世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
64話「王女と王妃との密会談」
お姫さん……ミーシャ王女に頼まれてまた王宮内へ戻ることになった。今度は謁見部屋へ行った時とは異なるルートを歩かされる。一旦外に出た先に目に映ったのは、もう一つの王宮だった。
「これは……後宮ですね」
一緒にいるクィンがそう教えてくれる。よく見ればクズ国王や元クラスメイトどもがいる王宮と比べると小さいな。王宮の後ろに建っていたのか、今まで気づかなかった。
ミーシャの後に続いて後宮内へ入る。後宮だから男子禁制かと思ったが、俺以外にも男がいた。警護役を務めている兵士や使用人がちらほらいる。俺が知っている後宮とは違うんだな。完全に男子禁制だとばかり思ってた。
しばらく進むと大きな扉の前に着き、その両脇に立っている警護の男二人にお姫さんが何か話かける。警護二人はお姫さんに頭を下げて扉から数歩下がった。
「このお部屋です。今、扉を開けます」
ミーシャはそう言って扉の中心部に手を当てる。すると扉から薄い光が発生して、勝手に開いていった。特定の魔法を使わないと開かない仕組みらしい。
ミーシャに続いて部屋に入る。中には煌びやかな飾りなどはなく、白い壁に囲まれて、床にはふわふわしたカーペットが敷かれている。中央にはいくつかソファーがありその中にピンク色のテーブルが置かれている。
何だか……アニメとかでよく見る「女子の部屋」って感じだな。その割には飾り物があまり無いようだが。
「まあまあ……ミーシャ以外の人がこの部屋に訪れるのはいつぶりでしょうか…。ごめんなさいね、こんな姿で迎えることになってしまって」
そして部屋の奥にあるダブルベッドに、妙齢の女性が佇んでいた。部屋着に近い緩めの服を着ている。体に負担をかけない為の格好っぽいな。髪はミーシャと同じ青く長い。
「鑑定」で彼女の素性を見る。名はシャルネ……ドラグニア。年はもうすぐ50になる。若い頃はさぞ美人だったんだろうな、今でも年の割には顔が若く見える。けど少々痩せこけているな。体力も低い。何かの病を患っているみたいだな。
「このお方はシャルネ・ドラグニア。この国の王妃であり、私の母です」
やっぱり王妃だったか。ミーシャとクソ王子の母であり、クズ国王の妻でもある。王妃はいない者だと思っていたが、この後宮で引きこもっていたとはな。
「ミーシャの紹介の通り、私はシャルネ・ドラグニア、こう見えてもドラグニア王国の王妃です。改めて……こんな状態で挨拶することになってしまって申し訳ありません。何分体が弱いものでして…。そしてようこそおいで下さいました」
ベッドに座ったまま、王妃は俺たちに挨拶をする。その態度と言葉遣いはお姫さんと同じで、あのクズどもとは全くの別物だ。
「お初にお目にかかります。私はサント王国から参りました、兵士団副団長のクィン・ローガンです。微力ながらこの国の危機に駆けつけてきました。王国と王妃様が無事で何よりです」
クィンは片膝をついて頭を少し下げながら自己紹介をする。俺は彼女に続くことはなくただ突っ立っているだけだ。
「まあ、ここは私の部屋ですし今は公式の場でも何でもないのですから、どうぞ楽にして構いませんよ。それよりも“ローガン”……まあ、あのお方の孫娘さんでしたか。その若さで副団長を務めているなんて……なんて立派なんでしょう」
王妃はまあまあと呟きながら感心した様子でクィンを褒めちぎる。クィンは少し照れていた。
「そして……あなたが、ミーシャが言っていた異世界からきた……」
続いて俺の方に目を向けて話しかけてくる。その目はどこか慈愛に満ちている……気がした。ようは俺を見下してはおらず、対等に見ている。しかも何故か親しみさえこめている……そんな感じだ。
今度は俺が自己紹介する流れっぽいから、ここで口を開くことに。
「甲斐田皇雅だ。お察しの通り、この世界に勝手に呼び出された異世界人で、テメーの夫さんらの勝手による被害者だ」
敵意を込めてそう言ってやる。この女が何であれ信用は出来ない。王族である以上だ。隣からクィンが非難の言葉をささやいてくるが知ったことではない。最初から馴れ合うつもりは微塵も無い。
「今日ここに来たのはそこのお姫さんがどうしてもって言って聞かないから仕方なく、だ」
第一声の言葉を聞いて表情を暗くしていた王妃だったが、続く言葉を聞いた途端まあと反応して表情を変える。
「まあまあ……ミーシャがそんなに頼み込んだのですね。そうですか……あなたがミーシャの………」
「えっ!?あ、あのお母様!?今はまだ…………あっ」
「“今はまだ”…ね?ふふふっ」
二人がなんか色めき出して何か言い合い出すのを冷めた目で見る。クィンもどこかそわそわしている。
「顔見せての挨拶だけってんならもう帰るぞ?そんな下らんやり取りをするだけってんなら時間の無駄だし」
冷たく言って扉の方へ振り返ってやると、ミーシャは慌てて俺を引き止める。
「ごめんなさい…!改めて…………カイダさん。今回はこの国の危機……Gランクモンストールの群れによる侵攻から私たちを守っていただいて、助けていただいてありがとうございました!あなたがいなければ、この国が存在していたかどうかすら危ぶまれるところでした」
「私からも……お礼を言わせて下さい。カイダコウガさん、あなたはこの国になくてはならないレベルの活躍をしてくれました。深く感謝しています」
先程までのおふざけを引っ込めた二人は揃って俺に頭を下げてお礼を言った。聞き飽きた感謝の言葉だ。
「それに………凄く嬉しく思ってます!カイダがこうして生きていてくれて……!あの日の実戦訓練で…モンストールとともに地底落ちてしまった時……あなたは死んでしまったと、思ってましたから……。こうして“生きている”あなたと再会できて、安心しました!」
………………ん?
