世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
66話「Sランクモンストール襲来」
「何だ、何事だ!?」
王宮内は騒然としていた。理由は単純、後宮が突然破壊されたからだ。その瞬間を偶然目撃した王族の一人がパニックを起こして騒いだのを他の何人かが気づいて騒ぎになった。それがカドゥラ国王とマルス王子にも伝わり、二人は後宮が瓦礫の山と化してしまったのを目にして愕然とした。
「あそこには……母上が!それにミーシャも……!」
「ぬぅ……!ブラッド兵士団団長!兵士団を率いて現場へ向かうのだ!これは新たなモンストールによる襲撃だと思え!」
マルスは青い顔をして後宮跡を凝視する一方、カドゥラはブラッドに素早く指示を出した。二人とも先程皇雅による暴行を受けたことで顔に包帯を巻いた状態でいる。
「国王様、シャルネ王妃とミーシャ王女の救出にも手を回した方がよろしいかと」
命令を受諾したブラッドはカドゥラに二人の救出の意見を出す。
「そうだな。シャルネは何としても救出せよ。我は救世団のところへ行く我が直々に命じた方が早いだろう以上だ、行動せよ」
カドゥラはそれだけ言うとマルスを連れて部屋へ戻って行った。彼はシャルネのみを救出せよと命じただけでミーシャの名は一言も口に出さなかった。
(王女様の身はどうでもいいというのですか。それにあなた方で王妃を救出しに行こうとも、思わないのですね……)
ブラッドは内心そう呟きながら兵士団をまとめて、後宮の方へ向かった。
*
(Sランクモンストール、ね)
姿があらわになった敵……とてもデカいサイズのモンストールを見上げる。あの頭部や体躯からして、Tレックス型のモンストール………なんだと、思う…。
判断が微妙な理由は、奴の見た目があまりにも“異様”なのだ。
「何だこりゃ……マジの化け物じゃねーかテメー……」
Tレックスの両肩からさらに一本ずつ腕が生えていて、頭にはたぶんトリケラトプスの角?が生えていて、さらにはその腹部には顔がもう一つある。完全にカオスだ。
「ひ……っ」
「う……っ」
ミーシャは恐怖で声と体を震わせている。兵士であるクィンですら対面しただけで怯んでしまっている。普通基準では奴は十分にヤバいってことだろうな。Sランク……今までのモンストールと同列に考えない方が良いな。
……というかあのレベルのモンストール、実は一体だけじゃねーんだよなぁ。
「備えろ、また来るぞ」
「え………………きゃああ!?」
俺の警告にミーシャが反応しかけたその時、地鳴りが響いた。巻き添え対策としてミーシャと王妃を再び抱えて距離をとる。どうやら震源は俺たちのところじゃないようだ。
「王宮か」
予想は当たったようで、王宮の真横で大爆発が起こった。遠くから視認出来たのは、巨大な猿のような腕だった。次第に姿が見えてきて………案の定猿というかゴリラみたいなモンストールが現れた。
「ゴリラ………いやオーガ?それらを足して割ったような………ようするに化け物か」
まるでゴリラとオーガを合成して創られた化け物、あいつもSランクのモンストールだ。あの大穴からしてどうやら地底からいきなり掘り上げて現れたってところか。ゴリラ鬼型モンストールは王宮を睨みつけて、そこへ攻撃を始める。それを目にしたミーシャと王妃が呆然としてしまっている。
「お父様とお兄様、が………!」
「…………!」
二人を地に降ろしても彼女たちはそこから動こうとはしなかった。いや動けない、が正しいか。あの化け物のところへ行っても一瞬で殺されると分かってるんだろう。
王宮の一部が破壊されてからすぐ、兵士団が出てきてモンストールと戦いを始める。
「何だよあの国王!無茶苦茶過ぎるだろ!?連戦なんて出来る調子じゃねーってのに………!」
「俺たちのこと道具としか見てねーだろ絶対!決めた、今からでもここから出て行こうぜ!やってられねーよ!」
「ひっ!?さっき王宮を壊したのってアレなの!?何あれ、前に戦ったモンストールたちよりもヤバそうなんだけど!?」
