世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

45話「チートゾンビと赤神竜」



 最初の激突で空気が震えた。二回目の激突で地面が揺れた。
 俺の黒い拳とエルザレスの魔力がこもった拳が何度もぶつかり合う。その度に俺たちがいる空間から尋常じゃない力の余波が飛び交って、悲鳴のような音が発生した。
 
 “天裂《あまさ》き”
 
エルザレスが超凝縮されている筋肉質の腕を音速で振るって、魔力を纏った爪裂きを放ってくる。それは空間を削り取るかのよう。くらえば体が引き裂かれるだろう。

 “身体武装”―――刀

 腕を刀に変形させて爪裂きに対抗する。俺の黒い刀とエルザレスの爪が火花を散らして何度も激しくぶつかり合う。
 けど俺は剣術が未熟な為、的確に人体の急所を狙ってくるエルザレスに競り負けてしまい、左腕が切り裂かれる。骨が見えるくらいに肉が抉られて使い物にならなくなる。とはいえそれは数秒の話。
 だがその数秒の隙を突いてきたエルザレスが、強大な魔法を放ってきた。

 “焔竜巻《ほむらたつまき》”

 至近距離で激しい炎を纏った巨大な竜巻が俺を吞み込む。常人なら焼かれて灰になるか風の圧力か刃でズタボロになってただろう。

 (つーか、俺が不死身のゾンビだと分かってから全く遠慮しねーな!?俺がゾンビじゃなかったら何度死んでたか!)

 内心で愚痴りながら魔力を溜めて、魔法として一気に力を発揮する。

 “水爆《すいばく》”

 水魔法・斥力の力を有した重力魔法・大地魔法といった三つの属性を複合させた魔法を発動。斥力で竜巻を弾くと同時に水素と原子を混ぜて大爆発させる。耳を劈くような爆音が響き、炎の竜巻は跡形無く吹き飛んだ。
 「魔力障壁」を纏っている俺は無事だ。

 「ぐっ!俺の複合魔法を難なく破るか……!“原子弾《げんしだん》”」

 悔しそうに歯嚙みしながらもエルザレスは次の魔法攻撃を放った。口から大地魔法と光魔法が複合して圧縮された弾丸が放たれる。あれは現代世界で表すならば圧縮粒子弾ってところか。

 “超電磁弾《レールボール》”

 こっちも強力な電磁弾丸を飛ばして対抗する。雷電と光の複合魔法で創った弾丸は雷の如き速さで突き進み、エルザレスの魔法攻撃をぶち破った。

 「これも破るか……!」

 自分の魔法が破られるといち早く察したエルザレスは横へ回避する。俺の弾丸は地面に着弾した瞬間、雷の粒子を広範囲にまき散らしながら爆発した。

 「あれをくらっていたら体が焼き焦げていた…。やはり魔力が尋常ではないな」
 
 エルザレスは冷や汗をかいた様子だがまだ戦闘態勢を解こうとはしなかった。まだやる気らしい。

 「複合魔法を発動させること自体が困難だというのに、あれ程の緻密で超強力な技を放つなんて……。レベルが違い過ぎます…!」
 「力試しとか言っておきながら、二人とも殺す気で闘っていないか?」
 
 外野にいる連中は全員唖然とした様子で俺たちの勝負を見ている。やっぱり俺たちのレベルはキチガイ領域に達しているようだ。

 「エルザレス、リミッターを外した俺は加減するのが難しくなる。肉弾戦が特にそうだ。まだやるってんなら、死なないよう気をつけろよ」
 「ふ……上等だ。お前はまだ全力を出し切っていねーな?少しでもいい、出してみろよ全力を。この竜人族でいちばん強い俺が受け止めてやる」
 「そうかい。じゃあ―――」

