辺境暮らしの付与術士
第106話
「ところでカインさん。これは何の騒ぎですか?」
「ん? ああ。実は養祖母の家に訪れた時にベヒーモスと遭遇してね。あそこにいるアオイさんと一緒になんとか撃退したんだけど。その時手に入れたベヒーモスの角をゼロに近くまで運んでもらったんだが、それを取りに行くところなんだよ」
「ベヒーモスですか!? それは……無事で何よりです」
「うん。危なかったよ。今回は本当に色々と運が良かったおかげだね。まぁ、本当に運が良かったらそもそもベヒーモスなんかに遭遇しないだろうけど」
少し遠目で眺めていたアオイは自分の名前が上がったのが聞こえたのか、三人の元へ近付いて来た。
ソフィはアオイに気付き、小さく頭を下げた。アオイもそれに応じるが、コハンは未だに自分の世界に深く沈んでいるようだ。
「カインさん。これが話してた娘さんかい? あまり似ていないようだが……」
「いえいえ。この子はソフィちゃん。娘の戦友ですよ」
目の前の若い女性がゼロの主人だと知ったアオイは驚いた顔をした後、改めてしっかりと互いに挨拶を交わした。一言二言話した後本題に入る。
カインはベヒーモスに出会い辛くも撃退できたことと角を手に入れたこと、更にそれが今回のリヴァイアサン討伐の呼び水になるだろうことを伝えた。
一方、ソフィは一人自分の世界に浸っているコハンの紹介と、エルフの集落で起きた呪いの話をした。
それを聞いたカインとアオイは訝しげな顔をしたが、原因も今のところ分からず一応の解決は見せたことでひとまずベヒーモスの角の回収を急ぐことにした。
荷車を押す人々を誘導しながらカイン達はゼロが見張っているベヒーモスの角が置いてある広場まで向かった。
コハンは一人置いておく訳にも行かず、ソフィが手を引く形で同行させることにした。
コハンはブツブツと一人呟いているわりに繋いだソフィの手をしっかりと握り返している。
コハンのララへの感情を思い出し、ソフィは若干複雑な気分になった。
「ちょっと待ってください。皆さん一度ここで止まってくれますか?」
もうすぐゼロの元へ辿り着くという辺りで、突然カインは荷車の動きを制止した。
続いてソフィ、アオイにゼロの様子がおかしいことを伝える。
ゼロが目的の場所に居るのは間違いないが、カインがこれから向かうから人々を驚かせないよう空へ移動するよう例の念話で伝えても一向に動かないのだ。
しかもゼロはまるで何かに敵対しているような姿勢を取っているようにも視えた。カインには視えない何かだ。
「えっと。カインさんすいません。念話ってどういう事ですか? それにゼロに話しかけるって……」
先程の説明でカインはすっかり念話についてソフィに話す事を忘れていた。
しかし不穏な空気を感じ取ったカインは説明を後回しにして、二人を連れて現場へ急ぐことにした。
現場に辿り着いた三人は、それぞれ異なる感想を抱いた。
ゼロはベヒーモスの角を何者かから守るように臨戦態勢を取っている。
しかし、その先の何かをカインは視ることが出来なかった。それは何度か経験したことだった。
カインはそれを視るために最大限の努力をした。
一方、ソフィとアオイが見たのは、同じくゼロと、その先に佇む一人の深い青色の髪の女性だった。
カインの先程の発言から女性の正体を類推したソフィは全力で排除するためにすぐに詠唱を始めた。
アオイはたまたま出くわした女性がゼロに襲われそうになってると思い、もしもの事がないよう慌てて口を開いた。
「そこのあんた! その魔物は危険じゃない! 何もしなければ襲ってこないから、ひとまずこっちに来るんだ!!」
アオイの声に反応し、顔をそちらに向ける女性。
端正な顔立ちではあるがまるで感情が感じられないその顔は、どこか作り物のような印象を与えた。
突如女性を特大の雷が襲う。天から落ちた雷光は寸分違わず女性の身体を撃ち抜き地面へと消えていく。
その出来事に驚きの顔をしながらその術を放ったソフィに向かって抗議するアオイ。
「あんた正気か!? いきなり殺すなんて!!」
ソフィが反論しようとした矢先、ソフィとアオイの目は再びたった今、雷の直撃を受けたばかりの女性へと向かう。
並の人間ならば消し炭すら残るかというソフィの魔法を受けた女性は、先程と何ら変わらない姿でそこに立っていた。
どんな魔法を使ったのか分からないが、着ている服ですら一切の変化は見受けられなかった。
アオイはあまりの出来事に声を失う。
「カインさん! カインさんが視えてないってことはこの女、例の関係者ですよね!?」
「それが分からないんだ。何度かあったのは知っての通りだが、今回は今までとも違う。どうやっても少しも視えないんだ」
アオイは二人が何の話をしているか完全に理解した訳では無いが、状況を理解し、守るべきと思っていた女性がそうではない対象だと判断した。
短い間ではあるものの少なくともカインが理由もなく人殺しをすることは無いだろうという結論に至ったのだ。
興味を失ったのか、それともベヒーモスの角により興味をそそられる何かがあるのか、女性はゆっくりとした足取りでゼロの方へ向かっていった。
