辺境暮らしの付与術士
第123話
祭りの後片付けも一段落し、村にいつも通りの静けさが戻った。
いや、正確にはある一部だけは祭りの時以上の喧騒に包まれていた。
「遅い! いいか? 速さってのは相手の虚をつくこと、それで相手には何倍もの速さに感じさせることが出来る。そんな見え見えの攻撃じゃ子供でも躱せるぞ!」
「はい! すいません!!」
村の外れ、開けた場所で金属がぶつかる音と、壮年の男性の声、それに応える若い女性の声が響いていた。
ルークとサラが練習をしているのだ。
「馬鹿野郎! 今見せた隙は完全に誘いだろうが! そこに釣られてどうする! もっと相手のことをよく見ろ。相手の動きから相手の心理まで読み取れ!!」
「はい! すいません!!」
二人は真剣を手にし、まるで本当の決闘のような勢いのまま、互いに切り結んでいた。
攻撃の手数は明らかにサラの方が多いが、その尽くはルークによって時に受け、時に避けられていた。
サラの顔には真剣を親しい人に向ける戸惑いの色が微かに残っていた。
今まで人を切ったことがない訳ではないが、それは状況がそうせざるをえなかったときだけだった。
「ダメよ。ルークちゃん。サラちゃんったらさっきから腰が引けちゃってるもの。黙って木剣でやったら?」
「あ? それじゃあ意味ないってさっき言ったろうが。普段使ってる獲物でやってこそ意味があるんだ」
「だってよ。サラちゃん。もう肝据えて思いっきり行っちゃいなさいよ。ルークちゃんの腕や足の一本くらい切り落としちゃうつもりで。大丈夫。ルークちゃんなら切り落とされてもきっと気合いでまた生やすから」
「生やせるか!!」
その言葉の怒気を乗せてルークが右手に持つ剣を上段からサラの頭上に向かって振り下ろす。
サラは持っている剣でそれを受け止める素振りを一瞬見せたが、慌てて大きく身体を後ろに引いた。
それと同時に剣を自分の右半身を守るように構える。
目の前を剣先が通り過ぎ、ほぼ同時に死角から放たれた横なぎのもう一本の剣がサラの剣にぶつかる。
「攻めはいまいちだが、守りはなかなかやるじゃないか。以前教えた時よりも虚実に対する反応も、まだまだだが良くなってる。どれ、どこまで耐えられるか見てみるか。いいか? 食らうなよ?」
「あららー。マスターちょっとスイッチ入っちゃってるね。サラちゃん大丈夫かな? まぁ、危なくなったら魔法で吹っ飛ばせばいいかー」
ルークは一度サラから大きく距離をとると、両剣を真っ直ぐに立て、身体の前で構える。
ふっと息を吐いた瞬間、音も立てずに地面を疾走し、サラへと距離を詰めた。
突撃の勢いを殺さぬまま、ルークは両手に持った剣を規則的に上下左右から振った。
後退りしながらサラは受けるべきを受け、避けるべきを避ける。
しかし徐々にルークが放つ剣撃は、切り返しの速度を上げ、変則的になっていく。
横から放たれた剣は時に上へ、時に刺突へと軌道を変えた。
剣圧も増し、ルークの放つ剣撃を受ける度にその場に鳴り響く金属音も大きくなっていく。
しかし、サラは冷静にそれを対処し、危なげながらも全ての攻撃を捌いていた。
「やるな! ならばこれを受けられるか!?」
「あ、まずい。マスター絶対楽しすぎて加減忘れちゃってるよ。えい!」
ララの指先から小さな氷の塊が放たれ、ルークへと凄まじい速さで飛んでいった。
しかし、ルークはサラへの攻撃を弱めるどころか更に強めながら、横目にとらえたララの攻撃を難なく躱した。
ララの放った氷の塊はルークの身体を通り過ぎ、向かい側の大きな幹を持った木へとぶつかり、その木を半ばから折った。
メキメキと音を立てながら倒れる木など気にもとめず、ルークは剣の動きだけでなくサラの死角に回るように身体を大きく動かしながら剣を振るった。
サラは苦悶の表情を浮かべながら、その攻撃が自身に届かぬよう、必死で持てる全てで立ち向かった。
しかし、ついに自分の体勢をここからどう動かしても、次の攻撃を受けることも避けることも出来ない状況に陥ってしまった。
無常にも剣撃は勢いを落とすことなくサラへと向かってくる。
しかし、次の瞬間サラは今まで見せた動きとは次元の違う速度でその剣撃を避け、勢いに乗せるように剣を叩きつけた。
その一撃はあまりに重く、ルークは思わず耐えきれずに剣を手放す。
すかさずもう一方に持っている剣を両手で掴み、正中に構える。
「おい。カイン。加勢をするにしても限度があるだろう。お前の瞬間強化の補助魔法をかけられたやつの動きに生身の人間がかなうわけない」
「それをそのままそっくりお返しするよ。ルークの本気を受けられる人間がそこら辺に転がってる訳ないだろ。大事な娘を傷物にされちゃあたまったもんじゃないからな」
「ふん。きちんと止めるつもりだったさ。まぁ、少し剣先が触れたかもしれんがな……」
「嘘だよ! 絶対マスターこれが真剣での練習だって忘れてたから。この戦闘狂!」
「うるせぇ! 冒険者になったんだったら、傷の一つや二つ、気にする方がおかしいだろうが!」
「あらあら。相変わらず乙女心が分からないのねぇ
。それだからモテないのよ。ルークちゃんは」
サラとルークの練習を心配な顔で見つめていたソフィは、突如始まった言い争いに大きな声を出して笑った。
