世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

63話「ドラグニアとの決別」



 「これ以上続けるつもりなら……あなたを大罪人として扱うことになります。この国はもちろん、サント王国からもあなたを拘束する為の兵士団も動かすことになります」
 「…………」
 「それであなたを止められるとは思えませんが、覚悟の上です。ですからコウガさん、もう終わりにして下さい。これ以上は、犯罪です」

 剣を背中に向けながら険しい顔で、しかしどこか縋るような表情も見せて警告する。これはブラフではない、本音だな。クィンは嘘をつくキャラじゃないしな。
 それにそう確証できる根拠は他にもある。懐からある物を取り出す。マスコミとかが持ち歩いているボイスレコーダーのような小さな機械だ。

 これは人の声を自動的に録音する“真実の口”というアイテムだ。
 このアイテムを手に入れたのは…アルマー大陸へ向かうべく海を渡っていた時だ。特殊な固有技能を持ったモンストールと遭遇した。そいつは「真偽判定」という特殊技能を持っていた。俺はそいつを捕食してその技能を「略奪」した。
 文字通りの効能を持つこの技能に「技能具現化」してみた結果、ボイスレコーダー型のアイテムへと物体化したのだ。
 こいつは常に他人の声を何でも自動録音するから、咄嗟に告げられた言葉も録音できるという強みがある。ただの技能では咄嗟の発言を判定できない分、アイテム化はとても便利だ。さらに、発言内容が嘘だった場合、このレコーダーが発言者の声色で本当のことを告げるのだ。噓発見器の完全上位互換だ。

 で、クィンがさっき言った言葉を判定してみた結果、何も反応がなかった。ということは本音だったのだろう。
 とにかくこの後の俺の行動次第ではクィンは俺の敵になるみたいだな。彼女もその覚悟でいる。今の俺が悪人だと判断しているらしい。

 (また俺が悪者扱いかよ…。まあ実際こうやって手を出しているからそう認識されるのは当然なんだろうけど、このクズ国王とクソ王子だけが被害者ってのは、気に入らねーなぁ)

 内心舌打ちしながら、公開処刑の熱がすっかり冷めてしまった俺は斥力を放って二人をお姫さんの近くまで吹き飛ばして、重力の縛りも解いてやった。解放された二人は息を荒く吐いて倒れ込んでいた。
 
 「最初からテメーらとなんか話す気はねーんだよ。依頼の件がなかったらテメーらをぶち殺してやろうかって思ったくらいだ。ったく、マジ時間の無駄だったな」

 よろよろと起き上がった二人は、俺を敵意孕んだ目で睨みつけてくる。

 「当然だが俺はこの王国には所属しねーからな。救世団?勝手にやってろ。俺は元の世界へ帰る手がかりを探す旅をしている。テメーらが頼んできた世界の救済なんか知るか。今回は依頼で仕方なくテメーらを救うことになったが次は無い。勝手にモンストールどもに襲われて死ねばいい。
 そして……もし今後、俺の邪魔をするようなことをするなら、この国ごとテメーらを滅ぼしてやるからな…!」
 「「「………っ!!」」」

 最後に脅しを強くかけてやった。国王と王子、部屋にまだ残っていた他の王族と上層部どもは顔を青くさせて戦慄し、お姫さんは小動物のようにやや縮こまっていた…が、俺に敵意の目は向けてはいなかった。
 さて、これ以上あいつらの顔を見てるとまた不快感がグングン強まってくるだろうから、いい加減ここから出て行こう。

 「じゃあな。長生きしたければ今後二度と俺に関わろうとするな」

 そう言ってから踵を返して、謁見広間を後にする。

 「カイダ……コウガァァアアアアアアアアアアッ!!」

 王座からクソ王子の悔しさがこもった絶叫が響いてくる。それに応えることなく俺は部屋を出た。

 これで少しは溜飲が下がった気がした。元クラスメイトどもとクズ国王とクソ王子とその他王族と上層部どもには死んでほしいと思っているが、言いたいこと言えたし最大限の屈辱を与えることも出来たし、良しとしようか。

 こうして俺は、共にこの世界に召喚された元クラスメイトどもとドラグニア王国の連中と本当の意味で決別した。



                  *

 王宮から出たところでクィンが早足で俺に追いついてきた。彼女の顔は明らかに不機嫌顔であった。

 「嫌なことでもあったのか?私はすごく怒っていますよーって感じが分かりやすく出てるぞ」
 「ええその通りです、全くもって。あなたに凄く怒っています!というより何故私が怒っているか分かってますよね?」
 「さぁ、どうだか?俺は何か間違ったことをしでかしたのか?」

 クィンはガシッと俺の右腕を掴んで引き止めて引っ張り、顔と顔を向き合わせてきた。

 「危うく指名手配の認定…いえ、もっとそれ以上の事態になるところだったのですよ!?いえもう既に大事になってしまってるのですが、とにかく大国の国王と王子に対してあんな行いをするなんて!!」
 
