辺境暮らしの付与術士
第103話
「ベヒーモスとリヴァイアサンは一対で語られることは知っているか?」
アオイはカインに問いかけるが、その答えは聞かずとも分かっている様子だ。
「ええ。昔話に語られた、地の魔物、海の魔物というやつですね。有名な話です」
「そうだ。所でこの二体の魔物は互いに惹かれ合い、いがみ合うと物語にはある」
そこでカインはアオイが何を伝えようとしているのか気付いた。
アオイもカインが同じ考えに至ったのに気付いたようだ。
「なるほど。それではこの角を持っていけばあるいは……」
「そうだろうな。誰が書いたか知らないが、伝承が本当ならばこの角でリヴァイアサンをおびき寄せられるかもしれない」
そこで二人はこの角をルシェルシュの街まで持ち帰ることに決めた。
二本あるため一本はアオイにとカインが申し出たが、人の手で運ぶには重量も長さも過ぎていて、必要以上の金も不要だと断られてしまった。
「それよりも、だ。この災厄の魔女の日記が失われてしまったことの方が残念でならないな。もしかしたらこの国の歴史観すら揺るがすほどの大発見だったかもしれん」
そう言ってアオイはアダマンタイトで作られた部屋に開けられた唯一の入口に目を向けた。
その中には塵と化したカリラの日記がうず高く積もっていた。
「運悪く、入口がベヒーモスの方を向いていたか」
アオイは落胆した顔でカインの方を向き、荷物の中から一冊の本を取り出し見せた。
それはベヒーモス襲来時にたまたま読んでいたカリラの日記、今となっては唯一残存する一冊だった。
「運がいいのか悪いのか、とりあえずこれはカインさんに渡しておくよ。ちょうど読み終わっていたからね。カインさんとの暮らしが楽しくてしょうがないというような内容だった」
「ありがとうございます」
カインは受け取ると大切に荷物の中へとしまった。
これで今度こそここには用がなくなってしまった、とカインはルシェルシュの街まで戻るためにゼロを呼んだ。
カインとアオイがへたっていた間も、ベヒーモスの角の落下地点まで歩き話している間も、ゼロは近くで伏せの格好をしたままじっとしていた。
カインに呼ばれ近くに来たゼロに向かってカインは身振りでベヒーモスの角を持っていくよう伝える。
しかし、近くに来て欲しい時の指示については予めソフィに頼んで決めておいたが、物を運ぶと言う点に関しては合図を決めていないため、ゼロには上手く伝わらないようだ。
今回は様子見で木材を運ぶつもりもなかったため、用意を怠った自分をカインは呪った。
「このグリフォンはカインさんが飼い慣らしていると思ったが、細かい指示は出来ないのか?」
「実はこのゼロは私の娘の友人に忠誠を誓った魔物なんですが、その子しか意思の疎通が出来ないんですよ」
そこでふと以前フェニックスがカインに話しかけてきた事を思い出す。
あの時フェニックスはカインに会話をして来たが、それはどうやったのか。
念話というものだとあの時は判断したが、それが出来ないだろうか。
以前カインが耳にした話では、念話は自分の意志を何らかの形に変え、相手に送ることによって可能になるということだった。
「ゼロ!」
カインは声に出してゼロの名を呼んだ。
ゼロはその声に反応しカインの方を見る。
グリフォン語の発音どうであるかは分からないが、少なくともソフィがゼロを呼ぶ時に「ゼロ」と発しているため、ゼロにとってそれが名を呼ばれていると同義になっているのだろう。
続いてカインは声には出さず、ゼロに向かって『ゼロを呼ぶ』というイメージを魔力に変えて送ってみた。
カインにとってそれはけして難しい試みではなかった。
カリラに引き取られてから絶え間なく自分の魔力を操る術を、遊びのように行ってきた。
視力を失ってからは訓練の結果、息をするのと同じほど自然に魔力を自分の意思通りの特性を持たせ体外へと放ってきた。
カインの放った意志を乗せた魔力はゼロに到達すると、ゼロはビクリと身体を震わせた後、カインの方を見た。
『ゼロ。これは俺が話している。もし理解出来たら、首を上下に一度だけ振ってくれ』
続く魔力にゼロは反応し、カインの指示した通り一度だけ大きく首を縦に振った。
それを確認したカインは自分の成しえた事の素晴らしさに打ち震えながらも、ゼロに本来伝えたかったことを伝える。
『ゼロ。ここに落ちている二本の角、ベヒーモスの角が必要だ。悪いが、この角と俺達を乗せてルシェルシュの街まで運んでくれ』
ゼロは再び大きく一度だけ頷くと、頭を下げカイン達に背に乗るよう促した。
そこでふと思い出し、カインはアオイに確認する。
「ところでアオイさんはこの後どうしますか? 私はこれからゼロと共にルシェルシュの街に戻りますが」
「構わないなら俺も同行させてくれ。グリフォンの背に乗るのもリヴァイアサンを見るのも、この機会を逃したら一生ないことだろう。俺は色々な話を読み聴き、この目で確かめる事を生きがいとしてきたが、正直俺はな、カインさんの紡ぎ出す物語に心底惚れてしまったようだ」
カインとアオイが乗ると、前足で角を掴み高く空へと舞い上がる。
二人が飛ぶ空はどこまでも青く澄んでいた。
