世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

77話「イレギュラーゾンビは全てを出し切る」



 完全に崩壊してしまった王宮で、アレンたちが固唾を飲むようにして皇雅とザイートの戦いを見ていた。どのようにして戦いの様子を見ているのかというと、ミーシャの固有技能「アイテム召喚」による、映像を映す水晶玉を使って観戦を可能にしている。
 ザイートの攻撃に合わせて高度なカウンター技を放って吹っ飛ばす皇雅の戦い方に、アレンたちはさっきから驚嘆してばかりいる。
 ちなみに少し前に、アレンたち鬼族娘はミーシャと王妃に自己紹介を済ませている。

 「私、アレン。鬼族の生き残り。サント王国に行く途中の洞窟でコウガと会って、仲間になった」
 「鬼族……最近絶滅したと言われていましたが、生き残りがまだいたのですね…………“コウガ”、ですか………」
 
 後半はどこか羨ましそうな顔をしたミーシャに、アレンは首をかしげた。

 「それにしても、魔人族の力も凄まじいけど、それに対抗しているコウガも凄いよね。あんなカウンター技、人が出来るレベルを軽く超えてる」
 「鬼族戦士でも、きっと竜人族戦士でも、あれは無理。真似したら体が崩壊する。ゾンビとかいう性質を持つコウガだからできること」

 センの評価にアレンも同意する。戦闘が皆無のミーシャでも、皇雅が異次元レベルの技を行使していることは理解出来る。

 (きっと、あの後からも努力してきたのですね…。力に溺れることなく己を研鑽し続けてきたのだと、今のあなたを見ればそれが分かります…!)

 ミーシャは内心で皇雅をそう評価する。同時に焦がれてもいた。

 「家族と里の仇かもしれないあの魔人族は、あんなレベルの強さ…。コウガでもすごく苦戦するくらいの奴。私も、あの次元に近づかないと、復讐が成せない…」

 ふとアレンが、そんなことをぽつりと呟いた。拳をギュッと握りしめているその様子からは、悔しさとこれからの過酷さに対する覚悟が見られる。そんなアレンに、センが「そうね」と同意する。

 「今は、コウガに任せるしか出来ない。今の私たちじゃ、コウガが言った通り何も出来ずに殺されてしまうだけ。今は、耐えましょう」
 「うん…」

 センに頭を撫でられながらアレンは小さく首肯した。

 「コウガさんしか魔人族に対抗できる武力を持つ人など今はいないのでしょうか…?だとするなら、私たちは今後どのようにしてあのレベルまでたどり着けるのでしょうか…?」

 クィンも今後のことを思い憂いに浸ってしまう。それほどまでに自分と魔人族、そして皇雅との途轍もない差を感じてしまっている。

 「…………」

 シャルネはマルスの遺体を抱いたまま俯いている。それを見たクィンも、ザイートによって多くの仲間が殺されたことを思い出して胸を痛める。

 (すぐに彼らのところへ行きたいけど、ミーシャ王女とシャルネ王妃を置いて行くわけには…。今は彼らに危機が訪れていないし、彼らがここに来るのを待っていようか…)

 内心そんな思案をしながら、クィンは兵士たちの方を見つめていた。
 そしてさらに激化していく二人の死闘を、彼女たちは緊張した面持ちで見ていた。
 やがて、二人の死闘に終わりが訪れようとしていた―――


                   *

 殴る度に、蹴る度に、攻撃に使った部位から血が噴き出て、皮膚が裂けて、筋肉が断裂する。骨はギリギリ砕けないでいるが、これ以上負荷をかけるとほぼ確実に壊れるだろう。この状態が持つのもあと僅かだろう。
 だがあと数分あれば、目の前のチート魔人を葬れるはずだ。文字通り捨て身の大技をぶっ放せば、いくらこいつでも何もかも不能になるだろう。つーかなってくれマジで。
 血まみれの拳と足を再び構えて深呼吸。ここからはもう後のことは考えない。目の前の敵が死に絶えるまで止まらない。攻撃し続ける。
 俺はゾンビだからこっちがバテることはない。体が壊れても痛みは感じないから途切れることはない。ここからは究極の無呼吸運動だ。生前体験したこともないくらいのスゴイことをしてやる……!

 “絶拳 連打”

 景色も音も置き去りにする程の速度をも武器にして全身を旋回加速した(おまけに推進機も発進させた)右ストレートを顔面に叩き込む。
 ザイートの目や鼻を潰した感触と俺の右腕の骨が砕ける音が聞こえたのが同時だった。
 だがそこで終わらせず、今度は右足に全体重を乗せて踏み込んで、体を即座に捻らせて「絶拳」を左で奴の胴体に叩き込んだ。
 どこかの内臓を潰した感触と左腕が折れる感触が同時にしたがどうでもいい。

 「テメーを強化なんてさせるかあああああああ!!!」

 絶叫しながら俺は何度も「絶拳」をその場で放ち続けた。まさに袋叩きの形である。
 一撃一撃の間隔がほぼ無しの状況で攻撃され続けているため、ザイートは完全に防戦一方に嵌まる。「限定進化」は、全身に魔力を巡らせる作業が必要とされ、それなりに集中が要する。今の皇雅の連続攻撃に完全に阻まれてやや窮地に立たされている状況だ。
 ならば切り札を発現するのは一旦やめるという方針を選ばざるを得なくなったザイートがすることは……

