辺境暮らしの付与術士
第116話
愕然としていたアオイ目がけてリヴァイアサンの口先が迫る。
すぐさまその場から退くために全速力で駆け出し、最後は可能な限りの跳躍をする。
山が落ちたかと思われるような質量が、誰もいなくなった氷の上を打ち付ける。
魔力による教科がなされているのにも関わらず、無数の亀裂が氷に走った。
アオイが難を逃れられたのは自身の身体能力もさることながら、カインの咄嗟の魔法による強化の賜物だろう。
そうでなければ如何にアオイと言えども、間に合わなかったに違いない。
顔が下がり、目的の背びれが天を向いたのを見計らって、サラはゼロと共に急接近し背びれを引き裂くための一撃を放った。
この日のためにサラとゼロは言葉は通じなくても意思疎通が出来るよう、動作や様々な合図を共有しお互いの行動を理解するようになっていた。
本来ならばその域まで達するにはかなりの時間を有するはずだが、ソフィとフーの手助けによりこの短期間でことを成していた。
しかしその努力を持ってしても、現実は非常を突きつける。
アオイ同様サラの放った剣もリヴァイアサンの硬い外皮に阻まれ、背びれを切り落とすどころか僅かな傷を付けたに過ぎなかった。
「もう! 嘘でしょ!? こんなのどうやって切ればいいのよ!!」
リヴァイアサンとの接触を逃れるためその場から離脱するゼロの上でサラは叫ぶ。
アオイの秘技を持ってしても、また自信の持つ今持ちうる最高強度と切れ味の剣を持ってしても十分な傷を与えられずにいる。
その時サラが思い付いことは、剣士としては恥ずべき事なのかもしれない。
しかしどんな手を使ったとしても状況を打破するという冒険者の観点から見れば、最適とも言える解だったのかもしれない。
「アオイさん! これを!!」
サラは上空からアオイに向かって自分の剣を投げた。
アオイは目の前に突き刺さったミスリル製の剣を引き抜く。
「分かった!」
そうとだけ答えると、アオイは意識を集中し目の前でどうにか束縛から逃れようとするリヴァイアサンを見据えた。
アオイの手先、柄を握ったところから淡い光が伸びていきやがて剣先まで到達する。
一閃。アオイの放った剣撃はこちらの攻撃を防いでいた外皮を切り裂き、肉を断ち骨まで達した。
初めて受けたであろう痛みにリヴァイアサンはこれにまでも増して暴れ回る。
何度も頭を打ち付けられた氷の足場は、とうとう耐えきれずに瓦解していった。
やっと束縛から逃れたリヴァイアサンは一度咆哮すると再び海中へと潜って行く。
足場を失ったソフィとアオイをゼロが素早く拾い上げ、甲板へと運んだ。
「すまん……サラちゃん。なんとか攻撃は通ったが、このザマだ」
サラがアオイの手に目を向けると、そこには無数の亀裂が入り刃こぼれした剣が握られていた。
いくら魔力と親和性の高いミスリルだとしても、その許容量には限界があったようだ。
カインの幾重に重ねた魔力による強化と、アオイの秘技による影響。
そして恐らくこの世界に存在する何物よりも硬いリヴァイアサンの外皮、それらによってミスリルの剣はその寿命を迎えた。
「どうしよう!? 足場は無くなったし、武器もない。諦めるしかないの?」
ソフィは額に汗をかき少し苦しそうな顔をしながら声を上げた。
二度に渡る自身の最大級の魔法の行使、もう一度やれと言われても残りの魔力が持たないだろう。
「ひとまずソフィちゃんはマチに魔力を回復してもらって。今この場で攻撃可能な者はゼロと意思疎通しながら乗れるサラだけだ」
「分かってるけど! さっきの攻撃見たでしょう? ほとんど傷がつけられなかった……それにその武器もこんなだし」
落ち込んだ顔を見せるサラにカインは腰に下げた一対の短剣を渡す。
それはカインがカリラの書室で見つけたものだった。
カインはこの短剣を使い、技と呼べる技術などないにもかかわらず、アオイと一緒にベヒーモスの角を切り落としたのだ。
何か生き物の骨か牙などから削り出されたと思われる短剣。
「この短剣ならもしかしたら攻撃が通るかもしれない。ダメで元々だ。やってみてくれないか」
「分かった……分かったわ、おとうさん。ごめんね、泣き言なんて言って」
カインはサラに手渡す前に今込めることの出来る最大限の魔力を使い、短剣を強化する。
何故か分からないが、この短剣にはミスリルのコーティングが出来なかったのだ。
「サラちゃん……俺の技の秘訣を覚えているかい?」
「ええ。魔力ではなく生命力というものを手から握った武器へ流すんですよね?」
「そうだ。身体に流れる力を感じる事は容易いが、それを外へ出すというのが難しい。結局そこまで身に付けるには時間が足らなかったが、もう一度だけ試してみてくれないか?」
「分かりました。一度も成功できませんでしたが、やってみます」
サラは集中し手の先に持つ短剣へと意識を向ける。
やがてアオイが先ほど見せたように握った柄から剣先へと淡い光が伸びて行った。
「出来た! 出来たじゃないか!! うん? なんだ、剣の色が……」
漆黒だった短剣はサラから放たれる光によって徐々に漂白され、やがて真白く輝きを放った。