アオイはカインに問いかけるが、その答えは聞かずとも分かっている様子だ。
「ええ。昔話に語られた、地の魔物、海の魔物というやつですね。有名な話です」
「そうだ。所でこの二体の魔物は互いに惹かれ合い、いがみ合うと物語にはある」
そこでカインはアオイが何を伝えようとしているのか気付いた。
アオイもカインが同じ考えに至ったのに気付いたようだ。
「なるほど。それではこの角を持っていけばあるいは……」
「そうだろうな。誰が書いたか知らないが、伝承が本当ならばこの角でリヴァイアサンをおびき寄せられるかもしれない」
そこで二人はこの角をルシェルシュの街まで持ち帰ることに決めた。
二本あるため一本はアオイにとカインが申し出たが、人の手で運ぶには重量も長さも過ぎていて、必要以上の金も不要だと断られてしまった。
「それよりも、だ。この災厄の魔女の日記が失われてしまったことの方が残念でならないな。もしかしたらこの国の歴史観すら揺るがすほどの大発見だったかもしれん」
そう言ってアオイはアダマンタイトで作られた部屋に開けられた唯一の入口に目を向けた。
その中には塵と化したカリラの日記がうず高く積もっていた。
「運悪く、入口がベヒーモスの方を向いていたか」
アオイは落胆した顔でカインの方を向き、荷物の中から一冊の本を取り出し見せた。
それはベヒーモス襲来時にたまたま読んでいたカリラの日記、今となっては唯一残存する一冊だった。
「運がいいのか悪いのか、とりあえずこれはカインさんに渡しておくよ。ちょうど読み終わっていたからね。カインさんとの暮らしが楽しくてしょうがないというような内容だった」
「ありがとうございます」
カインは受け取ると大切に荷物の中へとしまった。
これで今度こそここには用がなくなってしまった、とカインはルシェルシュの街まで戻るためにゼロを呼んだ。
カインとアオイがへたっていた間も、ベヒーモスの角の落下地点まで歩き話している間も、ゼロは近くで伏せの格好をしたままじっとしていた。
カインに呼ばれ近くに来たゼロに向かってカインは身振りでベヒーモスの角を持っていくよう伝える。
しかし、近くに来て欲しい時の指示については予めソフィに頼んで決めておいたが、物を運ぶと言う点に関しては合図を決めていないため、ゼロには上手く伝わらないようだ。
今回は様子見で木材を運ぶつもりもなかったため、用意を怠った自分をカインは呪った。
「このグリフォンはカインさんが飼い慣らしていると思ったが、細かい指示は出来ないのか?」
「実はこのゼロは私の娘の友人に忠誠を誓った魔物なんですが、その子しか意思の疎通が出来ないんですよ」
そこでふと以前フェニックスがカインに話しかけてきた事を思い出す。
あの時フェニックスはカインに会話をして来たが、それはどうやったのか。
念話というものだとあの時は判断したが、それが出来ないだろうか。
以前カインが耳にした話では、念話は自分の意志を何らかの形に変え、相手に送ることによって可能になるということだった。
「ゼロ!」
カインは声に出してゼロの名を呼んだ。
ゼロはその声に反応しカインの方を見る。
グリフォン語の発音どうであるかは分からないが、少なくともソフィがゼロを呼ぶ時に「ゼロ」と発しているため、ゼロにとってそれが名を呼ばれていると同義になっているのだろう。
続いてカインは声には出さず、ゼロに向かって『ゼロを呼ぶ』というイメージを魔力に変えて送ってみた。
カインにとってそれはけして難しい試みではなかった。
カリラに引き取られてから絶え間なく自分の魔力を操る術を、遊びのように行ってきた。
視力を失ってからは訓練の結果、息をするのと同じほど自然に魔力を自分の意思通りの特性を持たせ体外へと放ってきた。
カインの放った意志を乗せた魔力はゼロに到達すると、ゼロはビクリと身体を震わせた後、カインの方を見た。
『ゼロ。これは俺が話している。もし理解出来たら、首を上下に一度だけ振ってくれ』
続く魔力にゼロは反応し、カインの指示した通り一度だけ大きく首を縦に振った。
それを確認したカインは自分の成しえた事の素晴らしさに打ち震えながらも、ゼロに本来伝えたかったことを伝える。
『ゼロ。ここに落ちている二本の角、ベヒーモスの角が必要だ。悪いが、この角と俺達を乗せてルシェルシュの街まで運んでくれ』
ゼロは再び大きく一度だけ頷くと、頭を下げカイン達に背に乗るよう促した。
そこでふと思い出し、カインはアオイに確認する。
「ところでアオイさんはこの後どうしますか? 私はこれからゼロと共にルシェルシュの街に戻りますが」
「構わないなら俺も同行させてくれ。グリフォンの背に乗るのもリヴァイアサンを見るのも、この機会を逃したら一生ないことだろう。俺は色々な話を読み聴き、この目で確かめる事を生きがいとしてきたが、正直俺はな、カインさんの紡ぎ出す物語に心底惚れてしまったようだ」
カインとアオイが乗ると、前足で角を掴み高く空へと舞い上がる。
二人が飛ぶ空はどこまでも青く澄んでいた。
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