辺境暮らしの付与術士
第128話
「それでどうするんだ? 正確な場所は分からん。それだけじゃあどうにもならんだろ?」
うなだれる領主代行を責めるわけでもなく、淡々とした声でルークが話す。
確かにここでうなだれていても事態の好転は望めない。
「申し訳ないですが、今教えられるのは北の山に居た、という事実と、対象の魔物の見た目。それと寮内に伝わる魔物の能力くらいです」
「その情報があれば十分だ。後は俺たちがなんとかする」
分かりました、と言う領主代行の話をみな静かに聞く。
「まず魔物の名前ですが、カトブレパスと呼ばれています。不幸を呼ぶ魔物だとか、魔物自体が不幸の象徴だとか」
カトブレパスは巨大でシワの目立つ四足歩行の身体をしている。
長く太い首の先にはまるで老婆のようなしわがれた顔が付いていて、その首が重いのか、普段は地面に這わせているらしい。
「しかし、その首を上げさせてはいけない、と伝えられています。カトブレパスの額には大きな一つの眼があり、それに見つめられると正気を失う、と言われています」
「正気を失う?」
話が終わったのを待って、ルークが疑問を投げかける。
敵の能力がよく分からないようだ。
「ええ。まるで自分が誰か分からなくなり、周りにいる者が全員敵に見えるのだとか。本当かどうか分かりませんが、昔多くの人々がその瞳に見つめられ、互いに殺しあったとか」
「要はその眼を見なきゃいいんだろ? まぁ、注意するに越したことはないが、分かってりゃそんなに怖くないだろ」
そう言うとルークは周りの皆に北の山に向かうと伝える。
領主代行がすぐに馬車を用意すると、慌てて席を立とうとしたが、ルークがそれを制する。
「ああ。馬車なんかよりもっと速くて快適な乗り物を持ってんだ。急がないとな。それじゃあ、行ってくるわ」
まるで近所に買い物でも行くかのような気軽さで、ルークは領主代行一瞥だけ交わすと外へと向かう。
領主代行はまるで分かっていなかったが、人の見る目は確かなようで、ルークの自信が実力に裏付けられていると理解し、安息する。
さすがに街中にゼロを降ろすわけには行かないため、街から少し離れた場所で、ソフィはゼロを呼んだ。
既にこの大陸に唯一の雄のグリフォンであるゼロが、ソフィの言葉に従い降りてくる。
以前のように今でもゼロがソフィに従うのは風の精霊でソフィの眷属となったフーのおかげだ。
しかし、既にフーに頼まなくてもソフィが直接ゼロに指示を出すことが可能となり、ゼロはそれに素直に従う。
「ほらほら。フーちゃんもそんなに不貞腐れないの。そんなことしてるより、早く大きくなってゼロみたいに人を乗せれるようになってくれなきゃね」
ゼロと直接やり取りが出来るようになり、出番が減ったためか、不機嫌そうな顔をするフーをソフィがたしなめる。
ゼロと違いフーは表情豊かで、異種族なのにその感情が見た目ではっきりと理解出来た。
「ひとまず北の山って所を上かしらみつぶしに探すぞ。さっきの話の通り、眼だけは気を付けろよ」
ルークのその言葉を合図に、みなゼロの背へと乗る。
総勢五人だが、特に問題なく座ることが出来る。
全員がきちんと乗ったことを確認した後、上空へと飛び上がり北の山へと凄い勢いで飛んでいった。
☆
「居ないわねぇ……」
「居ないな……」
ルークの言った通り上空からカトブレパスの居場所を探したが、見つける事は出来なかった。
既にかなりの時間が経過しており、西の空は赤く染まりつつあった。
もうすぐ日が暮れる。暗い中の探索は効率も悪く危険も多い。
「くそっ。こういう時にカインがいれば一発なんだがな。なんだかんだ言って、あいつの性能は異常すぎることを改めて思い知らされるな」
「でもお父さんが、まさか多くの人の安全より村を選んだのは意外でした」
「うん? むしろカインらしいだろ?」
「え? そうですか?」
サラのつぶやきにルークが返す。
「あいつは昔から優しい。だがな、誰かれ問わず優しい訳じゃない。守るべきものが何かをきちんと自分の中に持ってる」
「でもそれで村の人は助かっても外の人は助からないですよね?」
サラの言葉にルークは盛大にため息を付く。
「お前なぁ。何もあいつは世界を救う英雄じゃないんだぞ? 人間一人で手に負える範囲なんてたかが知れてる。それだったら一番守りたいものを守れる範囲で守るって言うのが筋だろうが」
「S級冒険者を捨ててでも守りたいもの。それがお父さんにとっての村なんですね」
「娘のお前の方が一緒に居た時間が長いだろうが、まだまだカインのことを分かってないな。村もそうだろうが、一番守りたいのはそこじゃないだろ。村の中にあるもんだ」
「あ……お母さんとの思い出……」
ルークはサラに目配せをすると、その後は今後のことを指示し始めた。
夜間の探索はやめ、一度降りて今日は野営するという。
ゼロは風がしのげるよう木の茂った林の近くの草原に降り立つ。
全員がゼロから降りると、各自が手際よく野営の準備を始めた。
「それじゃあ、今日は俺とミュー、二人で見張りをする。その後はサラとソフィだ」
「分かりました」
「えー。ミューぴょんずるいー。私もマスターと見張りしたいー」
「うるせぇ! ララ。お前は寝不足になると次の日めちゃめちゃ機嫌悪いだろうが! いいからさっさと寝ろ!」
ルークに怒鳴られ、ララは渋々寝床へと向かう。