そのすぐ後に、元クラスメイトどもがグチグチ言いながら王宮から出てきて戦闘に参加した。一人一人の言葉を拾って推察するからに、クズ国王が無理矢理出陣させたようだ。
ゴリラ鬼がドラグニア軍と戦い始めてから数秒後、さらなる刺客が空から現れる。そいつは魔力光線を王宮のてっぺんを撃って破壊した。
見た目はプテラノドンっぽいのだが、俺たちの前にいるTレックスと同じくらいにカオスな見た目をしている。異様に長く鋭く尖っている嘴とカメレオンみたいにギョロっとした大きな目玉、筋肉質な体躯と巨大な翼。その化け物は上空から魔力光線を撃って攻撃し続ける。
さらにさらに、王宮へ向かっているモンストールが二体。ゴジラみたいな奴と、初クエストの時に討伐したエーレよりも一回りデカいサイズの鵺型だ。
「あ……あぁ………!Sランクのモンストールが、5体も………っ」
クィンたちはまるでこの世の終わりを見ているかのような絶望顔をしている。俺も今回は余裕綽々ではいられない様子だ。
とはいっても5体のSランクモンストールに対して緊張しているわけではない。ここにまだ現れていない“何か”の気配に対して警戒しているのだ。
(何だ…?ハッキリとは掴めないが、どこかに…《《いる》》。あの時……地底で遭遇したあの人型モンストールと同じ、あるいは本人の気配が………)
「っ!コウガさん、こちらにも……!」
クィンの警告を聞いて振り返る。始めに襲ってきたTレックス型モンストールが距離をつめてきた。俺たちを標的としている。やる気らしい。
(まずは、目の前の敵だな。Sランクモンストール、どんなものかねぇ)
「コウガさん、私は………」
拳を固める俺にクィンが緊張した様子で話しかけてくる。
「相手はSランクだ。一緒に戦える自信はあるか?」
「………恥ずかしながら、足を引っ張るだけになるかと…」
「なら、そこで二人の護衛をしてろ。奴は俺一人で討伐する」
クィンは短く「はい」と返事して下がった。俺はTレックス型モンストールに近づいていき、奴と真正面から睨み合う。
そして戦闘が始まる。Tレックスはその見た目と反してもの凄いスピードで向かってくる。本気を出したアレン並みかもしれない。
だが俺の「瞬足」には及ばない。「複眼」で動きをしっかり見切ってやる。
Tレックスが繰り出した右腕の爪裂き攻撃をひらりと躱し、がら空き状態の横腹に「硬化」を纏った左ボディブローを叩き込む。脳のリミッターは200%解除してある。
腸を飛び散らせるつもりで殴ったのだが、数メートルくらい吹っ飛ばした程度に終わってしまう。Tレックスの身体を破壊することはできなかった。
「Sランクまでくると、流石に簡単には殺せないか。久々に力をより解放できそうだ!」
Gランクでさえワンパン程度で屠ってしまっていたが、こいつはそうはならなかった。そのことに対し、歯応えのある敵と遭遇したということに俺は嬉しく思ってしまう。
もっと力を解放しても、この敵は倒れない。本気でぶっ飛ばしにいける。
「ほぼ無限に強くなれる俺にどこまでついていけるのか、試させろ!
脳のリミッター500%解除」
今の俺の身体が耐えられるリミッターの解除率は、1000%くらいまでだ。それを超えると、身体がはじけ飛んで自滅してしまい、復活に時間がかかる。身体が完全に壊れないギリギリのところを見極めねばならない。
今度は俺がTレックスに向かって駆ける。500%の「瞬足」の速度は音に並ぶ。Tレックスに俺の動きは捉えられていない。目はあまり良くないようだな。
隙だらけの足元目がけてローキックを放つ。
不意打ち同然の蹴りをくらったTレックスはその場でバランスを崩して前のめりに倒れる。
その頭上から雷電属性の魔力光線を撃ち落とす。超高圧電流を纏った極太の黄色い光線がTレックスを貫く。雷鳴が鳴り響く中、Tレックスの断末魔の叫びが聞こえた。
光線が収束する。その場にいるのは胴体に大穴が空いて感電状態で死にかけているTレックスだった。
「もう終わりか……………いや」
絶命したと判断しかけたその時、Tレックスは目をぎらつかせて急接近してきた。「縮地」を使ったか…!
