辺境暮らしの付与術士
第107話
ゆっくりとした動作で近付く女性にゼロは風の刃を放つ。
先ほどのソフィの雷魔法の直撃を受けても平然としていたのを見ていたためか、放った魔法は面積を極力狭くして威力を最大に上げていた。
大木をも容易く切り裂く刃が女性を襲う。
女性はそれを防ぐでも避けるでもなく、まるで無関心に歩を進めた。
その場で起きた出来事に、カインを除くゼロを含めた全員が驚愕した。
カインが驚かなかったのは、単に彼の視界にはそれが映っていないからだ。
ゼロのはなった風の刃は寸分違わず女性の胴体を寸断し、そのたおやかな身体を分けた。
しかし、女性は自身の上半身が下半身と別れを告げた事など気にもとめない顔付きでいる。
まるで一切の痛覚など無いかのように。
しかし、その場にいる者達が驚いたのは、胴体を切られてもなお平然としている女性を見たためでは無い。
彼らが驚いた物、それは女性の身体が着ている服も含めてまるで何事も無かったかのように、先ほどと変わらぬ姿に戻ったからだ。
先ほどのソフィの雷魔法の時は閃光と粉塵で女性がどのようになっていたかは見えなかった。
視界が確保された先に見えた女性の身体に何も変化が見られなかったため、おそらく防いだか避けたのかと思われたが、たった今、目の前で起こった出来事を考えるとそうではなかったのかもしれない。
「どういう事だ!? 今、明らかにあのグリフォンの魔法で真っ二つになっただろ!」
アオイが叫ぶ。それは誰かに対してではなく、自身が見たものを否定したいが為の叫びだった。
「それよりも服はどうなってるんです! 恐ろしく再生能力の高い魔物だとしても、服まで再生する理由が分かりません!」
ソフィもつられて叫んだ。アオイと同様、目の前の出来事を拒否したいがための叫びだ。
信じてしまえば、自身の最高とまでは言わないまでも強力な魔法を、その身で受けても何事も無い存在が目の前にいることになるのだ。
「何が起こってるんです!? この状況はまずい! 一旦引きましょう! 相手の目的も分かりませんが、少なくとも現状こちらに危害を加える様子はないのでしょう?」
一人状況を視ることが出来ずにいるカインが叫ぶ。
女性の姿を視ることは出来ずとも、ソフィやゼロが放った魔法の威力は十分に理解している。
その魔法を放ってすら慌てた様子のアオイとソフィをみて、自身が視えないために援護できないこの状況は不確定要素が高すぎて不利だと判断したのだ。
カインの言葉に二人は声を出すまもなく行動で応じた。
「待つのじゃ! ソフィ殿! あやつに向かってお主のペンダントを投げるのじゃ!!」
突然聞こえた声に三人は一瞬固まったが、声の主が置いてきたコハンだとすぐに理解した。
ソフィはコハンの言葉の意味を理解するより先に、首にかけたペンダントを外すと青髪の女性に向かって投げつけた。
ほぼ直線的に飛んで行ったペンダントは、女性の背中の当たった。
その瞬間まるで突沸でもしたかのような音とともに女性から黒い煙がもうもうと立ち込めた。
煙は空へ上りながらゆっくりと薄らいでいく。
唖然とその様子を眺めていた二人の耳にカインの声が入ってきた。
「まさか……水でできていた?」
その意味が全く分からない二人が見たものは、女性が立っていたところに出来た水溜まりだった。
その水溜りにソフィが投げたペンダントが沈んでいる。
「ふむ……やはりあやつは呪いそのものだったようじゃの」
少し離れた位置からこちらに近付いてくるコハンに向かってソフィが問いを投げかけた。
「コハンさん。呪いそのものって? あれは一体なんだったの?」
「何だったかはわしにも分からん。しかし、あやつの全身から呪いの力を感じた。しかも、わしの集落のみながかかったものと同じような呪いじゃ。みなの呪いはお主のペンダントで解くことが出来た。今回もそうかと思っただけじゃよ」
それを聞いたカインが言葉を加える。
「その水溜り。それがソフィちゃんとアオイさんが見たものの正体のようです。つまり水が呪いの力でまるで女性のような姿をしたということでしょう」
「そんな事がありえるのか!? いや……カインさんと会ってからはありえない事だらけだったな。もう驚かないなどと言ってみたが、それは無理だったようだ」
アオイは水溜まりまで近付きその臭いを嗅いだ。
「これは……海水だな。磯の香りがする。海の水を使って誰かがあの女性を作ったってことか? しかし、なんのために……」
「コハンさんの集落で起きた事と関連があるのかもしれませんね。注意しなくては。ひとまず、向こうで待たせたままも申し訳ないので、まずは角を運んでしまいましょう」
「しかし、あの女性、このベヒーモスの角に関心があったようにも思えるぞ。そんなもの街の中に運び込んでも大丈夫か?」
「うーん。それは困りましたね。ここに置きっぱなしも出来ないですし。その女性が来てもペンダントでなんとかなるのであれば……分かりました。この角に解呪の付与魔法をかけておきましょう。そうすれば触った瞬間に解呪されるはずです」
カインの提案は一同からひとまずの賛同を得て、予定通りベヒーモスの角は荷車に載せられ、ルシェルシュの街へと運ばれて行った。
