雪と華の終略録

山神 旬字

第一話 転生

冷え切った昭和レトロな部屋に、慟哭の声が響く。


「それでも君は、僕が次の戦から帰って来なくても、胸を張って僕を見送る事ができるのか?」


何気ない言葉に、17歳ほどの無垢な黒髪の女の子は口を瞑らせる。


「僕は多くの友、部下たちを失いすぎた。生きることではその者たちの希望を紡ぐことは、僕にはできない。」


「で、でも!あなたは必ずこの戦争に勝つって!言ってたじゃん!
私だって、勝って、必ず帰ってくるあなたを待っているの!」


女の子は自分の気持ちを精一杯表現しようと、重い口を開いた。しかし。


「上に立つ者には、果たすべき責任がある。
その責任を果たすには、感情を殺すべきだ。」



(すまない。けど勘違いしないで欲しい。僕は君が…)





ーーーーーーーーーーーーーー




僕の名前は飛騨 駿ひだ しゅん

世界史好きなオタク高校生だ。
今は受験勉強真っ只中の18歳。
震える足を摩り、寒さに耐える。
椅子に座って何時間が経ったのだろう。

雑にノートの端に戦艦の絵を描く。
カーテンを透かした月明かりが、不恰好な戦艦を照らす。

はー。眠いな。マジでこの世界面白くない。

心の中で悲泣する。自分は正直、何がしたいかわからないし、どこに向かっているかもわからない。


なんか、眠くなってきたな…。
少しだけ眠っていよう。

そのまま彼は、深い眠りへとついた。


ーーーーーーーーーーーー


「長官!長官!目を覚ましてください!そろそろ出勤の時間ですよ!」

誰かが僕の体を揺すっている。

出勤?勉強のしすぎで頭がおかしくなったのか…?

しかし何かがおかしい。たしかに机の上に突っ伏して寝ていたはずなのに、ふかふかのベッドに潜っているではないか。

「ちょ う か ん!!!!」

大声にびっくりした僕は、ベットから飛び起きた。

周りを見渡す。

そこはどう考えても、僕の部屋ではなかった。

なぜか昭和レトロな雰囲気を感じさせる、豪華な部屋だ。

目の前には制服を着た50代の男性が仁王立ちで立っていた。

「あ、あの、誰ですか…?」

その男は不思議そうな顔をすると、

「はい?連日の会議でとうとう頭がおかしくなりましたか?
私は佐野 秋吉さの あきよしです。
あなたの部下兼執事ですよ!」

「部下…?執事…?長官…?仕事…?何を言っているんですか?仕事ができる年齢じゃないです。」

「もういいです!今日の戦略会議に遅れても知りませんからね!」

すると秋吉という男はプンスカしながらドアを殴るように開け、部屋を去っていった。

…?

呆然としていると、今度は床から声が聞こえてきた。

「起きたら下へ来てくださいね!朝食できてますから!ったっくもう、本当に…」

どうやらここは2階のようだ。
よし、部屋を探索してみよう。

部屋にあるものは、長机、ベッド、ソファ、クローゼット、壁に掛かっているカレンダー、高そうな壁掛け時計…。そんなもんか?

机に何かあるかも知れない、と机へと近づいた。

そこには、

『重要!作戦書類』

と、書かれた書類が。

他にも名刺のような物もあった。そこには、

『飛騨 駿 海軍最高司令官兼総理大臣』

と、書かれた紙が。

え?なんで僕の名前が…?
なんかすごくない?
これが転生ってやつ?

机にはいくつかの引き出しが。

4つくらいある引き出しを引いたが、中には一つの手帳しか入ってなかった。

勝手に開く。


『11/8 朝 9:30から最終戦略会議』

ほほぅ。壁のカレンダーを見ようか。

ご丁寧に1日が終わったら斜線が引かれている。

今日は…11/8 か。
時間は?
7:50
ん?やばいやん。
どうしよう…。

とりあえず、1階にあるらしい朝食を食べてからにしようじゃないか。

意外とこの世界、楽しいかも知れない。

コメント

  • 巫女

    漢字が難しいけど、最初の情景とかめっちゃ良い!!

    1
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