世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

71話「格の違い」



アレン視点

 嫌な予感がする……。突如感知したあの“戦気”…………憶えがある。
 あの時……私たちの里を滅ぼしにきたアイツと似たものだった!
 しかも、ここからかなり離れているはずなのにもの凄く禍々しくて強く…………嫌な戦気だ。

 「コウガ…………」

 コウガは強い。災害レベルのモンストールの群れを一人で殲滅できるくらいに。分かっている。どんな敵だろうとコウガならあっという間に決着をつけてくれるって。
 それでも今回は………嫌な予感が、する……!

 「私は、コウガのところへ行く。足手まといになってしまうかもしれないけど、行かなきゃいけない気がする………っ」

 居ても立っても居られず状態の私は、まだ完治していない状態ながらもドラグニア王国へ行く決意をする。

 「そんな体で災害レベルの敵と戦うつもり?だとするなら見過ごせないわ」

 私の前にセンが立ちはだかる。その顔は若干怒っているように見える。

 「セン……お願い。センやみんなも……分かってるんでしょう?この戦気」
 「………」

 センも、他の鬼族の仲間たちも深刻な顔をして黙り込む。

 「ええ気付いているわ。あれは……私たちにとって大きな仇の存在かもしれない。そしてアレは………アレン一人じゃ絶対に敵わないレベルだわ。今の状態じゃ特に」
 「………」
 「アレンの仲間…コウガなら何とかなるかもしれない。彼に任せるだけじゃ、アレンは納得しないのよね?」
 「うん…!」 

 その問いに強く肯定するとセンは少し笑顔を見せる。

 「私もよ。鬼族の仇かもしれない奴を、たとえアレンの仲間だろうと任せる気はない。私にとっても憎むべき仇敵。私たちも奴を殺したいって思っているわ」

 センの言葉にみんなも頷いて肯定する。ここで私はセンが言おうとしていることに気付いた。

 「私も行くわ。もちろん殺されに行くようなことはしない。敵わないと分かったら悔しいけど退くからね。」
 「うん、ありがとうセン!」

 心強いことにセンも一緒に行ってくれることになった。

 「ルマンド、あなたも一緒に来てくれる?あなたの力が必要になると思うから」
 「ええ。喜んで力になるわ」

 ルマンドは嬉しそうに微笑んで快諾してくれる。

 「ガーデル、ギルス。二人は待機してちょうだい。もしものことに備えて、ね」

 こうして…センとルマンドをパーティに加えて、私たちはコウガとクィンがいるドラグニア王国へ向かった。

 (コウガ、無事でいて……!)


                   *

 どれくらい経ったのか、目を覚ましてふと目を向けると、目の前に見慣れた俺の体があった。
 さらに、さっきから髪を掴まれている感覚に気付いて、上を見ると、ザイートの姿が。そこで俺はようやく気付いた。
 俺は、奴に首を刎ねられて、その首を掴まれている...!

 構えすら視認できなかった。
 奴がいつ反撃態勢に入っていたのか、どういう攻撃で首を刎ねられたのか、俺の手刀は奴に届いたのか……何もかも分からないまま俺は行動不能にされている。
 初めて知ったが、首と胴体が離れるとさすがに動けなくなるみたいだ。
 地面に転がっている俺の首をザイートが髪を鷲掴みして持ち上げたことで、一瞬とんでいた意識が覚醒し、自分の置かれている状況にようやく気付いた。
 俺は今、こいつに生殺与奪の権利を握られている。まぁ俺死んでいるし、痛みも全く感じないのだが。けれど、こんな扱いをされて、それに対する屈辱感はありまくりだった。チートゾンビになって初めての経験だ。誰が見ても、俺はこいつに敗れてさらし首にされてるようにしか思えないだろう。
 「ハァ...ハァ...敗北者...?取りけ」――っておっと、ネタかましてる場合じゃなかったわ。

 つーか、この状況マジでまずい。首から下の部位は何一つ動かせない。完全に詰んでる。

 「お前が俺に仕掛けた攻撃技はもともと俺のだ。それも、分裂体から奪った紛い物レベルだ。そんな紛い物でオリジナルの俺がやれるわけないだろ。俺の固有技能で攻撃しようとした時点でお前は終わってんだよ。さっき同胞たちと戦った時も“武装硬化”を使っていたところ、どうやらお気に入りの戦い方のようだが、残念だったな」

