世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

70話「人型のモンストール(?)」



 「…………」
 「…………」

 俺と人型のモンストールは互いに無言のまま対面する。違いがあるとすれば、それぞれの余裕の度合いだ。
 奴は不敵な笑みを浮かべたまま余裕たっぷりといった様子でいるが、俺は既に臨戦態勢に入って警戒網を最大限に張っている。

 「コウガさん!?」

 珍しく俺が始めから警戒しているのを見たクィンたちはどうしたのかと視線を向けるが、それに応える余裕は今の俺にはない。
奴に目をつけるところと言えば、まずはその見た目だ。初めて遭遇した時とは別人だ。
 体の色は変わらずだが、頭からは紫色の髪を生やしている。さらに鷹を思わせるような鋭い眼、あれだけでも雑魚じゃないって分からされる。体格は俺と変わずで今度はちゃんと服を着ている。俺と同じく軽装だが、服が少しくたびれているように見える分俺よりボロい装備に見える。

 「テメー、あの地底で遭遇した奴…だよな?俺の記憶とは違う見た目をしているようだが」

 俺の問いに、人型モンストールは余裕の態度のまま答えてくる。

 「あれは俺の分裂体だ。偵察個体として寄越したのだが、まさか肉を喰われてくるとはな。それより久しぶりだな。あれからたくさんの同胞を喰らいもしくは普通に殺して、力と新しい固有技能を身につけてきたようだな。見た目に加えて強さまでますます俺たちに近づいてさえいやがる」

 人型モンストールは鋭い目をした顔には似合わない朗らかな笑い声をあげる。分裂体だと?本体でもなかったのにあの強さって…。災害レベルの中でも特に上に値する化け物だなコイツ。
 「俺たち」という単語が気になるが、今は先に訊くことがまだある。

 「さっきから気になっているんだが、モンストールが言葉を発して意思疎通できるとはな。レベルが高い奴はそうなるのか?」

 俺がモンストールって言うとクィンたちはさらに緊張した様子を見せる。構うことなく奴との会話に集中する。

 「お前らが言うモンストール……同胞たちは、基本言葉は話せない。俺の命令には忠実に従うがな。俺みたいな個体は……今となっては全然存在していないが」
 「命令………さっきの奴らといい、大陸各地に現れた数々の群れを寄越したのはやっぱりテメーの仕業だったか」
 「まあな。ところで、俺は今お前に大変興味を注いでいる。
 お前らが言う地底…俺たちにとってのホームは、人族がいられる環境ではないはずだ。人族にとっては致死となる瘴気が充満していて、お前らが定めた災害レベルの同胞が犇めいている地帯だからな。そんなところで平然と歩いていたお前は何者なのか、と思った俺はあの時コンタクトを試みた。初めは軽く小突くつもりだったのだが、つい致命傷を負わせてしまった。
 殺してしまったかと思ったが、お前は倒れるどころか人族にしては異様な速さで俺から逃げたな」

 人型モンストールは俺と初めて遭遇した時のことを話し出した。というかあの時、挨拶感覚の小突きで俺は片腕をもがれて、腹に大穴空けられたってのかよ。えげつない化け物だとますます思い知らされるぜ。

 「あのままもう会うこと無いと思っていたが、しばらくしてお前の方からやってきた。何しに来たのか様子見していたら、人族を超えるスピードで駆けてきて、俺の肉を喰いやがった。そしたら、お前が急激に強くなったのが分かった。あれは「略奪」という特殊な固有技能による現象だったはずだ。
 お前、俺たちとよく似た“屍族”…だろ?くはは、面白いのが出てきたものだ。あの後すぐに逃げるものだったから確認しそびれたぞ」

 そういえばあの時も、奴は俺のことをゾンビではなく“屍族”と呼んでいたな。聞きなれない単語………でもないな。そうだ、俺は知っている。屍族という単語を。
 “屍族転生の種”……ゾンビ化させるアイテム名に「屍族」という単語が含んでいる。
 屍族……文字通りの生き物?なんだろう。動く死体。俺にとってはチートな性能を持つ化け物だ。
 なら、俺のステータスプレートに表示されていた、職業がゾンビって。あれは一体何なんだ?なぜ、種族が屍族になっていなかったんだ?
 俺は、一体何なんだ………?