先ほどのソフィの雷魔法の直撃を受けても平然としていたのを見ていたためか、放った魔法は面積を極力狭くして威力を最大に上げていた。
大木をも容易く切り裂く刃が女性を襲う。
女性はそれを防ぐでも避けるでもなく、まるで無関心に歩を進めた。
その場で起きた出来事に、カインを除くゼロを含めた全員が驚愕した。
カインが驚かなかったのは、単に彼の視界にはそれが映っていないからだ。
ゼロのはなった風の刃は寸分違わず女性の胴体を寸断し、そのたおやかな身体を分けた。
しかし、女性は自身の上半身が下半身と別れを告げた事など気にもとめない顔付きでいる。
まるで一切の痛覚など無いかのように。
しかし、その場にいる者達が驚いたのは、胴体を切られてもなお平然としている女性を見たためでは無い。
彼らが驚いた物、それは女性の身体が着ている服も含めてまるで何事も無かったかのように、先ほどと変わらぬ姿に戻ったからだ。
先ほどのソフィの雷魔法の時は閃光と粉塵で女性がどのようになっていたかは見えなかった。
視界が確保された先に見えた女性の身体に何も変化が見られなかったため、おそらく防いだか避けたのかと思われたが、たった今、目の前で起こった出来事を考えるとそうではなかったのかもしれない。
「どういう事だ!? 今、明らかにあのグリフォンの魔法で真っ二つになっただろ!」
アオイが叫ぶ。それは誰かに対してではなく、自身が見たものを否定したいが為の叫びだった。
「それよりも服はどうなってるんです! 恐ろしく再生能力の高い魔物だとしても、服まで再生する理由が分かりません!」
ソフィもつられて叫んだ。アオイと同様、目の前の出来事を拒否したいがための叫びだ。
信じてしまえば、自身の最高とまでは言わないまでも強力な魔法を、その身で受けても何事も無い存在が目の前にいることになるのだ。
「何が起こってるんです!? この状況はまずい! 一旦引きましょう! 相手の目的も分かりませんが、少なくとも現状こちらに危害を加える様子はないのでしょう?」
一人状況を視ることが出来ずにいるカインが叫ぶ。
女性の姿を視ることは出来ずとも、ソフィやゼロが放った魔法の威力は十分に理解している。
その魔法を放ってすら慌てた様子のアオイとソフィをみて、自身が視えないために援護できないこの状況は不確定要素が高すぎて不利だと判断したのだ。
カインの言葉に二人は声を出すまもなく行動で応じた。
「待つのじゃ! ソフィ殿! あやつに向かってお主のペンダントを投げるのじゃ!!」
突然聞こえた声に三人は一瞬固まったが、声の主が置いてきたコハンだとすぐに理解した。
ソフィはコハンの言葉の意味を理解するより先に、首にかけたペンダントを外すと青髪の女性に向かって投げつけた。
ほぼ直線的に飛んで行ったペンダントは、女性の背中の当たった。
その瞬間まるで突沸でもしたかのような音とともに女性から黒い煙がもうもうと立ち込めた。
煙は空へ上りながらゆっくりと薄らいでいく。
唖然とその様子を眺めていた二人の耳にカインの声が入ってきた。
「まさか……水でできていた?」
その意味が全く分からない二人が見たものは、女性が立っていたところに出来た水溜まりだった。
その水溜りにソフィが投げたペンダントが沈んでいる。
「ふむ……やはりあやつは呪いそのものだったようじゃの」
少し離れた位置からこちらに近付いてくるコハンに向かってソフィが問いを投げかけた。
「コハンさん。呪いそのものって? あれは一体なんだったの?」
「何だったかはわしにも分からん。しかし、あやつの全身から呪いの力を感じた。しかも、わしの集落のみながかかったものと同じような呪いじゃ。みなの呪いはお主のペンダントで解くことが出来た。今回もそうかと思っただけじゃよ」
それを聞いたカインが言葉を加える。
「その水溜り。それがソフィちゃんとアオイさんが見たものの正体のようです。つまり水が呪いの力でまるで女性のような姿をしたということでしょう」
「そんな事がありえるのか!? いや……カインさんと会ってからはありえない事だらけだったな。もう驚かないなどと言ってみたが、それは無理だったようだ」
アオイは水溜まりまで近付きその臭いを嗅いだ。
「これは……海水だな。磯の香りがする。海の水を使って誰かがあの女性を作ったってことか? しかし、なんのために……」
「コハンさんの集落で起きた事と関連があるのかもしれませんね。注意しなくては。ひとまず、向こうで待たせたままも申し訳ないので、まずは角を運んでしまいましょう」
「しかし、あの女性、このベヒーモスの角に関心があったようにも思えるぞ。そんなもの街の中に運び込んでも大丈夫か?」
「うーん。それは困りましたね。ここに置きっぱなしも出来ないですし。その女性が来てもペンダントでなんとかなるのであれば……分かりました。この角に解呪の付与魔法をかけておきましょう。そうすれば触った瞬間に解呪されるはずです」
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