 顔を合わせて改めて気づいたのだが、クィンは美人だな。今は怒りの形相を浮かべているから可憐さとかそういうのは皆無だが、顔は凄く整っている。日本に来れば名女優になれるだろうな。

 「あなたは危うくこの王国はもちろん、全ての人族の大国をも敵に回すところだったのですよ!?コウガさんが謁見部屋から出て行った後、私は必死に謝罪して指名手配や討伐隊の動員を免れるようにしたのですからね!」
 「ふーん?わざわざそんな尻拭い行為なんかしなくて良かったのに。指名手配?討伐隊?好きにすれば良いじゃねーか。一向に構わねーからさ」
 「私が構うんです!コウガさんはたった一人で村や町、そしてこの大国だってモンストールから守ってみせたのに、あんな乱暴一つ犯しただけで人族の敵に堕ちることになるかもしれないのですよ!?そんなことに……私はなってほしくありません!」

 怒りから徐々に悲しげな声に変えていくクィンを無表情な目で見つめる。こう言われても俺の心は何一つ動かない。

 「俺には知ったこっちゃねー。俺にとってあれは自分の気持ちに正直になった結果だ。後悔はしてねーし反省もしねー。今度あいつらが悪意持って関わってくるなら、マジで殺してやるつもりだ」

 「殺してやる」のところで顔を険しくする。それを見たクィンは感情的に叫ぶのを止める。少し怯えさせてしまったようだ。

 「あの時どうして……カドゥラ国王とマルス王子に対してあんな過激なことを?確かに傲慢さが目立っていたところはありましたが…」
 「イード王国で話したよな、俺のこと。俺はドラグニア王国の勝手でこの世界に召喚されていきなりモンストールと戦って世界を救ってくれと言われた。で、俺だけが恵まれないステータスを授けられたと知った途端、あのクズ国王とクソ王子、そして王族どもは俺を見下してきた。罵ってきたりもした。そっちが勝手に呼び出してきたくせに使えないと知るや人をゴミクズ扱いしやがる。そして最後は無情に切り捨てたんだ…!」
 「………」
 「あのゴミカスどもを憎いと思うのは当然だろ?痛い目に遭わせてやりたいと考えるのは当たり前だろ?あれでも力をもの凄く加減してやってたんだぞ?本当に怒りに任せて力をフルに使ってたらあの二人はもちろん、こんな国簡単に滅んでたぞ?これでも俺は温情をかけてやったんだ!」
 
 少々熱が入ってしまい、王宮の入り口の前で俺は怒声を上げてしまう。クィンは黙って俺の叫びを聞いていた。

 「俺がどれだけ連中から理不尽なことをされたか。俺がいた世界は平和だった、こんなところと違ってな。それが突然、何の説明も無しに呼び出されて、さあ戦えとか、馬鹿じゃねーの?口を開けばテメーらの都合のことばかり。いきなり戦場へ駆り出されることとなった当時の俺たちなんか、刃物を与えられた赤ん坊と変わらないレベルだったのに。
 その力の使い方についての説明すら俺にだけはおざなりで放置。そしてそんな俺を使えないだ雑魚だと連中は罵って見下す。で、完全に使えなくなったと知ったらモンストールと一緒に地底へポイッ、だ! 
 なぁおい、そんな自分勝手で人を自分の駒としか考えてないゴミカスどもを痛めつけたことを、お前は何で咎めてくるんだ?」
 「………っ!」

 俺に睨まれたクィンは再び怯えた反応をする。しばらく俯いて、振り絞るように言葉を発する。

 「それでも……あなたが今日やったことは、正しいことではありません。敵を増やすだけです。私さえも、敵に回すことになるかもしれないのですよ…?私は、そんなことは望んでません…!」
 「それはお前がそう思ってるだけだろ。けどまぁ旅の仲間が敵になるってのは確かに残念だよな」

 でもそれだけだ。正直クィンのことは、「失ったら残念だなー」って思ってるだけで、絶対に敵に回したくない、消えてほしくないってまでは思っていない。彼女のことはそこまで大切には想ってはいない。だからクィンが望む望まないなんて、俺には関係無いのだ。

 「はぁ、この話はどこまでいっても平行線になりそうだな。もういいだろ。俺はあいつらを殺さなかった。もうそれで良いだろ。あいつらが馬鹿で愚かじゃなけりゃ、これ以上おれに関わろうとはしないだろ。他の大国に呼びかけることもしねーはずだ。死体の数が増えるだけだって判断できるはずだ」

