辺境暮らしの付与術士
第117話
「何故か分からないけどこの短剣は、まるで身体の一部にように生命力を流すことが出来たわ」
自分がやったことを信じられないとばかりにサラが呟く。
既に光を失った短剣をまじまじと見つめる。
「それにしても何故黒かった短剣が白く変わったのかしら? アオイさん、何か知っています?」
「いや……聞いた事もみたこともないな。しかし、やはりこれが骨か牙なら白が元々の色なのか」
「どうやらそっちに気を取られている場合じゃないようよ。リヴァイアサンが上がってくるっ!」
ソフィの言葉が皆の視線を海面へと向ける。
静かだった水面が揺れ、再びリヴァイアサンが姿を現した。
サラは素早くゼロの背にまたがると、リヴァイアサンの頭上へと上がっていく。
先ほどまでは船に向いていたリヴァイアサンの意識は、今は明らかにサラの方へと向けられていた。
口から先ほど同様に水弾を絶え間なく打ち出す。
やはり狙いはサラのようで、船の方へは一度も飛んでこなかった。
「どういう事だ? 先程切りつけたアオイさんも、残ったベヒーモスの角もこの船の上だと言うのに」
「さっきまでと変わったことといえば……さっきの短剣か! 今までカインさんが、つまり船の上にあったが、今はサラちゃんが持っている」
アオイの言葉にカインは養祖母カリラの遺した短剣がどういう物なのか強く興味を持った。
誰も入ることの出来ないだろう密室に大量の日記とともに隠されていた一対の短剣。
カインが手にした時、まるで自分の体の一部のように感じた。
娘のサラも先ほど同じようなことを言ったのだ。
あれはなんの牙だろうか……アオイは骨か牙だろうと言っていたが、カインは直感で牙なのだと分かった。
何故分かったかと聞かれたら、そう思ったからとしか言えないため他言はしなかった。
そして今になって確信がもてた。
リヴァイアサンがベヒーモスの角ではなく、あの短剣を狙って攻撃する理由。
それはあの短剣こそが自分を傷付ける能力を有しているからだ。
折れた腕の痛みと魔力枯渇による吐き気や頭痛に耐えながら、ソフィと一緒にマチに魔力を回復したもらっているカインは僅かな魔力で確保した視界で娘を見つめた。
リヴァイアサンが放つ水弾は容赦なくサラを乗せたゼロめがけて放たれていく。
ゼロはその尽くを避け、躱す。
水弾を吐き尽くしてしまっては再び海中に潜られてしまう。
そうなる前に攻撃を当てなければいけなかった。
「もっと近くに!!」
サラが自分を奮起させる為にわざと大きな声で叫ぶ。
近付けば近付くほど水弾を躱す事は難しくなる。
必死にリヴァイアサンの背中、背びれに向かって位置取りを試みるが、執拗にこちらに顔を向けるリヴァイアサンの背をとるのは至難の業だった。
何かリヴァイアサンの気を向けるものがあれば……サラがそう思っていた矢先、爆発音とともに海上に火柱が上がった。
アオイがコハンから渡された瓶を再びリヴァイアサンに向け投げ付けたのだ。
それは『燃える金属』とコハンが言っていたものだった。
植物から取れた油に沈められた鈍い光沢の金属は水に触れる自ら燃えるのだと教えられた。
アオイはその金属が入った瓶をリヴァイアサンに当てた。
リヴァイアサンの身体に上手く命中した瓶は割れ、中の金属が海水に濡れたリヴァイアサンの身体に触れると火を上げた。
そのまま海面に落ちた瞬間、爆発しながら燃え上がったのだ。
いくら硬い外皮に守られているとはいえリヴァイアサンは水中に住む生き物だ。
どんなに深い海中の圧力にも耐え、その身を海底火山の熱水から護ったとしても炎にその身を晒されるは初めてだった。
初めて受ける痛み、身を焦がされるという感覚にリヴァイアサンの意識は今も燃え続ける炎へと向いた。
その瞬間、ゼロは最高速度でリヴァイアサンの背へと滑空した。
サラは身を乗り出し、父カインから譲り受けた一対の短剣をまるで一枚の刃のように合わせ、リヴァイアサンの背中へと滑らせた。
カインの付与魔法とアオイから教わった秘技によって強化されたその刃は、幾分の抵抗もなくリヴァイアサンの背びれをその背から切り離した。
リヴァイアサンは最大の咆哮を上げた後、身体を小刻みに震わせ始めた。
切り取った背びれと共にゼロは急いでその場から離脱する。
「なんだ!? あれは!!」
震えるリヴァイアサンの身体からボロボロと外皮が剥がれ落ちていく。
剥がれた外皮は飛沫を上げながら海中に落ちていくと、泡になり消えていく。
やがて全ての外皮が落ち切ったリヴァイアサンの身体は、せいぜい子供の大きさ程度まで小さくなっていた。
リヴァイアサンはまるで逃げるように海に潜るとそのまま姿を現さなかった。
「あの身体が本来の姿なのか、それとも力の源である背びれを切られたからああなったのか……いずれにしろ、俺たちの勝ちだ!!」
アオイが勝どきを上げる。その言葉にへたりこんでいたカインとソフィも元気よく腕を上げた。
サラはよく頑張ってくれたとゼロの背を優しく撫でた。
「ああ。嫌な予感に様子を見に来たら……またあなた達ですか」
勝利に喜ぶカイン達の耳に少年のような声が響いた。