 「まだまだ分からないことだらけだがそれは後で調べるとして………テメーはここへ何しに来たんだ?災害レベルのモンストールをいくつも侵攻させて、本格的に世界を支配しにきたのか?」
 「まあそんなところだ。俺たちの準備は着々と整ってきているところだからな。今日はこの世界の地上に俺たちの存在を少し明かしてやろうと思ってな」
 「世界を、支配………!」

 ミーシャがその言葉に動揺する。俺が消したモンストールどもの侵攻のこともあり、それが冗談ではないと理解したからだろう。クィンと王妃も穏やかではない様子で俺たちの話を聞いている。
 
 「デモンストレーションにしては随分な戦力投入だったんじゃねーか?」
 「地上のどこかには俺の肉を喰らって強化したお前がいるんだ。あれくらいの戦力、足りないくらいだ。事実、見事に返り討ちに遭ったことだしな。まあ、この人族の大国に大ダメージを負わせることには成功したようだが」

 王宮の方を見て面白そうに笑ってそう答える。

 「しかしあれだな。あのレベルの同胞を五体ともお前一人で全滅させるとは。俺の固有技能も使いこなせてもいたな。やってくれたもんだ」
 「そっちこそ、大国一つをこうして滅亡寸前にまで追い込んでるじゃねーか。痛み分けだ」
 「ふっ………」

 ここで、人型モンストールが殺気を放ってきた。どうやら………戦闘は避けられないらしい。

 「三人とも……今度はさっきと違ってお前らに気を回す余裕はないから、自分で何とかしてくれ」
 「………!あの男、そこまでの……!」
 
 俺のマジなトーンの言葉を聞いたクィンは冷や汗を少し流しながら剣を抜いて構える。

 「………ミーシャ王女とシャルネ王妃の身は私が守ります。私もコウガさんとあの男との戦いの余波をくらわないようにしますから、気にしないで下さい」
 「その二人のことなんか気にしてねーよ。もしお前が窮地に陥ったら切り捨ててでも逃げることだ」
 「っ!私はあなたのようなことはしません!」

 若干の嫌悪を含んだ声でそう言ってミーシャと王妃を連れて俺から離れて行く。その際にミーシャは俺を気にかけるような視線を向けてきた。気にすることなく人型モンストールへ意識を集中していく。

 「さて…今度は俺が相手してやろう」

 人型が放っている殺気がまた濃くなった。チート級に強くなって以降初めての緊張感がこみ上げてきた。生きていたら心臓がバクバク鳴っていただろうな。

 「そういえばまだ名乗ってなかったな。

 ザイートという。よろしくな」

 「俺は…甲斐田皇雅。《《異世界から来た人間》》だ」
 「何だと……?」

 人型モンストール改め、ザイートが俺の自己紹介に訝しげな声を上げたが、スルーして攻勢に出る。
 様子見はしない。ヤバい奴だってことはもう分かっている。
 脳のリミッター解除率は……900%。体が壊れる前に決着をつけなければならない。
 全身を「硬化」させ、さらに両手両足には鉤爪を武装させる。さらにさらに、踵と肘から推進エンジンを生やして打撃の速度を数倍上げる。四肢に付いている推進エンジンの発射口から自身の魔力を加速エネルギーとして噴出して、走る速度と打撃の速度を超音速の領域に入る。
 一瞬でザイートの真後ろへ回り込み、あらかじめ体内でパスしておいた力を左脚に集中させて、超音速の鉤爪付き足刀蹴りを放つ!
 
 (先手必勝!これで行動不能にして、それから――――――)









 「俺の固有技能で、俺を殺せるかよ」





 ――蹴りがザイートに入ったかと思った直後、首に…違和感が。というか、あれ?何で俺の体が、下に………?

 (俺の、頭部は………ど、こ………………に………………………………)



  瞬間、目の前が真っ暗と化した同時に意識が暗転―――――

















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