世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
59話「元クラスメイトたちとの再会」
「うっわ、ダメだこりゃ」
ドラグニア王国に着いた直後、空を飛んで俯瞰《ふかん》するように戦場を眺めてあいつらの様子を見てみたのだが……。
「いやー酷い、酷過ぎる。もう一回言おう、酷い」
本当に酷いとしか言えなかった。実際そうだもんな。あいつら本当に異世界召喚の恩恵をもらったチート集団?何アレ、クソ雑魚じゃん。
ここからだとしっかり「鑑定」できないからステータスは分からないけど、Gランクの群れを相手にここまで追い詰められているからどうせ雑魚なんだろうな。
「コウガさん、戦況はどうでしたか?」
地面に着くと一緒にここへ来たクィンが心配した顔で尋ねる。彼女にもここからでも王国に異常が起きていることが視認出来ている。門を通過した時点でクィンは焦燥に駆られていた。
「クィンが懸念している通りだった。劣勢だ。今すぐ全滅する気配はねーけど、このままだと軍が敗ける確率は高い」
「そうでしたか…。加勢しに行かなければ…!」
俺の返事を聞いたクィンはさらに急こうとするので、落ち着けと待ったをかける。
「助けに行きたいという熱意は伝わったがクィン、お前はこの戦いにどう介入する気なんだ?」
「え……?」
「敵はまだ二十数ってところだ。しかも全員近くにいる状態でいる。戦場に行けばあいつらから一斉に敵意を向けられることになる。つまり二十数体のモンストールどもと同時に戦わなければならない。お前はこれをどう攻略する?」
「それ、は…………」
クィンは急に勢いを失くしてしまう。彼女とて無謀に突っ込んでは今回の敵には勝てないと分かっている。今回の敵の布陣はクィンにとっては………というか普通の戦士たちにとってはかなり難しいものとなっている。何せGランクがあんなにたくさん、しかも同じ場所に位置しているのだからな。肝心のドラグニア軍は瓦解しかかっているし、状況は人族側にとってはマズい。
しかし、俺にとっては何の障害にもならない。あんな雑魚どもが何体いようが関係無い。
「というわけでここは俺一人で行く。クィンは後からゆっくりついて行けばいいから」
「何がというわけなのか分かりませんが……それは結局コウガさんに全て任せてしまうことになりませんか…?」
「他に方法は無いだろ?分担して…ってレベルじゃないだろ、クィンにとって。それにクィン……まだ万全じゃねーだろ?」
俺の「鑑定」は誤魔化せない。俺の目にはクィンの体力の数値が満タンではないことがバッチリ映し出されている。
「見抜かれてましたか………悔しいですがコウガさんの言う通りにするしかないですね」
「そう気にするな。昨日みたいにモンストールの止めだけ刺す係をやらせてあげるからさ」
「それも……憚れます。私は……負傷した人たちをなるべく救済することにします」
「ふーん。じゃあ全部、俺がぶっ殺していくからな。じゃあ、戦場へ行くか」
クィンを少し距離を置いた状態のまま後ろに連れて王国の中心地へ進む。
やがてモンストールどもと………半月以上ぶりに見るなぁ。
元クラスメイト、3年7組の連中だ……。あとついでに兵士団も。
視力を上げて見てるからよく見える、よく分かる。あそこにいる連中はほぼ全員俺を……学校ではハブり、この世界では蔑んだり虐げたりして………嗤って見捨てたんだ。
そんなあいつらは今、Gランクモンストールの群れを相手に大苦戦していて、このままでは敗北して全滅してしまいそうな状況にまで追い込まれている。
しかも醜いことに、互いに互いの足を引っ張り合って互いに文句を言い合うという、敵を前にして仲間割れを始めている様ときている。どいつもこいつも冷静さなど皆無で、クラスメイト同士で口汚く罵り合って、連携が取れずにロクな攻撃しか出来ていない。
あれではまだ兵士団の方がマシだ。まあその兵士どももあんな醜い連中を庇って前に出て、倒されていってるが。
それにしても何だよ、あいつらのステータス。平均レベルが30ちょい。異世界召喚の恩恵がある分レベルの割には能力値が普通の人族と比べて高いがそれでもいちばん高いやつで2000がやっとで他は1000ギリギリかそれ以下ばかり。固有技能もパッとしない。魔法レベルが6すらいってない…………………カスじゃん。
想像をはるかに下回った、クソ雑魚じゃんこいつら。は?それで対モンストールの組織、人族の希望「救世団」って名乗ってるの?冗談だろ?