自分がやったことを信じられないとばかりにサラが呟く。
既に光を失った短剣をまじまじと見つめる。
「それにしても何故黒かった短剣が白く変わったのかしら? アオイさん、何か知っています?」
「いや……聞いた事もみたこともないな。しかし、やはりこれが骨か牙なら白が元々の色なのか」
「どうやらそっちに気を取られている場合じゃないようよ。リヴァイアサンが上がってくるっ!」
ソフィの言葉が皆の視線を海面へと向ける。
静かだった水面が揺れ、再びリヴァイアサンが姿を現した。
サラは素早くゼロの背にまたがると、リヴァイアサンの頭上へと上がっていく。
先ほどまでは船に向いていたリヴァイアサンの意識は、今は明らかにサラの方へと向けられていた。
口から先ほど同様に水弾を絶え間なく打ち出す。
やはり狙いはサラのようで、船の方へは一度も飛んでこなかった。
「どういう事だ? 先程切りつけたアオイさんも、残ったベヒーモスの角もこの船の上だと言うのに」
「さっきまでと変わったことといえば……さっきの短剣か! 今までカインさんが、つまり船の上にあったが、今はサラちゃんが持っている」
アオイの言葉にカインは養祖母カリラの遺した短剣がどういう物なのか強く興味を持った。
誰も入ることの出来ないだろう密室に大量の日記とともに隠されていた一対の短剣。
カインが手にした時、まるで自分の体の一部のように感じた。
娘のサラも先ほど同じようなことを言ったのだ。
あれはなんの牙だろうか……アオイは骨か牙だろうと言っていたが、カインは直感で牙なのだと分かった。
何故分かったかと聞かれたら、そう思ったからとしか言えないため他言はしなかった。
そして今になって確信がもてた。
リヴァイアサンがベヒーモスの角ではなく、あの短剣を狙って攻撃する理由。
それはあの短剣こそが自分を傷付ける能力を有しているからだ。
折れた腕の痛みと魔力枯渇による吐き気や頭痛に耐えながら、ソフィと一緒にマチに魔力を回復したもらっているカインは僅かな魔力で確保した視界で娘を見つめた。
リヴァイアサンが放つ水弾は容赦なくサラを乗せたゼロめがけて放たれていく。
ゼロはその尽くを避け、躱す。
水弾を吐き尽くしてしまっては再び海中に潜られてしまう。
そうなる前に攻撃を当てなければいけなかった。
「もっと近くに!!」
サラが自分を奮起させる為にわざと大きな声で叫ぶ。
近付けば近付くほど水弾を躱す事は難しくなる。
必死にリヴァイアサンの背中、背びれに向かって位置取りを試みるが、執拗にこちらに顔を向けるリヴァイアサンの背をとるのは至難の業だった。
何かリヴァイアサンの気を向けるものがあれば……サラがそう思っていた矢先、爆発音とともに海上に火柱が上がった。
アオイがコハンから渡された瓶を再びリヴァイアサンに向け投げ付けたのだ。
それは『燃える金属』とコハンが言っていたものだった。
植物から取れた油に沈められた鈍い光沢の金属は水に触れる自ら燃えるのだと教えられた。
アオイはその金属が入った瓶をリヴァイアサンに当てた。
リヴァイアサンの身体に上手く命中した瓶は割れ、中の金属が海水に濡れたリヴァイアサンの身体に触れると火を上げた。
そのまま海面に落ちた瞬間、爆発しながら燃え上がったのだ。
いくら硬い外皮に守られているとはいえリヴァイアサンは水中に住む生き物だ。
どんなに深い海中の圧力にも耐え、その身を海底火山の熱水から護ったとしても炎にその身を晒されるは初めてだった。
初めて受ける痛み、身を焦がされるという感覚にリヴァイアサンの意識は今も燃え続ける炎へと向いた。
その瞬間、ゼロは最高速度でリヴァイアサンの背へと滑空した。
サラは身を乗り出し、父カインから譲り受けた一対の短剣をまるで一枚の刃のように合わせ、リヴァイアサンの背中へと滑らせた。
カインの付与魔法とアオイから教わった秘技によって強化されたその刃は、幾分の抵抗もなくリヴァイアサンの背びれをその背から切り離した。
リヴァイアサンは最大の咆哮を上げた後、身体を小刻みに震わせ始めた。
切り取った背びれと共にゼロは急いでその場から離脱する。
「なんだ!? あれは!!」
震えるリヴァイアサンの身体からボロボロと外皮が剥がれ落ちていく。
剥がれた外皮は飛沫を上げながら海中に落ちていくと、泡になり消えていく。
やがて全ての外皮が落ち切ったリヴァイアサンの身体は、せいぜい子供の大きさ程度まで小さくなっていた。
リヴァイアサンはまるで逃げるように海に潜るとそのまま姿を現さなかった。
「あの身体が本来の姿なのか、それとも力の源である背びれを切られたからああなったのか……いずれにしろ、俺たちの勝ちだ!!」
アオイが勝どきを上げる。その言葉にへたりこんでいたカインとソフィも元気よく腕を上げた。
サラはよく頑張ってくれたとゼロの背を優しく撫でた。
「ああ。嫌な予感に様子を見に来たら……またあなた達ですか」
勝利に喜ぶカイン達の耳に少年のような声が響いた。
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