辺境暮らしの付与術士
第105話
ソフィとコハンが街に入ると何か慌ただしい。
大勢の人夫達が荷車を押して街の入口の方へ向かってきた。
そこにソフィは見知った顔を見つけて手を振る。
相手もソフィに気付いたようで、顔をソフィの方へ向け微笑みを返した。
ふとソフィが隣に顔を向けると、コハンは青ざめた顔でガタガタと身体を震わせ、まるで恐ろしいものでも見るかのような目でその男を一点に見つめていた。
ソフィは訳が分からず、コハンとその視線の先の男とを交互に見た後コハンに声をかけた。
「コハンさん、大丈夫? どうしたの?」
「ありえん……なんじゃアレは……」
コハンはソフィの声が届いていないのか、その場に立ち尽くし早歩きで近寄ってくる男をずっと見つめている。
額からは汗が吹き出し、目はいっぱいに開かれ、拳は固く握られている。
やがて男はソフィのそばに立つとにこやかな顔付きで話しかけてきた。
「やぁ、ソフィちゃん。おかえり。そちらはエルフのようだけど、という事は説得は上手くいったのかな?」
「ええ。無事に。でも聞いてください、実は……」
「何者じゃ!! お主は! それはなんじゃ!? なぜそんなことが出来る!?」
二人の会話を遮るように突然コハンが叫んだ。
突然の様相に二人はびっくりしてコハンの方を見て固まってしまった。
周りにいた街の人々にもコハンの声が聞こえたようで、遠目でジロジロと見られていた。
「そんなことって……あ、コハンさん。この人がララさんを超える魔術師、カインさんよ。それにしてもどうしたのさっきから。大きな声まで出して」
「お主が……お主がカインか……ふむ。すまなかったな。取り乱して。しかし、答えてもらおう。お主が先程から体外に放出している馬鹿げた量の魔力はなんじゃ? なんのためにそんな事をしている?」
コハンの言葉に二人は初め意味がわからずぽかんとしていたが、カインは質問の意図に気付き答えた。
「放出している魔力というのはおそらく私の視力代わりに使っているこの魔力の事を言っているんですかね? 驚きました。私以外に魔力を可視化出来る人がいるなんて」
「視力代わりじゃと? 馬鹿げたことを。そんな量の魔力を放出している視界を得たとしても、実用は出来んじゃろう。すぐに魔力が枯渇してしまうわ」
「ほう……なかなか魔力に対する造詣が深いようですね。確かに私もこれを初めてやり始めた時はすぐに魔力枯渇になってしまいました。しかし、やれば出来るものですね。何度も繰り返すうちに魔力の扱いに慣れたのか、魔力の少なかった私でも問題なく日常的に使えるようになりましたよ」
感慨深げに語るカインを尻目にコハンの目はますます大きく見開かれ、次の言葉を必死で紡出そうとしていた。
「お主、何も分かっとらんのじゃな? 今お主が先程から放出している魔力は常人の魔力量から考えると異常じゃ。いくら熟練度が上がったからと言って、体内のそう魔力量は増えん。普通ならとっくに魔力枯渇に……」
そう言って、コハンは右手で自分の口を塞いだ。
眼球だけが上方を向き左右に何度も動いた。
「お主、魔力枯渇になったと言ったな? まさか、自分の意思で魔力枯渇まで魔力を使いきれるなどと言うのではあるまいな?」
「え? 出来ますが……魔術師ならそれが当たり前では?」
それを聞いたソフィは無言で首を左右に振った。
通常、魔力を使い過ぎると無意識に身体の安全装置が働き、魔力枯渇になる前に魔力が使えなくなるのだ。
「やはりか……お主、今まで何度となく魔力枯渇に陥ったのだな?」
「そうですね……それこそ数え切れないほど。苦しいですが、何度もなってるうちに慣れますよ」
「そういうことではない。いいか? 魔力量というのは生まれ持って決まっていると言われておる。しかしじゃ。一つだけ後天的に増やすことが出来る方法があるのじゃ。つまり……」
つまり、コハンの言うことはこういう事だった。
魔力枯渇まで魔力を使い切り、自然に回復を待つ。
その時に人は元々持っていた以上の魔力を蓄え、魔力量が少しだけ増えるというのだ。
一回一回は微々たるものだが、それを繰り返し行うことが出来たならば、莫大な魔力量を手に入れることが出来るという。
しかし、普通の人間はそんなことは出来ないため、一般的には魔力量は生後増えないものと言われているのだ。
「そもそもお主は魔術師なのに、自分の魔力がそれほど増大していることに気が付かなかったのか?」
「以前、パイセーというものを壊してしまった時にパイセンの方から魔力はカリラ並だと言われたのですが、正直実感が」
「うーむ。パイセーを破壊したか……まぁそうじゃろうの。しかしそうなら、簡単な魔法を使ってもその威力の高さに気付くはずじゃがのう」
「ああ。実はですね。私、攻撃魔法が一切使えないんですよ」
「なんじゃと!? 全ての属性が不得手というのはわしも含めて聞いた事があるが、全く使えないとなると……」
コハンはそのまま黙り込み、思考の海へと沈んでいってしまったらしい。
ソフィはひとまずカインの異常さを理解したが、今更な気もしたので放っておくことに決めた。
