辺境暮らしの付与術士
第113話
カイン達が船倉へ辿り着くと、サラはペンダントを片手に握ったまま船倉に置かれた机や椅子に押し潰されていた。
「サラ!!」
「来ちゃダメ!!」
カイン達が駆け寄ろうとするが、サラの静止に立ち止まる。
すると机や椅子がまるで意思があるかのように動き始めた。
「シバじゃ! こやつ何かに魅了されておる! どうにかするのじゃ!」
そう叫んだコハンの右手はシバの左手に押さえつけられ、真っ白な細い腕は握られている部分がうっ血していた。
どうやら無理やり押さえ付けられ魔力の供給を強いられているようだ。
おそらく魔力の供給を止めればコハンの身に危険が起こるだろう。
「くそっ! 俺だけじゃなくシバさんもか! それにしても船内の物まで自由にできるのかよっ。敵に回すととんでもない宝具だな!」
幸い生き物には影響がないようでカイン達の身体の動きを制御することは出来ないようだ。
また、どうやって認識しているか分からないが、船の一部でなければ動かせないと前にシバが言っていたのをカインは思い出した。
「皆、間違っても武器を手放さないように! 船の一部と認識されたら、武器さえもシバさんの思い通りになってしまう」
「それよりお父さんこれを!」
机や椅子に阻まれ身動きが取れないサラが必死の思いで手に持つペンダントを振った。
アオイがこちらに向かってくる机や椅子を薙ぎ払いながら、サラからペンダントをもぎ取る。
切断された木材はなおもアオイの行く手を阻む。
カインは空気の壁でそれを防ぎ、その隙にアオイは虚ろな目をしたシバにペンダントをかけた。
途端にサラは解放され、その場に尻もちをつく。
カインが防いだ木片も音を立てながら床に転がった。
「ふぅっ! まったく……とんでもねぇな」
「はっ!? これは? すまん! なんだか分からないが、歌声が聞こえて……気付いたら」
「歌声じゃと? 先ほどから聞こえてくるこの奇妙な音のことか?」
状況が把握出来ていないコハンに外にいる女性の形をした何かが歌を歌い、その影響で様々な生き物がおかしくなっていることを説明した。
コハンは合点が行かぬ顔をしていたが、シバが突如声を上げる。
「セイレーンか!! まさか、実在する魔物だったとは!」
「セイレーン? それがその魔物の正体なのじゃな? どんな魔物なのじゃ?」
「美しい女性の姿をした魔物で、歌声で船乗りを惑わし海へ引きずりこむって話だ。あくまで船乗りの酒のつまみに語られる伝説だと思っていたが……」
「それはそうとしてなんで俺とシバさんだけ?」
アオイが疑問の声を上げる。
「女性に魅了されるのは男だけっていう話なんだ。本当かどうかは知らんがな。そうなると、カインさんがおかしくなっていないのが不思議だな?」
「お父さんは何故かわからないけれど異常に耐性があるみたいで……きゃっ!?」
船体が激しく揺れ、サラは叫び声を上げた。
何かが船にぶつかるような音が無数に聞こえてくる。
気付けば先ほどまで聞こえていた歌声は止んでいるようだ。
「おい! 本当にセイレーンなのか知らんが、あいつら船底にぶつかり始めたぞ!」
魔道核の力によって唯一船の外の様子を確認することが出来るシバが大声を出す。
「慌てないでください! 余程のことがない限りこの船の装甲が破られ沈むようなことはありません。しかし、どちらにしろ奴らは厄介です。どうにかしましょう」
カインはそう言うと甲板へと駆けていく。
サラやソフィ、アオイもその後をついて行った。
甲板に戻るとシバの言うように先ほどまで歌っていたセイレーン達は船を沈めようとしているのか、船に群がり船底に穴を開けようとしている。
美しい顔をした無数の女性が群がっている様はどこか恐怖じみたものを感じる。
「どうにかするって! お父さん何か手はあるの? この前の話しじゃあ、ソフィの雷も効かなかったっていうじゃない。こんな数にペンダントを押し付けるのなんて無理だし、そもそも敵は水の中よ?」
サラの言葉にカインは頭を捻った。そこで思いついたのが、解呪の付与魔法をかけたベヒーモスの角だった。
元々はリヴァイアサンをおびき寄せるための物だったが、もしセイレーン達が以前見た女性と同じならば、ベヒーモスの角に執着があるのかもしれない。
もし自分から触りに行けば、角にかけられた付与魔法の効果でどうにか出来るかもしれない。
「ソフィちゃん。予定より早いが、ベヒーモスの角を沈めてくれ!」
「え!? 今ですか?」
ソフィは驚くがカインが頷くのを見ると真面目な顔に戻り、ベヒーモスの角を持ち上げ沈めるために、風魔法を唱えた。
唱えられた魔法の効果で、数人がかりで持ち上げるのがやっとのベヒーモスの角は、持ち上がり縁を超えると大きな飛沫を上げ、海へと沈んで行った。
船底に群がっていたセイレーン達は、ベヒーモスの角に引き寄せられるように船から離れ角へと群がる。
