世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
32話「vs上位レベルモンストール群」
「コウガさんがいるとはいえ、私たちだけでモンストールの群れを全滅させられるのでしょうか…少し不安です」
モンストールの群れがいるとの報告を受けている目的地へ行く道中、クィンがこちらの戦力を気にすることを言った。
「受付嬢の言うことには、敵はランクがBとAのモンストールばかりだろ?なら問題ない。雑魚だ。まぁ災害レベルの群れなら骨が折れるが」
「ざ、雑魚……!?上位、それもAランクは1体につき精鋭兵士10人以上でかかってようやく互角になれるくらいの強さを持っているのですよ!?それが群れでいるとなると、少なくとも兵士100人は出動すべきレベルなのに...」
「まだ不安そうだな?クィンがその兵士100人分の強さじゃないのか?」
「いえ!?私なんかまだまだで...!?」
「それにアレンもいる。兵士200人相当の強さだ!」
「……♪今回は私も頑張る!」
俺の太鼓判押し発言にアレンが照れつつ頑張り宣言をする。
「そして、俺は兵士1000人以上の戦力を有している。比喩でも冗談でもないぜ」
「それは…エーレ戦でのあれを見れば分かりますが…」
そう言っているうちに、目的地へ着く。その場所は小さな村…アリサ村の跡地だ。
この村は数日前にモンストールの群れに襲われ、滅んだ。村民は大半殺され、残りはどうにかイード王国へ逃げ延び、このことを国王に報告した。それで今回のクエストが発生したわけだ。
現在この村は、あいつらの住処になっている。ここを潰せばクエスト完了だ。
村に入るなり、1体のモンストールが飛び出す。3m程度の大きさの下位レベルだ。斥候兵といったところか。
クィンが迎え撃ち、これを切り伏せる。固有技能「剣聖」による見事な一閃だ。
「やっぱりやるじゃん。これなら自信持ってあいつらとやりあえるぜ?」
「いえ、ありがとうございます」
褒められて照れくさそうにするクィン。それを見たアレンが頬を膨らませる。
「むー。次は私が活躍する」
「おう。頼んだぞアレン。じゃ、行こうか」
斥候のモンストールを灰にして村の中心部へ進む。
そこには、瘴気が漂う異様な空間と化していた。モンストールが集まれば、地下じゃなくても瘴気が発生するようになるみたいだ。あたりには人骨らしきものが転がっている。逃げ遅れた村民が食われた痕跡も見られる。なかなか酷い光景だ。
「酷い……これがモンストールによる蹂躙の後の……っ」
「…………」
クィンが悲痛な表情を浮かべて呟き、アレンもこの光景を忌まわしげに見ている。二人とも奴らの被害に遭ったことがあるから、それぞれ良くは思っていないのだろう。俺もあいつらに殺された身ではあったが、当のそいつらをぶちのめしたからもう何とも思わないが。
それにしてもこれがモンストールによる蹂躙跡か。初めて見るが凄惨なものだ。
ラノベや漫画でこういった描写はいくつも読んで見たことあるが、そういうのを実際にこの目で見ると酷いものだ。人の命をこれでもかという程に弄んだ跡ばかりだ。
今の俺は他人の生き死になど全く興味が無くどうでもいいと思ってるが、見ていて良い気分にはなれないな。
(けど…俺を見捨てたあいつらがこうなってたら、スッとはするのかもしれないな…。俺を蔑んで罵って虐げて捨てた報いを受けて、ざまあみろと思える。そんな時は果たしてくるのだろうか)
などと人として間違っているであろう考え事をしながら村を進んでいくと、壊した民家からモンストールどもがぞろぞろ現れた。全員上位レベルのようだ。ここからが本番か。
「アレン、いっぱい活躍してくれ。クィン、やばくなったら俺が入るから思い切り突っ込め」
