひと月と数日間…長いとは言えない期間でここまで強くなってるとはな。おそらく、その期間で俺と同じあるいはそれ以上の修羅場を潜り抜けてその域まで達したのかもしれない。
 いずれにしろ、死んでしまった元クラスメイトどもとは比べ物にならない強さだ。能力値でもかなり高いが、固有技能が凄まじい。回復系特化に耐性が色々ありまくり、魔法攻撃の種類にも富んでいて、攻守ともに優れている並びだ。生前の訓練時から予想していたことが当たったな。この女は間違いなくチート級に強くなる、と。
 最後に気になる固有技能「限定強化」について。アレンや竜人族など魔族特有の固有技能「限定進化」と字面が似ているが、どう違うのか…?


「限定強化」 異世界召喚された人族のみに発現される特殊技能。発動後、自身の能力値が大幅上昇、固有技能の強化、生命力も高くなる。数々の試練を超えてレベルを上げることで取得される。能力値の上げ幅は、レベル上げ・潜り抜けてきた修羅場の数によって増えていく。


 そうか。異世界召喚された人間に与えられる固有技能。姿形は変わらないが能力値が上がったりおそらく魔法レベルも上がったりする。
 けど俺にはそんなものが発現されてない。相当の経験を積んで修羅場を乗り越えてきたはずだしレベルも凄く上げてきた。なのになぜ俺だけ取得できていないのか………ああ、屍族になったからか。
 黙ったままでいる俺に藤原が不思議そうにしていたので、俺から話しかける。

 「……久しぶり、だな元先生さん。随分強くなったそうだな?一体どこでそんな力を身につけたんだ?もうただの回復術師じゃないだろそのステータスは」

 俺は生徒で藤原はいちおうは教師。敬語で話すべきだろうが、ここは異世界。ましてや俺は死んで、倫理とか人間関係とか色々ぶっ壊れたんだ。今更上下関係なんて気にする必要は無い。彼女もこれまで出会った奴らと同じ口調で話すとしよう。名も呼び捨てで。

 俺のため口に気にすることなく、藤原は俺の問いに答える。

 「君がいなくなってから、クラスのみんなはより真剣に訓練やモンストールの討伐に当たるようになって。中でも私と縁佳ちゃん…高園さんは凄く訓練に励んで、実戦と経験もたくさん積んで……ここまで上ってこられたわ。知ってる?今私たち救世団なんて呼ばれているの。ちょっと恥ずかしいネーミングで困ってるけど」

 真剣に訓練して討伐、ねぇ?藤原と高園は本当かもしれないが、死んだあいつらは絶対そうじゃなかったろ。つーか縁佳ちゃん?いつの間にか仲良い関係になったようだな。

 「それで、あの時……最初の実戦訓練で遭遇してしまった災害レベルのモンストールくらいの敵を倒せるようになったら、私と縁佳ちゃんで地底へ行って君を捜そうと思ってたのだけど、もう必要無くなったね……こうして再会できたんだから!私たちが強くなろうと思ったのは、君を見つけて助けるためだったから」

 そんな理由で、ここまで強くなったというのか?俺を、助ける為に?
 ここに来てまだ、生徒の大事を想って行動しているというのか。危険極まりないあの地底へ行こうとしてまで、たった一人、それもクラスから孤立していて最弱のハズレ者だった俺を助けようとしてたのか?
 大した女だ。こいつの言葉に嘘は一切感じられない。アイテム「真実の口」を使っても反応無し。ホントに新任教師かと疑う程に、人間出来た人だな。
 けど、そのレベル帯であの地底に行くと聞いたからには、言わずにはいられない。

 「甘いな藤原。確かにあんたは強くなった。けれどそのレベルであそこに行くのはまだダメだな。死ぬぞ?あんたが思っている以上に、あの場所は人間や普通の魔族にとって死の巣窟だからな」

 災害レベルのモンストール群の遭遇もそうだが、まずあの瘴気をくらった時点でお陀仏ルートだろう。まぁ全状態異常耐性がついている彼女なら平気かもしれないが、一人であの数を相手にするのはまだ無理だろうな。

