辺境暮らしの付与術士
第50話
カインは焦りを感じていた。
ララのリングが元いた場所から移動しているのが見えたからだ。
しかもそれは、戦闘の中で移動している訳ではなく、ただ単純に目的地へ向かって歩いているような絶え間ない動きだった。
何より、位置がおかしい。背の低いララの手の位置を考えると、まるで手を上に上げたまま歩いているような位置だ。
誰かに抱き抱えられて、運ばれている状況がしっくりくる。
そんな動き方だった。
「ルーク、不味いことになった。ララは敵の手に落ちたらしい」
「なんだと? あいつが? これはかなり本腰上げて行かないとまずい相手らしいな」
カインは先程までと同じように、先頭を走り、目的の部屋まで2人を誘導した。
◇
「それで、あなたは生まれ育った村を一人離れ、冒険者になったわけね?」
「ええ。そうです」
本気で断ればよかったと、サラは後悔していた。
博覧会の行われている屋敷の一室で、サラとソフィは今もまだルティと共に居た。
さすがに寝室は別々だったが、護衛である以上、雇い主の承諾無しに主の元を離れる訳には行かない。
そのルティは、サラの話を根掘り葉掘り聞いてきて、何やら高級そうな紙にメモを必死に取っていた。
紙など高級なものにこんなくだらないことを書くなど、貴族の道楽は本当に分からないとサラは内心思っていたが、さすがに口に出すことはしなかった。
ただただ、この無意味な時間が、人に自分の身の上話を聞かせることが、いやでしょうがなかった。
3人は父を無事見つけられたかしら。
ふと、父のことを思い出した。
ドガーン!
何か重たいものが屋敷の壁にぶつかったような音がした。
天井から粉のようなものがぱらぱらと落ちてくる。
どうやらここより上階で何かが起きたらしい。
慌ててルティを守るように2人は動いた。
「なに? 何今の?」
「分かりませんが、上の階で何かが壁にぶつかったようです」
「サラ! 今、上方でかなり高位の雷魔法が使われたって! 精霊が言っているわ!」
「ソフィ! そこへ向かうわよ! 危険なら排除する!」
「待って! 私も付いて行くわ!」
「だめです! どんな危険があるか分かりません! あなたを守りながら戦える保証がありません」
「じゃあ、あなた達がこの場を離れるのを許さないわ。行きたいなら私も連れていく事ね」
「分かりました。では、私達もここで待機しましょう。ここには優秀な兵士もいるでしょうし。一番優先するのはあなたの身の安全です」
「なんですって?! いいから私を連れていきなさいよ!」
「だめなものはだめです。これはあなたが書いている物語じゃない。あなたが危険にさらされないと思っていたら、それは間違いですよ」
サラは先程までと打って変わってはっきりとした口調でそう言った。
◇
カイン達が部屋に入ると、そこにはヴァンと、拘束され、意識を失ったララがいた。
最初に動いたのはルークだった。
双剣を抜くと一直線に飛びかかり、ヴァンを切り刻むべく、剣を振るった。
しかしヴァンはまるでそれが分かっていたかのように、既にその場から身を大きく退いていた。
同時にミューが追撃するルークに合わせて、挟み込む形で、大剣を振るった。
ヴァンは笑みを見せながら、短く呪文を唱えると、ヴァンを中心として円状の衝撃波が発生し、2人を吹き飛ばした。
2人は壁にぶつかり肺から息を吐き出した。
驚愕した2人に追い討ちをかけるように、天井から床にかけて、雷が襲った。
2人はそのまま、地面に崩れ落ちる。
かなりの高威力の魔法だったようだが、来ている防具のおかげか、2人共息はまだあるようだ。
「ふむ。戦い方が分かっている相手というのは、こうもあっけないものなんだね」
「何を言ってる?」
「ああ。君。この男のこと知っているだろう? この男が言っているよ。殺したいくらい憎い相手だってね。なんでもすごいイカサマを使うようじゃないか。その方法を僕に教えてくれる気は無いかい?」
「貴様、やはり、あの男と関係があるようだな?」
「時間稼ぎかい? いいよ。別に忙しくないし。ああ、そこの2人もかなりの使い手みたいだね。是非ともコレクションに加えたいところだ。でもね、自分の能力をただで教えてあげるほど、僕はお人好しじゃないんだ」
「なんでもいい。お前は今日、ここで俺達に討伐されるのだからな」
「討伐だなんて。まるで僕が魔物だって思っているようじゃないか。うん。君が今回の主格なのかな? 是非とも君も交渉しないとね。ところで、君は他の2人とは違って丸腰だけれど、魔術師なのかな? 今唱えている魔法は無属性のようだけれど」
カインはヴァンの言葉に惑わされることなく、目的の魔法を、目的の対象にかけた。
同時にミューが大剣を床目掛けて振り下ろした。
カインの弱体化の付与を受けた床は、まるで薄い木の板のように、粉々に崩れ落ち、既にララを抱えたルークは迷うことなく、今できた穴に向かって身を投じた。
続いて、ミューとカインもそこから飛び降りた。
「おやおや。僕を討伐するなんて言った矢先に逃げるのかい? 鬼ごっこは得意なんだ。特に鬼の役はね。せっかくだからハンデをあげよう。」
満面の笑みを浮かべながら、楽しそうに部屋を出たヴァンは、下へ向かう階段へと足を運んだ。
◇◇◇◇◇◇
いつも読んでいただきありがとうございます。
1ヶ月半ほど前に書き始めたこの作品、お陰様で1日も休むことなく、50話まで書き続けることが出来ました。
これも読みに来たり、フォロー、感想をくださった皆様のおかげです。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
最後になりましたが、励みになりますので、フォロー、感想をいただけるとありがたいです。
ララのリングが元いた場所から移動しているのが見えたからだ。
しかもそれは、戦闘の中で移動している訳ではなく、ただ単純に目的地へ向かって歩いているような絶え間ない動きだった。
何より、位置がおかしい。背の低いララの手の位置を考えると、まるで手を上に上げたまま歩いているような位置だ。
誰かに抱き抱えられて、運ばれている状況がしっくりくる。
そんな動き方だった。
「ルーク、不味いことになった。ララは敵の手に落ちたらしい」
「なんだと? あいつが? これはかなり本腰上げて行かないとまずい相手らしいな」
カインは先程までと同じように、先頭を走り、目的の部屋まで2人を誘導した。
◇
「それで、あなたは生まれ育った村を一人離れ、冒険者になったわけね?」
「ええ。そうです」
本気で断ればよかったと、サラは後悔していた。
博覧会の行われている屋敷の一室で、サラとソフィは今もまだルティと共に居た。
さすがに寝室は別々だったが、護衛である以上、雇い主の承諾無しに主の元を離れる訳には行かない。
そのルティは、サラの話を根掘り葉掘り聞いてきて、何やら高級そうな紙にメモを必死に取っていた。
紙など高級なものにこんなくだらないことを書くなど、貴族の道楽は本当に分からないとサラは内心思っていたが、さすがに口に出すことはしなかった。
ただただ、この無意味な時間が、人に自分の身の上話を聞かせることが、いやでしょうがなかった。
3人は父を無事見つけられたかしら。
ふと、父のことを思い出した。
ドガーン!
