トップウォーター

銀足車道

水面の太陽

 鳥の鳴き声で目が覚めた。カーテンが開いて光が差し込んでくる。
「起きた?修人君」
 アカネさんは背中に光を受けてまるで天使のようだ。風が勢いよく入って来る。アカネさんの髪が揺れている。いたずらに。丸助が照れたのか、横に倒れた。
「サンドウィッチ作って置いたから食べてね。じゃああたしはこれで。テレビの打ち合わせがあるから」
「ああ。アカネさん。ありがとう。またね」
「また。バイバイ」
 一碧湖での釣行以来のアカネさんの手料理。テーブルには卵サンドが置かれていた。それを見ると俺はすぐさま手に取った。そして口に放り込んで咀嚼。あの味だ。一碧湖のベンチで食べたあの味と変わっていない。俺は二つ目、三つ目と寿司を食うようなスピードで平らげた。
 ベッドにはアカネさんの香りがまだ残っている。甘い香り。これは俺の恋の香りだ。インターホンが鳴って葉光社の編集者が顔を出した。俺の新連載『トップウォーター』は中々読者に好評であるとのことだった。俺は新しい原稿を渡した。
 散歩をする。暖かい春の陽光に照らされながら、テンポよく歩いて行く。散歩によってアイデアを捻出する装置が起動する。次回作はAIについて書くことに決めた。歩きながら井之頭公園に差し掛かった。公園の入り口を抜けると土の道。林は風に揺れてさらさらと音を立てている。俺は大きく深呼吸をする。新鮮な空気が体の中に入っては吐き出される。東京にも心安らぐ場所があるのだ。
 ベンチに座って池を見ながら煙草を吸っている。すると後ろからこんな声が聞こえた。
「ここ禁煙なのにね」
 ああ。いけない。ルールは守らなければならない。俺は慌てて火を消した。野良猫がこっちを見てため息をついた。
池の中央に架かる橋の欄干に腕を置いて池を眺めると、ここにもスワンがあって恋人達が楽しそうにはしゃいでいる。やはり無邪気に水面の太陽をギザギザにしているのだった。

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