線香花火

銀足車道

 日曜日。昨晩からずっと鈴さんのことを考えてあまり眠れなかった。俺の眼鏡をかけてくれたあの奇跡を思い起こしたり、鈴さんとデートすることを妄想したりしていた。鈴さんと一緒に喫茶店で紅茶を飲むこと。鈴さんと一緒に動物園でレッサーパンダを眺めること。鈴さんと手をつないで歩くこと。
 ベッドから立ち上がって、自分の部屋を出ると、俺は家の蔵に入ってカメラを探した。文化祭の写真展に向けて、鈴さんを最高に綺麗に撮りたい。それならあれしかない。去年、父親に買ってもらったデジタル一眼レフカメラを探した。手ぶれ補正機能。この技術に頼りたかった。なぜなら、俺は、緊張したり、極度に集中したりすると手が震えるのだ。
 カメラはなかなか見つからない。親父がゴルフに持って行ったのかな。しばらく棚を漁ったが、見つからなかった。
「しょうがねえな」
 そう言って立ち去ろうとしたその時であった。床がミシッと鳴ったかと思うと崩れ落ちた。俺の足は崩れた床に挟まった。激しい痛み。
「痛え。なんだよちくしょー!」
 やっぱり冴えない。崩れた床から抜け出そうとすると、足の先に何かがあたっているのがわかった。
「えいっ」
 挟まった片足を抜き、空いた穴を覗き込んで驚いた。刀があったのだ。刀は埃をかぶっていて黒ずんでいた。足を引き揚げ、鞘を引き抜いてみると全体的に茶色く錆びていたが、形はまさしく刀であった。
「すげえ」
 表の庭に出ると、刀を思い切り振りかざした。するとアドレナリンが体中から湧き上がるのを感じた。そして「えいっ!」力いっぱい振り下ろした。さっぱりとした爽快感に満ち溢れた。
「武士か」
 自分が武士の子孫だとは思いもよらぬことだった。家の前には蜜柑畑が広がっている。昔、農家だった頃の名残だ。農家だったとわかるのはせいぜい明治頃までだが、それ以前の先祖を意識しようとしても、その光景からどうしても農民だと思わずにはいられなかった。
 鞘には、見にくいが家紋が描かれていて、家に戻りインターネットで調べてみるとそれが北条氏のものだということがわかった。


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