すぐさまその場から退くために全速力で駆け出し、最後は可能な限りの跳躍をする。
山が落ちたかと思われるような質量が、誰もいなくなった氷の上を打ち付ける。
魔力による教科がなされているのにも関わらず、無数の亀裂が氷に走った。
アオイが難を逃れられたのは自身の身体能力もさることながら、カインの咄嗟の魔法による強化の賜物だろう。
そうでなければ如何にアオイと言えども、間に合わなかったに違いない。
顔が下がり、目的の背びれが天を向いたのを見計らって、サラはゼロと共に急接近し背びれを引き裂くための一撃を放った。
この日のためにサラとゼロは言葉は通じなくても意思疎通が出来るよう、動作や様々な合図を共有しお互いの行動を理解するようになっていた。
本来ならばその域まで達するにはかなりの時間を有するはずだが、ソフィとフーの手助けによりこの短期間でことを成していた。
しかしその努力を持ってしても、現実は非常を突きつける。
アオイ同様サラの放った剣もリヴァイアサンの硬い外皮に阻まれ、背びれを切り落とすどころか僅かな傷を付けたに過ぎなかった。
「もう! 嘘でしょ!? こんなのどうやって切ればいいのよ!!」
リヴァイアサンとの接触を逃れるためその場から離脱するゼロの上でサラは叫ぶ。
アオイの秘技を持ってしても、また自信の持つ今持ちうる最高強度と切れ味の剣を持ってしても十分な傷を与えられずにいる。
その時サラが思い付いことは、剣士としては恥ずべき事なのかもしれない。
しかしどんな手を使ったとしても状況を打破するという冒険者の観点から見れば、最適とも言える解だったのかもしれない。
「アオイさん! これを!!」
サラは上空からアオイに向かって自分の剣を投げた。
アオイは目の前に突き刺さったミスリル製の剣を引き抜く。
「分かった!」
そうとだけ答えると、アオイは意識を集中し目の前でどうにか束縛から逃れようとするリヴァイアサンを見据えた。
アオイの手先、柄を握ったところから淡い光が伸びていきやがて剣先まで到達する。
一閃。アオイの放った剣撃はこちらの攻撃を防いでいた外皮を切り裂き、肉を断ち骨まで達した。
初めて受けたであろう痛みにリヴァイアサンはこれにまでも増して暴れ回る。
何度も頭を打ち付けられた氷の足場は、とうとう耐えきれずに瓦解していった。
やっと束縛から逃れたリヴァイアサンは一度咆哮すると再び海中へと潜って行く。
足場を失ったソフィとアオイをゼロが素早く拾い上げ、甲板へと運んだ。
「すまん……サラちゃん。なんとか攻撃は通ったが、このザマだ」
サラがアオイの手に目を向けると、そこには無数の亀裂が入り刃こぼれした剣が握られていた。
いくら魔力と親和性の高いミスリルだとしても、その許容量には限界があったようだ。
カインの幾重に重ねた魔力による強化と、アオイの秘技による影響。
そして恐らくこの世界に存在する何物よりも硬いリヴァイアサンの外皮、それらによってミスリルの剣はその寿命を迎えた。
「どうしよう!? 足場は無くなったし、武器もない。諦めるしかないの?」
ソフィは額に汗をかき少し苦しそうな顔をしながら声を上げた。
二度に渡る自身の最大級の魔法の行使、もう一度やれと言われても残りの魔力が持たないだろう。
「ひとまずソフィちゃんはマチに魔力を回復してもらって。今この場で攻撃可能な者はゼロと意思疎通しながら乗れるサラだけだ」
「分かってるけど! さっきの攻撃見たでしょう? ほとんど傷がつけられなかった……それにその武器もこんなだし」
落ち込んだ顔を見せるサラにカインは腰に下げた一対の短剣を渡す。
それはカインがカリラの書室で見つけたものだった。
カインはこの短剣を使い、技と呼べる技術などないにもかかわらず、アオイと一緒にベヒーモスの角を切り落としたのだ。
何か生き物の骨か牙などから削り出されたと思われる短剣。
「この短剣ならもしかしたら攻撃が通るかもしれない。ダメで元々だ。やってみてくれないか」
「分かった……分かったわ、おとうさん。ごめんね、泣き言なんて言って」
カインはサラに手渡す前に今込めることの出来る最大限の魔力を使い、短剣を強化する。
何故か分からないが、この短剣にはミスリルのコーティングが出来なかったのだ。
「サラちゃん……俺の技の秘訣を覚えているかい?」
「ええ。魔力ではなく生命力というものを手から握った武器へ流すんですよね?」
「そうだ。身体に流れる力を感じる事は容易いが、それを外へ出すというのが難しい。結局そこまで身に付けるには時間が足らなかったが、もう一度だけ試してみてくれないか?」
「分かりました。一度も成功できませんでしたが、やってみます」
サラは集中し手の先に持つ短剣へと意識を向ける。
やがてアオイが先ほど見せたように握った柄から剣先へと淡い光が伸びて行った。
「出来た! 出来たじゃないか!! うん? なんだ、剣の色が……」
漆黒だった短剣はサラから放たれる光によって徐々に漂白され、やがて真白く輝きを放った。
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