俺が地底で化け物どもを喰い漁って地上を目指して必死に這い上がろうとしていた間、こいつらはロクな鍛錬や実戦しか積まなかったんだな。それが今よーく分かった。そりゃGランクの群れにも勝てねーわ。
ゆっくり歩きながらあいつらの分析が終わったところで、クィンの方へ振り返って「じゃあ戦ってくる」と言って彼女をここで待たせておく。
そして歩みを少し速めてあいつらのところへ向かった。
*
「はぁ、はぁ、はぁ………ヤバい。体力がだいぶ削られた。何で全く倒せてねーんだよ!?」
「俺も魔力が少なくなってきた、魔法はあまり撃てない……っ」
「ぐ……クソ!こんだけ攻めてんのに何で敵の数が減ってねーんだ!?俺はヘトヘトになるまで頑張ってんのによ!お前らサボってんじゃねーのか!?前に出ろよ!!」
「ふざけんな!俺だってモンストールと対面して撃ち合ってたんだぞ!サボってるってんならコイツがそうなんじゃねーのか!?」
「はあ!?意味分かんないんだけど?あたしだってちゃんと戦ってますー!てゆーかあたしも魔力全然無いんだけど!なんなのあのモンストール、強過ぎよ!異世界召喚されたあたしらは凄く強いはずなんでしょ!?」
「そうだよ……っ!なんで俺たちこんなに苦戦してるんだよ!?こんな奴らが相手だろうと、勝てるはずだろ……っ」
連携が崩れて味方も大勢失ったクラスメイトたちは、モンストールたちに抗いながらも互いを責めて足を引っ張り合っている。当然時間が経つにつれて体力と魔力も消耗していくわけで、今の彼らは戦闘開始の時と比べてかなり弱っている。心身ともに追い詰められてしまった彼らが絶望し始めたその時―――
「見るに堪えないレベルの醜態を晒してんじゃねーか。それでこの世界をモンストールから救う『救世団』とか名乗ってんのかよ?笑わせてくれるなぁ~~~~~オイ」
クラスメイトたちを心の底から蔑んで見下したような声が、戦場に響いたのだった。
全員が思わず窮地であることも忘れて、声がした方へ顔を向ける。偶然か、モンストールたちも彼らへの攻撃を止めて同じ方へ顔を向けた。
そこに立っていたのは一人の少年。クラスメイトたちと違って全く装備がなっていない格好をしていた。そんな格好でこの戦場へ立つのは自殺行為と変わりないと誰もが思ったことだろう。
「誰だ、お前……?」
須藤がポツリと問いかけるが、突然現れた少年は答えることなくどんどん近づいていく。自分の質問に答えないことに苛立つ須藤だったが、少年の顔を見た途端、態度を一変させた。苛立ちから驚愕へと変わっていた。
それは彼だけではなく、他のクラスメイトたちにも伝播していった。誰もが少年の姿を認識した途端、信じられないといった反応をした。
誰もがあの時……異世界召喚されて間もないうちに行われた最初の実戦訓練で生贄にされて落ちていって、死んだとされていた元クラスメイトの少年……
「よっ、久しぶり~」
甲斐田皇雅《かいだこうが》に―――
*
「よっ、久しぶり~」
俺はあえてやや明るく軽い調子で元クラスメイトどもにそう挨拶をした。
誰もが俺を見て驚愕してたがる。アホ面もしてやがる。そんなに俺がここに現れたことがあり得なかったらしい。つまり俺は死んだと思っていたらしいな。
「は?お前……は?甲斐田?」
他の連中を押しのけて俺に近づいて話しかけてきたのは、生前の俺に散々ヘイトを募らせたクソ野郎、大西だ。雰囲気イケメン装っていた奴だったが、今となってはその面影はない。戦いで消耗したせいでただの醜男となっている。