 話は終わりだと切り上げて、勝手にすたすたと歩き出す。この国と決別すると決めた以上さっさとここから立ち去りたいしな。
 
 「コウガ、さん……」

 クィンもしばらくしてから俺の後をついて歩き出した。
 しかし再び歩き出してから一分も経たないうちに、俺たちはまたその歩みを止められることになってしまった。


 「待って下さい!」

 呼び止めてくる声に振り返るとそこにはミーシャ・ドラグニア王女がいた。走ってきたのか若干息を乱している。

 「ミーシャ王女様…!どうされたのですか?」

 俺の代わりにクィンが用件を尋ねてくる。ミーシャは早歩きでこっちに近づいてきて、俺の前で止まってジッと見つめてくる。

 「ごめんなさい…こういうことはすぐに言うべきでしたのに、あの時は気が動転していて言うタイミングを逃してしまいましたから…」

 前置きっぽいことを言ってからミーシャは俺に頭を下げてきた。

 「カイダさんが来てくれなければこの国はモンストールに滅ぼされてしまっていたかもしれませんでした。あなたが来てくれたお陰でこの国は今もこうして残っています
 私たちを……ドラグニア王国を救って頂き、ありがとうございます!!」
 
 丁寧なお辞儀をしながらそんな感謝が込められた言葉をはっきりと告げるミーシャを、俺はふーんといった様子で見つめ、クィンはやや呆気に取られていた。

 「わざわざそんなことを言う為だけにこうして走って来たのか?」

 どういたしましてなんて言葉をかけることなく無関心そうに尋ねてみる。

 「いえ、違います。用は他にもあります。カイダさんに会わせたい人がいるのですそれと同時に……」

 ミーシャは再び俺に頭を下げてきた。
 
 「あの実戦訓練の後、カイダさんにいったい何があったのか、教えていただけますでしょうか!?私は、どのような経緯を経て今のカイダさんが在るのか知りたいんです。
 カイダさんのことを知りたいんです…!」
 「おおう……」
 「……!」

 ミーシャの最後の一言に思わず反応してしまう。クィンも何故か反応する。
 俺は異性交流に関してはプレイボーイでも何でもないただの男子高校生だから、本物のお姫様に「あなたのことを知りたいです」なんて言われたらドキッとしてしまう。
 それにミーシャは美少女だ。アニメに出てくるような……いや、アニメの美少女キャラよりも可愛いかもしれない。けど、死んだことで人の感情がある程度抜け落ちてしまった今の俺にはそこまでときめくことはないがな。
 いやそれよりも、今度はミーシャが俺がどうしてこんな力を得たのかを尋ねてきた。まったく、家族揃ってそんなに俺の力について知りたいのか。どうせあれだろ?この力を丸々ドラグニアの戦力に充てようって魂胆なんだろ?見え透いてるんだよ、あのクズ国王どもの考えてることは。
 
 「言ったよな?もう関わってくるなと。あの言葉はお姫さん、テメーにも言ったんだ。何でいちいち教える必要がある?どうせクズ国王どもから聞いてこいって言われてきたんだろ?こんなクソな王国の為に教えることは何一つもねーよ。テメーが会わせたい人とやらにも興味無いしな。もう帰らせろ、そして二度と関わるな」

 冷たく突き放すように口早に言ってやる。悪気がなかったとはいえ、この世界に呼び出されることになったのはこの少女の提案がきっかけだった。こいつも俺が死んだ要因に数えられる。憎んでいい存在だ。
 立ち去ろうとしたが、俺の後ろ袖をキュッと掴まれる感触が。ミーシャが掴んで止めているのだ。

 「お願いです…!カイダさんにはきちんとした謝罪とお礼がしたいのです。ちゃんと……お話をしておきたいのです!」

 振りほどこうと思えば簡単に出来るわけだが、ミーシャからは必死さが何となく伝わってくる。はぁ……めんどいな~。何をそんなに必死になって俺に関わろうとするのか。鬱陶しいから投げ飛ばそうかなぁ、クズ国王のところまで。

 「コウガさん、その……ミーシャ王女の要望に応えていただけないでしょうか」
 「えぇ……何で?」
 「この方なら、色々教えても大丈夫かと。ミーシャ様は軍略家だけでなく政治面でも優れた才がおありです。何より……失礼になりますが、ミーシャ様はカドゥラ国王やマルス王子と違って、信用出来るお方だと思うんです」

 本当に失礼になる発言をしたクィン。しかしミーシャがクィンの言葉に不快感を示すことはなかった。
 それにクィンの言うことには……まぁ、同感なんだよな…。
 ミーシャからは悪意が一切感じられない。彼女は最初からそうだった。彼女だけは俺を見下したりも罵ったりもしなかった。対等に見てくれてる。会話に誘ってきた。クズ国王とクソ王子とはえらい違いだ。俺にとってこの国の良心とも言える存在が、彼女だ。

 「…………会わせたい人ってのは、誰だ?」

 ミーシャとクィンに見つめられ続けた俺は、溜息をついてミーシャに問いかける。

 「私のお母様……この国の王妃であるお方です」

 そういえば会ったことないな。いないと思ってたが、いたんだそんな奴が。
 しかしどうするかね。ミーシャに付き合っても俺に得はなさそうなんだが。せいぜい金をふんだくることくらいしか出来ねーかもな。それにミーシャはこうしてずっと下手に出てお願いしにきてる。年下の少女が…だ。
 …………俺がどうなったかくらいは、教えておくか。

 というわけで、ミーシャと密会することになった。

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