世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

55話「皇雅のターン」



 さらに三つの村や町に侵攻していたモンストールの群れを殲滅させて、他に村や町を襲いに行っている群れの気配が無いことを確認してから、アレンたちが向かったゾルバ村というところへ飛んだ。
 村に着いてまず目にしたのは倒れている冒険者らしき奴らがあちこちにいた。全員重傷を負っていたり体力が枯渇して苦しんでいたりなどばかりで、死んでいるのはドラグニアの兵士しかいなかった。兵士全滅かよ、王国の戦力はマジであてにならないようだな。
 呆れながら進んで行くと四体のライオン型モンストールがいるのを目にする。状況は二手に分割されて二体になったそれぞれのモンストールに対して大勢の戦士たちが対抗しているってところか。
 分断したのは良いがそれでも戦士側が劣勢に追い込まれているな。ここに来る途中たくさん倒れている冒険者たちがその証拠だ。
 左の二体と戦っているところを見るとそこにアレンとクィンがいるのを確認する。奴らと戦っているのはアレンたちと鬼族のセン、冒険者たちが少々ってところで、全員明らかに疲弊して追い込まれている。
 このままだと彼女たちが敗れるのは明白か。右側の方も遠目で見てみたが状況は左と同じだな。両方とも危うい状態だ。鬼族全員「限定進化」をしていないのは、それを発動することさえ出来ないくらいに体力も魔力も消耗しているってところか。
 だったらここは傍観していないで、俺が加勢した方が良いな。
 むしろここまでよく粘った方だ。災害レベルの群れを相手にあそこまで戦えているのだから。他の村や町はどこも無様で話にならないレベルの戦士しかいなかったのだから。この村にいる戦士たちはかなりレベルが高いぞ。
 そうこう思考しているうちに、アレンたちが戦っているモンストールが強力な「魔力光線」を撃とうとしている。クィンが前に出て魔法を纏った剣で対抗しようとしているがあれではダメだ。
 だから、俺は今すぐ攻撃に移った。右手からあのモンストールが撃った光線よりもデカい光属性の「魔力光線」を、アレンたちに当たらないように撃って、紫色っぽい鬣のライオン型モンストールを消し飛ばした。
 ボロボロ状態のアレンたちのところへ行き、立つのがやっとってところのアレンを抱きとめて、大地魔法で即席の寝台を創ってそこに寝かせる。

 「何体のモンストールを討伐したんだ?」
 「みんなと協力して、二体を討伐したのがやっとってとこ、ろ…」
 「そっか」

 アレンは答えてから悔しそうな顔を見せる。自分はもっとやれたはずだと、自身の力不足を悔やんでいるな。

 「生きている限りまだまだ強くなるチャンスがくる。次に備えて力をつけておけ。今度は一人でGランクを討伐できるくらいに」
 「うん…」
 「俺がついている。一緒にってわけにはいかないけど、アレンのレベルアップを精一杯サポートしてやるからな」
 「うん、ありがとう…」

 まだしょげているな。仕方ない、労いは後にして、やることをさっさと片付けるとしようか。アレンに行ってくると言って、もう一体のモンストールの前に立ちはだかる。すると目の前の赤い鬣ライオン型モンストールの他に別の場所にいたもう二体のライオンモンストールどもまで俺の方へ来た。全員俺に射貫くような眼光を向けて口から少量の瘴気を漏らしている。
 
 (またか……。さっきの町もそうだったが、俺が来た途端にモンストールどものヘイトがこっちに向けられるんだよな…。ゾンビだからか?)

 モンストールどもが俺の方へ来たことで、鬼族たちや他の冒険者どもも俺の存在に気づく。鬼たちはコウガと呼んでどこか安堵した顔を向ける。冒険者どもは俺が誰だか知らないって顔をしている。また俺の方にモンストールが来たことで、ひとまず助かったとホッとしている奴もいた。

 「コウガさん……」

 モンストールどもの謎の行動について訝しんでいるとクィンが後ろから声をかけてくる。彼女もかなり消耗していて傷も負っている。

 「悪いけど、残り全部は俺が処理させてもらうぜ。お前も鬼たちも限界みたいだからな」
 「すみません……お願いします!この村をモンストールから守って下さい!」
 「………ああ」
 
 そんな短い会話を交わしてから俺は走り出した。適当に魔法を撃ってライオンモンストールどもの気をこっちに引かせて、クィンたちから離れさせる。
 三体のライオンどもが一斉に全身にぞれぞれ異なる属性魔力を纏わせて、俺に襲いかかってきた。やっぱりこいつらも俺に対してだけ特に強い殺意を以て襲ってくる。俺という存在はモンストールどもにとってどう映っているのか。分からないことしかないな。
 三方から六本もの大きな魔爪が俺を八つ裂きにしようとする。