「テメーが頭の中で浮かべてるだろう甲斐田皇雅、その本人だ。テメーらがあの日嘲笑いながら見捨てやがった甲斐田皇雅さんだ」
相変わらず軽い調子のままで話す。こいつらにとってはこの状況に相応しくない態度だろうな。そう思っているらしく、何人かは戸惑いながらも俺に不快感を示しているのが見える。
「お前……あの実戦訓練で死んだんじゃなかったのか!?どうやってここに!?」
「え?ホントに甲斐田?そっくりさんとかじゃなく?」
「ウソ?脚かどこかに大怪我した状態で地下深くへ落ちたから死んだかと思ってた。つーか前と比べて変わってない?肌の色とか」
しかし驚きの方が勝っていたらしく、皆離れたところから俺を見て勝手に話し始める。
「俺があれからどうなったのかをテメーらに話す気はない。めんどいから」
大西たちを見下すようにそう言いながらこいつらの状態を「鑑定」してみる。体力は6割以上削られていて、魔力は魔術師系の奴中心に底をつきかけている。見た目通り憔悴しているってところか。
「これだけ戦力を揃えておいて、たかがGランクのモンストールの群れに大苦戦……いや、追い詰められてるって。くくっ、だっさいなーテメーら。そして弱い、弱過ぎる。異世界召喚の恩恵を十分にもらっておきながらその体たらく。ざっこ、カス過ぎるわホント」
口に手を当ててププーっと嘲笑して全員を蔑んだ目で見回してやる。
「あ?俺たちと違ってカス職業で雑魚能力値だったハズレ者が、何俺たちを見下してんだよ、オイ。その格好も、大した装備もしてないくせによ。そんな貧相な姿しておいて何馬鹿にしてくれてんだぁ!?」
短気を起こして俺に近づいたのは刈り上げ頭の山本と坊主頭の片上。脅しのつもりか片上が武器の槍をこちらに向けてきた。大西も、須藤だったか?あいつらも俺に怒りと侮蔑の目を向けてくる。
そんな煽り耐性が無く、状況を分かっていない連中を見た俺は再び呆れてしまう。あくびをしながら大西たちの後ろを指差して…
「敵を前に余所見するとか、雑魚のくせに余裕かましてるんだな」
俺がそう言った直後、大西たちの背後からどう猛な雄叫びが鳴った。連中がその声に慌てて振り返ると接近していたことに全く気付いていなかったらしい狼っぽいモンストールが牙と前足をぎらつかせて襲い掛かるところだった。俺は最初から奴に視線を向けていたのに、誰一人として後ろを気にしなかったな。アホ過ぎる。
「うわっ、いつの間に!?ひ、ひぃ……っ」
大西は両手剣を咄嗟に構えるが、モンストールの気迫に怯んで横に逸れる。山本と片上に至っては萎縮して動くことすらしない。呆然とモンストールを見ることしか出来ないでいる様だ。
「うわっ、純一、敦基…!」
大西も、誰もが二人が殺されると思ったその時―――
ヒュ、ボッッッッッッッッ
予め脳のリミッターを解除して力を溜めていた俺の右ストレートが、狼型モンストールの口に入り、頭部を爆散させた。
「――――えっ?」
誰もが俺を見て呆然とする。まるで時間が止まったかのように静かだ。音を立てているものといえば、首無しとなったモンストールの体がボトリと地面に落ちる音くらいだった。
その死体に俺は炎熱魔法を放って焼却する。
「は、え、え?甲斐田が、Gランクモンストールを………?」
かすれた声でそう呟いた誰かの声を無視して俺はすたすたと歩いて、残りのモンストールどもを睨む。
「じゃあ、依頼任務をこなすか」
脳のリミッターをさらに解除した俺は、地面を蹴ってモンストールの群れに突っ込んだ。
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