世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

18話「鬼の娘、アレン」



 衝撃的だった。まさか、俺以外に敵を殺した後それを食らう奴がいたとは。捕食行為をするということは、こいつ俺と同じゾンビか…?

 「そのままでいいから質問に答えてくれ。お前は、ゾンビなのか?一度死んでいるのか?」

 とりあえず敵意が無いことを伝えつつ、目の前にいる女がゾンビかどうか尋ねる。

 「ゾ...ンビ……?私は、鬼《オルゴ》族」

 と、彼女はきょとんとした表情で答えてくれた。「鬼」か。またもファンタジー世界によくある種族が出てきたな。それに、人間の俺と言葉や意思疎通もできるようだ。敵意が無いことが伝わったのか、向こうは身構えることなくリラックスしたままだ。

 つーか、口を動かしているのだが、あの口の中には、あいつの足元にある生物どもの肉があるんだよな。生で食ってんのかなー。

 「あー、食事中に悪かったな。つーか、それ、この洞窟に棲んでいる獣とか蟲とかだよな?食べて平気なのか?」

 鬼女の手にある肉片っぽいのを指しながら聞いてみる。

 「うん。今食べているのは狐の獣種の肉。獣種の肉は生でも食べられる。でも、蟲はダメ。食べられない」

 またも律義に答えてくれた。そしておもむろに立ち上がって、こちらに歩み寄ってきた。うへぇ、鉄臭さと生臭さがきつい。顔を顰めないようにしつつ彼女の全体像を見る。175㎝はある俺と同じくらいの身長、側頭部には左右に人差し指サイズの金色角が生えていて、スラっとして引き締まった脚、スレンダーで筋肉質なアスリート級の体をしている。鬼にしては細身だ。メスだからか?その体にはあちこちに傷がついてる。この洞窟で戦闘を何度かしたのだろう。

 と、目の前の鬼女を分析していると、彼女が手にしている肉を差し出して、
 「あなたも食べる?」と言ってきたので、丁重に断った。

 「ところで、また質問だが、この洞窟のあちこちに人族の死体があって、松明の消された痕もあったのだが、あれはお前がやったのか?」

 と、流れに任せていちばん気になることを尋ねると、鬼女は険しい表情で俺から距離を取り、睨んでくる。

 「それ、全部私がやった。みんな、私を襲うから...この角見て、鬼は魔物と一緒だからって。みんな、返り討ちにした。そしたらみんな死んじゃった。火も私が消した」

 自分の頭に生えている角を指さして俺を警戒しながら自白してくれた。
 金色の角を生やした鬼はどうやら希少種のようだ。いや、鬼族自体が希少なのだろうか。そんな彼女の角で大金を得ようと冒険者や賞金稼ぎなどが洞窟の魔物を狩るつもりで襲い掛かったが、全員彼女に返り討ち、そんなところか。

 自分で勝手に事の顛末をまとめていると、鬼女がおそるおそる俺に近づき、鼻をくんくんと臭いを嗅いでくる。何やってんだこいつと不審な目を向ける俺に向き直り変なものを見たような目を向けられた。なんでだよ。

 「あなた、変。今まで遭ってきた人族と違う臭いがする。襲い掛かってきた者はみんな生きている臭いがしてた。けど、あなたからは...死体と同じ臭いがする。普通に会話しているのに、死んだ生き物が放つ臭いと同じ。...あなたは、何者?」

 死んだ臭い、か。他の生物も俺をおかしなものと思っていたのか。自分の臭いには鈍くなるものだが、俺はくさいのか?カルス村では、くさいだのなんだの言われなかったから、少なくとも人族には臭わないようだが。

 「お前が思っている通り、俺は死んでいる。元人族といったところだ。原因はよく分からないんだが、今はゾンビとして活動している。生きているとは言えない体だが」
 「ゾンビ...。知らない種族。人から魔物になったの?」
 「仕組みとしては似たようなものだ。ゾンビは種族というより、死体そのもの。死んだ生物が動くものはみんなゾンビと呼ばれるんだ」
 「そう...。変わっているのね」

 俺から見て彼女も変なのだが、言われたな。

 「それで、あなたも、角を狙うの?敵になるの?」

 再び身構えて警戒態勢に。確かにこいつを狩って大金を得られるかもしれない。だが、俺から意思疎通できる奴を害することは基本しない。こいつにはまだ攻撃されていないしな。

 「狙わない。お前が襲ってこない限りは敵にならない。無意味に殺す趣味は無い」

 敵意は無いとばかりに、その場でどかっと胡坐をかいて座る。それを見た鬼女は警戒を解き、元のところに座り、食事を再開する。

 「ここで会ったのも何かの縁。お互い自己紹介しないか?俺は皇雅、甲斐田皇雅だ。元人族で職業は片手剣士からゾンビになった」

 鬼族について興味もあるし、こいつがどういう理由でこんなとこにいるのか知りたいし、ここは腹割って話そうではないか。
 その意気が伝わったのか、彼女はこちらを向き、口の中を飲み込んで自己紹介を始めた。