不意を突かれた俺は大口開けたTレックスの口の中に入ってしまう。そして思い切り嚙み砕かれる。
(…!牙に拘束されて、動かねぇ)
しかも牙から炎が発生して俺を焼きにかかっている。体がだんだん炭化していく、数千度あるぞこの炎。
ゾンビなので灼熱の炎に怯むんだり焼け死ぬことはないが、強力な咬合力による拘束を解けないのはマズい。
(仕方ない。リミッター600%解除)
脳のリミッターをさらに100%解除して力を増す。まだ炭化していない左手で牙を握り潰して拘束を一部解く。続いて両脚に力を入れて強引に牙の拘束から脱出する。
「ここから、出しやがれ!!」
「硬化」を纏った左拳で閉じている口を思い切りぶん殴ってやる。するとグオオオ!!と、大音量が響いた。コイツ吠えやがったな、鼓膜破れたじゃねーか。
口が開いたかと思ったその時、後ろからもの凄いエネルギーが俺を襲った。
(光線を放ちやがった……!)
魔力光線とともにTレックスの口の中から脱出する。咄嗟に「魔力障壁」を張ったお陰で体は炭にならずに済んだ。
「腹に大穴開けたのにまだ動けるのか、しつけぇな」
顔があった部分の腹を魔力光線で撃ち抜いたがまだ死んでいない。爬虫類の目をギロリと向けて、四本の腕から魔力を迸らせる。
その腕全てから巨大な炎球を撃ち出した。こっちは両腕をバズーカ砲へと武装化させ、そこから水魔法で構成された砲弾を撃ちまくって、炎球を全て消し去った。
続いてTレックスは「縮地」でこちらに迫り、四本の腕と頭の角、そして牙に真っ赤な炎を纏わせながら突撃してきた。
(やっぱり物理攻撃が得意そうだな。だがそれは……俺もだ!!)
両腕両脚を「硬化」させて構える。繰り出す技はオリジナルの武撃。
“連繋稼働《リレー・アクセル》”
迫り来るTレックスを見据えながら自身の体内で力のパスが行われていることをイメージする。そしてTレックスが攻撃範囲内に入ったところでそのイメージを実現させる。
後ろ足である左足を起点に力のパスを始める。左腿→股関節→右腿→右足へとパスしていくと同時に力を増幅させる。さらに腰→体幹→左肩→左肘→拳へと、増幅していく力をパスし続けていき、同時に体の旋回の準備も始める。
Tレックスがグオオオと吼えながら燃え盛っている腕と角と牙全てをぶつける直前、胴体を素早く旋回させ、捩じりが加わった左正拳を放つ!
“絶拳”
――――ドッッッッッッ!!!
激突した末勝ったのは……俺の拳だった。
俺の左拳は、Tレックスの頭部を跡形無く消し飛ばしていた。
「ここまで力を使わせるなんてな。Sランクまでくるとさすがに強くて丈夫だったな。けどまぁ、エルザレスには及ばないレベルだ」
Tレックスの炎がついて燃えてしまっている左手を消火してから死骸となったTレックスを「魔力光線」で消し飛ばす。
これでまずは一体目か。死体を処理すると遠くで待機させているクィンたちのところへ戻る。
「まさか……Sランクですらも一人で、しかも圧倒するなんて……!」
「ま、まあまあ………こんな戦士初めて目にしましたわ……」
ミーシャと王妃は完全に圧倒されている様子だった。若干引いている様子すら見てとれる。クィンも平静ではない様子だった。
「エルザレスさんとの模擬戦で分かってはいたのですが、やっぱり次元が違い過ぎますね…」
「やっぱそうなのか。まあさっきの奴の能力値は平均10000オーバーしてたしな。人族一人で敵うレベルじゃねーのは確かかもな」
軽いノリでクィンにそう答えると彼女はやや顔を引きつらせる。Sランクの敵がどれだけぶっ飛んでいるのかを改めて実感したようだ。
「カイダさん、二度も助けていただいてありがとうございます。私もお母様も無事窮地から逃れられました」
ミーシャは俺に感謝の言葉を述べる。王妃も俺に頭を下げて礼を言ってくる。適当に返事してるとミーシャは続いて頼み事も言ってきた。