 「硬化」と呼んでいたあの固有技能は本来「武装硬化」というのがオリジナルらしい。確かに、俺が今まで使っていたあれは紛い物だったみたいだな。
 ザイートは何を思ったのか、俺の首を俺の体のもとへ投げ捨てた。首と体が近づいたことで、塵が発生して、それによって身体が元通りにくっつき、動かせるようになった。

 「どういうつもりだ?こうなること分かっていたようだが?」
 「今の通りだ。俺とお前との戦力差を教えてやる。あと、お前の口から聞きなれない言葉があったから、それも訊いておきたいしな」

 完全に舐めプしにきてやがる。腹立つわコイツ。少し距離をとり、深呼吸して強力な魔法攻撃を次々に放つ。

 “溶岩炎嵐《マグマストーム》”
 “絶対零度”
 “天雷氾濫《アマツマガツチ》”

 この時の俺は冷静さを完全に欠いていたに違いない。見境なく大技を乱発する奴は絶対反撃されてボコられるオチではないか。初めて自分のはるか格上の存在と立ち会って、平静でいられなくなっている。完全に呑まれている。
 そして案の定、身体に若干傷をつけつつも、平気そうにしているザイートの姿が。
 奴を目視できたのは一瞬のこと。煙が晴れた直後、「神速」で俺の目の前に現れて、またも首をスパッと刎ねられた。
 さらに五体もバラバラに切り刻まれて、その場でなすすべなく倒れる。
 ダメだ。奴の固有技能は、紛い物の俺なんかよりずっと強い。威力が桁違い過ぎる…!咄嗟に体に張り付けた「魔力障壁」をあっさり破壊して俺をバラバラにしたのだから。
 それ以前に、こいつのステータスがクソチート過ぎる。生首状態でザイートの能力値を「鑑定」したのだが、軽く後悔した。


ザイート 135才 種族不明 レベル?999
ステータス
職業 不明
体力 ?99999999
攻撃 ?99999999
防御 ?99999999
魔力 ?99999999
魔防 ?99999999
速さ ?99999999
固有技能 武装硬化 神速 瘴気強化 気配感知 魔法弱体化鎧《マジックアーマー》 魔力障壁 全属性魔法レベル9 超高速再生 限定進化


 何だよコレ…。レベルもステータスも、文字化け状態じゃねーか。測定不能=異次元の化け物だ。そら勝てねーわ。
 固有技能もキチ狂ってやがる。さっき魔法くらって大したダメージ入ってなかったのは、「鎧」を発現させて防いでいたのか。何よりも見間違いであって欲しかったのが、「限定進化」するということ。ふざけてやがる。ここからさらにステータスが数倍化するってのかよ……。

 「俺のステータスを見たのか?馬鹿が、余計に後悔するだけだろうに。まあ、これで自分と俺との格の違いが分かっただろ?」

 俺はただ悔しさに歯ぎしりすることしかできないでいた。奴の言う通り、格が違い過ぎる。死んでからチートな力を手に入れて、そこから敵を圧倒していって完全に天狗になっていた。この世界には、こんな奴がまだいたのだ。
 
 その後また舐めプで俺を再生させて、俺は何度もザイートに攻撃するが、悉く返り討ちにされて、その度に戦闘不能にさせられるのループが続いた。

 合計10回は死んだかと思えるくらいに殺された俺は今、首と上半身と下半身が分断されて、下半身には鋼鉄化した岩石が乗っかっていて、上半身は雷でできた縄で縛られ、その上に首が乗せられているという状況だ。文字通り指一本動かせないでいる。
 これだけされてもゾンビの俺は何も感じない。苦痛など無い。死ぬこともないから意識が途切れることもない。完全に生物からかけ離れた存在だ。まぁ目の前にいる男はそれ以上の化け物だが。

 「さて、これ以上殺そうとしてもお前は死ぬことも消えることもないらしい。普通その状態になれば生命活動が終わっていいはずだが、まだ意識があるとはな。やはり俺が知っている屍族とは少し違うな」