 「私、アレン。鬼族の中でも希少種である金角鬼《きんかくおに》の生き残り」

 ―そして、彼女自身の生い立ちの話に入る。 



                   *

 アレンは、鬼族だけが暮らす里で生まれた。鬼族にも種類があるらしく、彼女はその中でも珍しいとされる金角鬼として生まれ、さらに初期ステータスも非常に高く生まれ、子どもの中だと歴代の金角鬼で最強と評価されたそうだ。父は鬼族の長で、母は全ての鬼族戦士の中で最強の戦士だった。アレンはいわゆるサラブレッドという子だった。

 鬼族は人族から見ると魔族に分類される。意思疎通が取れずモンストールと同じ害獣扱いされるのを魔物と呼ばれるのに対し、意思疎通が取れ、人族と同じ生活ができるのを魔族というらしい。
 アレンは幼くして母とともに魔物を狩りに出て、鬼族以外の魔族と領地争いにも参加していた。当時、魔族と人族はお互い領地を侵略しないという暗黙の協定を結んでいたため、魔族は魔物か魔族としか争わなかったそうだ。
 ステータスだけではなく、戦闘センスも優れている彼女は、15才にして鬼族のトップクラスの戦士となり、他の魔族との大きな戦にも参加するようになり戦果も挙げたそうだ。将来は歴代最強と評価された母をも凌ぐと本人からも言われたそうだ。
 もちろん戦以外での生活も充実していた。同世代の仲間たちと遊んだり稽古したりして親睦を深め、家族とも毎日楽しい日々を送っていたそうだ。


 ところが、人族とモンストールとの戦争が激化してきた頃、彼女たちの村にも危機が訪れた。人族が討ち損じたモンストールたちが魔族の領地にも襲ってきたのだ。始めのうちは戦士たちは侵略してきたモンストールどもを難なく倒せていたが、ある時尋常ではない強さを持つモンストールが出現し、そいつより多くの鬼が殺されてしまった。村でいちばん強い子ども戦士だったアレンでさえその化け物に対し戦意が喪失したくらいだった。
 唯一そのモンストールに立ち向かった母と父によってに里から逃がしてもらいアレンとわずかな仲間たちの命は救われた。
 だが彼女の両親は足止め役を買って出て里に残りモンストールどもと戦った。その結果...モンストールに殺されてしまった。

 里から逃げた後も、モンストールや魔物、さらには他の魔族にまで襲われて、多くの同胞が死に追いやられた。
 アレン自身もそれらをどうにか撒いて逃れてを繰り返して、今までどうにか生き延びてきた。そしてこの洞窟に来てからは、ついには魔物と勘違いされた人族にまで襲われていた......というわけだ。




 この洞窟に入る前に人族の村には行ったのかを聞くと、今の自分を見て人族に敵対されたくないという理由でスルーしたそうだ。自分が満身創痍だってのに人族を怖がらせたくない理由で関わらないようにするとは大した子だな。

 因みにアレンは俺と同じ17才だ。高校生の年齢でここまで過酷を強いられるなんて、俺なら軽く死んでたろうな...。
 驚くことに、アレンもあの瘴気のところで一時期過ごしていたそうだ。同胞を殺したモンストールへの復讐と、両親を殺した強いモンストールを殺すための修行のためらしかった。その甲斐あってレベルもステータスも格段に強くなったみたいだ。

 因みに俺は、はじめにアレンを見た時、さり気に「鑑定」でステータスは全て把握していた。仮に彼女が襲ってきたとしても、即対策はできたので俺は身構えることなく会話していた。彼女のステータスは、こんなところ。


アレン・リース 17才 鬼族(金角鬼) レベル55
職業 拳闘士
体力 800/1500
攻撃 2000
防御 1600
魔力 500
魔防 1600
速さ 1700
固有技能 鬼族拳闘術(皆伝) 雷鎧 咆哮 神速 見切り 夜目 気配感知 金剛撃
 

 レベルが上がったクラスメイトどもと互角レベルだな。鬼族特有っぽい固有技能もある。ただ、魔力の才能だけは恵まれなかったようだ。それでもお釣りがくるくらい他の能力値が圧倒的だ。鬼族最強の肩書も納得いく。

 「コウガ、あなたも私と同じ...それ以上に深いところで過ごしてたんだ。人族なのに、強いのね。その…仲間に見捨てられて、あなたもモンストールに殺されたんだよね?」

 俺もアレンに自分の経緯をかいつまんで教えた。一応、異世界召喚のことは伏せた。俺の話を聞いた彼女は俺を複雑そうなものを見る目を向けた。モンストールに殺されたことに心を痛めている様子だ。仲間が殺された経験をしている彼女と俺を重ねたのだろうか。

 「あいつらは初めから俺を仲間だと思ってなかったさ。そして俺もあいつらを仲間だと思っていない。もう他人も同然だ」
 
 そう、もうあいつらなんかどうでもいい。強くなってモンストールを討伐しまくって世界を救うなり、返り討ちにあって死ぬなり勝手にすればいい。もう関わりたくないクズどもと同行しないで良い、顔を見ないで良いと思えば清々する。

 「コウガは……コウガを見捨てたくらす、めいと?たちを憎んでないの?“復讐”しようとは考えないの?」
 「…!」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品