「うん!」「は、はい!」
二人とも頷き、共に戦地へ向かう。
*
BとAランクの群れ…とはいっても、弱いCランクも混じっている。アレンもクィンもCやBランクの奴らは難なく倒しているが(クィンの実力は、おそらくサント王国でいちばんだろう)、A ランク相手には苦戦している。
「雷鎧」で肉体強化したアレンの拳闘術を受け止める肉体を持つ大猿型のモンストール、クィンの剣術や魔法を躱して、跳ね返すカマキリ型のモンストールなど。少なくとも2体以上Aランクの奴がいるな。
倒せないと判断した二人はいったん周りのCランクやBランクを片付ける作戦へ。
アレンは、を突いた激しい打突や雷を纏って貫通力を上げた突き技でばたばた倒し、クィンは、右手は剣で、左手は魔法でガンガン倒していく。あっという間に残り2体となった。
謙遜していたクィンもやっぱり強い。彼女がサント王国でいちばん強い兵士だろうな。
しかし、二人の快進撃も、Aランクの奴らの前でストップした。大猿のトリッキーな動きに対し、アレンは「神速」で応戦するも、倒すには至らない。一方のカマキリは、その鋭利な刃物がついた両手でクィンに斬りかかる。彼女も「剣聖」の腕で対抗するが、押されている。カマキリの戦闘法で有名な「螳螂《とうろう》拳法」。こいつも使えるみたいだ。それによってクィンが攻めあぐねている。魔法もひらりと躱されている。それどころか奴の攻撃を受けまくり、けっこうピンチだ。
クィンがこちらを見る。その眼にまだ戦意は消えていない。
「私たち兵士は、人族の希望です。私たちが敗けることは許されない。前のような失敗はできないのです!!」
そう叫び、彼女は自分の剣に火を纏わせる。剣術と魔法の合成技。これはかなり難しい技術だ。たくさん努力した成果だな。火の剣の剣撃にカマキリは怯む。火属性が苦手のようだ。
その隙に、風魔法を放ち、すぐさま斬りつける。風によって火の勢いが増し、そのままカマキリを襲う。
だが、決定打に欠ける。奴の固い体を切断するには至らないようで、反撃を許してしまう。
「私に、もっと剣の腕が立っていれば…!」
自分の力不足を嘆くクィンは、ついに追いつめられる。
「一人では、Aランクのモンストールには敵いませんでしたか…」
「そう気を落とすな。これだけやりあえたのなら十分だろ?」
カマキリが振り下ろした一撃を「硬化」した腕で受け止める。いつの間にか割って入った俺を見て驚くクィンを見て俺は不敵な笑みを浮かべる。
「コウガ、さん」
「これ以上は無理だろ?あとは引き受ける!」
カマキリが標的を割り込んできた俺に変える。独特な構えをとり、一気に俺に襲い掛かってくる。
普通の兵士や凄腕の冒険者にとって、こいつは間違いなく手強くて苦戦せざるを得ないモンストールなんだろうな。Aランクのレベルでもクィンやアレン一人では倒しきれないレベルらしい。
だが、相手が悪い。俺はテメーら上位レベルよりもさらに強い災害レベルの奴らをたくさん屠ったチート野郎なんでね。というわけで、
炎熱魔法――『炎槍』
炎だけでできた細長い槍を生成し、それを豪速で投げつける。
避けることはできず、腹部にどすっと刺さり、発火する。
ぎいいい!っと悲鳴を上げて、刺さったまま後退するカマキリ。それを見やりながら、俺は、脳のリミッターを外す。
「200%解除。さらに、大地魔法」
同時に、大地魔法を発動して砂でできた壁を出現させ、さらにそれをトランポリンのような弾力を持った性質に変える。その砂壁を思い切り蹴って跳弾して、爆発的スピードを生み出して一気にカマキリに迫る。
そして渾身のラリアットをカマキリの首に食らわせる。
