世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

37話「竜人族についての基礎知識」



 翌朝、俺たちは国の北端にある港に向かった。港に着くと近くに飲食店がいくつか開いていた。朝が早い漁師の為に朝早くからやっているそうだ。俺たちもそこで簡単に済ませられる食事を摂った。ここで食べておかなければ、目的地であるアルマー大陸に着くまで食事ができないからだ。
 アルマ―大陸へ行く理由は単純、その大陸に竜人族の国があるからだ。
 ここからアルマ―大陸へ行くには、海を渡らなければならないので、ここで船を買わなければならない。少し待てば、大型船が運航し、半日以上かけてドラグニアへ向かうことになっているのだが、それに乗ることは良しとしなかった。
 半日は遅すぎる。3~6時間で着くようにしたい。
 船が買える店に行き、3~4人乗りの船を買う。10万ゴルバ払って手に入れ、海に浮かばせる。

 「よし、もう行くとするか」
 「うん。海を渡るのは初めてかも」
 「ですが…この船でこの先の海を渡るのは危険です。やはりちゃんとした船を買った方が良いですよ」

 ワクワク気味の俺とアレンとは反対に、クィンは不安がっている。彼女が言うには、ベーサ大陸とアルマ―大陸間の海には海棲の魔物と時々モンストールが現れるらしい。
 大陸間を移動しようというなら船も含めて万全の装備と準備が求められるものだとか。

 「確かに普通ならこんなのじゃ不安だろうが、安心しろ。今回は俺がいるから」
 「それはどういう…」

 普通に行くと遅いし、こんな船じゃ敵に沈められる恐れがある。
 そこで、魔法を使って何倍もの速さでかつ敵に見つからずに海を渡る方法で行く。
 魔法は何も相手を殺すためだけにあるんじゃない。工夫すれば、生活をより豊かに便利に変えられる。
 まずは船の隠密化だ。誰にも気づかれないように「迷彩」で俺たちの船を認識させないようにする。これだけで大概の敵に見つかることはなくなるだろう。
 次に船の高速移動化だ。船体に水魔法「アクアジェット」を付与する。もうこの時点で、通常の3倍以上の速度が出るが、まだ納得しない。もっと速くするぞ。

 「嵐魔法『追い風』」

 嵐魔法レベルまでいくと、「追い風」の風速は、台風3つ分の突風くらいに強烈だ。さらに、風が吹く範囲を船の周囲に限定させる。集中突風を発生による超高速船がここに誕生。速度は線路を走る新幹線をも上回る。

 「出航!」

 俺たちが乗った船は超高速で海を進んでいく。とても速く進んでいるにも関わらず揺れはほとんど無い。

 「す、凄く速い!景色がすぐ変わっていく!」
 「相変わらず規格外ですね…!」

 アレンもクィンもこの速さに驚いている。クィンは若干呆れた様子だったが。
 この速さで行けば三時間くらいで着くはずだ。


 「さて、これから会う予定の竜人族についてもう一度おさらいしておくか」
 
 クィンを見て竜人族がどういう種族かを改めて聞くことにする。

 「ではもう一度、竜人族について知っている範囲で教えます。
 竜人族は人族が栄える前から国を創り上げていたと聞いています。魔族の中で最も古くから存在していて、最も強い種族であることも…」
 「魔族間での争い相手は、鬼族がいちばん多かったそうだよ。私が生まれた頃にはお互いでの争いがもう無くなっていたから、私は竜人族と戦ったこともないし会ったこともないけど」
 
 “竜”って言うだけあってその種族の歴史は長く、とても強いそうだ。アレンが言うには鬼族が最も争った相手が竜人族だったとか。両種族はライバル関係にあったそうだ。

 「竜人族と人族の関係ついてですが…。私が習った歴史の中でも、人族が竜人族と関わったことはほとんど無かったことが明らかになっています。かなり昔にドラグニア王国とで領地争いがあったくらいだそうです。
 ここ数十年も竜人族とは、争いも経済的交流も文化的交流が無い状態です。せいぜい領地の不可侵条約と不戦条約を結んだくらいでした」

 言うなれば人と竜は、互いに干渉しないことを約束しただけの関係か。モンストールを相手に共闘することもしない、全部自分たちの力で何とかするということか。
 どちらかがもし武力の援助を頼むというのなら、人族あるいは竜人族には国として機能していない、終わっていると断定されて見下されることになるということらしい。
 互いにプライドが高い故に、こんな情勢でも人族が魔族に、魔族が人族に援助を求めることは無いということか。

 そんな関係にある人族と竜人族のどちらかが、どちらかの国に行こうというのなら、当然問題が生じることになる。

 「まず私たちが真正面から国に入ることは許されないと思います。下手をすれば門前で攻撃される可能性も高いです。あらかじめアポイントメントを取っておくか、誰かの伝手が必須となるでしょう。魔族は基本、人族に対しては鎖国的ですから…」
 「今回俺たちが実施するのは後者…伝手を得る、だな。
 そこは大丈夫だと…思う。用心棒がいるって話だったが確証はない。もし外れだったらまたやり方を考えねーとだが」

 今回はいきなり国を訪問して、こじれて争うってわけにはいかなそうだ。返り討ちにするのは簡単だろうが、そうすると捕虜になっているかもしれない鬼族たちがどうなるか分からない。今回の俺はあまりイキり散らさない方が良いな。



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