世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
46話「次の旅の方針」
勝負の舞台となった大草原からサラマンドラ王国へ戻った。
国に戻ると竜人たちが何やら騒いでいた。どうやら俺とエルザレスの戦いで生じた力の余波がここまで伝わったらしい。突風やら地震が発生して何事かと騒いでいた。
屋敷まで移動する間、カブリアスが竜人たちに突風や地震の原因が俺たちだってことを説明して回った。
その際今度は、俺たちとカブリアスたちの集団を見てさらに騒がれた。理由はエルザレスが意識を失って伸びているからだ。
誰が彼を!?という質問がくる度にカブリアスは俺を指して存在を知らしめた。
「この人族がエルザレスさんを!?」
「おいおいマジで言ってるのかカブリアスさん!?あんたがとうとう下剋上果たしたんじゃないのか!?」
「人族が竜人族の長に勝てるはずがない!冗談なんだろ!?」
竜人たちは俺を見ては口々に何か言ってカブリアスの言葉を疑った。
鬱陶しさから溜息をついていると、ドリュウや他の序列持ち戦士たちがカブリアスの言葉が真実であると国中に言い広めた。彼らはこの国では発言力が大きい為、竜人どもはようやくエルザレスが俺に負けてしまったと理解したようだ。
「納得してないようだから、今度あいつらの前で力少し見せてやろうか?相手はカブリアスで」
「無茶言うな。親父を完全に負かしたお前と戦うなど、今は御免だ。だが……」
カブリアスは俺を見て、その目に微かな闘志を見せた。
「いずれはこの国の長になろうとしている俺が今よりさらに強くなる為にも、お前とはいずれ勝負しなくてはならない。その時は今日の親父の……いやそれ以上の本気の勝負をさせてもらうぞ、カイダコウガ」
「まぁ、いいぞ別に。俺も今日は楽しめた。エルザレス程に強い奴とはあまり戦えないものだったから」
モンストールや魔物以外でSランクの強さを持つ人族や魔族なんて、この世界にはどれくらいいるのだろう。別に戦うことが好きってわけじゃないけど、この世界にいる間は戦う以外に楽しめることが現代世界と比べて圧倒的に少ない以上、やっぱり戦うことが退屈しのぐ手段の筆頭候補になるんだよなー。
あーあ、マジで早く元の世界へ帰りたい。
エルザレスの屋敷に戻って、カブリアスがエルザレスを介抱するとのことで彼らとはいったん別れる。
「竜人族の長に勝っちゃうなんて、アレンの仲間は凄いね。しかもまだ私たちと同じくらいに若いのに」
勝負の結果を聞いた鬼族たちもとても驚いていた。ガーデルが凄い凄いと俺の背を叩いて何故かはしゃいで、ギルスは俺を憧れの目で見て兄貴と慕ってきた。
「ねえカイダ君、あなた鬼族にならない?魔法か何かで頭に角を生やせば………うん、立派な鬼に見えるよきっと。あなたみたいな強い人が仲間になってくれればより強い鬼族がつくれるわ。アレンもあなたを凄く気に入ってるようだし」
センに至っては意味不明なことを言って俺を鬼族へ入るよう勧誘をしてくる。
「角生えたからって鬼になれるのかよ…。つーか俺は死体だから、その……子作りは出来ねーんじゃねーか?知らんけど」
「そんなの、気合いで何とかすればいいんだよ!里を復興させたらまずはアレンとラブラブ子作りだ!!」
「が、ガーデルさん!女の子がそんなことを言ってはダメですよ!?」
「…?なんでダメなの?鬼族は私たちくらいの年になると結婚するのが当たり前なんだよ?」
「な…っ!?」
「子作り………結婚………コウガと……………ふふ」
さらに意味不明なことを言ってくるガーデル、それを窘《たしな》めようとするクィン。そんな女子たちの様子に俺は苦笑いするしかなかった。
それから半日経って夜になると、エルザレスが顔を見せにやってきた。
「もう歩いて大丈夫なのか?骨を何本か折ったと思うんだが。アバラとか色々」
「抜かせ。竜人族は魔族の中でも特に体がタフに出来てるんだ。骨折程度なら半日もすれば戦いは無理でも普通に動くくらいは出来る」
竜人族の頑丈さ自慢をするエルザレスは、俺に勝負で負けたことを気にしていない様子だ。いや内心では悔しがっていて顔には出していないだけかもしれない。
「国中の竜人たちはあんたが俺に負けたことをもう知ってしまってるんだが、そこのところ大丈夫なのか?族長の威厳とか。今更だけど」
「………まあ動揺はさせてしまっただろうな。まあそれでもあいつらなら大丈夫だろう。世界には俺を凌ぐ強者がまだいる。それがお前だったってだけの話だ。それにお前はこの国の侵略者ってわけでもないしな。敵ではない奴に負けたところで別に気にするまい」
「………そういうものなのか」
竜人族の価値観というより、エルザレスがあっけらかんとし過ぎているだけなのかもしれない。隣にいるカブリアスがはあ…と溜息ついてるしな。
「さて………アレンだったな?お前が捜していた仲間たちとこうして再会できたわけだが、お前たちはこれからどうするつもりだ?この五人を連れて旅をするのか、この国に滞在するのか」
「ああ、そのことなんだけど……」
エルザレスの問いかけに、俺はここでようやく自分の旅の目的として彼ら竜人族に異世界転移の手がかりについて聞いてみることにした。