当たった瞬間、ドカンと大爆発した。左腕に爆破系の炎熱魔法を纏っておいたからな。爆発でカマキリの頭が吹っ飛んだ。体をビクビクしたのち、そのまま倒れて動かなくなった。死んだみたいだな。
生身に魔法を纏うのは、武器にするよりも簡単だが、下手すれば自傷行為につながることになるリスクがある。ましてや、爆破系などいちばん自殺行為だ。実際、今ので左腕が粉々になったしな。
「こ、コウガさん!その腕!!」
クィンが駆け寄りながら俺の左腕を見て激しくうろたえる。
「気にしなくて大丈夫だ。俺のことよりアレンがどうなったか、行こう!」
まだおろおろしているクィンの手を引いて、アレンのところへ向かう。
*
こいつじゃない。私の家族と仲間を殺したのはこいつじゃない。
大したサイズじゃなかった。...少し大きめの《《人族くらいのサイズ》》だった。なのに、規格外の強さだった。
そいつが今回のクエストでいるかもしれないと思ったが、こいつではなかった。
それでも、今の私では苦戦してしまっている。この程度では、私の仇敵を倒すのは到底叶わない。
これではだめだ。もっと強くならなきゃ。誰のように?
コウガ。彼は、私の目標だ。彼についていくだけでは強くなれない。彼の戦いを見て、私も同じことができるようにする。
そうすることで、コウガに少し近づける気がする。
だから、このモンストールは踏み台だ。私が強くなるための踏み台だ。そして復讐でもある。この世からモンストールを滅ぼすことも私がやりたいこと!
そのために、ここでさらにっ!
体に違和感が生じた。何か、力が溢れてくるような感覚だ。
というより、体が大きくなった気がした。目の前にいる大猿との目線が変わった。まだあいつより背が低いが、さっきよりも強くなった気がした。
「神速」を使うとさっきよりも速く動けるようになっている。大猿の背後に回り込む。私の動きについていけてないようで、背後ががら空きに。
「雷鎧」を発動すると、さっきよりも色が濃くなった。
いける。そう確信して、私に気づいていない大猿の背中を目がけて駆ける。
「見切り」で急所を見定め、そこに鬼族特有の「金剛撃」を発現した豪腕とさっきより純度が増した雷の鋭利なオーラを合わせた一撃を叩き込む!
ズンといった音と雷のバチバチ音が同時に鳴り響く。
大猿は、突然自分の腹から出た手を見て驚愕の顔になる。やがて、急所を正確に突かれたことに気づいて、力なく倒れる。血の塊を吐き出して、そのまま動かなくなった
*
「あれは…」
アレンのもとへ来た時、彼女の体に変化が見られた。身長が数10㎝伸びて、筋肉の体積が増加し、鉄色の皮膚に変化した。さらに、雷のオーラも鮮やかになり、「神速」のスピード、大猿を貫いたあの攻撃力。全てが前よりレベルが上がっていた。
「鑑定」でアレンの身に何が起きたのか確かめてみる。
ステータスが全て洞窟で見た時より5倍くらい跳ね上がっていて、固有技能に新しい項目が出ていた。
『限定進化』 魔族特有の形態変化技能。一時的に、形態・ステータス・技能を全て大幅強化させる。戦闘が終われば、全て元に戻る。レベルの上昇に比例して、強化の規模も大きくなる。
戦闘中において限定的にパワーアップする仕組みか。ゲームで見た何とか進化って戦闘で進化のさらに上の進化が起こるのと同じものか。
なんにせよ、アレン一人でAランクのモンストールを倒したみたいだ。彼女はもうSランク並みの強さを持っていると思う。
魔族って凄いな、成長速度はきっと人族を上回っている。異世界召喚の恩恵を得たあいつらなんかにも負けない、いやきっとそれ以上の力はまだ秘めているだろう。これからさらに面白い成長が見られそうだ。
これで、群れは全滅した。クエストクリアだ。
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