いや、正確にはある一部だけは祭りの時以上の喧騒に包まれていた。
「遅い! いいか? 速さってのは相手の虚をつくこと、それで相手には何倍もの速さに感じさせることが出来る。そんな見え見えの攻撃じゃ子供でも躱せるぞ!」
「はい! すいません!!」
村の外れ、開けた場所で金属がぶつかる音と、壮年の男性の声、それに応える若い女性の声が響いていた。
ルークとサラが練習をしているのだ。
「馬鹿野郎! 今見せた隙は完全に誘いだろうが! そこに釣られてどうする! もっと相手のことをよく見ろ。相手の動きから相手の心理まで読み取れ!!」
「はい! すいません!!」
二人は真剣を手にし、まるで本当の決闘のような勢いのまま、互いに切り結んでいた。
攻撃の手数は明らかにサラの方が多いが、その尽くはルークによって時に受け、時に避けられていた。
サラの顔には真剣を親しい人に向ける戸惑いの色が微かに残っていた。
今まで人を切ったことがない訳ではないが、それは状況がそうせざるをえなかったときだけだった。
「ダメよ。ルークちゃん。サラちゃんったらさっきから腰が引けちゃってるもの。黙って木剣でやったら?」
「あ? それじゃあ意味ないってさっき言ったろうが。普段使ってる獲物でやってこそ意味があるんだ」
「だってよ。サラちゃん。もう肝据えて思いっきり行っちゃいなさいよ。ルークちゃんの腕や足の一本くらい切り落としちゃうつもりで。大丈夫。ルークちゃんなら切り落とされてもきっと気合いでまた生やすから」
「生やせるか!!」
その言葉の怒気を乗せてルークが右手に持つ剣を上段からサラの頭上に向かって振り下ろす。
サラは持っている剣でそれを受け止める素振りを一瞬見せたが、慌てて大きく身体を後ろに引いた。
それと同時に剣を自分の右半身を守るように構える。
目の前を剣先が通り過ぎ、ほぼ同時に死角から放たれた横なぎのもう一本の剣がサラの剣にぶつかる。
「攻めはいまいちだが、守りはなかなかやるじゃないか。以前教えた時よりも虚実に対する反応も、まだまだだが良くなってる。どれ、どこまで耐えられるか見てみるか。いいか? 食らうなよ?」
「あららー。マスターちょっとスイッチ入っちゃってるね。サラちゃん大丈夫かな? まぁ、危なくなったら魔法で吹っ飛ばせばいいかー」
ルークは一度サラから大きく距離をとると、両剣を真っ直ぐに立て、身体の前で構える。
ふっと息を吐いた瞬間、音も立てずに地面を疾走し、サラへと距離を詰めた。
突撃の勢いを殺さぬまま、ルークは両手に持った剣を規則的に上下左右から振った。
後退りしながらサラは受けるべきを受け、避けるべきを避ける。
しかし徐々にルークが放つ剣撃は、切り返しの速度を上げ、変則的になっていく。
横から放たれた剣は時に上へ、時に刺突へと軌道を変えた。
剣圧も増し、ルークの放つ剣撃を受ける度にその場に鳴り響く金属音も大きくなっていく。
しかし、サラは冷静にそれを対処し、危なげながらも全ての攻撃を捌いていた。
「やるな! ならばこれを受けられるか!?」
「あ、まずい。マスター絶対楽しすぎて加減忘れちゃってるよ。えい!」
ララの指先から小さな氷の塊が放たれ、ルークへと凄まじい速さで飛んでいった。
しかし、ルークはサラへの攻撃を弱めるどころか更に強めながら、横目にとらえたララの攻撃を難なく躱した。
ララの放った氷の塊はルークの身体を通り過ぎ、向かい側の大きな幹を持った木へとぶつかり、その木を半ばから折った。
メキメキと音を立てながら倒れる木など気にもとめず、ルークは剣の動きだけでなくサラの死角に回るように身体を大きく動かしながら剣を振るった。
サラは苦悶の表情を浮かべながら、その攻撃が自身に届かぬよう、必死で持てる全てで立ち向かった。
しかし、ついに自分の体勢をここからどう動かしても、次の攻撃を受けることも避けることも出来ない状況に陥ってしまった。
無常にも剣撃は勢いを落とすことなくサラへと向かってくる。
しかし、次の瞬間サラは今まで見せた動きとは次元の違う速度でその剣撃を避け、勢いに乗せるように剣を叩きつけた。
その一撃はあまりに重く、ルークは思わず耐えきれずに剣を手放す。
すかさずもう一方に持っている剣を両手で掴み、正中に構える。
「おい。カイン。加勢をするにしても限度があるだろう。お前の瞬間強化の補助魔法をかけられたやつの動きに生身の人間がかなうわけない」
「それをそのままそっくりお返しするよ。ルークの本気を受けられる人間がそこら辺に転がってる訳ないだろ。大事な娘を傷物にされちゃあたまったもんじゃないからな」
「ふん。きちんと止めるつもりだったさ。まぁ、少し剣先が触れたかもしれんがな……」
「嘘だよ! 絶対マスターこれが真剣での練習だって忘れてたから。この戦闘狂!」
「うるせぇ! 冒険者になったんだったら、傷の一つや二つ、気にする方がおかしいだろうが!」
「あらあら。相変わらず乙女心が分からないのねぇ
。それだからモテないのよ。ルークちゃんは」
サラとルークの練習を心配な顔で見つめていたソフィは、突如始まった言い争いに大きな声を出して笑った。
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