夜に依り

完結:1話

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夜に依り

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     眠い、しかし眠れない、そんな長い夜を感じたことがある
     
     
     壱
     短針が十一をまわる頃、私は布団に入る
     柔らかいベッドの上にちょうど佳い高さの枕、暖かな布団に絶妙な温度、そして夜中の静寂は眠りにつくのには非常に快適な状態だ
     疲労した体はベッドに沈みこまれ
     嗚呼、もう動けなくなる
     段々重くなっていく瞼と、一日の活動を終えた私の精神は『もう眠りについても良いだろう』と体へ訴えかける
     しかし、裏腹になかなか意識は夢現の世界へと誘われず、私は何時までも夢手前の悪夢を見る
     既に短針は一をまわっていた
     
     
     弐
     短針が二をすぎた頃、
     襲ってくるのは眠気ではなく過度の空腹だ
     それは睡魔とは対極に、
     私の意識を更に現実へと引き戻す
     明日、目が覚めて体の疲労が回復した時にこの空腹を満たそうと考え眠りにつこうとするも
     やはり精神と体は反比例し、また私は不眠という名の悪夢を感じることとなるのだ
     
     眠れない夜は一日の中で
     最も長い時間と言っていいだろう
     月光に照らされながらただペンを動かし
     私はこの詩を綴り始める
     否、四までまわった短針をみると、これは眠れない夜ではなく既に朝ではなかろうかという屁理屈さえ頭に浮かぶ
     
     
     
     参
     眠り、それは最高の娯楽である
     自分の人生で苦と感じることを睡眠している数時間、感じることがないのだから
     そう睡眠をありがたむ程、睡魔はさらに私から離れていく、それはやはり天邪鬼だ
     
     死を意味する言葉のひとつに永眠という言葉がある
     『永遠に眠る』ことが『死』であるというなら、
     その逆もあるだろう
     つまり『睡眠』は『小さな死である』という事だ
     この世には死にたがらない人が多い
     つまり眠れないというこの状況も逆に都合が佳いのではなかろうか?
     …などと天邪鬼な睡魔に語りかけてみても私を夢現に連れて行く気はなさそうだ
     勿論、そんなことはわかっていたけれど
     
     
     肆
     考え事をするにはもってこいの長い夜にそんなどうでも良いことを考えていると、先程まで月光が漏れていた櫺からは微かな太陽の光が差し込んできた
     
     
     
     
     
     嗚呼、朝だ
     
     
     
     
     日の出を見たのは何時ぶりだろう
     四年前に家族と見た初日の出ぶりだろうか
     明るくなってしまっては最後、
     夜行性ではない人間は、私は活動を始めるしかない
     そんな意味のわからない理屈をつけて
     私は疲れの取り切れてない体をベッドから起こし
     スリッパを履き、パタパタとおとをならしながら風呂場へ向かう
     熱いシャワーが眠れていないからだの疲労に
     さらに染み渡るのだ
     新しく用意した洋服を身に纏い
     トレヱドマークの帽子を被り
     朝の街へと歩き出す
     
     
     また昨日と同じ今日が始まる

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