「お願いです……王宮に侵攻している残りのモンストールも殲滅してもらえませんか?カイダさんしか頼めないし倒せないと思ってるのです…!」
「コウガさん、私からもお願いします。あれを放っておけばドラグニア王国はもちろん、この大陸をもあれらに滅ぼされかねません。あなたに頼ってばかりで申し訳ありませんが…」
ドラグニアが滅んでも構わないのだがアレンたちにも被害が及ぶのはダメだな。だからここは彼女たちの頼み事を聞いてあげよう。
早速王宮のところへ行ったのだが、そこで俺が目にしたのは―――
全滅しかけているドラグニア軍の無様な姿だった。
「ふーん?兵士団はもうダメそうだな」
状況は見た通り、最悪なものだ。兵士団はほぼ全滅、兵士たちによる守りが失った元クラスメイトどもが前に立って戦うが、敵のモンストールどもには全くダメージを負わせられていない。
当然だろうな、今回の敵はSランク。Gランク相手に苦戦というか負けかけていた連中が敵うはずもない。
「はぁはぁ……!こんな化け物に、勝てるわけない!!」
「なんでだよ………なんでさらに強いのが襲ってくるんだよ!?ちょっと前に現れた奴らの倍以上強い……!」
「勝てない………殺される!もう逃げよう!!こんなのと戦ってられるかよ!!」
「そうだ!こんな国もうどうでもいい!!こんなところで死にたくない!!」
「こんな化け物どこから世界を救うなんて馬鹿げてる!!早くここから離れてやる……!!」
兵士どもがいなくなって攻撃も全く通用しないと理解した元クラスメイトどもは、完全に戦意を失くして逃げることを決意する。クズ国王への恨み言や泣き言を喚きながらモンストールどもに背を向けて逃走を始める。
ああ…遅過ぎたな。逃げるなら奴らがここに現れた時点でそうするべきだったのに。戦力差をすぐに把握しなかったのは致命的なミスだ。大した力しか持ってない奴らは特にな。元クラスメイトどもにはそういう危機察知能力が皆無だ。だからGランクの群れ相手に醜態を見せるし、無謀にも俺に突っかかって返り討ちにされるし、そして今に至る。
で、あいつらの逃亡を見逃すつもりは一切ない様子のSランクモンストール四体は、あいつらを追撃………殺しにかかる。
その前にまだ残っている兵士団が狙われた。兵士どもは為す術も無いままゴリラ鬼型モンストールや怪獣型モンストールに無惨に殺されていく。
「………っ!ここまでか……。救世団や国王様も恐らく殺されてしまう。無力な兵士団団長であった―――」
ブラッド兵士団団長もあっさりモンストールに殺される。兵士団が殺されても俺の心は微塵も揺るがなかった。あいつらはまだいちばん弱かった頃の俺が訓練の相手を頼んでも断ったり、陰で俺を嘲笑ったり、命令とはいえ実戦訓練でモンストールごと地底へ落としたりと、俺にとって悪い奴らでしかなかった。そんな奴らが無惨に殺されようと何も思わない。死んだ?あっそ、って感じだ。
兵士団を全滅させたモンストールどもはやはり逃げ出した元クラスメイトどもを標的に定めて、襲い始めた。
俺はというと……ただ黙って突っ立っているだけで何も行動しなかった。
「コウガさん?どうして……討伐しに行かないのですか!?早くしないと、彼らが……!!」
いつの間にかクィンが少し離れたところに来ていて遠くから俺にそう言ってくる。護衛しやすくする為かミーシャと王妃もいる。
「うーん、ここからじゃよくは見えないな。もう少し近づくか。おいクィン、これ以上は近づくなよ。モンストールどもに気づかれて襲われることになるから」
彼女たちにそう言ってモンストールどもにさらに近づいていく。
そしてついに、あいつらにとって地獄の時間がやってきたーーー
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