「ん? ああ。実は養祖母の家に訪れた時にベヒーモスと遭遇してね。あそこにいるアオイさんと一緒になんとか撃退したんだけど。その時手に入れたベヒーモスの角をゼロに近くまで運んでもらったんだが、それを取りに行くところなんだよ」
「ベヒーモスですか!? それは……無事で何よりです」
「うん。危なかったよ。今回は本当に色々と運が良かったおかげだね。まぁ、本当に運が良かったらそもそもベヒーモスなんかに遭遇しないだろうけど」
少し遠目で眺めていたアオイは自分の名前が上がったのが聞こえたのか、三人の元へ近付いて来た。
ソフィはアオイに気付き、小さく頭を下げた。アオイもそれに応じるが、コハンは未だに自分の世界に深く沈んでいるようだ。
「カインさん。これが話してた娘さんかい? あまり似ていないようだが……」
「いえいえ。この子はソフィちゃん。娘の戦友ですよ」
目の前の若い女性がゼロの主人だと知ったアオイは驚いた顔をした後、改めてしっかりと互いに挨拶を交わした。一言二言話した後本題に入る。
カインはベヒーモスに出会い辛くも撃退できたことと角を手に入れたこと、更にそれが今回のリヴァイアサン討伐の呼び水になるだろうことを伝えた。
一方、ソフィは一人自分の世界に浸っているコハンの紹介と、エルフの集落で起きた呪いの話をした。
それを聞いたカインとアオイは訝しげな顔をしたが、原因も今のところ分からず一応の解決は見せたことでひとまずベヒーモスの角の回収を急ぐことにした。
荷車を押す人々を誘導しながらカイン達はゼロが見張っているベヒーモスの角が置いてある広場まで向かった。
コハンは一人置いておく訳にも行かず、ソフィが手を引く形で同行させることにした。
コハンはブツブツと一人呟いているわりに繋いだソフィの手をしっかりと握り返している。
コハンのララへの感情を思い出し、ソフィは若干複雑な気分になった。
「ちょっと待ってください。皆さん一度ここで止まってくれますか?」
もうすぐゼロの元へ辿り着くという辺りで、突然カインは荷車の動きを制止した。
続いてソフィ、アオイにゼロの様子がおかしいことを伝える。
ゼロが目的の場所に居るのは間違いないが、カインがこれから向かうから人々を驚かせないよう空へ移動するよう例の念話で伝えても一向に動かないのだ。
しかもゼロはまるで何かに敵対しているような姿勢を取っているようにも視えた。カインには視えない何かだ。
「えっと。カインさんすいません。念話ってどういう事ですか? それにゼロに話しかけるって……」
先程の説明でカインはすっかり念話についてソフィに話す事を忘れていた。
しかし不穏な空気を感じ取ったカインは説明を後回しにして、二人を連れて現場へ急ぐことにした。
現場に辿り着いた三人は、それぞれ異なる感想を抱いた。
ゼロはベヒーモスの角を何者かから守るように臨戦態勢を取っている。
しかし、その先の何かをカインは視ることが出来なかった。それは何度か経験したことだった。
カインはそれを視るために最大限の努力をした。
一方、ソフィとアオイが見たのは、同じくゼロと、その先に佇む一人の深い青色の髪の女性だった。
カインの先程の発言から女性の正体を類推したソフィは全力で排除するためにすぐに詠唱を始めた。
アオイはたまたま出くわした女性がゼロに襲われそうになってると思い、もしもの事がないよう慌てて口を開いた。
「そこのあんた! その魔物は危険じゃない! 何もしなければ襲ってこないから、ひとまずこっちに来るんだ!!」
アオイの声に反応し、顔をそちらに向ける女性。
端正な顔立ちではあるがまるで感情が感じられないその顔は、どこか作り物のような印象を与えた。
突如女性を特大の雷が襲う。天から落ちた雷光は寸分違わず女性の身体を撃ち抜き地面へと消えていく。
その出来事に驚きの顔をしながらその術を放ったソフィに向かって抗議するアオイ。
「あんた正気か!? いきなり殺すなんて!!」
ソフィが反論しようとした矢先、ソフィとアオイの目は再びたった今、雷の直撃を受けたばかりの女性へと向かう。
並の人間ならば消し炭すら残るかというソフィの魔法を受けた女性は、先程と何ら変わらない姿でそこに立っていた。
どんな魔法を使ったのか分からないが、着ている服ですら一切の変化は見受けられなかった。
アオイはあまりの出来事に声を失う。
「カインさん! カインさんが視えてないってことはこの女、例の関係者ですよね!?」
「それが分からないんだ。何度かあったのは知っての通りだが、今回は今までとも違う。どうやっても少しも視えないんだ」
アオイは二人が何の話をしているか完全に理解した訳では無いが、状況を理解し、守るべきと思っていた女性がそうではない対象だと判断した。
短い間ではあるものの少なくともカインが理由もなく人殺しをすることは無いだろうという結論に至ったのだ。
興味を失ったのか、それともベヒーモスの角により興味をそそられる何かがあるのか、女性はゆっくりとした足取りでゼロの方へ向かっていった。
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