世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

60話「ハズレ者の逆襲」



 「やっぱり……間違いない!あの人は………っ」
 「ミーシャ……?」

 後宮の一室にて。ミーシャは水晶玉に映っている少年の姿に目を見開き固まった。続いて驚きのあまり震えてしまっている彼女に、シャルネはどうしたのかと様子を伺う。

 「生きていたのですね……カイダさん」

 肌の色や服装が変わっていたため少年が皇雅であることに気づくのに少し時間がかかったミーシャは、皇雅が間違いなくこの国に現れたことを確信して、思わず涙ぐむ。ミーシャにとって皇雅はもう二度と会えない人となっていた故、彼の生存に歓喜せずにはいられなかった。

 「カイダさんって…ミーシャがが以前話してくれた、異世界召喚でこの世界に現界した方たちの中で…実戦訓練で犠牲になってしまったっていうあの…?」

 シャルネは目に涙を溜めているミーシャの頭を優しく撫でながらそう尋ねる。

 「はい、カイダコウガさん……あの実戦訓練の途中で突然現れたGランクモンストールからの撤退に失敗して、お兄様の命令で彼はモンストールとともに地下深くへ落ちてしまった人。状況からして生き延びている可能性が絶望的…いえお亡くなりになっていたとされてました。でも彼は…!」

 ミーシャは嬉しそうに水晶玉を操って皇雅の姿をしっかり映す。しかし彼女は次第に顔を青ざめさせた。
 
 「あのお姿は……まだロクに装備を手に入れられていない。それに今そこには……モンストールが群れを成して、それも全てGランク……っ」

 皇雅と、出陣している救世団のメンバーたちのすぐ近くには、まだ二十近い数のGランクモンストールが彼らを敵視している。皇雅の生存を喜んでばかりはいられない。ミーシャが知っている皇雅は、同じく異世界召喚された者たちと比べて……弱者だと捉えている。職業は平凡、能力値は平均以下、固有技能に抜きん出たものは皆無ときている。

 (カイダさんには申し訳ないのですが……あの人がここに来ても、戦況が全く良くなることはない…。それどころかコウガさんが危ない……!)

 あの中では恐らく皇雅がいちばん弱く、真っ先に消されるだろうと予感したミーシャは絶望してしまう。このままでは救世団が全滅してしまう……皇雅が本当に殺されてしまう。
 最悪の展開を予想してこれをどうしようかと軽くパニックを起こしかけたミーシャだったが、その数秒後の水晶玉に映った光景を見た瞬間、再び固まってしまった。思わず頬をつねって夢を見てることを疑うくらいに、信じられない光景が移ったのだ。
 皇雅が素手の一撃でモンストールを討伐したという光景が。

 「「…………!?」」

 ミーシャも、隣にいるシャルネも、しばらくポッカーンとしてしまった。

 「か、カイダさん……?い、今一撃であのGランクを!?」
 「……私の目にも、それが映って見えたわ……。まあまあ!凄いものを、見たわ」

 ミーシャは手を口に当ててはわはわとテンパり、シャルネはたまげたと言わんばかりに驚いたリアクションをとった。

 「い、いったいあなたに何が……!?」

 彼に届かないと分かっていながらも、そんな疑問の声を上げられずにはいられなかったミーシャ。
 さらにそこから一分程経ったところで、ミーシャたちはまたも皇雅の行動に驚愕することになった。

 皇雅が地面に手をつけて何か行動した瞬間、戦場の大地に異変が発生した。
 地面が激しく揺れて―――割れた。



                   *

 “超激震《マグニチュード》”

 地を蹴った勢いのまま、目の前にいたモンストールどもを一気に三体、蹴り殺して殴り殺したところで、群れの中心地に降り立つ。さらにその地に手をついて、大地属性と重量の複合魔法を発動した。
 瞬間…俺とモンストールどもが立っている地面周辺が激しく揺れ始める。俺はすぐにモンストールどもから離れ、さらに「魔力障壁」を奴らを囲んで閉じ込めるように展開した。結界の完成だ。
 その間も地面は揺れる、揺れの強さを増していく。次第に結界の中だけがグラグラと揺れて、地面が傾くという、これ何てトリックアート?的な光景となった。
 そう、これは地震。日本では頻繁に起こり、時にはいくつもの都市・地域を壊滅寸前にまで追い込む自然の災害だ。
 その自然災害を、モンストールどもがいる結界の中だけで起こしている。その震度は数秒ごとに増していき、やがて地面に異常が発生する。大地が割れて地割れ現象が発生する。モンストールどもは地割れの裂け目から落ちてしまう。だが攻撃はまだ終わらない。

 グラグラグラグラグラ!!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 結界内の地震はさらに激しく、破壊を起こしていく。その範囲は小さいがとエネルギーと威力なら日本で過去に発生したどの大震災をも数倍凌ぐ。
 今あの地割れの下では、震度数十もの大地震がモンストールどもを襲っている。全員ミキサーのように上下左右に振り回されながら何度も何度も地の壁に激突させられて、さらには土でできた瓦礫に圧し潰されているだろう。そして莫大なエネルギーをその身にモロに受けて、体がたちまち裂けてバラバラになっていく。
 地震のエネルギーは凄まじい。震度(マグニチュード)が1増えるごとにエネルギーが30倍くらい増加するからな。今は大体震度50はありそうだから、過去に日本で発生した大震災の百倍千倍……まあとにかくあの中は今えげつないことになっている。
 その証拠にあの中からいくつもの断末魔っぽい叫び声が聞こえてくる。地震は強いな。流石は地面タイプの中で大人気の技だ……関係無いか。