サラとソフィは笑いながらその後に続いていった。
うなだれる領主代行を責めるわけでもなく、淡々とした声でルークが話す。
確かにここでうなだれていても事態の好転は望めない。
「申し訳ないですが、今教えられるのは北の山に居た、という事実と、対象の魔物の見た目。それと寮内に伝わる魔物の能力くらいです」
「その情報があれば十分だ。後は俺たちがなんとかする」
分かりました、と言う領主代行の話をみな静かに聞く。
「まず魔物の名前ですが、カトブレパスと呼ばれています。不幸を呼ぶ魔物だとか、魔物自体が不幸の象徴だとか」
カトブレパスは巨大でシワの目立つ四足歩行の身体をしている。
長く太い首の先にはまるで老婆のようなしわがれた顔が付いていて、その首が重いのか、普段は地面に這わせているらしい。
「しかし、その首を上げさせてはいけない、と伝えられています。カトブレパスの額には大きな一つの眼があり、それに見つめられると正気を失う、と言われています」
「正気を失う?」
話が終わったのを待って、ルークが疑問を投げかける。
敵の能力がよく分からないようだ。
「ええ。まるで自分が誰か分からなくなり、周りにいる者が全員敵に見えるのだとか。本当かどうか分かりませんが、昔多くの人々がその瞳に見つめられ、互いに殺しあったとか」
「要はその眼を見なきゃいいんだろ? まぁ、注意するに越したことはないが、分かってりゃそんなに怖くないだろ」
そう言うとルークは周りの皆に北の山に向かうと伝える。
領主代行がすぐに馬車を用意すると、慌てて席を立とうとしたが、ルークがそれを制する。
「ああ。馬車なんかよりもっと速くて快適な乗り物を持ってんだ。急がないとな。それじゃあ、行ってくるわ」
まるで近所に買い物でも行くかのような気軽さで、ルークは領主代行一瞥だけ交わすと外へと向かう。
領主代行はまるで分かっていなかったが、人の見る目は確かなようで、ルークの自信が実力に裏付けられていると理解し、安息する。
さすがに街中にゼロを降ろすわけには行かないため、街から少し離れた場所で、ソフィはゼロを呼んだ。
既にこの大陸に唯一の雄のグリフォンであるゼロが、ソフィの言葉に従い降りてくる。
以前のように今でもゼロがソフィに従うのは風の精霊でソフィの眷属となったフーのおかげだ。
しかし、既にフーに頼まなくてもソフィが直接ゼロに指示を出すことが可能となり、ゼロはそれに素直に従う。
「ほらほら。フーちゃんもそんなに不貞腐れないの。そんなことしてるより、早く大きくなってゼロみたいに人を乗せれるようになってくれなきゃね」
ゼロと直接やり取りが出来るようになり、出番が減ったためか、不機嫌そうな顔をするフーをソフィがたしなめる。
ゼロと違いフーは表情豊かで、異種族なのにその感情が見た目ではっきりと理解出来た。
「ひとまず北の山って所を上かしらみつぶしに探すぞ。さっきの話の通り、眼だけは気を付けろよ」
ルークのその言葉を合図に、みなゼロの背へと乗る。
総勢五人だが、特に問題なく座ることが出来る。
全員がきちんと乗ったことを確認した後、上空へと飛び上がり北の山へと凄い勢いで飛んでいった。
☆
「居ないわねぇ……」
「居ないな……」
ルークの言った通り上空からカトブレパスの居場所を探したが、見つける事は出来なかった。
既にかなりの時間が経過しており、西の空は赤く染まりつつあった。
もうすぐ日が暮れる。暗い中の探索は効率も悪く危険も多い。
「くそっ。こういう時にカインがいれば一発なんだがな。なんだかんだ言って、あいつの性能は異常すぎることを改めて思い知らされるな」
「でもお父さんが、まさか多くの人の安全より村を選んだのは意外でした」
「うん? むしろカインらしいだろ?」
「え? そうですか?」
サラのつぶやきにルークが返す。
「あいつは昔から優しい。だがな、誰かれ問わず優しい訳じゃない。守るべきものが何かをきちんと自分の中に持ってる」
「でもそれで村の人は助かっても外の人は助からないですよね?」
サラの言葉にルークは盛大にため息を付く。
「お前なぁ。何もあいつは世界を救う英雄じゃないんだぞ? 人間一人で手に負える範囲なんてたかが知れてる。それだったら一番守りたいものを守れる範囲で守るって言うのが筋だろうが」
「S級冒険者を捨ててでも守りたいもの。それがお父さんにとっての村なんですね」
「娘のお前の方が一緒に居た時間が長いだろうが、まだまだカインのことを分かってないな。村もそうだろうが、一番守りたいのはそこじゃないだろ。村の中にあるもんだ」
「あ……お母さんとの思い出……」
ルークはサラに目配せをすると、その後は今後のことを指示し始めた。
夜間の探索はやめ、一度降りて今日は野営するという。
ゼロは風がしのげるよう木の茂った林の近くの草原に降り立つ。
全員がゼロから降りると、各自が手際よく野営の準備を始めた。
「それじゃあ、今日は俺とミュー、二人で見張りをする。その後はサラとソフィだ」
「分かりました」
「えー。ミューぴょんずるいー。私もマスターと見張りしたいー」
「うるせぇ! ララ。お前は寝不足になると次の日めちゃめちゃ機嫌悪いだろうが! いいからさっさと寝ろ!」
ルークに怒鳴られ、ララは渋々寝床へと向かう。
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