 その場で軽く跳躍と腿上げ運動をして体を解してから……

 「マジで死ぬなよ」

 全力でダッシュした。

 「っ!?速過ぎて見えない!?」
 「人族が出せる速度じゃありません……!」
 「いや、どんな生物にも出せない速度だあれは……!」

 エルザレスの周りを超音速で走り回る。奴の目は俺を追ってはいない。見えてないのかそれとも見ようとしてないのか。

 「まったく、何だその速度は……。速過ぎて捉えられるかよ」

 エルザレスはその場で地面に手を付けて魔力をこめた。

 “胎動せよ・牙を向け――

 すると地面が意思を持ったかのように形を変えて動き出した。手や剣の形となって、走り回っている俺に無数に襲い掛かった。
 走るのを止めて無数の手や剣、槍を素手で蹴散らしていく。多いな、しかも威力も高い。
 
 貫け”――

 ズオオオオオオッ!!
 「うおおっ!」

 無数の攻撃をいなしている途中で地面から巨大な大地属性の剣が生えて俺を刺し貫いた。
 腹を貫かれながらも剣を掴んで、力任せにボキッと折ってやった。

 “流光星火焔岩群”スター・メテオ

 腹が塞がりきる前に、今度は上から光と炎を纏った岩石が無数に降り注いできた。それも、結界内を埋め尽くす規模で。
 降り注いでくる無数の岩石を、俺は硬化した拳で悉く粉砕した。一撃一撃を音速で放ち続けること数秒間、俺に降ってきた岩石は全て粉砕した。が……

 「っ!落ちた岩石が光って――」

 俺の周囲に落ちていた岩石が赤く光り出した。咄嗟に上へ跳んだ。その際勢い余って天井となっていた結界をそのままぶち破った。

 「な!?またも………っ」

 結界を張っていた竜人戦士たちは俺をあり得ないものを見る目で見た。
 そして俺が跳んだすぐに、案の定落ちていた岩石が一斉に破裂した。よく見ると小さな粒子が飛び散っている。あれをもろにくらうと蜂の巣にされていたな。

 “魔力多光線”

 エルザレスの魔法攻撃はまだ終わっていない。今度は口からいくつもの魔力光線を空中にいる俺に放ってきた。赤と緑と黄、三色の高密度な光線三つを、俺はまた素手で迎え撃った。

 「うおおおおおらあああああ!!」

 気合いとともに硬化した黒い腕にさらに魔力を纏わせて光線を殴りつける。ついでに体には「魔力障壁」を纏わせておく。

 ゴ………ボシュウウウウウウウウウウウ

 三条もの魔力光線を全て両の拳で殴り消す。リミッターを500%解除した俺の物理攻撃力は、あらゆる魔法をも素手で消し飛ばせるようになっている。

 「おいおい………全力で放った魔力光線を素手でだと……」

 さすがのエルザレスも、この結果には動揺を隠せなかった。外にいるアレンたちも当然驚愕と畏怖が混ざったリアクションをしていた。

 「ったく、ヤバい魔法や魔力攻撃を何発も放ちやがって。ゾンビじゃなかったらマジで死んでたぜ。
 じゃあ今度は、俺の番だ―――」
 「っ―――!!」

 着地すると同時に全力で走ってエルザレス目掛けて、「普通の拳」を思い切り放った。

 (これなら死なない、よな―――)

 渾身の一撃がエルザレスの鱗と分厚い筋肉に覆われた胴体に入り、真後ろぶっ飛ばした。

 「ぐ、おおぉ………!!」

 エルザレスは結界へ激突し、そして………

 ―――バリィイイイイイン!!

 結界を完全にぶっ壊した。

 「力の余波で、我々の結界を完全に破壊した……!」
 「素手であの巨体をあんな勢いで吹っ飛ばすなんて……っ」

 100m近く吹っ飛んだエルザレスが立ち上がるのを確認する。武装化はしなかったから内臓を破壊してはいない。まあ骨にヒビくらいは入ってるだろうが。
 
 「おい!結界が破れた状態であれだけの規模て戦ったら、本国に被害が―――」
 「心配すんな!ちゃんと被害が出ねぇ範囲で闘うから!」

 カブリアスの警告にテキトーに返事してエルザレスの方へ駆ける。

 「ぐ……魔力も纏っていないただのパンチで、ここまでのダメージを負うとは、もはや異次元だな」

 少しふらつきながらエルザレスは再び構えをとった。チート化した俺の拳をくらっても生き残ってる奴は久しぶりかもな。それに武術の達人だったり超高レベルの魔法だったりと、こいつは本当に強い。
 