 「どういうこと?そのレベルって?そういえば甲斐田君、私のステータスが分かるの?君はあの後どうなったの?後ろにいる二人は君のお仲間さん?」

 矢継ぎ早に質問を発する藤原をジッと見つめながら少し考える。見たところ彼女は“何も知らない”ここで起きたことについて何も。

 「なあ、この大陸で何が起こってたのか、知ってるか?」
 「え……そ、そうだわ!今朝…船での移動中で国王様から知らせが届いたの。ここに災害レベルのモンストールがたくさん出現して、ドラグニア王国にもそれらが侵攻してきているって!だから途中から急いで戻って来て―――」
 「なるほど、そこは知っていたのか。良いか藤原、よく聞け。そいつらはもう全部いなくなった。この地に敵はもういない、一体もな」
 「え……そ、そうなの?」
 「はい、アルマー大陸の各地に発生したモンストールの群れは全て殲滅しました。主にコウガさんのお陰です。
 そして私は、サント王国の兵士団副団長を務めております、クィン・ローガンと申します」
 
 藤原の言葉にクィンが丁寧に答える。ついでに自己紹介もした。アレンも少し前に出て簡単な自己紹介をしていた。
 俺のお陰で、という部分を聞き取った藤原はビックリした様子だ。まあそこについても“何も知らない”から無理もないか。

 「そうだな……いちいち分けて説明するのもめんどいから、合流させてから全部まとめて説明するか。こっちだ、ついてこい」 

 そう言って背を向けて来た道を行く。藤原は色んな要因(モンストールのこと、俺のことなど)に戸惑いながらも後を追ってきた。

 「コウガさん、あの方もコウガさんと同じ……」 
 「ああ。藤原美羽、異世界召喚で一緒に来た奴だ。お前が今まで見てきた異世界人たちにとっては先生って立場の人間だ。年はたぶんクィンと同じくらいだな」

 道中クィンの質問に答えてやる。クィンは時々藤原をちらちらと見ていた。藤原もまたクィンとアレンに気になるって感じの視線を向けていた。
 そしてミーシャやセンたちがいる場所に戻ってくる。

 「これは………どういう、こと……………?」

 藤原が最初に愕然とした要素は、形も影も無くなった王宮の跡地を目にしたことだ。彼女にとっては遠征前はここには立派な王宮が建っていたはずだった。それが今ではただの瓦礫の山となってしまっているのだから、愕然とするのも無理ない。

 「フジワラさん!ご無事で戻って来られて何よりです!」
 「ミーシャ、様…。それに貴方は、シャルネ王妃、ですか?」

 駆け寄ってきたミーシャに呆然とした目を向ける。シャルネ王妃も彼女にお辞儀をして挨拶する。

 「ミーシャ様……王宮は、ドラグニア王国はいったいどうなってしまったのですか…?」

 藤原の問いかけに、二人は悲しげに俯くことしか出来ない。

 「ドラグニア王国は見ての通り、滅亡した。国王と王子が惨殺されて王宮が破壊されたことでな。それをやった奴は何とか退けたけどな」

 代わりに俺が答えてやる。藤原は首を錆が生じた機械のように動かして俺を見る。
 
 「甲斐田君………クラスのみんな、は……?」

 ようやくその質問がきた。俺は躊躇うことなく淡々とその事実を告げる。

 「あんたと、あんたとは別の国へ遠征任務へ行った5人のクラスの奴以外の異世界召喚組…3年7組の生徒29人は、全員死んだ。Sランクモンストールどもに殺された。今ここにいる日本人は俺と、あんただけだ」
 「―――――」

 藤原は時が止まったかのように立ち尽くす。俺の声ははっきり聞き取れたはずだ。聞こえた上でその反応なのだろう。ミーシャとクィンはそんな藤原を悲しげに見つめている。

 「あとな、もう一人死んだ奴がいる………俺だ」
 「………!?」
 
 ようやく藤原が動く。顔色が悪くなって見える。

 「そう、俺はあの最初の実戦訓練で、逃げ遅れたことで生贄としてモンストールごと地底へ落とされて、そこで力尽きて死んだんだ。あんたらに見捨てられた俺はあの時確かに死んだんだ。今の俺は動く死体ってやつだ」

 それを聞いた藤原はとうとう両膝を地につける。目からは光を失い、次第に体を震わせる。

 「王国が滅んでいた………甲斐田君は死んで、いた……………ここに残っていたクラスのみんな、は全員……………………………………………………」

 うわごとのように呟き項垂れる。そして今度は両手で頭を塞ぐように当てて、慟哭した。

 「あ、あああああ、ああああああああああ……………あああああああああああああああ………………………………………………………………っ」

 俺も、誰も、そんな藤原に声をかけることはなかった。俺以外は皆、彼女を悲痛な目で見ていた。
 俺から聞かされた内容はどれも、藤原美羽にとって残酷な事実だった。


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