角に触れた瞬間、セイレーン達の姿は消え失せ、そこから無数の泡が立ち上り水面で弾けて消えた。
「サラ!!」
「来ちゃダメ!!」
カイン達が駆け寄ろうとするが、サラの静止に立ち止まる。
すると机や椅子がまるで意思があるかのように動き始めた。
「シバじゃ! こやつ何かに魅了されておる! どうにかするのじゃ!」
そう叫んだコハンの右手はシバの左手に押さえつけられ、真っ白な細い腕は握られている部分がうっ血していた。
どうやら無理やり押さえ付けられ魔力の供給を強いられているようだ。
おそらく魔力の供給を止めればコハンの身に危険が起こるだろう。
「くそっ! 俺だけじゃなくシバさんもか! それにしても船内の物まで自由にできるのかよっ。敵に回すととんでもない宝具だな!」
幸い生き物には影響がないようでカイン達の身体の動きを制御することは出来ないようだ。
また、どうやって認識しているか分からないが、船の一部でなければ動かせないと前にシバが言っていたのをカインは思い出した。
「皆、間違っても武器を手放さないように! 船の一部と認識されたら、武器さえもシバさんの思い通りになってしまう」
「それよりお父さんこれを!」
机や椅子に阻まれ身動きが取れないサラが必死の思いで手に持つペンダントを振った。
アオイがこちらに向かってくる机や椅子を薙ぎ払いながら、サラからペンダントをもぎ取る。
切断された木材はなおもアオイの行く手を阻む。
カインは空気の壁でそれを防ぎ、その隙にアオイは虚ろな目をしたシバにペンダントをかけた。
途端にサラは解放され、その場に尻もちをつく。
カインが防いだ木片も音を立てながら床に転がった。
「ふぅっ! まったく……とんでもねぇな」
「はっ!? これは? すまん! なんだか分からないが、歌声が聞こえて……気付いたら」
「歌声じゃと? 先ほどから聞こえてくるこの奇妙な音のことか?」
状況が把握出来ていないコハンに外にいる女性の形をした何かが歌を歌い、その影響で様々な生き物がおかしくなっていることを説明した。
コハンは合点が行かぬ顔をしていたが、シバが突如声を上げる。
「セイレーンか!! まさか、実在する魔物だったとは!」
「セイレーン? それがその魔物の正体なのじゃな? どんな魔物なのじゃ?」
「美しい女性の姿をした魔物で、歌声で船乗りを惑わし海へ引きずりこむって話だ。あくまで船乗りの酒のつまみに語られる伝説だと思っていたが……」
「それはそうとしてなんで俺とシバさんだけ?」
アオイが疑問の声を上げる。
「女性に魅了されるのは男だけっていう話なんだ。本当かどうかは知らんがな。そうなると、カインさんがおかしくなっていないのが不思議だな?」
「お父さんは何故かわからないけれど異常に耐性があるみたいで……きゃっ!?」
船体が激しく揺れ、サラは叫び声を上げた。
何かが船にぶつかるような音が無数に聞こえてくる。
気付けば先ほどまで聞こえていた歌声は止んでいるようだ。
「おい! 本当にセイレーンなのか知らんが、あいつら船底にぶつかり始めたぞ!」
魔道核の力によって唯一船の外の様子を確認することが出来るシバが大声を出す。
「慌てないでください! 余程のことがない限りこの船の装甲が破られ沈むようなことはありません。しかし、どちらにしろ奴らは厄介です。どうにかしましょう」
カインはそう言うと甲板へと駆けていく。
サラやソフィ、アオイもその後をついて行った。
甲板に戻るとシバの言うように先ほどまで歌っていたセイレーン達は船を沈めようとしているのか、船に群がり船底に穴を開けようとしている。
美しい顔をした無数の女性が群がっている様はどこか恐怖じみたものを感じる。
「どうにかするって! お父さん何か手はあるの? この前の話しじゃあ、ソフィの雷も効かなかったっていうじゃない。こんな数にペンダントを押し付けるのなんて無理だし、そもそも敵は水の中よ?」
サラの言葉にカインは頭を捻った。そこで思いついたのが、解呪の付与魔法をかけたベヒーモスの角だった。
元々はリヴァイアサンをおびき寄せるための物だったが、もしセイレーン達が以前見た女性と同じならば、ベヒーモスの角に執着があるのかもしれない。
もし自分から触りに行けば、角にかけられた付与魔法の効果でどうにか出来るかもしれない。
「ソフィちゃん。予定より早いが、ベヒーモスの角を沈めてくれ!」
「え!? 今ですか?」
ソフィは驚くがカインが頷くのを見ると真面目な顔に戻り、ベヒーモスの角を持ち上げ沈めるために、風魔法を唱えた。
唱えられた魔法の効果で、数人がかりで持ち上げるのがやっとのベヒーモスの角は、持ち上がり縁を超えると大きな飛沫を上げ、海へと沈んで行った。
船底に群がっていたセイレーン達は、ベヒーモスの角に引き寄せられるように船から離れ角へと群がる。
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