また、雨の降る日に

葵い蝶

第一章 1、1

今日、帰り道で一人の子供が泣いていた。
でも誰もその子供に話しかけなかった。
かわいそうに、なんで誰も話しかけないんだろうと僕は思った。

だけどそう思った僕も話しかけない人達の一人だということをこの物語の主人公である僕はまだ気づいていなかった。

基本、物事は自分本位で考えられる。

「おなかがへった」「眠い」「疲れた」などなど。だから自分でしか気がつかない事や主観でしか見れないことがある。「自分」でしか分からないこと。しょせん相手のは言葉や身振りという伝達手段でしか伝わらない。相手の感情やそぶりで分かるかもしれない。でも、それは自分が「そういうことであろう」と思ったあくまでも主観的な考えに過ぎないのである。いや、それを考えたなら「言葉」や「身振り」だって自分の都合で意味は変わってしまうのかもしれない。やはり、自分以外は他人と考えられるのかも・・・

「千田~千田~、右側の扉が開きます・・・」

その言葉に僕ははっと気がつく。もう一駅の所まで来たのか、降りる準備をしないと。多くの人がこの千田を降りていく。千田は昔、田が広々と広がっていていくつもの田が無限にあるように感じられたから千田という名だったらしい。しかし今では田は一つも無く、高くそびえ立つ住宅マンションがずらりと並んでいる。昔、こんな光景をだれが想像できただろうか。

「え!」

スマホをずっと見ていた女性が慌てている。どうやらこの女性はこの駅を降りるつもりだったらしい。しかし、もう扉が閉まるときの音が流れ始めている。女性は扉へと走り出す。

「ガッッ」

その音に気づかずに女性は列車から出て行った。あの女性は僕の鞄を思いっきり蹴飛ばしたことを気にもとめないだろうしましてや僕の名前や人間関係、家族構成など彼女は一生知るよしはない。そんなの知っていたらストーカーみたいじゃないか。そう思う人もいるんだろう。でも100年という年月で地球上に存在する何十億人のうちの一人である彼女が「僕」という僕の人生の主人公の鞄を蹴飛ばしたといういわば知り合いになったのである。ほら、言われてみればなんだかか不思議にならないか?自分と他人がすれ違った時に自分が「人」とすれ違った認識することによってその人を知ったことになる。まぁ蹴飛ばした彼女の人生の中で「僕」という存在を認識していないと考えられるから知り「合い」ではないけれど。

そうこう考えているうちに自分もいつの間にか降りる駅に着いていた。僕も扉へ足を早まるが一応他人の鞄を蹴らない気をつける。あれこれ彼女のことを悪く考えておいて自分も彼女の立場になってしまっては勝手だと考えたからだ。

だいたい本を忘れたときは車内にある広告を眺めるか、こうやって考え事をする。最初はたわいもない事を考えるのだがだんだん連想ゲームのようにして最終的にテーマが「人」になる。こんな事を考えるだなんて暗そうなやつだと思われるかもしれない。でも学校生活では友達もいるしたわいもない話やゲームの話をしたりする。また、考え事をしていると家に着いた。

「ただいまー」

家に帰る。そして母が「おかえり」と言ってくれる。そして僕は鞄を置く。椅子に座る。パルがギニャーと鳴く。

「おいおい、そんなところで寝るなよ、パル」

パルは長い自慢のしっぽをゆらゆらと揺らして僕を不満そうな目で見つめると僕のひざの上に乗った。僕はパルをひざに乗せて宿題をし始めた。

「ごはんよー」

僕は母の声でリビングに向かう。【ギニャ、パルを落としてしまった】リビングのテーブルにはごはん、味噌汁、野菜炒めと、おいしそうな品々が置かれていた。僕は椅子に座った。パルもご飯皿の前に座った。母が僕の前に水を置いた。パルのご飯皿にカリカリを入れた。母が僕の前に座った。

「「いただきます」」

おいしい晩ご飯を食べている中に父さんの姿は無い。なぜなら父さんは今、単身赴任中だからだ。そもそも僕たちがこの街に来たのも父さんの転勤が理由だ。僕がち小3の時にこの街に引っ越してきた。時間をかけて馴染んで、友達もできた。が、中2の時にまた、異動の知らせが来た。また、友達と分かれるのは嫌だとダダをこねた結果父さんは一人遠くへ行ってしまった。一ヶ月に一回する短い電話しか接点がないのが現状だ。父さんには申し訳なく思っている。

僕が味噌汁を飲もうと手を伸ばすと母さんが話しかけてきた。

「最近勉強はどう?ついていけてる?」

僕はあいまいな返事をした。

「最近は就職が本当に大変っていうからねぇ。大学とかも有名な所の人でも就職できならしいし。大学受験、というか大学で何をしていたかが大事だと思うわ。そうなると大学選びも大切よ。大学受験だって合格できるように勉強しなきゃならないんだから。ゲームなんかしないで勉強しなさいよね!」

これも僕はあいまいな返事をした。

僕は晩ご飯を食べ終えると自室へ戻った。ベッドの上に置いてあったゲーム機をつかんでベッドへ寝転ぶ。

僕は、ゲームが好きだ。アクションものやパズルも好きだが一番好きなのはRPGだ。母さんは「ゲームなんか」って言ってたけどストーリーはおくが深いものがある。母さんも一回RPGをやってみたらいいのにと思っている。

自分がプレイしているゲームもいよいよ終盤になってきた。ラスボスには一回で勝ちたいので今日はひたすらレベル上げだ。

コメント

コメントを書く

「文学」の人気作品

書籍化作品