世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

41話「竜人族の国」



  時は少し遡り、フードコートの中にある、とある料理店。
 旬の魚をたっぷりのせた海鮮丼を何杯も平らげているアレンと、アレン程ではないがそれなりに食べているクィンが二人向かい合って食事をしている。
 一息ついたところで、二人は会話を始める。

 「コウガさんって、あんなに戦闘が強いだけではなく、とても情報収集にも精を出していますよね。何だか慎重に思えるくらいに」
 「私もそう思ってるんだけど、コウガが、何事にも計画を事前に練って行動すれば、成功率が上がるって言ってた。コウガは強くて頭も良い!」

 アレンは少し興奮気味にコウガを褒めた。

 「そうですね。圧倒的な力を持つことに驕らず、しっかり考えて行動するあの姿勢には尊敬する気持ちでいっぱいになります」
 「私の伴侶は、コウガみたいな人がいい。そうすれば、昔よりももっといい鬼族の里をつくれる」
 「...みたいなってことは、コウガさんとは...そ、そういう関係になろうとは考えていないのですか?」

 クィンが照れながらアレンに聞く。

 「伴侶にするのは、仲間のうちの誰かと……って、鬼族の中ではそう決められている。けど私は昔から伴侶にしたいって思える男はいなかったし、これから再会出来た仲間の中に男がいなかったら...その時は、コウガと結ばれるのも、良いかも」

 途中からアレンが頬を赤らめて呟く。

 「アレンさん……(何で、こんなに複雑な気持ちになってるのだろう。私は、別にコウガさんとは……けど、気になる人ではあるような……)」

 クィンが何か悶々としているのをよそに、アレンがぽつりと呟く。

 「コウガは、仲間にはとても優しい。仲間想いのコウガに酷いことをして見捨てたっていう元クラスメイトっていう人たちって、それほどロクでもない連中なのかな...」

 それを聞いたクィンが落ち着きを取り戻して、会話に戻る。

 「確かにアレンさんや………私に対するコウガさんは、思いやりがあってピンチの時には助けてくれる、頼りになる人だと思ってます」

 クィンには皇雅が自分に対してもアレンと同じくらいに仲間意識を持っているかどうかの自信がなかった。旅の同行が始まってからまだ日が浅いし、そもそも自分は監視の立場で同行しているから、そのせいで距離があまり縮まってないのではと、心の奥ではそう考えてしまっている。
 わずかにどもったのはそのせいだ。

 「ですが……コウガさんはどこか過激なところがあると思います。昨日のこともありますし…」
 「…?あの冒険者の腕を斬って潰したあのこと?」
 「うう、言い方…。コウガさんは普通の人と比べて短気なところがあります。あれでは行く先で次々トラブルを起こしかねません。場合によっては兵士団に捕らえられる事案にまでなりかねませんよ」
 「そうなの?」
 「ええ。だからアレンさんも、コウガさんがあまり暴走しないよう止めてあげて下さい。私の力や言葉ではコウガさんを治めることはあまり出来ないと思いますから」
 「うーん……私も正直、昨日の冒険者たちには腹を立ててたから止める気なかった。
 というか、コウガに悪口言う人たちはみんな嫌い。コウガ悪いことしてないのに勝手に馬鹿にされたり悪く言われたり…。だからコウガが怒って悪口言ってちょっかいかけてくる人たちに攻撃するのは、私止めたくない」
 「気持ちは分かりますが、行き過ぎると大変なことに……」
 (やっぱりアレンさんでは止める役は務まらない…。私が出来るだけコウガさんのストッパーにならないと……)

 自分が皇雅の監視役である以上、しっかり彼を治める役目を務めようと、クィンは内心で強く決意するのだった。

 「クィンは、復讐して欲しくないって言ってたよね。どうしてそこまで私に魔族への復讐を止めさせようとするの?」

 今度はアレンが話を振ってくる。昨日クィンがアレンの復讐について反対的だったことが引っかかっているらしい。

 「私が旅しているのは復讐の為でもある。両親や仲間たちの命をたくさん奪ってきたあのモンストールを殺すために…。モンストールだけじゃない、散り散りになりながらも生き延びようとした仲間たちを襲ってきた他の魔族たちも赦さない。あいつらのせいで僅だった仲間たちがさらにいなくなってしまった。
 だから、私は他の魔族たちにも復讐する…!」
 「……。魔族間では領地争いなどを理由に、頻繁に戦をしているとは聞いています。そのせいで魔族が他の魔族を恨み、攻撃するようになってしまっているのでしょうか…。
 アレンさんは復讐というやり方で、もう失ってしまった仲間たちの無念を晴らそうとしているのですね。それが人殺しという結果であろうとも……」

 悲し気にクィンはそう言葉をこぼす。クィンの反応を見たアレンは複雑な気持ちになっている。
 復讐を反対するのは自分のことを想ってのことだと、分かっているのだ。しかし彼女にとって復讐を決行することは譲れないものとなっている。クィンの好意や優しさを突っぱねてでも成し得たいことなのだ。

 「コウガさんには……復讐を止めるようにとは言われてないのですか?」
 「うん。初めて会った時、コウガにも同じことを話した時……“私の気持ちが分かる”って言ってくれた。復讐したい気持ちがよく分かるって、言ってくれた」
 「そう、ですか」
 「初めて会った時も、コウガは私を敵として見なかった。それどころか私と手を組もうって言ってくれた」