まず俺がこの世界と異なる世界へ転移しようとしていること、その方法を探って旅をしていること、その途中でアレンと出会って、手がかりを探す一方で鬼族たちを捜すという旅になったことなどを話した。俺が異世界から来たって話は、今は関係無さそうだから省いた。
「というわけで、何かしらないか?別の世界あるいは次元へ転移する方法について」
「異なる世界、か…。随分ぶっとんだことを実現しようとしてるなお前。だからそんな異次元の力を手にしているのか……ああ質問に答えようか」
一拍おいてからエルザレスは答えを話す。
「結論から言うと、俺はそんな方法について全く知らない。というよりも……俺たち竜人族に限らず、どの魔族も異世界とやらへの転移魔法についてきっと何も答えられないだろう」
「そうか……」
ここも外れだったか。魔族にとって異世界転移ということ自体が知らないことなんだろうな。ならやっぱり探る対象は人族に限るのか。
いったいどの国へ行けば手がかりをつかめるのか……うーん、詰んだっぽい。
「はあ、しばらくはアレンの仲間捜しを中心とした旅になりそうだな。俺の目的を果たすのはいったい何年後か……」
「コウガ……」
肩を落として項垂れる俺を、アレンがよしよしと慰めてくれる。
「じゃあさ、アレンが捜している鬼族についてだが。次はどこを当たればいいと思う?」
「今存在している魔族の国あるいは里は、ここ竜人族と亜人族、そして獣人族だ。お前たちはこうして俺たちの国に来たわけだから残りは二つってことになる」
亜人族はオリバー大陸に、獣人族は最近まで俺たちもいたベーサ大陸にいるんだったな。ここからだとどちらの大陸とはそんなに離れてはいない。どっちから先に行ってもいいってわけだ。
「ただ……獣人族は魔族の中で最も排他的な種族でな。あそこへ行こうとなると色々と面倒だぞ。
反対に亜人族は人族の国と同盟を結んでいると聞いてるくらいだから、入国するのに手間はかからないんじゃないか?」
手っ取り早く鬼族の安否について知りたいなら、亜人族の国へ行く方が良いのか。あそこと同盟を結んでいる人族の国の伝手を使えばすんなり行けそうだもんな。
「じゃあ次に行く先は……オリバー大陸だな。その大陸にある亜人族の国へ行ってアレンは鬼族を捜す。俺は俺で、同じ大陸にある人族の国…ハーベスタン王国に行って異世界転移の手がかりを探す。これからの旅はこういう流れってことで」
俺がそうまとめてアレンとクィンを見ると二人とも笑顔で了承した。
「コウガさん、ハーベスタンで何か手がかりが掴めるはずです。アレンさんも、はぐれた仲間たちはきっとオリバー大陸のどこかにいるかもしれません」
「ああ今度は何か分かるかもしれないな」
「うん、はぐれた仲間たちはまだ生きている。センたちと同じように会えるきっと…!」
クィンの言葉に俺もアレンも頷いた。とにかくこれで次の旅の方針は決まった。
「そういえばお前たちはベーサ大陸からここアルマ―大陸に渡ったんだったな?」
「ああそうだが?」
「あそこの海域にも上位レベルの魔物やモンストールが出るとは聞いているが、おそらくこれからお前たちが行こうとしているオリバー大陸までの海域の方がもっと強い敵が現れるぞ。少なくともGランクの魔物は結構出るぞ。奴らに感知されないよう気配を遮断して進むってのが普通の渡り方だが、それにも限度がある。ある程度Gランクと戦える実力がないと次の旅は厳しくなるぞ」
へー、Gランクが出るのか。前回はAランクが出たくらいだったしな。アルマ―とオリバーの間の海は結構レベル高い敵が出るのな。
「カイダなら心配ないだろうが、他の二人はどうなんだ?」
「う……」
「正直、私の力ではまだGランクとは……」
二人とも苦い顔をする。アレンはSランク冒険者になったものの、実力としては単独で災害レベルと戦うにはまだ早いってところか。クィンも同様だな。
「そこで提案なんだが……。どうだ?二人ともここで少しレベルを上げないか?」
エルザレスの提案に二人は意外そうな顔をする。
「カイダに敵を全て任せるってならそれも良いが、少なくともアレンはそれを良しとはしないんじゃねーのか?」
「………」
アレンはしばらく黙ったまま考え、エルザレスの目をしっかり見て答えた。
「ここで少しの間鍛えることにする。今すぐ次の国へ行きたいけど……私の復讐の為にも、強くなる必要がある」
そう言ってから俺の方を見る。
「コウガ……しばらくここでレベルを上げても良い?」
「いいぜ。強くなるにはうってつけの場所だと思うぞここは」
エルザレスだけじゃない、カブリアスもドリュウも実力はGランクを凌駕している。そんな奴らと戦って経験を積めばけっこう成長できるはずだ。
「俺は急いではないからな、ここでしっかり鍛えてから次へ進もうじゃねーか。急がば回れってな」
「ありがとう!クィンも、いい?」
「ええもちろん。私も自分自身を鍛え直そうかと考えてましたから、丁度いいです」
そういうわけで、俺たちはしばらくサラマンドラ王国に滞在することとなった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
2265
-
-
2
-
-
26950
-
-
4
-
-
15254
-
-
969
-
-
381
-
-
1
-
-
314
コメント