トップウォーター

銀足車道

女芸人デザート

 石ころを蹴飛ばしながら、湖の歩道を歩いている。湖にはスワンの他にボートが幾つか浮かんでいて、そのほとんどは釣糸を垂らしている。魚はまるで彼らのご機嫌を取るかのように、水面を跳ねて最後の抵抗を見せる。それが期待されているパフォーマンスなのだが、もちろん魚はそれを望んではいない。ただただ捕食の為の行動に対する罠だ。口に鋭利な針が貫かれ引き上げられる。俺は魚じゃなくてよかったよ。と思って魚を見ると、「俺はそんな卑劣な人間じゃなくて良かったよ」というような目で魚は俺を一瞥した。けっこう。けっこう。
 そういえば、アカネさんはルアーでブラックバスを釣っていたらしい。小さい頃、俺が稲取の海でやっていたのは、アジのサビキ釣り。サビキは疑似餌だ。オキアミに似せたビニールが小さい針に巻き付けてある。ルアーとサビキは、釣りとしては共通しているが形状が違う。
 ルアーを釣具屋で見かけたことがある。あれはまるで芸術品だ。ほとんどが魚の形をしたプラスチック製、または木製であったが、俺が心を惹かれたのはスプーンというルアーだ。その文字の通り食事に使うスプーンを模している。水際で食事をしていた老人が水中に誤ってスプーンを落としたところ、ますが寄ってきて、咥えたところからルアーの歴史は始まったという。
 スプーンの形に、採色が施されたルアーは実に美しい。赤色、緑色、青色、銀色、金色、縞模様に幾何学模様。見ているだけでもうっとりする。魚だったら尚更か。
 時計を見た。午後十二時十三分。腹が減ったな。砂浜が広がっている場所のこげ茶色をしたベンチに、腰掛ける。そして、ビニール袋から卵サンドを取り出して頬張る。
 卵サンドを頬張っていると、その前をある女芸人が通った。デザートという三人組の女芸人で、体を張ったリアクション芸でお馴染みのあの芸人。うーん、名前を思い出せない。彼女は一般人と違うオーラのようなものを発していた。オーラは渦を巻きながら天空へと昇った。そして透明な目で「見て、白鳥がいるわ。可愛い白鳥が」と連れの女に話しかけた。白鳥はおよそ一メートル半の小さな飛行を披露し、得意気であった。
 空ではカラスがトンビに嫌がらせを受けていた。くちばしでつつかれたり、羽ではたかれたりと、散々な目にあっていた。これはさすがに可愛そうだと思った。俺は一碧湖の学級委員長になったつもりで、このいじめを解消するべき行動を思案した。もぐもぐと卵サンドを頬張りながら小石を二つ三つおもむろ掴み、空中に投げた。しかし、小石はあろうことか、カラスに命中してしまった。カラスはこれにひどく狼狽した。トンビは大声で笑い、飛翔して消えて行った。しまった。学級委員長らしからぬことをしてしまったと、俺は後悔した。だが、こうして結果的に、空中におけるいじめは解消されたのであった。

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