 アレンは洞窟で皇雅と会った時のことを振り返る。

 「コウガに会うまでは、人族からは敵対されてばかりだった。みんな私を魔物だと勘違いして襲ってきた。
 でもコウガは……あの時ずっと心細かった私に、唯一手を差し伸べてくれた。お互いの過去について話し合って、私と境遇が少し似てるって知ったことでより仲間意識が芽生えた。
 今の私にとってのコウガは、かつての里にいた仲間たちのような関係だと思ってる。コウガには感謝している。私を受け入れてくれたことに」

 頬を緩ませて楽しそうに語るアレンを見て、クィンも笑みを見せる。

 (お二人にはもう強い絆が結ばれているのですね。羨ましいくらいです。お互いに辛い過去があったこともあってその痛みを分かち合ってもいる。だからコウガさんはアレンさんの復讐を否定しようとはしない。アレンさんもコウガさんの過激なところを止めようとは、しないのでしょうか…?)

 最後の部分には疑問が残った。鬼族の価値観違いからアレンはコウガを止めようとはしないだけなのかもしれない。

 (私も、コウガさんたちの仲間として…これからも一緒に旅をしていたい……)

 皇雅とアレンのことをさらに知ったクィンはそんな願望を抱いた。しかし彼女はサント王国の兵士。いつかは皇雅たちとは別れる時がくるのだろうと思うと、寂しさを感じられずにはいられなかった。

 「クィンの気持ち、私は嬉しく思ってる。鬼族の私にこうして親しくしてくれる人族は、クィンが二人目だから。クィンも仲間、だよ」
 「……!ありがとうございます。そう言ってくれて安心して嬉しく思います…!」

 アレンからそう言ってもらえたクィンは内心でも歓喜していた。少なくともアレンは自分のこと認めてくれていると分かった。
 同時に皇雅はどう思っているのかが気になってしまった。

 それきり会話は途絶え、二人は皇雅の帰りを待った。

 「おーっす、待たせた。休めたか?」

 しばらくして、アレンたちにとって頼りになる男、皇雅が戻ってきた。
  


                  *

 「竜人族…!この男が仲間たちのことを!?」
 「ああ。これからこいつの伝手で竜人族の国へ行くことになった。早速行くとしようぜ」
 「竜人族の戦士、ドリュウだ」

 国への案内人として新たに同行することとなった竜人族…ドリュウを連れて、アレンとクィンがいる店に入り、二人と合流する。
 テーブルを見ると、空になった皿やどんぶりが沢山あった。満足していただけたようで。
 二人の食事代を支払って店を出て、二人のことを紹介する。

 「赤い髪の女性がアレン、さっき言った鬼族だ。もう一人のお姉さんはクィン、サント王国の兵士だ」
 「………強いな。最近“進化”したか?」
 「へぇ、分かるんだ?」

 ドリュウはアレンを見ただけで彼女が相当の戦士であると見抜いた。大した洞察眼だ。進化っていうのは「限定進化」のことだろう。

 「それよりも、仲間たちが国にいるって話は本当?」
 「確かだ。竜人族の戦士の中でかなりの凄腕の持ち主であるこいつが言うんだ。確か族長のとこで五人保護しているようだ」
 「無事で、いるの?病気になっていたりしない?」

 アレンはドリュウに問いかける。彼は大きく首肯して無事にいると告げる。
 それを聞いたアレンは、目に涙をためて、よかったよかったと安堵の感情を吐き出した。

 「連れて行って。竜人族の国に。仲間たちに会いたい」

 彼女は強い意志を滾らせて、案内を催促する。

 「じゃあ、案内頼む」

 俺の言葉にドリュウは頷き、竜人族の国へ同行を始める。



                   *
                   
 船着き場から竜人族の国へは直結していて、入国エリアで大きな門と大きな門番があった。
 魔族は、人族や違う種の魔族を領地に入れることを良しとはしない風習がけっこう定着しているらしい。ここも例外ではないようで、俺とクィンを見て、門番二人が立ち塞がる。
 そんな彼らにドリュウが、大事な客だの、鬼族に関係することだの、族長に会わせてくれだの色々言って、入国の許可をもらえた。ドリュウに促され、門を通過して入国。

 竜人族の国――「サラマンドラ」。人族より昔から繁栄して、最近は人族の技術を習っている。さっき寄った場所での情報交換で学んで得た技術なのだろう。暮らしが人族に近い、斬新な人外の生活基盤を見た気がした。人間サイズの者がいれば、想像通りのドラゴンや、さっきの門番みたいな巨漢もいた。
 しばらく進むと、目立った集団が待ち構えていた。ドリュウがそいつらのところへ行き、何事か会話する。
 そしてドリュウが俺たちを手招いたので、俺たちもそこへ行く。
 その集団は、誰もが派手な服を着ていた。渋谷とか池袋に行けば頻繁に目にしそうな、派手柄の服装だ。
 いや…よく見ると、戦闘服にも見えるな。どちらにしろ隠密には絶対向かねー奴らだな。
 その中でもいちばん派手柄服(まっ黄色で花柄のカッターシャツ、なんかチェーンをいくつか巻いた黒ズボン。不良コス?)を纏っているムキムキなオッサンが挨拶してきた。


 「お前らが入国する前から、ドリュウから連絡は聞いている。
 ようこそ竜人族の国サラマンドラへ。俺は族長のエルザレスだ」
 

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