 脳のリミッター300%解除 全身「硬化」 「身体武装化」対象両手両足

 まず脳のリミッターを外す。全身を黒金色にさせて鋼以上の硬度を持った肉体にして、両手には地底で遭遇した人型モンストールと同じ鉤爪《かぎつめ》を武装し、両足には加速装置が搭載されたシューズを武装させる。
 迫りくる魔爪《まそう》のうち一つ、赤い方の魔爪に体を向けて、突進する。音に迫る速度で駆けて腕を交差した状態から引き裂く動作をして、そこから衝撃波を発生させる。赤い魔爪はあっさり破壊されてモンストールの前足もズタズタにした。
 攻撃はまだ続いている。勢いそのままで両腕を振り上げて、モンストールを袈裟斬りの要領でバッサリ切り裂いた。
 その一撃では済まさず、さらに超高速で鉤爪を動かして切って切って切りまくった。赤い鬣のライオン型モンストールは力なくその場に倒れた。
 くるりと振り返って、残り二体がこちらに魔爪を向けて突進してくるのを捉える。鉤爪を解除して鋼の拳へと武装を変える。どしりと構えて二体のモンストールを迎え撃つ。
 ギリギリまで引き付けて、魔爪が触れる寸前で躱して二体にカウンターパンチを同時に叩き込んだ。二体とも胴体が爆ぜてどさりと倒れた。拳には爆発系の炎熱魔法を付与させてたからな。
 今の回避も竜人族たちとの鍛錬で身につけた動作だ。紙一重で躱す技術って最初は難しいけど慣れれば割と出来るようになるんだよな。俺の場合くらったらそれはしれで倍返しするから気にならないし。
 さて、一気に三体のライオン型モンストールどもを倒したわけだが、こいつらはまだ生かしている。全員動けなくなる程度までしかの攻撃をしなかった。その理由は一つ。

 「お前ら、止めを刺せ。そしてレベルアップしろ」

 クィンや鬼たちはびっくりした顔を向けた。どういうことだって言いたそうだな。
 
 「鬼族のお前らは今後もっと強い敵と戦う可能性がある。Sランクのモンストールとか他の強い魔族とかな。そいつらとの戦いに備えてこういった敵を倒すのは必要なんじゃねーか?たとえ俺のおこぼれだろうともらって損は無いはずだぜ。
 クィンも、まだまだ強くなる気はあるんだろ?」

 クィンたちは戸惑っている。ギルスが俺に尋ねてくる。

 「何で俺たちにそんな親身に?それにコウガは良いのか?自分が倒したっていうのに」
 「お前らはアレンの大事な仲間だ。そんなお前らを死なせたくはないし、アレンの野望の為にはお前らは欠かせない。もっと強くなって欲しい。まあ俺のお節介ってやつだと言われればそうかもしれねーけど」

 俺の答えを聞いた鬼たちは少し照れくさそうにし、俺に笑みを向けてきた。

 「ありがとう……私たちのこと助けてくれるだけじゃなく強くさせる機会までくれて。私たちのことも考えてくれてるんだね」

 センは優しい笑みを向けてそう言ってくる。俺は気にするなと返し、死にかけている三体のモンストールを指して止めを促す。

 「クィン、お前もその剣でモンストールを刺してレベルアップしても良いんだぜ」
 「は、はい。何だかせこい気がしますが……お言葉に甘えます。窮地を救っていただいてありがとうございます!」

 クィンもセンたちに続いてモンストールどものところへ行く。そして全員一斉に攻撃して止めを刺して、群れを全滅させた。
 アレンだけ奴らに止めを刺せてやれなかったのは申し訳なかったな。動けない状態だから仕方ない。
 これで、この大陸に現れたモンストールの群れは粗方片付けたな。残っている群れはドラグニア王国へ向かった奴らか。なら放っておいて大丈夫だな
 クエストは完了…ってことで良いな。鍛錬の成果を確認することもできたし、悪くない時間だった。俺のレベルもまあまあ上がったし。
 モンストールどもに止めを刺したクィンたちのステータスを「鑑定」してみるとやっぱりかなり上がっていた。今朝見た時よりもレベルが10以上も上がっている。
 対する俺はみんなよりも多くGランクモンストールどもを討伐したのに、みんなほどにはレベルが上がらなかった。これはゲームによくあるレベルアップ補正的なやつか。レベルが低い奴ほど上がりやすく、高いほど上がりにくいっていうね。
 まあいいけどな。戦闘技術を学んだ分レベルアップ以上の収穫を得たからな。
 モンストールの死骸を炎熱魔法で消し去るという後処理を終えたクィンたちは俺のところへ戻ってくる。いくつもの傷を負って体力と魔力も消耗しきっている彼女たち全員が目で見ても分かるくらいに疲弊した様子でいる。

 「お疲れ様。まずは、村民の家を借りてみんな治療してもらおうか」

 俺の言葉に全員が賛同した。俺はアレンを背負って、この村の病院の役目を担っている施設へ向かった。

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