 「「「「「…………」」」」」

 離れたところにいる元クラスメイトどもは、俺がつくりだした地震を見て唖然としている。言葉も無い様子だ。
 これで群れは全滅……かと思ったが、まだ終わらなかった。
 地面からあの地震から生き延びたモンストールが5体程這い上がってきた。多分だが他のモンストールどもを身代わりにして致命傷を避けたんだろう。
 で?それがどうした?這い上がってきたらきたで叩き潰せばいいだけだ。
 というわけでいちばん近くにいた蜥蜴型モンストールの顔面に、「硬化」した黒脚の蹴りを入れて破壊した。あと四体。
 続いて、蜥蜴を殺した直後に、亀型モンストールがこちらに黒い魔力光線を放ってきた。

 “水砲”

 対するこっちは水魔法で迫りくる光線を相殺する。すぐに駆けて亀の真上へ跳んで、急降下からのドロップキックを放つ。要塞みたいな甲羅だが、既に脳のリミッターを500%程解除している俺の攻撃に耐えうる防御力はなかったらしく、甲羅は粉々に破壊される。勢いそのままで、亀の背中にドロップキックが突き刺さり、亀を再び地の裂け目へ突き落す。

 「じゃあな」

 追い討ちをかけるように炎熱魔法でつくった爆弾を投下して、亀型モンストールを消し去った。あと三体。
 次の相手は、やたら発達した脚を持ったカンガルー型モンストールだ。早速自慢らしい脚を使って殺人級の蹴りを放ってきたので、こっちも蹴りで応戦する。力の差は歴然で、三回目の蹴り合いでカンガルーの脚が砕ける。嵐魔法を付与させた左脚でカンガルーの首を刎ねて討伐。あと二体。
 今度は狐型と狸型が同時に襲いかかってくる。狐が九つの尻尾から複数の属性の魔法を放ち、狸が魔法と並走するように駆けてくる。あの手足で俺をズタズタに引き裂くつもりのようだ。
 俺は意識を集中させて右手に九つの小さく超濃密な魔力の弾丸をつくりだして、それらの狐の魔法攻撃にそれぞれ飛ばした。
 これは「魔力弾《まりょくだん》」って呼ばれるらしいな。
 魔力の弾丸で狐の魔法を全て相殺した直後、爆風に紛れた狸が接近したが、竜人族から習った武術を駆使して狸をいなして、返り討ちにした。
 そこからさらに狐に向かって「魔力光線」を撃ったが、「魔力障壁」で防がれる。さらに撃つも全て防がれた。あいつ魔防がかなり高いのか、だったら物理だな。
 「瞬足」で狐に接近して、「硬化」した拳と脚でドゴドゴと攻撃しまくって、障壁を強引に破壊する。そして狐の顔面に「絶拳」を放って、ワンパンKOした。
 
 「これで全部か」

 物言わぬ肉塊と化したモンストールどもの死骸を焼き払い、俺は一息ついた。これでドラグニア王国に侵攻してきた群れは全て消し去った。
 で……この依頼クエストは確か、モンストールの討伐に加え、人命救助もするように、とのことだったな。えーと、俺が来てから死んだ奴はいたかな……?

 「「「「「………………」」」」」

 まずは相変わらず啞然とした様子でこちらを見ている元クラスメイトども。数は……俺が戦いを始める前と変わらず。死者は無し。
 次は兵士団……こっちは俺が来る前からけっこう死んでた奴がいたよな。けどパッと見た感じ、死者が増えてることはないみたいだ。
 後は……一般の国民どもか。まあこれは最初からいなかったからノーカンで。

 「というわけで、お前が出した任務は達成ってことで良いよな?」

 くるりと振り返って、元クラスメイトどもの傍で控えていたクィンに確認をとる。

 「はい、何も問題はありません!全ての敵の討伐を確認、この方たちも無事。兵士団は……間に合わなかった方々が元からいたのは残念でしたが、コウガさんが来てからは死傷者が出てません。王宮も無傷のようですからそこにいる方々も全員無事でしょう。
 コウガさん、ありがとうございます!依頼通りに行動していただいて…!」

 クィンは俺のところへ駆け寄り、恭しく頭を下げて礼を述べた。
 
 「結局…本当にコウガさん一人に敵を全て相手させてしまいましたね…。私がしたことと言えば、至急手当てが必要な兵士さんや…あの、救世団の人たちの簡単な治療措置と、彼らのパニックを治めることくらいでした。コウガさんにはかなりの負担をかけてしまったと、痛感しています」
 「別に気にすんな。やれることをしっかりやれただけ流石だと思ってるし、あんなのは負担にも思ってねーし」

 お礼の次は詫びの言葉を出すクィンに、俺は気にするなと言う。実際あんなのは負担には入らない。力を程よく発散させるのに丁度よい相手だと思った程度だ。

 「よし、じゃあ任務が終わったところで、帰ると――「ま、待てよ!!」――あ…?」

 耳障りな声が、辺りにうるさく響いた。

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