大勢の人夫達が荷車を押して街の入口の方へ向かってきた。
そこにソフィは見知った顔を見つけて手を振る。
相手もソフィに気付いたようで、顔をソフィの方へ向け微笑みを返した。
ふとソフィが隣に顔を向けると、コハンは青ざめた顔でガタガタと身体を震わせ、まるで恐ろしいものでも見るかのような目でその男を一点に見つめていた。
ソフィは訳が分からず、コハンとその視線の先の男とを交互に見た後コハンに声をかけた。
「コハンさん、大丈夫? どうしたの?」
「ありえん……なんじゃアレは……」
コハンはソフィの声が届いていないのか、その場に立ち尽くし早歩きで近寄ってくる男をずっと見つめている。
額からは汗が吹き出し、目はいっぱいに開かれ、拳は固く握られている。
やがて男はソフィのそばに立つとにこやかな顔付きで話しかけてきた。
「やぁ、ソフィちゃん。おかえり。そちらはエルフのようだけど、という事は説得は上手くいったのかな?」
「ええ。無事に。でも聞いてください、実は……」
「何者じゃ!! お主は! それはなんじゃ!? なぜそんなことが出来る!?」
二人の会話を遮るように突然コハンが叫んだ。
突然の様相に二人はびっくりしてコハンの方を見て固まってしまった。
周りにいた街の人々にもコハンの声が聞こえたようで、遠目でジロジロと見られていた。
「そんなことって……あ、コハンさん。この人がララさんを超える魔術師、カインさんよ。それにしてもどうしたのさっきから。大きな声まで出して」
「お主が……お主がカインか……ふむ。すまなかったな。取り乱して。しかし、答えてもらおう。お主が先程から体外に放出している馬鹿げた量の魔力はなんじゃ? なんのためにそんな事をしている?」
コハンの言葉に二人は初め意味がわからずぽかんとしていたが、カインは質問の意図に気付き答えた。
「放出している魔力というのはおそらく私の視力代わりに使っているこの魔力の事を言っているんですかね? 驚きました。私以外に魔力を可視化出来る人がいるなんて」
「視力代わりじゃと? 馬鹿げたことを。そんな量の魔力を放出している視界を得たとしても、実用は出来んじゃろう。すぐに魔力が枯渇してしまうわ」
「ほう……なかなか魔力に対する造詣が深いようですね。確かに私もこれを初めてやり始めた時はすぐに魔力枯渇になってしまいました。しかし、やれば出来るものですね。何度も繰り返すうちに魔力の扱いに慣れたのか、魔力の少なかった私でも問題なく日常的に使えるようになりましたよ」
感慨深げに語るカインを尻目にコハンの目はますます大きく見開かれ、次の言葉を必死で紡出そうとしていた。
「お主、何も分かっとらんのじゃな? 今お主が先程から放出している魔力は常人の魔力量から考えると異常じゃ。いくら熟練度が上がったからと言って、体内のそう魔力量は増えん。普通ならとっくに魔力枯渇に……」
そう言って、コハンは右手で自分の口を塞いだ。
眼球だけが上方を向き左右に何度も動いた。
「お主、魔力枯渇になったと言ったな? まさか、自分の意思で魔力枯渇まで魔力を使いきれるなどと言うのではあるまいな?」
「え? 出来ますが……魔術師ならそれが当たり前では?」
それを聞いたソフィは無言で首を左右に振った。
通常、魔力を使い過ぎると無意識に身体の安全装置が働き、魔力枯渇になる前に魔力が使えなくなるのだ。
「やはりか……お主、今まで何度となく魔力枯渇に陥ったのだな?」
「そうですね……それこそ数え切れないほど。苦しいですが、何度もなってるうちに慣れますよ」
「そういうことではない。いいか? 魔力量というのは生まれ持って決まっていると言われておる。しかしじゃ。一つだけ後天的に増やすことが出来る方法があるのじゃ。つまり……」
つまり、コハンの言うことはこういう事だった。
魔力枯渇まで魔力を使い切り、自然に回復を待つ。
その時に人は元々持っていた以上の魔力を蓄え、魔力量が少しだけ増えるというのだ。
一回一回は微々たるものだが、それを繰り返し行うことが出来たならば、莫大な魔力量を手に入れることが出来るという。
しかし、普通の人間はそんなことは出来ないため、一般的には魔力量は生後増えないものと言われているのだ。
「そもそもお主は魔術師なのに、自分の魔力がそれほど増大していることに気が付かなかったのか?」
「以前、パイセーというものを壊してしまった時にパイセンの方から魔力はカリラ並だと言われたのですが、正直実感が」
「うーむ。パイセーを破壊したか……まぁそうじゃろうの。しかしそうなら、簡単な魔法を使ってもその威力の高さに気付くはずじゃがのう」
「ああ。実はですね。私、攻撃魔法が一切使えないんですよ」
「なんじゃと!? 全ての属性が不得手というのはわしも含めて聞いた事があるが、全く使えないとなると……」
コハンはそのまま黙り込み、思考の海へと沈んでいってしまったらしい。
ソフィはひとまずカインの異常さを理解したが、今更な気もしたので放っておくことに決めた。
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