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辺境暮らしの付与術士

黄舞@ある化学者転生3/25発売

第120話

「おかえりなさい!!」

アイリがカイン達に気付き近寄ってきた。
顔には披露が見える。おそらく心配しすぎて気疲れしたのだろう。

「ただいま! なんとかなったわ。色々あったけど目的も無事達成できたの!」
「本当ですか? 良かったぁ。あ、あっちに温かいもの用意していますから、ぜひ召し上がってください!」

「お? 気が利くねぇ。あいたたた。ちきしょう、やっぱり折れてるなこりゃ」

アオイが脇腹を抑える。どうやらジェスターに吹き飛ばされた時に損傷したらしい。
防具もカインの付与魔法で強化していたが、それでも無傷とはいかなかったようだ。

しかしその状態で今まで動き回ったアオイの精神力は並大抵のものでは無いと言える。
移動したあと、みながアイリの用意したスープを食べていると、シバが口を開いた。

「今回はみんな無事に帰れて何よりだ」
「おいおい。俺のアバラは無事じゃないぞ」

「それでもだ。正直リヴァイアサンを倒して誰も死なないというのは奇跡とも言える。だいたいアオイさんが怪我したのだって、その後のジェスターとか言うやつのせいだろうが」
「まぁな」

「残念ながら船は大破してしまったが、さっきも言ったがそんなもんはまた作ればいい。ところで、俺には夢がある。新大陸に行くことだ」
「その魔道核の凄さを見たら、俺も行きたくなっちゃうけどな。新大陸に」

シバはここで一呼吸おき、頭を深々と下げてからこう言った。

「そこでここに居る二人に頼みがある。カインさん、コハンさん」

名前の呼ばれた二人はシバの言いたいことに察しがついているようだ。

「カインさん。どうか新しく作った船にまた付与魔法をかけてもらえないだろうか?」
「ええ。構いませんよ。こちらも無理言いましたし。それくらいむしろさせてください」

ありがとう。と再びシバは頭を下げる。
そしてコハンの両手を握り目をしっかりと見つめた。

「コハンさん。無理を承知で頼む! 俺と一緒に新大陸探しを手伝ってくれないか? 見つけさえすれば、必ずこの大陸に戻すと約束する! 魔道核を使えば希望があるんだ!」
「ダメじゃ」

コハンは首を横に振る。
その様子を見たシバは項垂れてしまった。

「わしが姉様を置いて新大陸になぞいけるわけがないじゃろ。と言いたいところじゃが……わしは姉様を諦める!」

言っている意味がよく分からず再び顔を上げたシバに顔には困惑の表情が浮かんでいる。

「カイン殿を知って、姉様が好きな人が居ることに踏ん切りがついたのじゃ。しかし、未練が無いわけじゃない。じゃから、わしは新大陸を見つけてそこに暮らすつもりじゃ。新しいいい人を新大陸で探すのじゃ」
「ということは……」

「じゃから、手伝いじゃなく、わし自身の目的として参加させてくれなのじゃ」
「本当か!? ありがとう!!」

シバは握ったままだったコハンの手をぶんぶんと上下に振って喜ぶ。
それを見て笑うアオイを見てサラが聞いた。

「アオイさんはどうするんです?」
「うーん。このザマだからな。ひとまずはしばらく療養が必要そうだ。カインさん達の話の続きも気になるが、俺もまだやらなきゃいけない事があるからな。身体は大事にしないと」

「すいません。アオイさん。私が動ければこんなことには……」
「カインさんのせいじゃない。シバさんも言ったが、みんな生きて帰れたんだ。それが何よりだ」

「私もそろそろ集落へ帰らないと。両親が心配ですから。サラさん達と別れるのは辛いですが、皆さんもっと広い世界に生きているんですもんね」
「アイリさんもありがとう! すごく楽しかったよ!」

アオイが思い出したようにカインに向かって聞いた。

「そういえば、リヴァイアサンの背びれはどうするんだ?」
「ああ。ゼロに頼んで私達が所属しているクランに運んでもらいました。あそこには信頼出来る仲間が居ますから」

その言葉を聞いてコハンが反応する。

「クランじゃと!? つまり姉様がいる場所じゃな? くそ。しまったのじゃ。それを知っていれば、わしもそっちに向かったのに!」
「コハンさん。師匠への未練が駄々残りですよ……」

ソフィの指摘にその場の全員が笑った。
一通り笑いが納まったあと、誰からともなく、みんな各々が固い握手を交わした。

思い思いにそれぞれの気持ちを込めて交わされた握手は、その場にいる者達にとってかけがえのないものだろう。
その後再び談笑が始まり、船の製造に携わった者達も交えて酒盛りが始まった。

カインとシバとアオイは酒を楽しみ、サラとソフィとアイリはジュースを片手に絶え間ない話で盛り上がった。



「おう。戻ったぞ」

ユートピアの拠点の扉が開き男が一人入ってくる。このクランのマスター、ルークだ。
ルークが入ってくるのを見ると入口近くにいたクランのメンバー達はいっせいに挨拶をする。

「おかえりなさい! マスター!!」

そのルークの帰りを心待ちにしていた少女が一人。
見た目が少女なだけで実年齢はルークよりも上なのだが、ルークを見る目はまさに少女のように輝いていた。

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