 「調子に乗らせるかよぉ!!」

 防戦を捨てて、攻撃に出る他無い。俺と同じく持てる力を発揮して応戦する。
 得意武器の鉤爪を発現させて俺の拳を悉く迎え撃つ。鋭利なクローで俺の指の何本かが切り飛ばされる。だが拳を止めはしない。その後も休み無く超音速のストレート・フックとクローの応戦が続く。
 先に壊れたのは俺の拳だった。奴の鉤爪で指が全て無くなり、腕の骨が全て砕けた。
 腕がダメなら、脚を使えばいい。「絶拳」の連発で奴の鉤爪を破壊されたザイートも、同じく蹴り技を繰り出してきた。雷と風のオーラを纏った斬撃性質を持つ蹴りを放ってくる。

 “雷嵐脚《らいらんきゃく》”

 触れれば斬れる足と化した魔力纏い状態の蹴りをくらわせにくる。なるほど、普通の蹴りではカウンター技の餌食になるから、斬撃の蹴り・魔法付与した蹴りなら触れるのは刃物と魔法だから反撃ができない。確かにその通りだ。
 だったら、その邪魔な刃物と魔法を消せばいいだけ!!

 「絶拳」の要領で下半身の部位中心に力をパスして加速させる。右足→右大腿→腰→体幹→左腕でまず軸をつくり、左腕は後ろへ引いて腰を落とす。
 そこからパスの続きをする。右腕を前に強く出して、骨盤→左大腿→左腱→左足へとパス・加速して自壊上等の超音速蹴りを繰り出す!

 “蹴速《けはや》”

 当てるのは奴の肉体ではなく、奴の足を纏う刃だ。そこに全神経を集中させて全力の蹴りを当てる!
 チュドォオオォ――!とゲームでよく聴く爆音が響く。刃はまだ折れない。なら折れるまで蹴り続ける!
 またもお互いの蹴りの応酬が続き、周囲の建物や森林、大地がその余波で破壊されていく。
 何回目かの激突で、ようやく刃を折ることに成功。またも武装がはがされたザイートは折れた武装硬化状態のままで、蹴りに来た。――その蹴りを、待ってたんだ!

 奴の蹴りが体に当たる瞬間、回転扉のように全身を旋回させて、左足を軸にした猛回転のローリングバット蹴りを叩き込む!

 “廻烈《かいれつ》”

 ザイートの蹴りの威力も乗せたオリジナルのカウンター蹴りが心臓部分に命中する。

 (チュドォン!)
 「ぐはぁ!して、やられたな……!俺の武器を潰してカウンター技に持っていかせるとは」

 モロにくらったザイートはついに膝をついた。彼も相当体力と魔力を削っている。高速回復を使う余力さえ厳しい様子だ。
 一方の俺も、何発もの捨て身の蹴りで両脚がイカれてしまっている。四肢ともに骨が砕け血まみれの満身創痍だ。これだけ体を壊しても痛みは一切無いものだから、生物離れしたなぁとつくづく実感させられる。
 ともかく、まだ奴は死んでいない。だが今の奴なら、次の大技で殺せる、きっと。

 「6000%……解除ぉ!」

 次で確実に殺したいので、リミッターをさらに解除して必殺の一撃を放ちに出る。
 
 その場で軽く跳んで、体育座りの姿勢のまま猛回転しながらザイート目がけて急降下。武装硬化した両足には、推進機をエンジンを取り付けて爆破属性も付与されている。
 ザイートの頭上2m切ったところで両脚を伸ばして両踵落としの姿勢のまま、エンジンを稼働して超爆速の一撃を思い切り叩き込む!

 「終われぇ!『流星爆斧《メテオギロチン》』!!!」

 踵が奴の頭に触れた瞬間――

 耳を劈く衝撃音の直後、被せるように爆発音がした。
 常人ならば鼓膜が破れ、聴覚不能になり、最悪昏倒するくらいの音量が辺りに響いた。
 その音は、遠く離れたところからこの戦いを見ている(見えてるか分からんけど)アレンたちにも聞こえた程だろう。
 爆風に飛ばされた俺は着地態勢をとることさえできないまま、地面にべちゃりと墜落する。
 反動と爆発による両脚欠損、リミッターの重ね重ねの解除による体の崩壊、その他もろもろのダメージで、俺の体はもう原型を留めていないくらいに壊れていた。痛みが無いのに指一本ロクに動かすことさえできない状態をもどかしく思いながらも、俺は全力を出し切ったことへの充足感を得ていた。
 で、肝心の敵……ザイートはどうなった?俺の攻撃で出来上がったクレーターの方を見る。奴が立っている気配は……………ない。
 何とか……………あの化け物を進化させずに殺し切ることが出来たようだ。よかった、いやマジでよかった。「限定進化」されてたら確実に消されてただろうから。

 「ギリっギリの戦いだった……!」

 世界を滅ぼし得る魔人族、そのトップに君臨する…ラスボス・ザイートとの死闘はこれにて終了だ。


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