線香花火

銀足車道

お見通し

 俺の初恋は小学4年の頃。同じクラスの美優という名前の女の子だった。初恋は成就しなかった。給食のときに、ゼリーなどのデザートをあげて気を引こうとしたりしたが、ことごとく断られた。失恋の決めてとなったのは元村で、それとなくこっそり気持ちを伝えようと「噂だと後太朗が美優のこと好きみたいだよ」と、美優に話してくれないかと元村に頼んだところ、「よし、わかった!」と頼もしい返事をした元村は、何を思ったか、美優にストレートにこう言ったのだ。「美優。後太朗が好きだってよ!」突然、そのようなことを言われた美優は困った顔をして、「私、あんまり好きじゃないから」と答えた。こうして俺の初恋は散ってしまった。
 小学四年生以来の気持ち。恋。甘酸っぱいこの気持ち。高校でまた芽生えるとは思いもよらぬことだった。
 そして二限目の休み時間に奇跡は起こる。俺の掛けている太い黒縁メガネをみんなが面白がって掛けたりしていたところに、鈴がやってきたのだ。
「私にも、掛けさせて。掛けさせて」
そう言って、鈴はメガネをかけた。
「どう似合う?」
 鈴に見つめられて、俺は何も答えることが出来なかった。予期せぬ事態だった。想定外。こんな可愛い、美しい人に、話しかけられるとは思ってもみなかったのだ。緊急事態発生。
「すげえ似合ってるよ。めっちゃ可愛い!」
 そうそう。その言葉を言いたかったんだよね俺は。と思って見上げると、言葉の主が元村だということがわかった。元村は、思っていることをすぐ言葉に出す。頭にフィルターがないのだ。俺とは真逆だ。俺はいつも言いたいことが頭の中でからまってしまう。よく吟味して口に出す。と云えば聞こえはいいが、ただの臆病だ。
「うんうん。似合ってる」
 俺は勇気を振り絞ってそう言った。
 放課後に元村が、にやにやしながら近づいてきてこう言った。
「おめえ、惚れただろ」
「は?誰にだよ」
「渡辺鈴」
 そう言われた瞬間に、また胸が16ビートで高鳴り、耳たぶが熱くなった。
「ひゃっはっは。わかりやす!」
 去っていく元村の後ろ姿を弱弱しい子犬のような瞳で見送った。幼馴染には何でもお見通しなんだ。




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