「あ………っ」
クィンは俺とミーシャを交互に見てから複雑そう俯く。まあ……そういうことなんだろうなぁ…。
「あー。まずはその勘違いから正すところから話す方がいいみたいだな」
「いったい、何の話でしょうか…?」
クィンの穏やかではない表情と俺のめんどくさそうな顔を見たミーシャは、嬉しそうな顔から不安そうな顔へと変えながら尋ねてくる。
「俺は死んでいる。あの日……テメーらに落とされた先…瘴気にまみれた地底で、モンストールどもに襲われてそこで力尽きて、死んだんだ。」
「………………………え?」
俺の言葉を聞いたお姫さんの顔が固まる。何を言われたのか分からないって顔だな。
「いいか?俺はあの地獄から生き延びてはいない。瘴気にまみれた真っ暗な地底で孤独に死んだんだ。死にたくないと呟きながら力尽きて死んだ。甲斐田皇雅はあの日確かに命を落としたんだ」
「………!………っ」
もう一度ありのままの事実を教えてやる。しっかり丁寧に、俺の最期のことも含めて。俺が死んだってことを聞く度にミーシャは顔色を悪くさせいき、やがて膝をがっくりと落としてしまう。
「死ん、だ………?カイダさんはあの時にもう………殺されてしまっていて……。命を、落としてしまっていて……」
「違うだろお姫さんよぉ」
お姫さんが力無く出した言葉の一部に反応した俺は切り込む。
「俺が死んだのは他でもない、テメーらのせいだ。テメーらが俺を殺したんだ」
「っ!!」
その一言を聞いたミーシャはビクリと肩を震わせる。
「だってそうだろ?あのクソ王子がモンストールごと俺を地底へ突き落せって命令したんだよなぁ?俺を…俺だけを生贄にした。兵士どもに地盤を魔法で破壊させて、脚を負傷して動けなかった俺を無情に切り捨てたんだ。テメーらが助かることを引き換えにして俺を落としたんだ。そのせいで俺は地底でもモンストールどもに襲われて、死んだ。間接的にテメーらも俺を殺したようなもんだろ。違うか?」
「……………」
「違わねーよなぁ。全て事実だ。テメーらはあの日、俺を生贄にして助かる道を選んだ。結果俺は殺された。この結果は覆らない、揺るがない。テメーとクソ王子、元クラスメイト全員のせいで、俺は死んだんだ!」
「…………っ!」
さらに言ってやるとミーシャの両目から涙が零れ落ちる。だから何だ?全て事実であり相違ない結果をこいつに教えてやっているんだ。耳を塞ぐことは許さない、現実を叩き込んでやる。
「ちょっとコウガさん、これ以上は……!」
やっぱりというか、クィンが止めに入ってくる。それをうざったく思いながらミーシャを見つめる。彼女は……泣いている。悲しそうに、絶望した顔をしていた。
「ごめんなさい、私が…あなたをこの世界に召喚したせいで、あなたの尊い命を落とさせてしまいました。取り返しのつかない過ちを……私は犯してしまいました。本当にごめんなさい、ごめんなさい……!」
「そうだな、テメーが異世界召喚なんて提案をしなければ、俺は今も元の世界で平和な生活を送っていたんだろうな。テメーがクズ国王どもに異世界召喚を唆しさえしなければ俺は死なずに済んだかもしれないのにな」
謝罪してくるお姫さんに俺はさらなる非難の言葉を浴びせる。しかし言葉とは裏腹に責めた口調では話していない。平坦な声、客観的に述べているって感じだ。実際俺は冷静だ。
確かにイラついてはいる。元の世界でやりたいことを沢山残したまま死んでしまったからな。その怒りはある。けど今は感情を出す気にはならなかった。
そのことを察したのか、クィンはそれ以上止めに入ろうとはしなかった。ただミーシャはそれでも謝罪を何度も繰り返し、自分を責めているみたいだが。
「カイダさん。どうかそれ以上は……。聞いた話なのですが、ミーシャはあの日……マルスが下した命令を取り消させようとしていたんです。カイダさんをまだ助けられると反対したそうなんです。ミーシャはあなたが落ちてしまうまで諦めてはなかったんです。どうかそれだけは分かって上げて下さい……」
「お母、様……」
王妃がベッドからそう言ってくる。ミーシャを擁護する発言に対し、俺はあっそと冷淡に返すだけだった。心底どうでもいいといった態度でいる。
「それじゃあ……カイダさんはどうして今、こうしてここにいるのですか?死んだということが本当なら、あなたはどうしてここに?まさか霊体化したのですか……?」
「そうだな、じゃあ俺が死んだって話は切って、次に移るか」
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