 縛られている俺の目の前まで近づいてその場でしゃがんで見下ろすザイートを俺はただ睨むことしかできない。
 
 「カイダさん!!」

 思わぬ人物が現れる。ザイートの後ろから、逃げたはずのミーシャがこっちに駆けてくるではないか。

 「ダメですミーシャ王女!あの男に近づいてはあなたが殺されてしまいます!」
 
 そのミーシャをクィンが青い顔をしながらも引き止めている。クィンもミーシャと同じように俺を痛ましく見ている。

 「ドラグニア王国の王女か。増援のつもりか?戦闘は不向きのようだが」

 ザイートはミーシャを一目見て、彼女が戦闘に劣るとすぐ見抜いて、興味無さげに視線を俺に戻す。クィンにも興味無しだ。

 「何でここに戻ってきた?殺されるかもしれないのに」
 「決まっています!カイダさんがそんな状態にされているからです!!」

 俺の疑問にミーシャは迷いなくそう答える。意外だったから言葉に詰まってしまう。ザイートはミーシャを面白そうに見ていた。

 「ドラグニアの王女。俺は何もしないから、カイダの拘束を解きたいのなら好きにしろ。それくらいのサービスくれてやる」

 ザイートはいきなりそんなことを言い出す。ミーシャたちは呆気にとられていたが、ミーシャだけが恐る恐る俺のところに近づいてくる。クィンも後から追ってくる。

 「ああ……こんな、酷い……!ううう……!コウガさん……」

 俺の上半身に触れようとするも、俺を縛っている縄に感電しかけて手を引っ込める。

 「クィンさん、あなたの剣でこれを斬れませんか?」

 ミーシャにそう言われたクィンは、ミーシャを下がらせて雷の縄目がけて剣を振り下ろす。

 「っ!!斬れない…!なんて高い魔力……。ごめんなさいコウガさん、私の腕ではこれをどうすることも……」
 「いいよ別に。あいつの魔力、俺の倍以上あるし」

 クィンは悔しそうに俯いて俺から少し離れてミーシャを守るように立つ。

 「…?二人とも逃げないのか?」
 「私もミーシャ王女と同じです。今のコウガさんをそのままになんて出来ません…!」
 「お前らにここで出来ることはもう無い。それを承知の上でまだここにいるようだが。俺を助けるつもりか?かつてのクラスメイトどもを大勢見殺しにするような奴を?
 それに目の前にいるこいつは、俺を簡単にこんな風にした、超がいくつもつく化け物だ。分かってるよな?」
 「それでも、放っておけません…!カイダさんがこんな……こんな目に遭わされて、黙って見てはいられません!カイダさんがこんな惨い姿にさせられているのは、堪えられません…!」

 そう言って涙をこぼすミーシャは俺の頭に手を乗せる。どうして彼女は俺にそんな感情を抱いているんだよ……訳が分からない。クィンもミーシャと似た表情をしている。さっきのいがみ合いがあったにもかかわらず、俺の窮地をどうにかしようとしているのか。

 「大した度胸を持った二人だ。この俺を前にしてそいつを助けようとするのだからな。面白い」

 そう言ってザイートは胡坐をかいて座り込む。ザイートを怯えた目で見ながら後ずさるミーシャを苦笑しながら、彼はあくび交じりに言葉を発する。

 「少し、話をしようか、俺のことについてと……カイダコウガ、お前のことも。そしてお前らが言うモンストールの発生の真実を」

 ザイートの言葉にミーシャたちは息を吞む。俺も若干動揺する。こいつが何者で、俺も一体何なのか。謎がここで全て分かるかもしれない。

 「まずは俺の質問に答えてもらおう。カイダ、さっきの自己紹介で自分のことを異世界人だと言ってたな?あれはどういう意味だ?」

 まずはザイートの知らないことを答えることから始めるらしい。これに答えなければ話が進まないだろうから、俺は素直に答える。

 「俺は、この世界とは異なる全く別の世界から召喚されてきた人間だ。俺の他に30数名の人間と一緒にな。そこにいるお姫さんの提案によってだ。テメーらモンストールどもに対抗するために、俺はこの世界に呼び出されたんだ」
 
 ミーシャにちらと目を向けると、彼女は気まずそうに目をそらしながら俺の言葉を肯定する。
 
 「なるほどな。別の世界から……変わった名前もその世界から来た証拠か。納得した。お前が見殺しにしたガキどもも同じ異世界人だったのか?」
 「……そうだ」
 「そうかそうか……あの時と同じだったかぁ。ククク…!こんなことが起こるとは。全く、人族はやはり俺たちをいちばん楽しませ、かつて追い詰めてくれたものだ!」

 突如、ザイートは一人で勝手に納得して、可笑しそうに笑いだす。

 「何一人で勝手に納得してやがる?あの時って何だ?テメーは一体何を知ってる?俺たちが知らないこと、話してもらおうか」
 「ふっ、この状況でよく強気になれるな。いいだろう、話そうか。では少し長くなるが、お前らにとって面白い真相がいっぱい出てくるだろうよ?」

 ザイートは愉快そうに笑って、再び話始める。

 「まずは、俺が何者かについて話そうか。


 俺は、100年以上前に絶滅したとされている、“魔人《まじん》族” その長だ。」



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