 「バリアー結界が壊れたから強い魔法は使えないがまあいい。進化した状態での蛇竜武術でお前を地に伏してやるぞ!」
 「来いよ、ぶっ飛ばす」

 両者同時に飛び出して、拳を繰り出す!

 “蛇龍拳《じゃりゅうけん》”

 軌道が読めない動きから繰り出される無数の拳を、こちらも無数の拳を放って応戦する。

 バキバキガガガガガドゴゴゴゴゴゴ!!!

 両者の拳が激突する度に空気が激しく震動して耳を劈く程の爆音や破裂音が響いた。まるで近代兵器を使用したドンパチのようだ。

 「せい――っ!!」
 
 溜めて放った一撃で無数の拳ごとエルザレスを吹き飛ばす。

 ドゴォン!ボキバキッ!「ぐおおっ!」

 腕を半壊させて衝撃波を与えたことでエルザレスにさらなるダメージを蓄積させる。だがまだ倒れることなく、ぎらつかせた目でこちらを見た。

 「これで、最後だ……!」

 “九頭龍武撃”

 そして竜人族の最強の武術を繰り出してきた。

 リミッター550%解除―――

 対する俺もリミッターをさらに解除して全身を硬化させて、全力の一撃を放った!

 ―――ガキイイイィィィ……!!

 金属と金属が打ち合ったような音が鳴り響いた数舜後、

 ――――ドオオオオオオオオ……ッ!!

 大規模な衝撃波が生じて、地面が陥没して草木が吹き飛んでいった。

 「これはマズいっ!」

 観戦していたカブリアスや竜人戦士たちは咄嗟に「魔力障壁」を展開して、迫りくる衝撃波を防いだ。クィンも同様に展開してアレンを守った。

 「なんて、衝撃波……!これだけ離れているのにこの威力……っ」

 数秒経ってようやく余波が止んで震動も収まった。

 俺の周りには巨大なクレーターができていて、草木も消え去ってしまっている。まるで近代戦争があったかのような跡だ。

 「ふー…………何が力試しだよ。後半から完全に殺し合いみたいになってたじゃねーか。ここまで本気にさせられたのは本当に久しぶりだ」

 愚痴りながらも楽しそうに地面に座り込む。ゾンビだから肉体的ダメージや体力の消耗は無いとはいえ、神経を使ったから何となく疲労があった。
 つーかこんなに本気出したのは久しぶりだ。自分の力を存分に振るうのは面白いものだったんだな。

 「何が、本気だ………。お前、まだ…余力残してただろ………。こっちはもう限界だってのに、よ………」

 少し離れたところでエルザレスが大の字になって倒れ伏していた。息も絶え絶えでほぼ戦闘不能だ。

 「いいや、ちゃんと本気で闘ったぞ。ただし発揮できる力の範囲でだが」
 「んだそりゃ………トンチか?」

 脳のリミッター解除にはまだ余地があった。この肉体が耐えられる脳の解除の上限は、今はせいぜい1000%までだ。けどそこまで解除してしまったらきっと奴を殺してしまうことになるかもだから、500%台まで止めておいた。まあ500%の俺とここまでやり合えるのは十分強い。

 「久々に楽しい戦いができたぜ、エルザレス」
 「俺も………退屈が一気に吹き飛んだ、ぞ。カイダ、コウガ……!」

 エルザレスはぜぇぜぇと息を乱しながらも、にやりと笑った。

 こうして俺とエルザレスによる勝負は幕を閉じた。
  





 「とんでもない勝負だった……化け物どもめ」

 カブリアスは皇雅とエルザレスを見て呆れた顔でそう言うのだった。

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