何か重たいものが屋敷の壁にぶつかったような音がした。
天井から粉のようなものがぱらぱらと落ちてくる。
どうやらここより上階で何かが起きたらしい。
慌ててルティを守るように2人は動いた。
「なに? 何今の?」
「分かりませんが、上の階で何かが壁にぶつかったようです」
「サラ! 今、上方でかなり高位の雷魔法が使われたって! 精霊が言っているわ!」
「ソフィ! そこへ向かうわよ! 危険なら排除する!」
「待って! 私も付いて行くわ!」
「だめです! どんな危険があるか分かりません! あなたを守りながら戦える保証がありません」
「じゃあ、あなた達がこの場を離れるのを許さないわ。行きたいなら私も連れていく事ね」
「分かりました。では、私達もここで待機しましょう。ここには優秀な兵士もいるでしょうし。一番優先するのはあなたの身の安全です」
「なんですって?! いいから私を連れていきなさいよ!」
「だめなものはだめです。これはあなたが書いている物語じゃない。あなたが危険にさらされないと思っていたら、それは間違いですよ」
サラは先程までと打って変わってはっきりとした口調でそう言った。
◇
カイン達が部屋に入ると、そこにはヴァンと、拘束され、意識を失ったララがいた。
最初に動いたのはルークだった。
双剣を抜くと一直線に飛びかかり、ヴァンを切り刻むべく、剣を振るった。
しかしヴァンはまるでそれが分かっていたかのように、既にその場から身を大きく退いていた。
同時にミューが追撃するルークに合わせて、挟み込む形で、大剣を振るった。
ヴァンは笑みを見せながら、短く呪文を唱えると、ヴァンを中心として円状の衝撃波が発生し、2人を吹き飛ばした。
2人は壁にぶつかり肺から息を吐き出した。
驚愕した2人に追い討ちをかけるように、天井から床にかけて、雷が襲った。
2人はそのまま、地面に崩れ落ちる。
かなりの高威力の魔法だったようだが、来ている防具のおかげか、2人共息はまだあるようだ。
「ふむ。戦い方が分かっている相手というのは、こうもあっけないものなんだね」
「何を言ってる?」
「ああ。君。この男のこと知っているだろう? この男が言っているよ。殺したいくらい憎い相手だってね。なんでもすごいイカサマを使うようじゃないか。その方法を僕に教えてくれる気は無いかい?」
「貴様、やはり、あの男と関係があるようだな?」
「時間稼ぎかい? いいよ。別に忙しくないし。ああ、そこの2人もかなりの使い手みたいだね。是非ともコレクションに加えたいところだ。でもね、自分の能力をただで教えてあげるほど、僕はお人好しじゃないんだ」
「なんでもいい。お前は今日、ここで俺達に討伐されるのだからな」
「討伐だなんて。まるで僕が魔物だって思っているようじゃないか。うん。君が今回の主格なのかな? 是非とも君も交渉しないとね。ところで、君は他の2人とは違って丸腰だけれど、魔術師なのかな? 今唱えている魔法は無属性のようだけれど」
カインはヴァンの言葉に惑わされることなく、目的の魔法を、目的の対象にかけた。
同時にミューが大剣を床目掛けて振り下ろした。
カインの弱体化の付与を受けた床は、まるで薄い木の板のように、粉々に崩れ落ち、既にララを抱えたルークは迷うことなく、今できた穴に向かって身を投じた。
続いて、ミューとカインもそこから飛び降りた。
「おやおや。僕を討伐するなんて言った矢先に逃げるのかい? 鬼ごっこは得意なんだ。特に鬼の役はね。せっかくだからハンデをあげよう。」
満面の笑みを浮かべながら、楽しそうに部屋を出たヴァンは、下へ向かう階段へと足を運んだ。
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いつも読んでいただきありがとうございます。
1ヶ月半ほど前に書き始めたこの作品、お陰様で1日も休むことなく、50話まで書き続けることが出来ました。
これも読みに来たり、フォロー、感想をくださった皆様のおかげです。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
最後になりましたが、励みになりますので、フォロー、感想をいただけるとありがたいです。
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